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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十六章 暗君打倒
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元凶との対面1

 爆発で謁見の間の扉が粉々に飛び散り、同時に物や人の輪郭がわからなくなるほどの眩い光を放つ。爆発音も凄まじいが、風魔法を使って自分たちには消音し、逆に謁見の間方面のみへ増幅させた。

 閃光弾、フラッシュバン、スタングレネードと呼び方は様々だが、それらを真似た魔法だ。それと扉破壊の爆発を組み合わせている。

 突然扉が破壊され、更には爆轟と眩しい光が襲えば内部は大混乱だろう。

 なぜこんなことをしたのかと言えば……。

 少し待っていると爆風で舞った木っ端や塵が流されていき、謁見の間の状況が見えてきた。扉の近くで十数人の騎士が倒れている。

 これが理由だ。この俺の無礼極まりない行動は、待ち伏せを警戒したためだ。街や城内であれだけ騒いでいたから当然といえば当然だけど。

 でも、だからと言ってわざわざ攻撃を受けてやる義理はない。予想しやすい行動をした彼らが悪いのだ。

 さて、倒れている騎士たちは一時的な方向感覚の喪失や見当識の失調を起こしているだけ。回復すれば再び俺たちを襲う。さっさととどめを刺すか。

 などと思っていたのだが、いつの間にか兵士たちの手足にボルトが突き刺さり、床に貼り付け状態になっていた。エルの攻撃なのは間違いないが、さっきと少し違うのは魔法で作り出した物ではなく実物だったことだ。おそらく治癒ポーションを使用する前に、突き刺さったボルトを抜かなければならないひと手間があるからだろう。嫌がらせではなく、気づかないうちに治癒ポーションを使われて不意打ちされかねないから、ボルトを抜く時のうめき声や息遣いで治療の気配を早く察知しようとしたのだろう。

 エルがめちゃめちゃ頭を使ってるな。思いの外、成長しているようだ。まあ、殺させないように俺より早く騎士たちを行動不能にしたかっただけだろうけど。甘さは全くなくなっていないが、それでも自分がやりたいようにするために頭を使っている点が好ましい。

 だったら、この騎士たちに恨みはないし見逃してやるか。俺の目的は他にあるしな。

 俺は騎士たちから玉座へ視線を移す。ここにオーセリアン王がいなければ意味がないのだが……、いた。30代後半であろう男が玉座に座っている。頭に王冠はないが、普段から着用するものでもないだろうし、おそらくオーセリアン王だ。

 この広い城の中を探し回らなくて良かった。モナの予想が正しかった事に感謝だ。

 残っているのは倒れている騎士を除けば、王と護るように傍に立つ護衛騎士が一人、その隣に青褪めている老人の三人だけ。意外と少ないんだな。

 俺たちは挨拶もせず謁見の間の中へ入り、全員が入室したのを確認すると入り口を氷魔法で塞ぐ。これで邪魔はされない。

 さらに俺は氷で階段と台を作り、台の上には玉座のように凝った装飾を施した氷の椅子を二脚作り出す。俺とシリウスが座るためだ。ついでに氷の階段に土属性で砂を撒き、滑らないようにするのを忘れない。

 ちなみに台の高さは、玉座に座るオーセリアン王より少しだけ高くしてある。相手が自分の目線より高い位置だとシリウスさんが文句を言うから。

 これで座りながらお話ができるね。

 氷の階段を上ろうとすると、俺より先にシギルが駆け上がって氷の椅子の座面に自分のマジックバッグから布のような物を取り出して掛けた。

 あの布は……、オーセブルクダンジョン21階層のマンモスっぽい魔物の革か。お尻が冷たくならないように気を利かせたのか。よく気が回るな、シギルは。

 俺はにこりと微笑むことでシギルに礼を済まし、シリウスと二人で階段を上がって氷の玉座に座る。

 シリウスの隣にリディア、俺の隣にはエリーが立ち、シリウスとの間にはシギル。背後にエルとモナが立ち、エルは倒れている騎士たちの方を向き警戒している。

 これで準備は完了した。さあ、いよいよだ。


 「貴公ら、不遜なのではないか?」


 オーセリアン王の隣に立つ騎士が、腰に佩く剣の柄にカチャリと手をかけて言ってきた。まず、お前ら誰だと聞かないのは俺が王都の中心で大音量の自己紹介をしたからだろう。

 というか、こいつ邪魔だな。オーセリアン王と会話している途中に無礼だと言って中断されそうだし、今のうちに倒しておくか?

 などと考えていると、隣に座るシリウスが「ほう?」と鼻で笑いながら肘掛けに腕を乗せた。


 「よく我の異名を知っているな。この草しか見るものがない田舎の国にさえも真の王の威は届くということか」


 ああ、そう言えばシリウスのあだ名って沢山あるけど、有名なのは『不遜王』だっけ。たしか、一代で、それも庶民から成り上った王なのに、歴史が長い国に対しても対等の立場でいるから嫌味で付けられたあだ名だったか?んー、わからんな。王は王だし、尊大な態度ならわかるけど不遜は間違いなんじゃないかな。


 「不遜が異名?……まさか?!貴様が帝国の不遜王か!」


 「ふん、不遜はどっちかわからんな。兵士風情が他国の王に対して貴様と言うか」


 どうやらこの護衛騎士はシリウスにあったことがないらしい。もしかして、それほど地位が高くないのかな?一般兵士なのに可哀想。

 シリウスに睨まれることになったおじさん兵士に少しの同情をしていると、オーセリアン王が軽く手を上げて会話を遮る。


 「止めよ、近衛兵士長。お前が無礼だったのだ」


 兵士長かよ。それも近衛ってことは王直属か。兵士の中でも最も高い地位じゃないか。間違えてごめんね。城内にいる王を護る役職だから、シリウスを知らなかったのか。それにもしかしたら、オーセリアン王もシリウスが王になってから一度も会ったことがないのかもしれない。

 兵士長が「……はっ」と言って大人しくなった。

 たしかにこの場合、兵士長が無礼だったな。まあ、静かになってよかったよ。

 俺はオーセリアン王の手に注目していた。指にいくつか指輪がはめられているが、その中に2つほど宝石もない地味なものがあった。全く同じデザインで、装飾なども施されていないシンプルなものだ。

 ……あれか。確かにひと目でわかるな。

 謁見の間や玉座など派手な装飾で、オーセリアン王のつけているアクセサリーも高級そうなのに、この2つのシンプルな指輪は場違い感がすごい。しかし、あの見た目安そうな2つの指輪だけで魔法都市を二回も買える物なのだから驚きだ。

 あれこそが、モナと王国の英雄を縛る支配の首輪の所有権。ある魔物が体内で生成する特殊な魔石を輪っかのように加工したのがあの指輪で、その際に余った輪っかの中心の部分が首輪に付いている宝石らしい。どうやら金属は首輪だけで、指輪は魔石そのもののようだ。だから、首輪と指輪が見えない何かで繋がっていて、命令を人に従わせることができるらしい。理屈はわかったけど、それでも人を操るなんて不思議アイテムだよな。

 それはさておき、俺が指輪を確認している間にシリウスとオーセリアン王の会話は続いている。


 「それよりも、何故シリウス皇帝がここにいるか聞きたい」


 「なに、少々他国の王が目に余る愚かな戦をしていると聞いてな」


 「国同士の争いに好き勝手割り込み、一方を多数で負かせる。いやはや、なんとも卑怯ではないか?」


 「つまらぬことを言うな。それこそ戦というものよ。それに、卑怯な手は貴様も魔法都市に使ったではないか。ついでに言えば、好き勝手と言うが我と魔法都市の王は友誼を結んでいる。故に好き勝手と言われる筋合いはない」


 オーセリアン王は「ふむ」と顎に手をやりながらチラリと俺を見た。

 いや、見てんじゃないよ。それに何、この無意味な会話。


 「しかし――」


 「いやいやいや、この言い合いする必要ある?!」


 オーセリアン王がまだ続けようとしたから、俺は慌てて遮って止めた。だからか、オーセリアン王は不快そうに眉根を寄せる。しかし、俺を咎めたのはまさかのシリウスだった。


 「ギルよ、つまらぬことを言うな。既に敗北しているが気丈にも強がっている者に言葉で甚振る楽しみを邪魔するな」


 意外と最低な趣味をお持ちだった。


 「いや、シリウスは何が癇に障る引き金になるかわからないじゃないか。激怒することになってみろ。この城が一瞬で破壊し尽くされる。それに巻き込まれると俺たちが困るんだよ」


 「一理ある。ふむ、たしかにこれは貴様の戦だ。好きにすると良い」


 おお、素直に引き下がってくれた。でも、否定しないってことはこのでかい城を一瞬で破壊できるんだ。シリウスって聖剣で火を出せて石や鉄すら溶かすけど、破壊ってことは剣だけで壊すってことだよね?それって人間ができるの?俺もシリウスの癇に障るようなことしないようにしよう。

 でもまあ、ようやく話を先に進められるよ。

 どう切り出そうかなと思っていると、オーセリアン王が先に口を開いた。


 「其方が魔法都市の王だと言うのは真のようだな。石化した知らせを受けたが?」


 ん?ああ、俺が石化したことをオーセリアン王も知っていたのか。この世界の主な情報伝達手段である鳩で連絡をし合っていたのかな。でも、それよりも気になることがある。ここはビシッと言ってやらねば。


 「其方?それが他国の王を呼ぶ言葉か?それより、あんた立場わかってる?俺とシリウスが目の前にいるってことはさ、もう詰んでるのよ。王手ってやつ。いや、王国滅亡の危機と言い換えよう。俺とシリウスがいれば、一日で王都を灰燼に帰すことも可能なんだ。もう少し弁えた方が良いんじゃないか?」


 それに仲間たちもいるからね。半日ぐらいで終わるかも知れない。あまりにも無益過ぎて、好んでやろうとは思わないが。俺の言葉遣いもちょっと意気がっているけれど、攻められた側なんだから良いでしょ。

 オーセリアン王は目を見張ったあと、咳払いをして目を伏せる。


 「失礼した。名はたしか……」


 「ギルだ。それに魔法都市は王とは呼ばない。代表だ」


 「ふむ、度重なる無礼を詫びよう、ギル代表」


 「さて、俺の名前を知ってもらったことだし本題に入ろう。さっきも言ったが、俺とシリウスが目の前にいる状況は、ナイフを首元に突きつけられているのと同義。いつでも殺せるということだ。事実上、おいつめたことになる。この戦は魔法都市と連合軍である帝国、法国の勝ちは明らかだろう」


 オーセリアン王は深刻そうな表情で大きく頷いた。

 いかにも神妙な面持ちだ。しかし、わざとらしくもある。さて、このわざとらしくコロコロと変わる表情の裏で、何を考えているのだろう。

 彼の表情の僅かな変化も見逃さないように集中しつつ、俺は僅かに間を開けてから最も重要なことを話す。


 「今、この場で敗戦を認め、国内外に宣言せよ」


 俺と仲間たち、そして魔法都市の平和を取り戻すには、王国に負けを認めさせるしかない。王国に点在する街や村に攻撃し続けて、いずれ負けを認めさせる手もある。だが、その場合は様々な不都合が生じる恐れがある。

 難民やゲリラのような不正規戦闘を行う組織が現れる可能性が非常に高い。当然、その標的は魔法都市になり、今のような安全な暮らしを続けることは不可能になる。

 それを避けるためには、王国に壊滅的な被害がなくともオーセリアン王に負けを宣言させる必要がある。

 俺の降伏要求に、オーセリアン王は眉間に深い皺を刻んで長考している。隣に立つ誰だか知らない老人はずっとオロオロとしているし、もう片方の兵士長とやらは不快そうに腕を組んでいる。

 でも、考えることなんてあるかな?だって、降伏しなかったら殺されちゃうんだよ?

 しばらくして、オーセリアン王は小さく首を横に振った。


 「此度の戦は私の愚息が仕掛けたものだ。娘と三男も王位継承権ほしさに参加していたようだが、オーセブルクダンジョンにて命と引換えにギル代表を石化させたと聞いた」


 いったい何の話をしてんだ、こいつ。っていうか、あの時の身奇麗な服を着ていた男とお漏らししていた女性は王子と王女だったのか。あいつらのことは別にどうでもいいとして、オーセリアン王が何を言いたいのかわからない。


 「要点を話せ。長引かせて、俺の時間を無駄にするな」


 魔法都市の目的は告げた。モナと王国英雄の解放の目的は残っているけど、そこに進むためにはさっさと降伏させる必要がある。

 だが、次にオーセリアン王の口から出た言葉に、俺は呆気に取られることになった。

 その言葉とは……。


 「降伏したくとも、責任者は第一王子のエドワルドなのだ」

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