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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
二章 術式付与
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迷宮都市オーセブルク

 俺達がヴィシュメールの街を出てから4日が経っていた。

 明日の昼には付く予定だ。

 俺達は馬車の旅にうんざりしていた。というより、街に寄らなかったのが失敗だった。このオーセリアン王国は国土のほとんどが草原ばかりで、観光となる場所がなかったのだ。観光というと変だが、別に人工物を求めていたわけではない。川があったり海があったりすればそれだけで良かったのだ。


 「本当に毎日毎日、草ばっかッスね」


 シギルが御者をしながら呟く。自分が生まれ育った国だというのに、毎日草原を馬車で移動しているだけなので少し嫌気が差しているようだ。


 「気持ちは分かるが、おまえの国だろう」


 「自分の国でも飽きる時は飽きるッスよ」


 オーセリアン王国の王都は、町並みがとても綺麗で、活気に溢れているそうだ。若者が皆王都へと向かうからだと聞いた。

 年頃になると、草原しかない自分の街に嫌気が差し、王都へ向かうのだ。そして、老いると逆に田舎の方へと戻っていくそうだ。確かにのんびり暮らすには良い国だと思う。シギルもまさに今飽きていた。

 シギルが言うことも分かる。俺やエル、リディアでさえうんざりしているのだ。馬車の旅は、基本的にどう暇を潰すかが大事だ。最初のうちは景色を見て、広大な草原に感動をしていたが1時間もしたら、誰も景色の事を言わなくなった。草原だけで一時間を潰せたと考えれば、よくやったと褒めるべきだろう。

 次は会話で時間を潰した。俺達には話すことが山程あるが、3日も経てばネタも尽きる。最後は昼寝をするしかやることがなくなった。

 御者をしていないエルとリディアは、今荷台で眠っている。


 「旦那は良いッスよ。考えることがたくさんあって、今も魔法のこと考えているんスから」


 俺はシギルの横でメモ帳を開き唸っていた所でシギルに話しかけられたのだ。

 俺は魔法の事でこの数日頭を悩ませていた。


 「もう少しのはずなんだよ。これが出来れば色々出来る事が増える」


 「旦那が言っていた冷蔵ッスか?」


 「そうだ。今日の晩飯は昨日と同じスープとパンだぞ?なんせ干し肉と野菜とカチカチのパンしか無いからな」


 「あー。それもうんざりッスねぇ」


 保存する方法がないから、旅の最後には必ず残る食材はこれだ。つまり、旅が長引くと最終的には同じメニューになるのだ。それも飽きる要因なのは言うまでもない。なんと言っても、楽しみは寝るか、食べるかなのだから。


 「冷蔵が出来れば、フレッシュな肉を最終日まで保たせることが出来たかも知れない」


 「それは夢のような話ッスね。干し肉はしばらく食べたくないッスよ」


 この旅はかなり無理な日程だから、こんな事になっているのかもしれないが、食材の保存が出来るならしたほうが良いに決まっている。

 それにもし、氷魔法が出来れば色々な魔法を使える可能性が出てくるのだ。

 俺はこの数日悩んでいたのは、この魔法の開発だった。それもようやく目星をつけたのだ。

 それは合成魔法が答えだった。2つの魔法陣を組み合わせると反応が変わり違う性質を持った魔法が出来るのだ。だが、現代科学をある程度学んでいないと出来ないことだろう。

 また科学を知っているからこそ不思議な事もあった。

 氷を作るためには水魔法と火魔法を合わせて使う必要があった。火魔法は火を出す他に熱を吸い取るという効果が使えることを知ったのだ。だが、それだけでは氷が出来なかった。排熱し水を冷やさなければ氷は出来ないのだ。だから、更に風魔法を合わせてみた。風魔法にも熱を送るといった効果が隠されていて、冷たい熱を送ることで急速に氷が出来るとわかったのだ。

 といっても、やっと発見できたのはついさっきだが。


 「さて、ようやく理論が出来た」


 そういうと俺はメモ帳を閉じた。すると隣に座っていたシギルが目を輝かせる。


 「やっとッスか!見せて欲しいッス」


 「シギルは時間を潰す為に見世物を期待しているだけだろ」


 「バレたッス」


 まあ見せるつもりだったから別にいいんだけどね。


 「じゃあやってみるか」


 俺がそういうと今まで寝ていたエルとリディアも荷台から顔を出した。


 「エルも見る、です」


 「私も見させていただきます」


 すごいな。面白いことを探すのに必至だ。じゃあ、俺の仲間達の為に少し手品を披露しようか。

 俺はそう言いながら、皆が見えるように体の向きを変えた。

 まずは手のひらに魔法陣を作り水を浮かべたままにする。これも魔法の不思議だよな。どうして浮かぶのか科学では説明できない。だが今はそれを言っても始まらないから先に進めよう。

 水を浮かべたままにするのも、地味な苦労があるのだがそれはいいだろう。次に手のひらの魔法陣に更に2つの魔法陣を作り重ねる。手のひらには全部で3つの魔法陣があることになる。

 水と火と風の魔法陣だ。火の魔法陣は、火を出さず熱を吸い取る役目をしていた。風の魔法陣も風を出さず冷却をしているのだ。

 魔法陣を展開し、一気に魔力を込める。

 そうすると浮かんだ状態のまま一瞬で水が氷になった。

 よし、成功だ。


 「おおー!凄いッスよ!」


 「お兄ちゃん、触らせてください、です!」


 「こんなのは見たことがありません。不思議でとても綺麗です」


 三人に氷を一つずつ作って上げた。皆もまさか氷を寒い地域以外で見る事ができるとは思ってなかったらしく、しげしげと出来上がった氷を見ている。どうやら好評だったみたいだ。

 これで魔法が更に詳しくなったと思う。現代科学を利用すれば魔法で再現できない事はないと結論が出たのだ。

 これから色々な魔法を開発していこう。

 俺の新魔法で多少の時間潰しができ、皆も喜んでいた。



 その日の見張りは俺だった。俺は見張りの時に魔法の練習をしている。

 今俺の周りに無数の炎を纏った石の槍が浮かんでいた。

 もう既に2時間この状態を維持している。


 「よし、とりあえずこの練習は終わり」


 魔力を止めると火が消え、石の槍は砂になって地面へと落ちた。

 リッチとの戦いで石の拳に火を纏ったのをヒントに新しい魔法を作ったのだ。

 といっても、リッチと戦ったすぐ後ぐらいにはこの魔法は完成していて、主に魔法の練習にしていた。

 魔法は魔力を送る量を調節することで威力が増す。その調整の練習をこの新魔法でやっていた。


 「じゃあ次は合成魔法の練習だな」


 俺は火と風の魔法陣を重ねて人差し指に展開する。魔力を少しだけ流すと指の先から青い炎が吹き出した。

 青い火は高温の証だ。もっと勢いがあれば鉄をも切ることができるだろう。

 この青い火を出す魔法も簡単に見えるがそれなりに苦労して作った合成魔法だった。地球なら簡単にガスバーナーなどで出すことが出来る青い火。それを魔法で表現するとなると、やはり科学が必要になってくる。例えば、木に火をつけると木は燃える。この時木が燃えているわけではなく木から発生したガスが燃えているのだ。では、魔法は?

 それをふまえて火属性の魔法の解析から始めた。考えられるのが魔力を魔法陣でガスっぽい何かに変化させて火を出していると考えるのが自然だ。これに酸素を送り込み、ガスを完全燃焼させてやれば青い火になる。つまり風魔法で酸素を多く送っているのだ。一応この時点で俺の考えは証明されていたが、魔法は不思議なものという考えもまた証明された。

 火の槍を()()()事が既に謎なのだ。魔法とはこういう物として考えるしかない。

 

 俺は火の槍を青い炎で作ってみたり、巨大なバーナーみたいに勢いよく出す練習もした。難しいと思うのは一つ一つ魔法陣の文字を変えなければならないことだった。なんせ、火の槍とバーナーでは、魔法陣に描く文字が全く違うからだ。更に青い炎にするために風の魔法陣も調整しなければならない。

 ある程度、魔法の完成形を作り、それを反復練習で脳と体に覚えされなければ、連続魔法や魔法陣の瞬時構成など出来ない。

 魔法で敵を倒す為に日々努力をしていたのだ。


 「くっ……」


 俺の額には汗がにじみ出ていた。火の熱さもそうだが、魔力の調整がかなり疲れるのだ。

 俺は魔法の発動を止めた。そろそろ魔力が底を尽きそうだったからだ。

 魔力も無限ではない。練習で空にしてしまい、魔物が現れたら目も当てられない。


 「ふー、とりあえずこんなものだろう。やっと形になってきたな」


 新しい魔法を思いついたからといってすぐに出来るものではない。反復練習をしなければ、俺は戦闘で使えないのだ。魔法が使えるようになってから、ほぼ毎晩の日課となっていた。

 俺は焚き火の近くに座りメモ帳を開く。


 「まだやりたいことはあるけど、この旅で覚えることが出来たのはこのぐらいか」


 メモ帳に描いてある魔法陣にチェックを入れる。俺が使えるようになった魔法だ。

 雷魔法とかも考えてあるが、すぐには出来ないだろう。もう少し練習が必要だ。

 メモ帳に練習でやった内容を書き終わると空を見上げた。うっすらと白んできていた。やっと、朝が来たな。

 今日で迷宮都市オーセブルクに着く予定だ。どんな街か凄く楽しみだ。


 「さてと、そろそろ皆を起こすかな」


 こうして俺は魔法の練習を終わりにし、馬車へ向かったのだった。



 皆を起こし馬車を走らせてから、6時間ほど経った。

 そろそろ着いても良さそうだが、街の姿が見えない。ヴァジには着いてみてのお楽しみと言われて、なんの情報も入手できなかったのだ。ただ、街道を行けば分かるとだけと教えられていた。


 「そろそろのはずですが、見えませんね」


 「街なんだし見逃すはずはないよなぁ」


 もしかして行き過ぎて、ブレンブルク自由都市まで来てしまったのかと思ったが、街道なら関所もあるはずだからまだ着いていないのだろう。


 「すっごい岩山が見えるッスねぇ」


 「本当、です。あ、近くに建物が、あるです」


 シギルが指差した方向には、確かに大きな岩山がそびえ建っていた。岩山というか岩の塊だが、大きすぎて山に見えるほどだ。

 その岩の近くに人工的な建物が二棟あるのをエルが発見した。


 「あれは何でしょう?それに街道の真ん中にありますね」


 「関所か何かか?まあ、丁度通るし、行ってみようか」


 俺達は近づいていくとあることに気付いた。岩山では無いことに。

 俺はあれを見たことがある。


 「ギルさま、もしかしてあれは」


 「ああ。あれはダンジョンだ」


 岩の山ではなく、洞窟のように入り口が開いていたのだ。俺はコボルトのダンジョンで似たような物を見ていたが規模が違いすぎて気が付かなかったみたいだ。

 だが迷宮都市と言っていたのに、近くにある建物を二棟だけか。ちがうダンジョンか?

 そんなことを考えながら近づいて、ようやくダンジョンまで着いた。

 洞窟の入り口に兵士の詰め所のようなものが建っていて、入り口の前には兵士までいた。

 そしてなりより目立つのが、まるで街にでも入るような長い行列だった。


 「まさか……」


 俺は馬車から降りて並んでいる人に尋ねてみた。


 「すみません。もしかしてここが迷宮都市オーセブルクですか?」


 「おう、ここがそうだよ」


 「そうですか、ありがとうございます」


 俺は馬車へ戻ると皆にここがそうだと伝えた。

 街はどこだという自分の中の疑問に、もしかしてという考えが頭をよぎる。いや、確信した。

 俺達は行列の最後尾へ並んだ。


 2時間程待ってやっと俺達の番になった。

 入り口の前まで来ると、その大きさに驚いていた。

 ダンジョンの入り口は馬車が5台並んで入れるほど大きいのだ。

 俺達は門番に入市税を4銀貨払うと、馬車のままダンジョンに入っていった。


 地下一階へ行くのも長い道のりだった。だが後少しで大きい広間に出れるみたいだ。光が漏れているからあれが地下一階だろう。

 その広間に出て心底驚いた。

 地下一階のはずなのに、草原だった。更にどうなっているのか、擬似的な太陽まである。

 そして一番目を引いたのが、いきなり目の前に現れた街だった。

 俺が、いや、皆確信していただろう。洞窟の中に街があるのだと。その実物が目の前に広がっていた。なんて幻想的な空間なんだ。


 よく見ると川まであり、それを挟むように街が作られていた。

 まだ入ってもいないのに人々の活気あふれる声が聞こえる。

 

 そう、ここが迷宮都市オーセブルクなのだ。

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