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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十七章 時代の転換期
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三人目の王

 帝国宰相マーキスの魔法都市滞在は1週間とちょっとだった。

 マーキスは『浮遊石』を早急に購入したかったようで、再開早々に交渉を始めようとした。だが、俺の休暇を返上する以上、儲け以外にもメリットがなければ割に合わない。それにアポイントもなしで商談しようなんてのは、日本にいた頃もこの世界でもほぼ追い返される。

 よって俺はゴネにゴネて彼らの滞在期間の半分、魔法都市の仕事を手伝わせることに成功した。まあ、仕事は全部マーキスがしたんだが。俺はいつもの通り、シリウス君のお守りですよ。これはこれで重労働だ。

 でも、俺とマーキスの努力の結果、魔法都市の仕事はさっぱりと片付いた。魔法都市の国庫がすっからかんの状態を見たマーキスが「シリウスさんが皇帝になった時を思い出します」と苦笑していたから、彼らも当時は苦労したんだろう。とにかく、当時の経験が生きたのか見事な働きっぷりで、しばらくは仕事をしなくても問題ないぐらいにはなった。

 まあ、マーキスに仕事をやってもらったのは他にも理由があるのだが……。

 仕事が片付いてからは『浮遊石』の商談だ。帝国の目的はマーキスが来訪したことである程度予想出来ていた。

 有能な宰相が直接交渉に出張る。それは普通の商談ではあり得ないことだ。それこそ値段の交渉なんてのは代理で十分だろう。先行で購入できる権利は既に帝国は持っている。つまり、それ以上の何かを求めてマーキスが来たのだと予想するのは容易い。ではその何かだが……、それはシリウスが連れきた同行者とその荷物を見れば一目瞭然だった。

 今回、シリウスはマーキスの他にも三人も引き連れて魔法都市に来ていた。元王国の英雄ことサム。戦争中に軍を指揮していたガイア。それに以前少しだけ顔を見たことがあるミアという女の子だ。

 そして、全員が荷物として持ってきたものが、俺も愛用している特大のマジックバッグだった。それも一人3つずつ。何かを入れて持ち帰りたいという思惑が丸わかりだろう。

 つまり、マーキスの目的は『浮遊石』を購入し、即持ち帰ることだ。あと一ヶ月ちょっとで王国との交渉する日になるが、それまでに帝国は一隻でも飛空艇を作りたいのだ。

 だが、魔法都市に『浮遊石』を集める余裕など今までなかった。だから俺は、マーキスを働かせて時間を稼いだってわけだ。その間にクリークに雇ってもらった炭鉱夫に採掘をしてもらい、何とか数隻分の『浮遊石』を集めることができていた。

 『浮遊石』購入の交渉だが、前もってシリウスと話し合っていたからかトントン拍子に運び、継続購入契約まではすんなりと終わった。そして、このあとも俺の予想通りの展開で、マーキスは現物を持ち帰りたいと持ちかけてきたのだ。

 時間を稼いで在庫を確保していた俺は、余裕の笑みを浮かべて「どれくらい購入したいんだ?」と聞く。すると、マーキスは「現在帝国で作っている船は、ギル代表の所有する飛空艇より三倍ほど大きいので10隻分の『浮遊石』の購入と、それに合う『じぇっとえんじん』という動力炉を購入させてください」と返してきた。

 計算が合わないっ!何故三倍の大きさが10隻分になる?!それにジェットエンジンのことを忘れてた!

 ジェットエンジンは何とかなった。作っておいたジェットエンジンプールストーンの数が足りないだけで、設計図は既に用意してある。プールストーンに魔法陣を刻むぐらいなら数時間で終わるのだ。

 しかし、『浮遊石』はどうにもならない。炭鉱夫が頑張って採掘してくれているが、空エリアの滑落防止のために急がせるわけには行かないのだ。

 何とか滞在期間ギリギリまで集めた7隻分の取引で我慢してもらうことにした。

 そして、マーキスは『浮遊石』をパンパンに詰め込んだマジックバッグを持った三人と共に帝国へと戻っていった。

 マーキスを見送る俺の横にはシリウスもいるが……。


 「あれ?シリウスはなんで帰らないの?」


 「残りひと月ほどに交渉の日時が迫っている。帝国まで戻り再びオーセブルクまで来るとなると、往復するだけで交渉の日になるであろう?ここに残るのが合理的な考えだ。マーキスにも魔法都市に残りゆっくりとして良いと言われている」


 ……マーキスの野郎、シリウスを押し付けやがったな?!帝国の飛空艇が出来るのをうずうずしながら待つシリウスを面倒と思ったに違いない。

 結局、どの世界だろうと上手く仕事を片付けても、新たな仕事は出てくるんだなぁ。いや、シリウスの相手を仕事と考えるのは駄目か。



 シリウスを持て成す日々を過ごしていると、あっという間に交渉の日が二週間前までに迫ってきていた。今日も黄金のトランプでカードゲームに興じている。今日のゲームは『ブラックジャック』だ。

 シリウスの前には2枚のカードが置かれており、一枚は表向きでスペードの1が見えている。そして、裏向き置かれたカードをめくって数字を確認している最中だった。

 シリウスはすっと目を細めると確認していたカードを表に変え、テーブルに勢いよく打ち付けた。


 「ふん、キングを引いたぞ。確かブラックジャックと宣言するのだったな?」


 「またキングかよ!!」


 俺が親でテーブルに表向きで置かれているカードの数字は2。この時点でどう足掻いても勝てない。と言うより、シリウスのカードに1が見えていたら天然チートでキングを70%ぐらいの確率で引きまくるから、ブラックジャックでは勝ち目が薄いゲームだ。キングのカードは4枚しかないはずなんだけどなぁ。ここぞという時に引き、それが高額ベットなもんだから俺の財布からお金がなくなるのが速い。


 「ふはは!今日の食費と酒代は稼いだな!次は宿泊代か!」


 長期滞在することを悪く思ったのか、シリウスは掛かる費用を払うと言ってくれたのだ。だが、賭けているから結局は俺が払っていることになる。


 「トランプでやるゲームは勝ち目が薄すぎるだろ……」


 一度、キングが関係ないゲームであるババ抜きをやったが、野郎が二人向き合って黙々と互いのカードを引き合うのが絶えられなかった。うーむ、トランプではなく、ボードゲームを用意するべきか?

 震える手で自分の財布から銀貨を2枚シリウスに手渡す。ああ……、負け分のどれくらいがシリウスの滞在費用として戻ってくるんだろう。マイナスだろうなぁ。

 溜息を吐きながら次ゲームのカードを配ろうとしていると、ドアがコンコンと叩かれた。誰かが俺の私室に来たようだ。

 しめた!俺に用事があるんだ!ゲームを中断するチャンスで、運が良ければ今日はお開きになる。シリウスには悪いが要件を聞こう!

 そう思い、ドアの向こうで待っている人物を招き入れようと口を開きかけると、何故かシリウスが入室の許可を出した。


 「入れ」


 お前が言うんか!?ここ俺の部屋!

 ドアの向こうにいる人物も開けて良いのか迷ったのか、少しの間をおいてから恐る恐ると言った感じに部屋へ入ってきた。

 入ってきたのは使用人としての仕事をしている現金な女性魔人だった。


 「し、失礼します」


 「あ、うん。お疲れ様。で、どうしたの?」


 「あ、はい。お客様が城への入城許可を求めています」


 「客?」


 はて?今日は来客予定なんてなかったはずだ。と言うより、俺への謁見なんて月に数えるほどしかない。いったい誰だ?


 「誰か分かるか?」


 「はい。妹……、いえ、法国聖王ルカ陛下です」


 ルカ?!王国との交渉日のギリギリにオーセブルクに到着するのだと思っていたんだが……。ルカを魔人が見間違うはずがないし、本人がこの魔法都市に来たことは間違いないのだろう。

 とにかく、彼女をいつまでも待たせるわけには行かないな。


 「ほう?新たな聖王になった者か。面白い、通せ」


 いや、だからお前が許可を出すなって。シリウスに招き入れても構わないか確認する手間が省けたのは良いけど、ここは俺の国で俺の城なんすよ。

 またもシリウスが勝手に許可を出したことに心の中でツッコミを入れていると、使用人の女性魔人は頷いて部屋を出ていってしまった。

 君はどうして俺に確認を取らず、シリウスの言葉に従っちゃうの?雇い主は俺なんだけど……。彼女はチップをくれるシリウスが好き過ぎだろ。

 まあ、とりあえずルカが来るのを待つか。



 待つこと数分で再びドアがノックされ、今度こそ俺が入室の許可を出すと、ルカと同行者二人が困惑した表情で部屋に入ってきた。いや、同行者二人のうち一人は困惑していないか。


 「謁見の間に通されると思ったのだが……、私室か?」


 ルカがキョロキョロと部屋を見渡し、俺へ視線を移すと呟くような小さな声で呟いた。

 そうか。困惑していたのは謁見の間に通さなかったからか。まあ、どんなに仲が良くても普通はそうだよな。でも、俺に選ぶような暇なんてなかったから仕方ないよね。


 「久しぶりだな、ルカ。直前に間に合うよう法国を出るのかと思ってたよ」


 「あ、ああ。ギルや兄姉たちに会いたかったのでな」


 なるほど。法国で別れた以来だもんな。そりゃあ、心細くて会いたかっただろう。


 「そういうことか。このまま交渉の日まで滞在していくんだろ?ゆっくり話すと良い」


 「感謝する」


 城の部屋は余っているから、ルカを泊めるぐらい問題ない。宿屋に行けって言うのも冷たいしな。

 一旦、ルカとの話は終わらせて、同行者の一人へ顔を向ける。


 「クレストも久しぶりだな」


 「はい、ギル代表様。またお会いできて光栄です」


 様付けか。出会った時に脅したのもあって、知り合ったあとも俺に敬意を払ってくれていたが、国同士で同盟を組んでからはさらに畏るようになったな。聖職者だからというわけでもないし、元々が礼儀正しいのだろう。

 俺はクレストに軽く頷いてから、最後の同行者へちらりと視線を向ける。

 ま、挨拶しなくていっか。

 話の続きをするために、ルカへ視線を戻す。


 「ちょっ!無視しないでよ、ギル君!」


 同郷出身のアーサーがすかさず俺を呼び止める。謁見の間ではなく私室に直接通されたことに疑問を抱かず、アホそうな顔で鼻くそをほじっていた奴だ。無視したって構わんだろ。

 まあ、俺が石化していた時に軍を率いて助けに来てくれたらしいし、礼ぐらいは言っておくか。


 「アーホー。魔法都市へ援軍に来てくれたらしいな」


 「うん。うん?いま、さらっと名前間違えた?阿呆って言った?」


 アーサーが「ふふん」と褒められることを期待して頷くが、直後に俺が言い間違えた言葉に気づいて首を傾げる。

 名前を間違えるのは失礼なことだけど、偽名だから問題なよね。俺は「聞き間違いだよ」と答えてから、礼を言うために続けた。


 「良くやった」


 「上司か!」


 よしよし、ツッコミを入れてきたしアーサーは喜んでいるようだ。

 ふんぬぅ、と憤っているアーサーから視線を外し、今度こそルカに戻す。アーサーよりもシリウスを紹介するほうが大事だ。


 「紹介がまだだったな。彼はシリウス。帝国のシリウス皇帝だ」


 予想通りだったのか、ルカは驚くこともなく落ち着いた様子で小さく会釈をする。


 「お会いできて光栄です、シリウス皇帝。見た目通りの若輩者で、玉座に座りなれてもいない王ですので、ご助言いただければと存じます」


 「ほう?……帝国皇帝、シリウスだ。我に会い、光栄とは言うのは珍しい」


 シリウスはどちらかと言えば恐れられる王だ。もちろん、定型文のように「光栄です」と言われたことなら数多くあるだろう。しかし、声に尊敬の感情が滲み出ているような言われ方をされるのは少ないに違いない。恐怖や緊張で声が震えるからな。

 ルカは小さく首を横に振って「当然です」と答えた。


 「革命の歴史が多い帝国の地を、争いなく治めているのですから。わたくしも以前はシリウス皇帝を恐ろしい王だと教えられていたので怯えていました。しかし、わたくし自身が王になってみると、それがどれだけの偉業なのかを理解できたのです」


 ルカはさらに「尊敬の念を抱かずにはいられません」と言って、再び小さく会釈をした。

 一人称も『余』ではなく、『わたくし』になっているな。シリウスがいるからか、それとも聖王になって直したのか。どちらにしろ尊敬していると言う言葉に嘘はないようだ。


 「楽にしろ。我は同じ王ならば多少の無礼は赦す」


 シリウスの言葉にルカは苦笑する。

 気持ちは分かる。そう言われても楽なんて出来ないし、無礼も出来ないよな。

 さて、挨拶は済んだし、一度部屋に案内させて落ち着かせるか。どうせ直接魔法都市城に来ただろうし疲れているよな。


 「ルカ、魔人に部屋まで案内させるよ。話の続きはまた後でにしよう。少しゆっくりしたほうが良い」


 「助かる、ギル」


 俺は近くで待機していた魔人に目配せして、ルカたちを連れ出してもらった。

 ルカたちが退室していったドアを眺めていると、シリウスが楽しそうに鼻で笑った。


 「面白そうな女児ではないか。女王としての器もある」


 「そうだな。しっかりと女王をやっているみたいだ。また夕食の時にでも話してみると良いよ」


 「ああ、そうしよう。さて、では続きをやろうか」


 忘れてた!気を使ってルカに休めって言っちゃったけど、残ってもらうるべきだったか!

 夕食まで7時間。俺はまた毟られるのだった。

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