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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十七章 時代の転換期
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新魔法開発

 「して、手伝ってほしいこととはなんじゃ?良かろうと即答はしたものの、わしも忙しい身じゃ。新魔法開発の全てを手伝えるわけではないからのぅ」


 魔法学院の研究室へ到着すると、スパールは長時間の拘束は困ると釘を差してきた。

 そりゃ、まあ、当然か。スパールの仕事は学院の経営だが、今は彼みたいな優秀な人材を好き勝手させておく余裕はない。スパールには学院再開の他にも、復興の手助けをしてもらっている。それらの他にも新魔法開発まで手伝わせては、少ない睡眠時間をさらに削ることになって老衰の前に過労死まっしぐらだろう。

 俺だって御老体を酷使させるつもりはない。


 「わかってる。手伝ってくれとは言ったが、正確には教えて欲しいことがあっただけだ」


 スパールが賢人だった頃は錬金術の専門家だったらしい。俺の石化した時、解除薬を作ったのもスパールだ。

 俺もスキルに頼ってだけどポーションを作成している。けれど、専門家というほど錬金術に詳しくない。新魔法開発にはスパールの知識が必要だったのだ。


 「ふむ。では、その聞きたいこととは?」


 「錬金術の道具だが、あれの素材はなんだ?」


 「なんじゃ、そんな基本的なことか」


 「その基本的な……、常識が俺にはわからないんでね」


 「……そうじゃったな。すまんのぅ」


 タザールとスパールには俺が異世界から召喚されたことを教えた。王国で正体を明かした際に聞いていた三人の内、王は死んだが大臣と王の護衛騎士はまだ生き残っている。そこから漏れるのは時間の問題で、もはや隠すのは無意味だ。

 もちろん、俺がこの世界の常識に疎いというのも話している。スパールが謝罪したのは、俺が異世界人だと知っていたのに「そんな基本的なことも知らないのか」と言ってしまったのを申し訳なく思ったからだろう。


 「それで錬金術道具の素材じゃったな?あれは木じゃ。魔法士の杖と同じ素材じゃよ」


 「木?いや、俺が持っている錬金道具は石だったぞ」


 俺が持っている錬金道具は明らかに石製だった。それでポーションを作成しているわけだし間違いない。ただ、石製品とは簡単に言っても石は何種類もある。その石の種類を知りたかったのだが、木だって?


 「石製の錬金道具とは、また随分と懐かしいのぅ。それは古い物じゃ。ラルヴァが魔力を安定して流せる木を見つけ、杖に使うことを発明してからは錬金道具もその材料に変わっていったんじゃ。魔法も錬金も魔力を流す必要があるからのぅ」


 「なるほど。古い錬金道具だったから安かったってことか」


 「それもあるが、昔は錬金素材のすり潰し易さを重視して道具の材質なんぞ気にしておらんかった。魔力が流れ難いというのは、単純に難易度が上がる。言い換えれば、錬金術の成功率が下がる。現在の錬金道具からすれば、石製の物は不良品と言って良いほどにな。いや、作成可能じゃから不良品は言い過ぎじゃな」


 そうか、つまり型落ちってことか。古い道具だと分からなかったのは、錬金道具を専門に扱う店で購入せずに露店で済ませてしまったからだろう。まあ、どうせあの時は金もなくて新型の、それも中古すら買えなかっただろうし仕方ないか。それに大事なのはそこじゃないしな。


 「じゃあ、結局道具の材質はなんでも良いってことか。魔力さえ流すことが出来れば」


 「そうじゃな」


 「でも、なんで魔力を流す必要があるんだ?」


 一応、錬金道具と一緒に買った本に書いてあった通りに作っているが、レシピ本のようなもので作り方しか書いていなかった。どうして魔力を流さなければならないのかの説明はない。


 「ふむ。基本を教えたほうが良さそうじゃな。素材は原型から離れた存在じゃ。切り取ったり、引っこ抜いたり、原型から離れた直後から素材に内包されるマナは漏れ出ていく。魔力を込めるのはマナに満ちあふれていた原型時と同じ状態に戻すためじゃ。現実的ではないが、治癒ポーションの素材を採取して間を置かずに錬金すれば魔力を込める必要すらない」


 そういうことか。魔物の素材ならば生きている状態、植物素材ならば土から生えている状態が最適なんだ。しかし、それは現実的じゃない。魔物は倒してから剥ぎ取るし、植物は刈ることになる。それに同じ場所に全ての素材があることなんてそうない。結果的にそれなりの時間を置くことになり、その分、素材に内包されているマナは漏れていく。採取し、運送し、販売し、錬金するまでにマナは素材から失われている可能性の方が高い。錬金術師は魔力を込めることで最適な状態へと戻しているんだ。


 「なるほどな。つまり、素材は魔力が満たされていれば問題ないわけだ」


 錬金道具は素材をすり潰しながら効率良く魔力を送るため。魔力が満たされていなければ効力が落ちるから……。至極単純な話だった。

 しかし、新魔法の開発には重要な話だった。



 実は、大げさに手伝って欲しいとは言ったが、スパールに聞きたいことはこれだけだった。これからの作業に彼は必要ない。多忙なことだし、さっさと追い出すことにした。図々しくも手伝った礼として、新魔法が完成したら魔法学院で学べるようにして欲しいと約束させられたが……。

 まあ、ポーションの価格操作を無意味にするには、多くの人間がこの魔法を使えることが条件でもあるからこの提案は都合が良い。苦労するのは学院長であるスパールだしな。

 さて、スパールを追い出したら次なる重要人物を呼び寄せた。


 「はい、ティリフスちゃんです。拍手」


 「誰に言ってんの?二人しかおらへんのに」


 「気にするな」


 新魔法において、ティリフスの重要性は最高レベルと言っていい。


 「普段は何をする度にも鎧がガタガタと煩く、夜中にさまよって怖い思いをさせられる困った女神(笑)だが、魔法開発の一点に於いては彼女ほど重要な存在はいない」


 「また考えが声に出とるよ。それよりなんで女神のとこで笑ったん?」


 「声に出てた?自分が再認識するためだ。気にするな」


 「気にするな……?」


 「つまりだ、ティリフスに手伝って貰えれば非常に助かるってことだ!」


 「あ、うん。で、ウチは何を手伝えば?」


 「やってほしいことは三点。1つ目、三種のポーション素材を木属性魔法で作ること。2つ目、その魔法陣の言語化。3つ目、新魔法を使えるようになること」


 王国からナカンとの戦争の手助けを依頼された時、その戦場でティリフスは燃える草を木属性魔法で生成したことがある。その燃える草は、実際に法国の西で自生しているらしいのだ。それはつまり、他の植物も木属性魔法で生成できるということでもある。

 ポーションの値が高騰すると、素材の値も比例して高騰する。問題はそこだが、木属性魔法で同一の物が作れるのならば、ポーションの効果と類似、いや、同等の魔法が作れるのではないかと考えた。可能であれば問題は解消することになる。

 まあ、この原案は俺が石化時に考えたもので、その時は恨みや怒りで狂っていたのもあり毒を魔法で生成できないかと考えていたのだが……。魔法は魔力を込めないと効果は発揮しない。土属性で石や金属を作れるが、魔力を込めるのを止めた瞬間に砂へ戻る。それは木属性にも言えることで、草花を生成したとしても魔力を流し続けていなければ枯れ朽ちて、当然効力も消えてしまう。しかし、魔力を流し続けている限りは毒薬としての効果を発揮し、魔力を流すのを止めれば毒の効力は消え去る。証拠が残らない最強の毒殺になるだろう。

 ポーションと同じ効果を魔法で発揮させて傷を癒やしたあとに魔力を止めれば、喩え『治す』という効果が失われたとしても、『完治』という結果だけを作り出すことが可能だ。

 さらに、スパールから聞いた話がここに繋がる。魔力で作りだした錬金素材が、マナで満たされていないわけがない。マナで満たされていれば間違いなくポーションの効果を発揮する。

 考えが逸れた。とにかく、ティリフスにやってほしいことの一つ目は、まず下級治癒ポーションの素材である三種の植物を作り出してもらうことだ。余裕があれば、中級治癒ポーションまで。上級は残念ながら魔物の素材が必要になって無理だ。

 2つ目、魔法陣の言語化。ティリフスの魔法は特殊だ。大枠としては魔法と言えるが、細かく分類するなら精霊魔法となるだろう。あ、精霊魔法は俺が勝手に命名した。

 魔法と精霊魔法の何が違うか。それは魔法陣だ。

 人類が使う魔法陣は、簡単に言えば絵だ。二重丸があり、その円の外や内に文字が書いてある絵。俺が瞬間的に魔法陣を展開できるのは、絵として認識しているからだ。

 精霊の魔法陣は、正確には陣ではない。絵ではなく文だからだ。抽象的な意味ではなく、ティリフスの魔法陣は文なのだ。俳句や短歌のようでもあり、ただ書きなぐったようにも見える。しかして、文なのだ。

 その文にかかれている字はおそらく精霊の言葉であろうが、この世界で見たことはない。もちろん、俺は読めない。もしかしたら、字や文でないのかもしれない。というのも、字や文でなければ魔法陣として成り立たないだろうという俺なりの推測でしかないからだ。

 前に少しだけティリフスから教えてもらったが、全くの意味不明だった。たった一文字で数列分の内容になる文字もあれば、数列分の文字数でたった一つの意味しかならないものもある。俺が知る言語とかけ離れすぎて習得できなかったのだ。

 俺には精霊魔法を真似するのは不可能だろう。だが、ティリフスはヒト種の言葉も理解できるし、人類の使う魔法陣も真似できる。新魔法は人間が扱える魔法陣でなければ意味がないのだから、言語化をティリフスにやってもらわなければならない。

 3つ目はティリフス自身が新魔法を使えるようになることだが、これはただティリフスにも覚えてもらいたいからだ。

 ティリフスは、自身の魔力を使わずに魔法を発動することができる。大気や土地、自然にあるマナを利用して魔法にするからだ。魔法士としては喉から手が出るほど欲しい能力だろう。ティリフス一人を守り抜けば無限に魔法を使ってくれるのだから、敵からしたら非常に厄介な存在になる。

 もちろん、開発時にも魔力残量を気にする必要がないことも期待できる。研究には数え切れないほどの失敗がある。その失敗にも魔力は必要になるのだ。いくら俺の魔力量が多いからと言っても到底足りない。

 魔力使用の制限があるトライ・アンド・エラーの繰り返しに於いて、制限を解く事ができるティリフスは有り難い。魔法研究という分野では、ティリフスの存在は必要不可欠なのだ。

 と、ティリフスに長々と説明してやった。


 「ウチが必要だってこと以外はわからん!」


 「最後だけか。さすがだ」


 「そやろ?」


 ドゴンッと胸を叩く姿の残念さに溜息を隠せないが、勝手にモチベーションを上げてくれるなら良いか。ティリフスがいると助かるというのは本当のことだし。


 「さて、早速始めるとするか」


 「あ、その前に名称は?」


 「は?」


 「いつも、ギルが魔法を作ると不思議な魔法名付けるやん?」


 「ああ、そういうことか。いや、名前は必要ない。ただ、回復魔法と呼べば良い」


 それだけ特殊な魔法だからな。

 そうして、俺たちは回復魔法を開発し始めたのだ。

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