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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十七章 時代の転換期
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戦いの終わり

 振り返ると自由都市の二人がいて、顔には笑顔を貼り付けている。

 俺を引き止めることも、これが取引の申し出であることもわかっていたけど、何ともわざとらしい営業スマイルだな。ヴァジは顔が怖いけどもっと自然な笑顔だったぞ。彼らも名を馳せた大商人だと思われるが、ヴァジに比べれば格落ちか?

 

 「多忙だと知ってはいますが、少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 「何か用でも?ああ、失礼。そう言えば、仲裁を引き受けてくれた礼を言っていなかった。感謝する」


 俺って一応王様らしいから、謙った言動は控えるようにしている。日本では取引先にはヘコヘコしていたから全く慣れる気がしない。でもまあ、シリウスっていう見本もいるから何とかなっているか。


 「とんでもない!歴史的な瞬間に立ち会えたことを光栄に思っております!それに、噂に名高い魔法都市代表殿とも面識が持てましたから!」


 コンパス大統領ではなく、頭領フォーシブリーが手を広げて大袈裟に答える。

 丁寧にヨイショするなぁ。シリウスやルカから、自由都市の低姿勢に騙されてはいけないと言われている。相手に気を許させるためなら謙ることなど何とも思わない国柄らしい。

 しかし、何かが引っかかる……。何かはまだわからないな。


 「噂か。俺の耳には悪い噂しか入ってこないが?」


 俺が肩を竦めて答えると、ちょっとした笑いが起きた。

 いや、冗談を言ったんじゃなく、わりと本気で嘆いたんだが?笑ってないで否定しなさいよ。


 「人々は悪い渾名を付けがちですから、気になさらない方が良いと思いますよ」


 俺が欲しい言葉をコンパス大統領が苦笑いしながら言ってくれた。

 おっと……、表情は変えなかったつもりだが心を読まれたか。コンパス大統領は落ち着いた雰囲気で気が緩みそうになるが、洞察力と頭の回転が速いから逆に警戒を一段上げた方がいいな。


 「そうですとも!なんでしたか……、ああ、そうだ。確か、王国の都を氷漬けにし、7万もの人命を奪った恐怖の王。その名も『人災』ですか?そんな事、ヒトに出来るわけがない。大統領の言ったように気になさらないほうが良い」


 ん?ちょっと待て。王都を氷漬けにしたが、一般市民に死傷者は出なかったぞ。あ、魔法都市を攻めていた王国兵を狂化時に殲滅したこととごっちゃになっているのか。それになんだ、『人災』って!……そう言えば新しい渾名で呼ばれているって、皆にちょいちょい言われてたがこのことか!

 俺は頭を抱えそうになるのを必死に堪えているが、空気を読めない頭領フォーシブリーの話は続いている。


 「それに我が国の大統領も『レブナント』なんて呼ばれていますからね。魔物に比べたらマシですとも!」


 「私の渾名までわざわざ言う必要はないでしょう……」


 マシってまったく慰めになってないじゃないか。それに自国のトップを落とす言葉も出すべきじゃないだろ。コンパス大統領も思わず窘めている。まあ、頭領フォーシブリーには聞こえていないようだが。

 頭領フォーシブリーは空気が読まな過ぎだろ。自由都市の4つの街の代表は商人たちから選ばれていると聞いたが、彼は本当に商人なのだろうか?……ああ、いや。この場合、俺の考えの方が間違っているのか。俺は日本の接客に慣れすぎている。地球でも昔は横柄な商人が大勢いただろうし、多少強気なぐらいが信頼を持てたのかもしれない。頭領フォーシブリーがまさにその典型なのだろう。もしかしたら交渉前の何気ない世間話のつもりかもしれない。それでもやっぱり俺には間違っているように感じるから、この話を広げるのは止めて先に進もう。


 「興味深い話だが、時間がない。要件を聞こうか」


 「おっと、これは失礼しました。時間がないとのことなので単刀直入に言いますが、我が国にも飛空艇?とやらを売って欲しいと思いまして」


 大統領ではなく、頭領のお前が切り出すのか。国同士の取引がどういう流れで行われているかはわからないけど、こうやって一番偉い奴から切り出さないものなかな?会社でも大きい取引だからって社長が出向くことは稀だし、そういうことにしておこう。

 それはさておき、読みは当たっていたようだ。やはり自由都市も飛空艇が喉から手が出るほど欲しいらしい。

 その証拠に王国との交渉中も大人しかった。自由都市は王国と仲が良く、戦争賠償交渉でも肩入れしてくる可能性があった。敗北した王国に手を差し出して心証を良くしておけば、後々役に立つかもしれないからだ。だが、今回それはなかった。

 自由都市が心証をよくしておきたかったのは、王国よりも魔法都市代表である俺だったからだ。飛空艇の取引交渉を上手く進めるために。

 しかし、俺はそれを逆手に取って、ヴァジに飛空艇を見せておいたわけだ。もちろん、オーセブルク取りの事前準備でもある。煽って購買意欲を高めたのもあって、彼らは会談の終わりが待ち遠しかったに違いない。

 とは言え、これが俺の狙いだとわざわざ教えることもない。


 「ふむ、貴国と飛空艇の取引をして、魔法都市になんのメリットが?」


 「自由都市との国交と言いたいところですが、そうですね、飛空艇の料金を他国より1.2倍、いや、1.5倍の値で買いましょう」


 「それは当然だろう。同盟国と同じ値で買えると思っていたのか?それに値を付けるのは売る側であることと知れ」


 「なるほど。さすがはあのプールストーンに利用価値と付加価値を付けたお方。一筋縄では行きませんな。……そうですな。でしたら、倍の値で買うのはどうでしょう?」


 頭領フォーシブリーは何か勘違いしているんじゃないか?オークションをしているわけじゃないんだから、あくまで値段は売る側が設定するんだよ。君が決めて良いことじゃない。


 「話にならないな。いや、話を聞いていないのか?値段を付けるのは俺だと言ったぞ?」


 「いえいえ、まだ続きがございますとも。代表殿も知っておられるでしょうが、現在ポーションの値上がりが問題になっています。その値下げに協力いたしましょう」


 頭領フォーシブリーがこれならば頷くだろうとでも言いたげに自信満々に胸を張った。

 とうとう来たか。ここでこの話題を持ち出してきたってことは、自由都市が仕掛けたことだってのは信頼がある情報だったか?まあ、言及しても証拠がないから煙に巻かれるだろうけど。

 さて、このために準備をしてきたんだ。強気に行こう。


 「興味ないな。他にないならこの話は縁がなかったということだ」


 「は?え?あの、ご存知ないでしょうが、値下げを起こすには莫大な金が必要なんですよ?それに魔法都市にとってはポーションの高騰は一大事でしょう?」


 食い下がる頭領フォーシブリーに、俺は溜息を吐く。そして、唐突に左腕の袖を捲くってから友人の名を読んだ。


 「シリウス」


 まだ会場内にいた、と言うよりは俺の商談に興味津々で聞き耳を立てていたシリウスが「なんだ?」と嬉しそうに近寄ってきた。

 この流れは前もって打ち合わせていただろうに、わざとらしい。シリウスに演技をさせるもんじゃないな。


 「斬ってくれ」


 「な、何を?」


 主語がなかったせいで自分が斬られると思った頭領フォーシブリーは、怯えて二歩ほど後ずさった。


 「ふん」


 同時にシリウスが鼻で笑いながら聖剣の柄に触れた。次の瞬間、俺の腕から血が吹き出した。目に見えないほど高速な斬撃は、不思議と痛みはない。

 骨を傷つけない程度の絶妙な傷。リディアを連れてこなかったから泣く泣くシリウスに頼んだのだが正解だったな。やっぱり剣術の腕は凄いわ。


 「ギル代表?!何をしていらっしゃるのですか!ああっ、血が!」


 コンパス大統領はどうすれば良いのかわからずあたふたしている。頭領フォーシブリーは顔を真っ青にしているだけだ。

 おい、フォーシブリー。お前が一番に心配しないでどうすんだ。交渉しているのはお前だろうが。まあ、良いや。痛みが無いからと言っても、血は止めどなく流れちゃうからな。治すのが先だ。


 「心配するな」


 俺は学院の研究室で何度も繰り返してきた『回復魔法』を実行する。

 魔法で元となる薬草を生成し、これまた魔法で作ったすり鉢とすりこぎ棒でゴリリッとすり潰す。水を入れて風で混ぜて完成。手慣れたもんですよ。

 それから斬られた腕にぶっかけて血を洗い流して傷が残っているかの確認。もちろん、切創など何処にもない。その腕を上げて自由都市の二人に見せた。


 「き、傷がない?まさかこれは?」


 コンパス大統領が恐る恐る近寄ってきて俺の腕を凝視する。


 「当然、魔法だ。魔法都市では『回復魔法』と呼んでいる。ポーションの価格が高騰したら代用品を用意したら良い。だろ?」


 「た、たしかに。しかし、素晴らしい魔法があるのですね。この魔法さえあれば、ポーションやその素材の値が下がりやすくなる。結果的に買い求めやすくなるということで、負傷で亡くなる冒険者も減ることになるでしょう」


 コンパス大統領が感嘆の息を漏らす。感情を隠すことに長けている商人は珍しいことだ。

 んー?コンパス大統領は心の底から喜んでいるように見える。もしかして彼はポーションの価格操作に関与していない?もしかして、自由都市の工作だってのは考え過ぎなのか?


 「馬鹿な!そんな魔法があるなんて聞いたことがない!」


 今まで呆然としていた頭領フォーシブリーがはっと我に返ると、こんなことを言い出した。何故か取り乱していて、さっきまでの丁寧な言葉遣いはどこにもない。恐らくこの言葉は俺たちに向けたものではなく、独り言だったのだろう。

 その証拠に、彼は言わなくても良い言葉をこの直後に零した。


 「ポーションの値を上げるのに使った時間が無駄だったではないか!その時間でどれだけの利益を出せたことかっ!私は無駄が大嫌いなんだ!」


 取り乱しているというよりは、癇癪を起こしているようだ。っていうか、今なんて言った?ポーションの値を上げるのに使った時間?おまえか。お前が余計なことをしてくれたのか。お前が価格操作で時間を使ったように、俺もその対策に時間を使ったんだ。その時間があればもっと他のことが出来たのに。

 怒りが沸々と湧くが、以前のように爆発して暴力に訴えることはない。だからと言って、遺憾ですとしか言えないような弱気な外交をするつもりはない。


 「頭領フォーシブリー。今の言葉はどういう意味だ?」


 「何だ!」


 フォーシブリーが子供に仕事を邪魔された親のように俺に怒鳴る。

 相手が他国の王であることすら頭から抜けているみたいだな。ここは少し頭を冷やしてもらおう。

 俺は瞬時に『アイスフィールド』の魔法を発動する。会議室に冷気が漂い、ここにいる全員の口から吐く息が白くなる。魔法の発生をフォーシブリーを中心に設定しているからか、彼の立つ床には霜が降りていた。現在、彼は凍えるような寒さを感じていることだろう。

 フォーシブリーがぶるりと震えると、困惑気味に鳥肌が立つ自分の腕を擦る。


 「もう一度聞くぞ?今の言葉はどういう意味だ?ポーションの価格はお前が操作したのか?」


 「何を言っているのですか?!私がそのような事をするはずがありません!」


 冷静さを取り戻し、言葉遣いも元に戻っている。けど、今自分の口から言った言葉を本当に覚えていないような態度だ。事実、言った記憶はないんだろうな。なんだ、こいつは?狂化スキル持ちか?

 それよりも、少しだけ早く冷やしすぎたか。彼がもうちょっと自白するまで待つべきだったな。でも、聞いたのは間違いない。フォーシブリーではなく、コンパス大統領に問い質すべきだな


 「コンパス大統領、どういうつもりだ?自由都市は魔法都市に対して何らかの工作を行ったようなことを彼が零したぞ?いや、迂遠な言い方はやめよう。俺たちは自由都市が飛空艇を得るためにポーションの価格操作をしていたと予想している。予想したからこそ『回復魔法』を開発したんだ。商人の国である自由都市が正々堂々と交渉で勝負できないのか?」


 さあ、洗いざらい吐け。という思いを込めてコンパス大統領を睨む。


 「たしかにギル代表殿が仰る通りで恥ずかしい限りです。頭領フォーシブリーが価格操作を行ったのは事実です」


 「な?!裏切るのか!レブナント!!」


 「黙れ、フォーシブリー。大陸中の王がこの場に全員いらっしゃるのを忘れるな」


 「くっ!」


 フォーシブリーが五月蝿いが、しっかりと聞いたぞ。と言うか、あっさりと認めたな。


 「裏切るとは?まさかコンパス大統領も関わっていたと?」


 「まさか、そこまで落ちぶれていません。ポーションの高騰が明らかになってから私が調べ、彼が犯人であるということを掴みました。ですが、飛空艇を手に入れることも我々には重要だったのです。交渉がうまく運び、飛空艇を手に入れることが出来たなら責任を持ってポーションの値を戻すつもりでした。女神に誓って自由都市の総意ではないことは信じて頂きたい」


 なるほど。裏切るというのは関与したという意味ではなく、暴露することに対してのようだ。そして、価格操作はフォーシブリーが勝手にしたと。

 もちろん、コンパス大統領の話を全て信じる事はしない。それに価格操作はよく起こる事でもある。

 実際、地球でも多くの利益を得るために人為的に物の値段や税を上げることはよくある。やり過ぎてその国や会社の信頼を失うことも多々あるが、市場では決して珍しい出来事ではない。

 だが、人命に関わるポーションを狙ったのは悪辣だ。俺の知らないところで、ポーションが買えずに命を落とした人々は必ずいただろう。

 『回復魔法』が完成したからと言っても、すぐに魔法士たちが扱えるものでもない。ポーションの値段がこのままでは困る。


 「ポーションが買えないせいで、何人の人命が失われただろうな?自由都市がすぐに値段を下げる努力をすることを俺は要求する」


 「それはもちろん。自由都市の全頭領で責任を持って値下げに尽力することを約束します」


 予想通りの答えだ。商人の国だけあって信頼を失ったままにするのは耐えられないだろうことはわかっていたからな。

 あとは犯人であるフォーシブリーの処遇だ。こいつがこのまま自由都市の頭領にいたままではこれから先も安心できない。


 「そいつはどうするつもりだ?」


 「帰国後すぐに私が解任決議案を提出します。フォーシブリーには頭領を辞めて頂く」


 この場で、それも本人の前で宣言するのか。コンパス大統領はいい性格をしているじゃないか。


 「何を!!私は認めんぞ!」


 「あなたが認めなくても、この件を話せば頭領たちが認めてくれます。おそらく全員一致で可決されるでしょう」


 僅かに口角を上げながら話すコンパス大統領。その表情を見て、ようやく引っかかっていた事が何かわかった気がした。

 自由都市に結束力がないのではなく、この二人の仲が良くないのだ。

 ちょいちょいフォーシブリーが大統領を差し置いてしゃしゃり出てきていたのは、取引の持ちかけを国のトップがしないのではなく、彼が自分の手柄にするためだろう。それに今、コンパス大統領のことを『レブナント』という渾名で呼んでいた。彼が言い慣れていた事や、コンパス大統領が気にしていなかった様子で普段からそう呼んでいたと予想できる。

 この二人には俺ではわからない確執があるのだ。フォーシブリーはあの性格だし、コンパス大統領もプライベートとビジネス関係なく悩んでいたに違いない。それこそすぐに解任したいほどに。

 だが、自由都市は国民が代表を選ぶシステムだ。当然、解任にもそれなりの理由を国民に示す必要がある。

 コンパス大統領は今そのチャンスを掴んだのだ。


 「そんな……」


 「それだけではありません。あなたの財産を国で没収し、それでポーションの値下げを行います」


 「ふざけるな!!そんな事は絶対にさせんぞ!!」


 「観念しなさい。自分のケツぐらい自分で拭くべきだ」


 ひゅー、言うじゃないか。ちょっとだけ見直したぞ、コンパス大統領。

 フォーシブリーはその場に崩れ落ち、「嘘だ嘘だ」と頭を抱えている。良い気味だ。だが、この流れは少しだけよろしくない。自由都市に飛空艇を売らない理由になってしまう。自由都市としても、取引交渉は彼に処罰を与えてポーションの価格が戻ってから再交渉すべきと考えるだろう。だけど、それはいつになるかわからない。いつまでもオーセブルクを共同管理にはしていられない。


 「ところでコンパス大統領。そいつに処罰を与えるのを約束するならば、飛空艇の取引交渉を……、いや、交渉なしに取引をしても良いと俺は考えている」


 「本当ですか!?」


 「だが、こちらもポーションの価格高騰で打撃を受けた。そちらにはそれなりの物を要求することになるが?」


 「飛空艇……の価格でしょうか?」


 やっぱり彼も商人なんだな。第一に考えるのが価格か。


 「いや、俺が要求するのはオーセブルクの管理権だ。魔法都市の入り口を他国に取られているのは気分が良くない。魔法都市は迷宮都市オーセブルクを自国に加えたい」


 「それは!!……それは少々、その……」


 「強欲か?果たしてそうだろうか?俺は飛空艇を得た恩恵は自由都市にこそ大きいと考えている。それこそ自由都市が迷宮都市から得る利益よりも」


 「……」


 「迅速且つ安全に商品を運べる。賊に荷を奪われることもなく、商品の回転が早い。利益がどれだけ上がるだろうか?それは地下にある街よりも魅力的ではないかな?地下(した)ではなく、(うえ)に行くべきだ」


 コンパス大統領が顎をさすりながら空を見上げる。もちろん天井があるから実際に見ているわけではない。中空に視線を上げて考え込んでいるのだ。おそらく、頭の中で利益の計算をしている。

 すぐに計算が完了したのか、コンパス大統領は小さく頷く。


 「わかりました。しかし、私の一存で決められることではありません。一度国に持ち帰って良いでしょうか?」


 商人らしい言葉だ。俺もよく使ったなぁ。自社に持ち帰ってって言葉。まあ、想定の範囲内だ。


 「良いだろう。決まったらそいつの処分の詳細も一緒に教えて欲しい」


 「わかりました」


 コンパス大統領は頷くと「では、急いで国に戻ります」と言って、護衛にフォーシブリーを連行させながら会議室から出ていった。

 よし。確実にオーセブルクは手に入ると言えないが、十中八九手に入るぐらいの手応えはあった。今はこれで良しとしよう。もし駄目だったらまた違う手を考えれば良い。


 「ギル代表」


 もうここに残る必要もない。俺たちも引き上げようかと思っていると、予想もしていなかった人物から話しかけられた。アレクサンドル王子だ。


 「アレクサンドル王子、どうした?」


 王国から話しかけられるのを予想していなかったわけではない。アレクサンドル王子ではなく、ヴァジが話しかけてくると思っていたのだ。


 「いえ、厚かましい願いだと重々承知していますが、我が国にもいずれ飛空艇を売って頂きたく思っています」


 「いずれ?」


 「はい。残念ながら我が国には魔法都市に支払える物がありません。今は国を立て直しながら、魔法都市の欲しがる物を作り出すことにします。ですから、いずれです」


 へぇ。コンパス大統領を見直したばかりだが、アレクサンドル王子も見直すことになろうとは思わなかった。ヴァジの交渉を見て成長したのかな?将来は厄介な人物になりそうだ。良い意味でな。


 「つまり、これは宣言か。わかった。だから俺もこう言っておく。考えておこう、とな」


 アレクサンドル王子はにこりと微笑んでから「では」と言って会議室を出ていった。これから彼は大変だろうな。

 それと、ヴァジだ。まだ王国に雇われているのか、アレクサンドル王子を追うように会議室を出ようとしている。俺とすれ違う瞬間に「また魔法都市で一杯やろう」と呟いて会議室を出ていってしまった。

 ふー、ヴァジが今まで通りでよかった。シリウスと仲良くしているからって俺まで敵対視してないってことか。結局、ヴァジに好き勝手されてしまったな。まあ、俺たちも満足出来る結果になるよう運んでくれたから良いか。

 さて、ようやくこれで重要なイベントは終わった。いい結果に終わってよかった。早く魔法都市に帰ってゆっくりしたいな。まあ、今日の話し合いが終わっただけで、まだまだ決着ってわけでもないけどな。

 これから時間を掛けて、王国から割譲される土地の詳細な広さや、連合でどう分けるかを話し合うことになる。魔法都市も王国からオーセブルクの管理権譲渡を完了しなければならない。

 一先ず決着だが、まだまだ忙しい日々は続きそうだ。


 「シリウス、ルカ。俺たちも戻るか」


 「そうだな。ところでギル。法国に回復魔法とやらの技術を売る気はないか?」


 「ほう?貴様も目をつけたか。我もどう奪い取るか考えていたところだ」


 「奪う?!」


 こうして、ここ数ヶ月に渡る戦争に決着がついたのだった。

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