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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十六章 暗君打倒
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抗う老戦士

 エドワルド王子が帰還したと報せが入ると、彼はすぐに謁見の間に姿を見せた。謁見の間に入るなり呆然としている。二人いるが身奇麗な方がエドワルド王子だろう。もう一人はオーセリアン王より年上だし、見るからに戦士って感じだからな。

 さて、彼らの反応だが……、まあ、この有り様を見ればそういう反応にもなるだろうな。

 オーセリアン王を処刑したあと、彼の遺体を片付け……もとい、丁重に移動させて、俺たちはこれからどうすべきか話し合った。

 元凶は断ったが、まだ実行犯であるエドワルド王子が残っている。彼もまた俺にとって、いや、俺たち魔法都市にとっては討ち倒すべき相手だ。

 オーセリアン王が死んだ直後から、兵士長と呼ばれる壮年の男は一切口を開かなくなった。これはエドワルド王子がいつ帰ってくるのか聞き出すのは難航するかと思いきや、大臣のお爺ちゃんがペラペラと話してくれた。どうやらこの大臣は保身のために次期王を売る決意をしたらしい。忠誠心の欠片もないが、個人的にはこういう性格はわかりやすくて嫌いじゃない。

 その大臣の情報だと、エドワルド王子はこの王都へ帰還途中らしいのだ。

 だったら待たせてもらうかという当然の流れになるが、その期間に俺たちはどこで過ごすべきかと、ちょっと別の方向に話がズレる。こちらには国の代表が二人もいるし必然的にこの城で過ごすべきだとなるが、そこで問題が浮上する。この城の主はいなくなったとは言え、ここは敵国なのだ。城の部屋で寝ていたら暗殺される危険性が付き纏う。

 城内で働く人々全てを虐殺するわけにもいかず、どうしようと悩むことになった。

 すると「ならば、この謁見の間で過ごせばよかろう」と、とある最強さんから提案されたことにより、あれよあれよと謁見の間のリフォームが始まった。

 謁見の間は入り口は一つしかなく、窓も侵入し難い構造になっている。そして、王の私室にも行くことが出来る。つまり襲撃されにくく、女性陣も別の場所で安全に寝泊まりできるということらしい。

 さて、それはさておき、まず玉座が邪魔だよねと撤去。それから兵士共を脅し、じゃなくて、お願いしてベッドを運び込んでもらい、それからソファと机も。そこへシギルが持っていた料理の魔道具やらエアコンの魔道具やらを設置。こうして、謁見の間の厳かな雰囲気は消え去り、緩い生活空間へと生まれ変わった。

 女性陣はオーセリアン王の私室を全員で使ってもらい、俺とシリウスの二人が謁見の間で寝ることになった。だが、これが駄目だった。

 彼は当たり前のようにカードゲームを要求。底なしとも言える体力で、エドワルド王子が帰ってくるまで連日、それも不眠ですることになった。

 二徹したところでようやくエドワルド王子が帰還。そして今に至るわけだが、眠くて仕方がない。

 俺はあくびを噛み殺しながら、つい本音が溢れる。


 「ん?おお、ようやく帰ってきたか。おそすぎだろ」


 「貴様、何者だ!ここで何している!!」


 これも当然の反応だ。男二人が向かい合ってカードゲームをしていて、机の上には食べかけの食事。そこで子供と呼べる年齢の俺が、ふてぶてしく「おそすぎだろ」なんて言えば怒って当然。

 まあ、敵国の王子のご機嫌なんて知ったこっちゃないし、どうでもいいが。

 あちらさんが俺たちを何者かと聞いたから、俺はシリウスに視線を向ける。すると、シリウスはニヤリと笑ってから顎をしゃくった。どうやら彼は俺に言わせたいようだ。


 「俺?俺は魔法都市代表、ギル。聞き覚えは?」


 エドワルド王子は口をポカンと開け驚いていた。俺が石化して、魔法都市の壁が破られたぐらいからオーセブルクダンジョンを離れたらしいから、石化が解けたことを知らないのだろう。今彼らの頭の中は物凄い速さで考えを巡らせているはずだ。

 俺が偽物か、それとも本物か。本物だった場合、何故ここにいるのか。それ以前に、どうやって自分たちより早く到着できたのか。有り得ないから偽物に違いない。だが、しかし……。

 どうせそんなことを考えているのだろう。

 しかし、老戦士の反応はそんな反応とは違っていた。同じように驚いた表情だが、有り得ないものを見たと言った感じだ。俺の言葉を疑っておらず、それを真実と受け止めた上での驚き。

 もしかしたら俺の顔を知っているのか?


 「な、何を言っているのだ。なあ、クラノス?奴は石化したと言っていたであろう?」


 「………エドワルド殿下、残念ながら真実のようです」


 あ、やっぱりそうだ。言い切るってことは俺を見たことがあるんだな。それも石化した瞬間を。

 エドワルド王子は俺が魔法都市代表のギルだと知って青褪めた。あのクラノスとか言う老戦士が見ていたのなら、俺の戦いぶりも聞いているのだろう。逃げ出そうとはせず怯え立ち竦んでいるのは、逃げる素振りをしたら魔法で殺されると考えたからかな。その考えだけは正しい。

 ガチガチと歯を鳴らすだけになってしまったエドワルド王子の様子に、クラノスは息を吐き小さく首を横に振ると、俺を真っ直ぐに見た。


 「魔法都市代表殿、質問をよろしいか?」


 彼は俺を見ても怯えていない。やっぱり、戦士職の人って胆力が凄いよな。俺なんてスキルがなくて同じ状況なら速攻逃げ出しているぞ。


 「どうぞ」


 「陛下は……、オーセリアン王はどうなされている?」


 「死んだよ。俺が殺した」


 「馬鹿な!!!あの父上がむざむざ死ぬことなど有りえん!!」


 俺の言葉に反論したのはクラノスではなく、怯え立ち竦んでいたエドワルド王子だった。それだけオーセリアン王が死んだというのは意外なことだったらしい。父親だけあって性格を把握していたのかもしれない。

 だけど、いちいち説明するのも面倒だ。でも大丈夫。俺には魔法の言葉があるんだ。


 「簡単ではなかったよ。でも、こっちにはシリウス皇帝がいるからな」


 そう言って俺はシリウスに顔を向ける。

 面白いことが大好きなシリウスは、笑みをより深めると「ああ」と言ってくれた。

 よしよし、シリウスがいるから全てが可能になると言えば、誰もが納得してくれるはずだ。しかし、彼らの反応は良くない。納得というより、困惑している。そんな表情だ。


 「シリウス皇帝は帝国におられるのでは?」


 クラノスが少し躊躇いがちに話す。

 そうだった!オーセリアン王が納得していたから忘れていたけど、時期的に彼らは帝国が援軍に来たことを知らない。その情報だけでも知っていれば全て納得するのに!全部説明せずとも魔法都市の勝利も勝手に推測するし、エドワルド王子たちよりも早く王都へ到着したことや、俺の石化解除まで全部シリウス原因説で通せるはずだったから予定が狂った。

 嘘を吐くならもっとマシな嘘を的な感じで言われちまったよ。無駄になるけど説明はしておくか。


 「本当に戦況を見守らず帰ってきたのか。俺にはそれが驚きだよ。君らがオーセブルクダンジョンを去った少しあと、帝国、法国が援軍に駆けつけたんだ。80万もいた王国軍はシリウスが圧倒的な力を見せつけて降伏させ、魔法都市を攻めていた20万の王国兵士は俺がほぼほぼ虐殺した。……信じる必要はないけどな」


 自分で言っておいてなんだけど、すげーこと喋ってんな。真実なんだけど、真実味が全く無い。ま、信じなくても俺は構わないけどな。

 などと考えていたが、意外にもクラノスはあっさり納得した。


 「いえ、信じます。私はあなたのお顔と、震え上がるほどの戦闘能力をこの目で見ておりますので」


 「馬鹿な!!こんな戯言をクラノスは信じると言うのか!?」


 「殿下は彼ら程度の人数で魔法都市や帝国の城に潜入し、謁見の間に居座り続けることが出来るのですか?」


 「そ、それは」


 「私ならそんなことはしません。兵士たちに取り押さえられてしまいますからな。ですが、彼らはここで何日も生活しているように見えます。そんな事が可能なのは、噂に名高いシリウス皇帝と、魔法都市代表ぐらいにしかできないでしょう」


 「……」


 エドワルド王子は反論出来ずにまた黙り込み、クラノスは再び俺たちに向き直る。


 「それで本題ですが……、魔法都市代表と帝国皇帝の両陛下はエドワルド王子を待っていたようですが、その理由を伺ってもよろしいでしょうか?」


 クラノスは元々厳しそうな顔立ちをしているが、その顔をさらに真剣にさせるとこう聞いてきた。

 何となく察してはいるようだな。


 「エドワルド王子を処刑するためだ」


 「なっ?!私は王国の次期王だぞ?!」


 エドワルド王子が信じられないことを聞いたと言わんばかりな声を荒げる。

 こいつ何言ってんだ?


 「それはどういう理屈だ?大国の次期王ならば、俺たちのような小国に乗り込んでいくら殺戮しようとも許され、殺されることはないと?」


 「それは……」


 「エドワルド王子、君は王位欲しさに先陣を切って魔法都市に攻めてきた。王国が負けた今、その責任は取ってもらわねばならない。戦死した魔法都市の兵士のためにもな」


 俺が殺意を言葉に乗せて話すと、エドワルド王子は「ひぃっ」と息を呑み仰け反った。

 そのエドワルド王子を庇うようにクラノスが前に出る。


 「魔法都市代表、帝国皇帝の両陛下。一兵士の分際ではありますが、どうかお願いを聞いて頂けないでしょうか?」


 命乞いをするつもりだな。さて、どうするという気持ちを込めてシリウスを見る。

 シリウスは感心したように「ほう?」と顎をさすった。


 「貴様、名は……クラノスと言ったな。良いだろう、申してみよ」


 「はっ。エドワルド殿下は次期王となられるお方です。王陛下が、いえ、先王が崩御なされたならば、エドワルド王になったと言って良いでしょう。敗戦の賠償、王国の立て直しなど悲鳴を上げるような重労働がこれから待っております。それを罰として見逃しては頂けないでしょうか?」


 「駄目だな。聞けば、次男坊がいるらしいではないか。其奴を二度と刃向かえないようみっちりと躾けたあと王位につかせる。エドワルドを生かしておけば、王位欲しさにいつ次男坊の寝首を掻くかわかったものではない」


 「私が代わりに死にましょう」


 「ハッ!貴様ごとき一兵士が王の代わりにだと?」


 「私がエドワルド殿下を育てたと言っても過言ではありません。このような性格になってしまったのは私の責任でもあります。ですから!」


 あー、なるほどね。地球の中世を描いた映画でも王や妃が王子を育てている場面はなく、家庭教師が育てていたな。この世界もそうなのかもしれない。


 「代わりにはならん。王には王の責任がある。戦を仕掛けたのはオーセリアンだとわかっているが、貴族どもを扇動したのはそのエドワルドだ。オーセブルクダンジョン内でも、其奴が指揮しておったのだろう?立派な指揮官ではないか。敗戦の末、指揮官がどうなるか……、戦士である貴様はわかっておるだろう?」


 クラノスは「うっ」と言葉を詰まらせ、次の言い訳が出てこない。それでも何かを言おうと口を開いては閉じてを繰り返す。

 シリウスは正しい。魔法都市や俺としてもクラノスの首で溜飲は下がらないのだ。

 俺たちの意志が硬く、どれだけ言い訳を用意したとしてもエドワルドの処刑は覆らないとクラノスは理解したのだろう。悔しそうに目を伏せる。

 しかしその直後、クラノスはいきなり剣を抜いた。


 「御前で剣を抜く失礼、お許しを。両陛下、私と決闘していただけないだろうか?そして、もし私が勝てばエドワルド殿下を救って頂きたい!」


 何を馬鹿な……。そもそもクラノスの許可を得る必要すらない。俺が二人まとめて魔法で倒せばいいだけなんだ。だが、シリウスは面白そうに笑う。

 ……嫌な予感がする。


 「良いだろう!!だが、戦うからには命はないものと心得よ」


 やっぱり!俺の仲間たち以上の戦闘狂だって忘れてたよ!


 「覚悟、しております」


 「ならば、我とギルのどちらと戦うか選べ」


 あっ……、俺もッスか。くそっ、じゃあ俺が選ばれるじゃないか!俺だったらシリウスとは戦いたくないもん!

 クラノスは俺の方をチラリと見る。やっぱり俺じゃないか!


 「私は戦士です。戦で魔法士を倒したこともあります。が、魔法都市代表のように辺り一面を氷にするような大魔法士とはどう戦って良いかわかりませぬ。ですから、シリウス皇帝。陛下のような英雄と剣を交えたいと考えております」


 え?あれ?俺じゃない?クラノスからしたら、シリウスより俺と戦いたくないってさ!やった!いやぁ、シリウス君に悪いなー。

 なんて思っていたが、シリウスは不機嫌ではないようで、いや、むしろ楽しそうにしている。

 もしかして、シリウスはこうなる予想をしていた?


 「良いだろう。貴様の意志、武を持って示せ」


 こうして予定にはない戦いが始まる。エドワルドの命を賭けた、命懸けの戦いが。

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