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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十八章 機神
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依頼内容

 「……討伐依頼?」


 ヴァジ相手に感情を見せるのは悪手だとわかっているけれど、思わず眉を顰めてしまう。何か裏があるのではと深読みしてしまったのだ。

 目の前にいるのは自由都市の英雄だ。魔物の討伐程度なら彼一人でも十分だと思うし、国として人を集めればもっと楽になる。攻略難度が高いのなら、なおさら自分たちで解決したほうが旨味も多い。わざわざ俺に魔物の討伐依頼をする意味がない。

 ヴァジとはまあまあの付き合いの長さになりつつあって、俺も信頼はしている。だけど、彼は他国の重要人物だ。俺をハメる気か?と考えてしまうのも仕方ないだろう。

 とは言え、即拒否というのはマズい。俺は暗殺されたくないし、四六時中狙われ怯えたくもないからな。詳細と俺に依頼する理由を聞いてやんわりと拒否した方が良い。


 「それはどんな――」


 「待て」


 聞き出そうとしたらヴァジが片手を上げて俺の言葉を遮った。訝しく思ったが今度はそれを表情に出さず口を閉じる。

 無言になったからか、店内の騒がしさがドアを挟んだこの個室にも聞こえてくる。客たちは楽しい会話をしているのか笑い声や手をたたく音、ドンドンと床を踏みつける音まではっきりと。全身で愉快さをアピールしているのだろう。

 楽しそうだけど、ちょっとだけ喧しいな。現代日本なら店員が「もう少しお静かに」と声をかけるだろう。圧倒的に娯楽が少ないこの世界では、飲み屋で話すのも重要な娯楽だから仕方ないか。これだけ騒がしくてもクレームがないから、どこもそうなのだろう。それよりもいつまで黙ってればいいんだ?

 そう思った直後、この個室のドアが開いて店員が注文したビールを2つ運んできた。


 「おまたせしました」


 ささっと俺とヴァジの前にビールを置くと、店員は足早に個室を出ていった。

 俺を黙らせたのは店員が注文を運んでくることを察知したから?……マジかよ。この騒がしさの中で店員の足音を聞き分けたってことだよな?

 ヴァジがとんでもない暗殺者だと、いまさらながら再認識できた。だからこそ、やはりこの魔物討伐依頼には疑問を覚える。


 「あまり聞かれたくないからな」


 ヴァジはそう言いながら、今運ばれてきたビールを煽って満足そうに酒臭い息を吐いた。

 それが俺を黙らせた理由か。


 「この依頼内容を聞かれたくないってことか。わからないな」


 「何がだ?」


 「聞かれたくない内容なら俺に依頼をせず、自由都市だけで討伐すべきだろ?まさか国すらも知らない、ヴァジ個人の依頼か?」


 そうであるなら少しは安心できるが……。俺を邪魔に思っているのは他国のトップが主だからな。俺を罠にハメるのが目的ではなくなる。多分ヴァジには嫌われていないと思うし。


 「もちろん政治に関わるお偉方は知っている。しかし、これは英雄クラスの力量を持つものたちの役目だ。でなければ無駄に犠牲者が増えるだけだ。はっきり言えば邪魔だ。シリウス皇帝から聞いているだろ?」


 そこまで言われてようやくわかった。昔にシリウスとヴァジが戦ったっていう魔物がまた現れたのだと。

 よかった、暗殺や罠じゃないようだ。なんで英雄でもない俺が戦わないとならないんだとは今でも思っているけど、シリウスと約束しちゃったからな。とにかく、依頼だとは言っているが拒否権なんてないってわけだ。だけどまあ、溜息は出る。


 「……強敵だって聞いた。またその魔物が?」


 「ああ、出没した。それも同じ場所にな」


 それからヴァジはポツポツと詳細を話し始めた。

 なんでも、以前壊された村は現在軍事基地として利用しているらしい。その軍事基地がたった一日で破壊され、生存者はゼロだったそうだ。

 ならばなぜその魔物だとわかったのか、そして一日で破壊されたとわかったのかと聞けば、ヴァジは奇跡的な偶然だったと答えた。

 軍事基地で働く兵士の一人が休暇で実家に帰っていて、基地に戻ったときに破壊されていく様を目撃したそうだ。建物が壊される音と立ち上がる砂煙に非常事態だと理解したその兵士は、すぐに基地から距離を取って隠れながら様子を見ることにしたそうだ。

 いや、助けるために駆けつけろよと思った。自由都市のトップも同じように思ったのだろう。その兵士になぜ駆けつけなかったのかと聞いたそうだ。

 その兵士はこう答えたそうだ。「悲鳴がなかったからだ」と。

 断続的に聞こえる破壊音と立ち上がる砂煙、そして建造物の倒壊音は間違いなく基地から発せられるものだった。それはつまり基地で何らかの異常があるのは確実なのだ。危機的な状況であることも確信できた。であるのにも関わらず悲鳴がないのだ。

 それはつまり、既に生存者がいない可能性が高い。危機的状況なのではなく、絶望的な状況なのではないかと判断し、救出ではなく状況の確認を優先することにしたらしい。

 正義感で英雄的な行動をして二次被害に遭う奴より、よっぽどその兵士の方が優秀だ。そのおかげでこうして俺たちが状況を知ることができるのだからな。

 軍事基地が破壊された日の朝は飛空艇で補給物資が届けられていた。兵士の基地帰還日もその日の夕方だったそうだ。飛空艇が補給物資を届けた時は全く異常がなかったことで、約半日から一日程度で破壊されたことがわかったらしい。


 「取り調べでその兵士は何度も頻りに言ったそうだ。『破壊者は人型だった。いや、ヒトだった』とな。場所と人型。それで自由都市のお偉方は俺たちが戦った人型の魔物だと判断したようだ」


 「いや、ヒトだったって言ったんだろ?なんで魔物なんだよ」


 「俺とシリウスが討伐した魔物もヒトそのものだったからな。だが、ヒトではない。ヒトの皮を被った魔物なんだ。皮膚の下は血も肉もなく、鉱物の塊が詰まっていた。おそらく無機物系の魔物。ゴーレムのようなものだろう」


 これを聞いて、俺の頭に浮かんだのはゴーレムではなく、名作映画である超合金と人工皮膚でできた未来の超兵器だ。


 「ターミネーターかよ……」


 思わず映画のタイトルを口してしまい、誤魔化すために慌ててビールを口に運んだ。けど、耳が良いヴァジにはしっかりと聞こえていたようだ。訝しげに眉を顰めている。


 「知っているのか?俺やシリウス皇帝ですら聞いたこともない魔物だが」


 しまったなぁ。俺が異世界から来たことはもうバレているし、誤魔化さない方がいいか。俺が作り出した魔物だと疑われるかもしれないしな。


 「俺がいた世界ではそういう映画が……、いや、物語があったんだよ。あくまで想像上の兵器だよ。その物語のタイトルがターミネーターって言うんだ」


 地球でターミネーターって言うと、大多数の人が映画を思い浮かべるだろう。ターミネート。断ち切るや終焉、抹殺など物騒な意味を持っている。ターミネーターはさしずめ抹殺者ってところだ。けれど、他にもコンピュータ機器やプログラミング、遺伝学にもターミネータという言葉は出てくる。いずれも『終わり』の役割をしている。


 「ほお?どんな話なんだ?」


 興味があるのかヴァジが身を乗り出す。口元は笑みを浮かべているが、目は笑っていない。どんな情報も見逃すまいとしているのがわかる。

 仕方がないから映画の簡単なストーリーと印象深いシーンも含めて話してあげた。聞いていたヴァジは意外にも「ほお」とか「まさか!」とか「それで?!」と相槌を打つほど興味津々だった。あまりにも聞き上手だから結局ターミネーター3まで話してしまったよ。


 「俺が知っているのはこれで全部だ。人気シリーズだからまだ続いているんだろうけど、俺がこの世界に来た段階で知っているのはこれだけだな」


 全てを聞き終えたヴァジは椅子の背もたれに寄りかかって満足気に息を吐いた。


 「異世界は面白いな。だが、物語と言うには物騒な話だ。この世界の子供が目を輝かせて聞くような物語とは毛色が違うな」


 こちらにも物語はある。その殆どが騎士物語や英雄物語と言った、王道少年漫画的なストーリーだ。純粋な子供が聞けば、「僕も大人になったら騎士を目指す!」と言いながら筋トレを始めてしまうようなこてこてなやつ。

 物語といえばそれらを思い浮かべてしまうヴァジが、そういう感想を持ってしまうのは仕方がないことなのだろう。


 「俺の世界では大人も娯楽として楽しめるような物語が数多くあるんだよ」


 「ふーむ、なるほどなぁ」


 「えらく興味津々じゃないか。商人ヴァジがそれほど興味を持つなら、こっちでもうけるかな」


 「間違いなく流行るな。だが、俺が興味を持ったのは売れそうだからじゃない。その人型の魔物が正しくその物語に出てくるターミネーターそのものだからだ。ヒトの皮膚を被った金属の体。常軌を逸した頑強さと攻撃力。話を聞いてそのままだと思った」


 城ですら単独で壊すシリウスが手こずったと聞いたから、明らかにそのままじゃないだろ。映画のターミネーターでもシリウスには勝てないと思う。しかし、こちらには超合金より頑丈な金属がある。もしその金属の殺戮機械があったらとんでもない強さのはずだ。

 だが、問題はそこじゃない。いや、大問題と言って良いほどのことに気がついてしまった。


 「どうした、ギル。浮かない顔だな。気になることでもあるのか?」


 また表情に出ていたようだ。やれやれ、俺もまだまだだな。でも、俺だってヴァジの機嫌ぐらいはわかるようになっているから成長している。

 俺とは逆に、新たな商材を発見したからか、人型魔物の謎が少しでも解明されたからか、ヴァジは機嫌が良いのがわかる。豪商らしく表情からは本当の感情は伺えないが、その証拠として酒の減りが早い。今も喉を潤すためにビールが入った氷のコップを口に運ぼうとしている。


 「人の皮膚を被った金属の体。そんな魔物が自然界で発生するのか?」


 口に運ぼうとしていたコップが途中でピタリと止まり、ヴァジが眉を顰める。

 ちょっと嬉しいな。ヴァジの感情が演技ではなくそのまま表に出ることなんて今までになかったんじゃないかな。でも、これがそれだけ衝撃的だってことでもあるから素直に喜ぶことはできないが。


 「ちょっと待て。まさか、人工的に作られたなんて言うんじゃないだろうな?」


 「その可能性はある。いや、非常に高いと言って良い。もちろん断定はできないが、鉱物や土塊(つちくれ)が動く無機物系の魔物や、鎧などの物に憑依するアンデッド系の魔物って感じじゃないんだろ?」


 「……ああ。俺とシリウスが戦ったのもヒトそのものだった。魔物と判断したのは中身が金属だったからだ。無機物系の魔物のように明らかに鉱物の塊ではないが、憑依したものをぎこちなく動かすアンデッドでは決してない。肉体や憑依した魂がないからどちらかと言えば無機物系の魔物だろうと判断したに過ぎない」


 「今話したターミネーターに似ているって言うなら、中身は機械だ。こっちの常識を完全に理解しているわけじゃないからはっきりとはいえないけど、俺のいた世界で機械は絶対に自然が作り出せないものなんだ。なんせ、機械は雄大な自然に対抗するために人が作り出したものだからな」


 ファンタジー世界だからそういう存在もあるかもしれないけれど、人間に似せて作り出すのはやはり人間だけなのだと思う。だけど、そう考えるとさらにいくつかの疑問が出てくる。

 それは人が作り出した物なのに、人を殺そうとするのかという疑問だ。ロボット工学三原則の一つ『人間への安全性』がない。作った本人ですら危険になる。

 もちろん、作成者が悪意を持っているならばそれもありえる。自分以外の人類を敵と認識させるだけだ。もしくは、自分の命すらも失う覚悟があれば……。

 それに、英雄クラスと戦えるほどのロボットとなると、かなりの高性能な機械だ。機械的な行動を繰り返す人形ならばシリウスは倒すのに苦労しないはずだ。人と同じように考える人工知能を搭載していなければならないだろう。

 けど、それは人間の寿命内で開発可能なのか?ロボット工学と人工知能の専門知識があっても寿命が終わるまでに出来上がるとは到底思えない。

 組織的か子孫に伝えていっているのか?両方かもしれない。

 いや、なんであれ情報不足でどれだけ考えても予想するのは不可能だ。確定できない。

 頭を振って思考するのをやめる。


 「とにかく、今わかっているはその魔物が危険だってことだな」


 「それは確かだ」


 「……わかった。詳しい日取りを決めよう」


 「ああ。おっと、その前にビールをおかわりしよう」


 「仕事の話だろ?そんなに飲んで大丈夫か?」


 「飲まずにやってられないだろ、こんな話」


 「たしかにな」


 その直後、ヴァジの「店員!」と大声で呼ぶ声が個室に響くのだった。

次の投稿は11月20日です。

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