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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十四章 反撃の狼煙 上
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魔法都市の技術

 魔法都市を救うためには急ぐ必要がある。帝国のシリウス皇帝に助けを求めたとしても、防御を突破され、街を破壊されるまでに間に合わなければ意味がない。

 シリウス皇帝の居城までは遠い。行って帰って来るだけでも、間に合うかわからない。

 さらに謁見の許可を待たなければならない。これだけでもどれだけの時間を無駄にするかわからないのに、その上、武力最強の英雄を説得もある。

 気が重いという私の気持ちは置いておくにしても、それにも時間は必要になるだろう。

 何にせよ、時間が足りない。普通ならば。

 私たちには『飛空艇』がある。短縮可能な手段があるのだ。

 ギル様の許しもなく使用するのはとても心苦しいけど、今はこうするしかない。

 ただ、それにも問題があった。

 私とエルだけでは魔力が足りないこと。ギル様のように膨大な魔力がなければ、帝国までの距離を飛行することはできない。私たちの魔力を根こそぎ使い、さらに緊急用のプールストーン動力を使ったとしても足りない。

 それでも当初は、私とエルが交代しながら進むつもりだった。だけど、テッドさんたちが手助けしてくれるなら話が変わってくる。皆さんは魔法学院の学徒で魔力もあるから、『飛空艇』を飛ばし続けることが可能になるはず。

 テッドさんたちに出会えたのは幸運だったかもしれない。

 しかし、また別の問題が出てきた。

 エミリーさんとエレナさんが食料の買い出しをしてくれたけど、その際に王国兵が慌ただしくしているという噂を聞いたそうだ。

 私とエルが強行突破したことを、ダンジョンの外へ伝わったのかもしれない。いえ、そう考えなければいけなかった。

 王国が手段を選ばないことはよく知っている。さすがにオーセブルクの街全てをひっくりかえして、私を探すとは思いたくない。……けれど、やりかねない。

 元々のんびりするつもりはないけど、予定より急ぐ必要がある。オーセブルクの人々を巻き込むわけにはいかないのだから。



 私とエルだけはローブで出来る限り姿を隠しながらオーセブルクを出発した。だけどこれも気休め程度だろう。

 一階層には多くの王国兵がいて何度もすれ違ったけれど、王国西の将軍が言っていた通り見て見ぬ振りだった。

 明らかに私を見ていたから気づかれていたはず。思っていた以上に、私の赤い髪は目立つようだけど、何事もなくダンジョンから外界へと出る列には並ぶことが出来た。

 私の背後では、テッドさんたちがひそひそと話をしている。


 「そ、空を飛ぶって言ってましたね」


 内緒話を聞くつもりはなかったけど、距離が近いからかエミリーさんの声が耳に入った。

 どうやら、帝国までどうやって行くかを話した時の私の言葉が気になっているみたいだ。


 「言葉の綾じゃないかしら」


 「そうだろうな。空を飛ぶように急ぐとかそういうのだろ?」


 ……気持ちはよく分かる。そして、今更ながらギル様の気持ちも。

 ギル様もこうやって私たちの話を先頭で歩きながら聞いていたのではないだろうか?私たちを怖がらせない為に何を話し、何を隠すか。そういうことを考えながら。


 「でも、心配なのはそこではないです。噂ではダンジョンの外に王国兵が大勢いるそうですよ。最近は増えてきているとも聞きました」


 クルスさんが言うように、問題は飛空艇に乗るまでの間にある。

 最善は見つからずに飛空艇へ行くための箱まで辿り着くこと。次善は……、やめておこう。最善を目指すことだけ考えておけば良い。


 「まあ、見つからずに包囲網を抜けられると祈るしかないな」


 「テッドさんも祈るんですか?!」


 「エミリー……。最近、ほんと酷くねーか?」


 「エミリー、テッドだって祈ることぐらいするわ」


 「おおっ、エレナ!さすがは長年のパーティメンバー!」


 「この間、賭場の前で祈っているのを見たもの」


 「……」


 「そう言えば私も、エレナさんと一緒にケーキを食べに行く時にそれ見ましたね」


 「え?!クルスちゃん、ズルい!どうして私も誘ってくれなかったんですか?!」


 「えっと、『ファイアボール』試験の前だったから……」


 「あぁ……、嫌な事件でしたね、あれは」


 「事件ではなく、試験だけどね」


 いつの間にか緊張感もなくなり、談笑に変化している。

 テッドさんへの信頼感かエレナさんの賢さか、はたまたエミリーさんの明るさかクルスさんの冷静さ。もしくはその全てのおかげか。

 とにかく、彼女たちにとって心配とは一時的な事のようだ。

 それを羨ましいと思った。ギル様がいた時は、私たちもそうだったから……。

 また気が沈みそうになったから、頭を振ってその考えを払う。

 今は私が彼女たちを守らなければいけない。しっかりしなきゃ。



 すぐにダンジョンの外へと出ることが出来た。

 魔法都市やエルピスと違い、馬車でさえ通ることが出来る広さの通路はやっぱり通過が早い。

 ここからは王国の領地を、自由都市との国境に沿って東に行くことになる。ヴィシュメールでのリッチ退治やギル様と出会った帝国の国境までつながっている大森林が目的地だ。

 そこに『飛空艇』まで飛ぶことが出来る箱がある。

 距離があって少々厄介だ。到着まで王国兵に気づかれなければ良いけど……。

 そう言えば、ギル様も「面倒臭ぇ」ってずっと言ってたのを思い出した。オーセブルクまであの箱を運べたら楽になるから、そのうち改造しようかなってシギルと話し合っていた。

 でも、馬も売却してしまったのに、どうやってあの箱を引くのだろうか?私には到底思いつかない。

 それよりも今は、安全にここを抜けることだ。

 外には王国兵が大勢いた。いや、大勢どころではない。大軍だった。

 私もダンジョン内で多くの王国兵を斬ったけど、それが僅かなものだったと改めて実感する。

 王国兵は訓練をしていた。ギル様もそう予想されていたけれど、その通りだったみたいだ。

 真面目に訓練しているように見えて、その裏では少しずつダンジョン内へ兵を送り込んでいる。自由都市と共同管理しているからか、余程隠したいのだろう。

 私たち魔法都市と戦をするのは問題ないけれど、自由都市とは怖いか。なんとも自分勝手なと思う。

 でも、そんな恨み言ばかり考えていても意味がない。通り抜けることに集中しよう。

 さらにローブのフードを深く被ってから進みだした。

 冒険者パーティが大森林へ依頼を達成しに向かっているように見えているはず。これでなんとかなればいいけど……。

 私たちは無言で歩き続けた。

 緊張感がないテッドさんたちも、さすがにここは緊張しているのか顔が強張っていた。

 どれだけ進んでも、必ず近くに王国兵がいる。

 馬を走らせていたり、弓を射ていたり、剣を振っていたり、休憩していたり、見回りしていたり。とにかく、そこら中にいる。

 テントも沢山張ってある。中にも休んでいる兵士がいるのだろうか?

 そんな中を出来る限り目立たないように進む。

 進みだしてから、結構な時間が経った。大森林の入り口が見えてきている。

 なんとか無事に辿り着くことができそうだと考えていると、真横を馬に乗った王国兵が通り過ぎた。

 危ない。気が緩みそうになっていた。まだちょっと距離があるから気を引き締めないと。

 だが、その王国兵が馬を止めた。


 「待て!貴様ら!」


 兵士は馬を回すと引き返してきた。


 「なんか用か?」


 私の代わりにテッドさんが答える。

 兵士が私のすぐ近くに馬を止めた。馬上から私たちを、特にローブを着ているエルと私を見ているのが分かる。

 この兵士が馬に乗っていてよかった。この角度では顔も見えなければ、目立つ髪も見えない。それにテッドさんは口がうまい。彼に任せておけば何とかしてくれるかもしれない。


 「貴様ら、どこへ行く?」


 「この先の森で、冒険者ギルドの依頼を遂行するつもりだが……、あんたらは何だ?」


 「……王国の兵士が、王国内で何をしていても問題あるまい?」


 「そりゃそうか。見た所、訓練のようだし、答えるまでもないか。……そろそろ行っていいか?急ぎの依頼なんだ」


 よくすらすらと言葉が出るなと思う。私だったら言葉や視線に敵意が混ざりそうだけど、テッドさんにはそれが全く無い。


 「ふむ、そうか。だが、念の為に調べさせてもらおうか。そこのローブを着ている二人、フードを取れ」

 

 「悪いんだが、こいつら亜人だからあまり姿を出したくないんだ」


 テッドさんがすぐに言い訳をしたけど、苦しいか?


 「……そこの二人、フードを取れ」


 言い訳をしたからか、私とエルがすぐにフードを取らなかったからか、王国兵はさらに警戒し、語気を強めてもう一度言った。

 ああ、やはり情報が伝わっている。この兵士は探しているんだ。

 私の赤い髪を。

 テッドさんを見てみると、彼も私を見ていた。目でどうするか聞いているだろう。


 「おい!早くしろ!」


 この王国兵は馬に乗っている。全力で走ったとして、私とエルは逃げ切れても、エミリーさんやクルスさんは難しい。どう考えても……戦うしか選択肢はない。


 「皆さん、少しだけ走ります」


 「なに?」


 答えたのは兵士だった。

 私が『桜吹雪』を抜き、兵士の胴を突くと、兵士はバランスを崩し落馬した。


 「ぐああああああ!」


 身体を強打したのか、兵士はすぐに起き上がらない。

 仕留め損なった。馬に乗っていたせいか刺さりが甘かった。でも、時間は稼げた。


 「走ってください!」


 私の合図で一斉に走り出す。

 振り返えると周りの兵士たちが異変に気がついたのか、落馬した兵士へと駆け寄っていくのが見える。すぐに状況が伝わるはずだ。

 ピィーーーッ。

 案の定、落馬した兵士がすぐに伝えたらしく、笛が鳴らされた。兵士たちが私たちを全方向から囲むように追ってくる。

 馬で追ってくる兵士もいるのが厄介だ。私たちの真ん中に突撃され、分断されると守れなくなる。

 私は走りながら、エルの近くへ寄る。

 

 「エル!馬で追ってくる兵を撃ち落とせる?!」


 「……」


 エルは答えない。ギル様を助けられなかった経験をして、覚悟が決まったと思っていたけれど、まだ迷いがあるようだ。

 時間を掛けて考えさせてあげたいけど、残念なことにその時間がない。


 「エル、私は魔法剣を使います!馬を犠牲にしたくない」


 この説得は無理があったかも知れない。そう思ったけど、エルは予想に反してすぐに頷いてくれた。


 「はい、です」


 エルが走りながら見渡し、武器を構えるとすぐに体を回転させながら連続で射つ。

 連射しているのに、音が一度しか聞こえない。だからか、テッドさんたちはエルが何をしたか気づいてすらいない。

 そして、それは全て命中する。

 馬に乗っていた兵士たちが、次々と落馬していくのが見えた。馬は無事で、手綱を捌く者がいなくなったからか、あらぬ方向へと駆けていく。

 よし、これで分断されることはない。


 「ありがとう、エル」


 そう言うと、エルがにっこりと笑ってくれる。


 「はい、です」


 よかった。いつものエルに戻りつつあるようだ。こんな時だけど安心した。

 状況が悪くなっていると思ったのか、テッドさんが苦々しい表情で舌打ちをした。


 「チッ!リディアの嬢ちゃん!とうとう囲まれちまった!」


 前方にも王国兵がいたから、いつかは塞がれていた。それでもあの兵士に不意打ちしなければ、もっと早く囲まれていただろう。

 まあまあの距離を稼げたのだから、私の判断は間違っていなかった。


 「どどどど、どうするんですか?!」


 「エミリー、落ち着いて。けれど、これは厳しいかもしれないわね」


 「処刑はされず投獄されるだけで済む、と信じたいですが……」


 どのくらいの兵士に囲まれているのだろうか?100か200、それとも500か?それだけの数に囲まれていれば、彼女たちのように悲観的になっても仕方ない。

 だけど、私は違う。この状況になって良かったと思っている。

 ここさえ突破できれば森は目前。さらに次が追いつくまで時間が稼げる。

 王国兵たちはこれだけ数がいれば十分だと思ったのだろう。遠くに警戒している兵士がいるけれど、距離は十分にある。

 本当に良かった。ギル様にこの『桜吹雪』を頂けて。


 「皆さん、私の近くに集まってください!魔法剣を使います!」


 私がこう言うと、眉を顰めながらも集まってくれた。

 固まったからか、兵士たちもじわじわと距離を縮めてきている。ギリギリ間に合うか微妙なところだけど、やるしかない。

 私は刀に魔力を込めていく。


 「おい、リディアの嬢ちゃん!魔法剣って……、そんなものでどうやって――」


 「だ、黙る、です!」


 「お?お、おう」


 ありがとう、とエルに心の中でお礼を言う。

 私の総魔力量では使用回数に限度がある。それに私は魔力の操作が下手だ。物に魔力を流すような単純なことでも、気が散るだけで失敗してしまうから、エルがテッドさんを止めてくれたことは有り難い。

 私の中にある魔力が刀の魔石へと流れ込む。

 すると魔石に刻まれた文字が魔力に反応して光った。

 魔法が発動する。

 木が生え大木へ成長し、枝の全てに氷の華が咲き乱れる。花びら一枚一枚に火が灯ると、青みがかったピンクになった。

 間に合った。魔法は完成した。

 テッドさんたちはおろか、私たちを取り囲む兵士たちもその木を見て唖然としていた。

 私はギル様のように、何度か警告してから攻撃することは出来ない。魔法の発動直前で止める技術がないからだ。

 だから私は、兵士たちに謝りながら魔法を発動した。


 「ごめんなさい。桜吹雪『百花繚乱』」


 魔法名を言うと同時に花が散りはじめ、あっという間に花の吹雪と化した。

 花びら一枚は指先のように小さく、鎧の隙間に入り込む。掠りさえすれば、身体がなくなるまで燃え続け、確実に死に至る。

 不可避の攻撃。

 取り囲む数百の兵士は、同時に全く同じ動きをした。

 まずは、花びらが掠った痛みで怪訝な顔をし、発火したことに驚く。消火しようと慌てて叩くが、それでも広がっていく火に恐怖の表情を浮かべた。

 そして、全身を真っ赤に燃やしながら踊り狂う。

 大地にも炎の赤い華を咲かせながら、その動きを停止させた。

 数百の黒焦げた死体だけが残るはずだが、それはもう少し後だろう。

 その様子をテッドさんたちは目を見開いて眺めていたが、魔法の演出が終わると同時にハッとして私を見る。


 「な、な、なんだよ、これ!」


 まず、魔法武器に興味があるテッドさんが、「魔法武器はこんなことが出来るのか?!」と目を血走らせながら質問をする。

 詳しく教えたいけれど、私たちを追ってこなかった兵士たちが異変に気が付き、慌てて追ってくる姿が遠くの方で見えている。

 追いつかれるまでに森まで逃げなければならない。


 「説明は移動しながらで良いですか?」


 私はそう言って森へ走り出すと、皆も危険が去っていないことを思い出したのか、慌てて追ってきた。


 「き、気持ち悪いです」


 「……」


 エミリーさんが顔を真っ青にし、クルスさんはこみ上げる吐き気を我慢するかのように口元を押さえている。

 彼女たちは戦闘慣れしてなさそうだから仕方がない。美しい魔法の演出とは違い、効果はかなり残酷だから。

 目の前で数百人が叫びながら燃え尽きていく様子は、彼女たちには厳しかったのだろう。声をかけてあげたいけれど、何を言っても無意味だ。結局は今の光景を自力で忘れるしかない。


 「それで、今のは何なんだ?」


 「私も魔法武器の話は魔法戦士科であるテッドから聞いているけど、あんな大規模な魔法効果ではなかったはず」


 テッドさんとエレナさんが、走りながら私に質問する。冒険者でもある二人は、魔法武器に興味津々だ。

 たしか、学院に用意されている練習用の魔法武器は火を刃に纏わす程度で、私の魔法武器『桜吹雪』とは天と地の差があるはず。

 とは言っても、説明できることは殆どない。私だってどうすればあのような魔法が発動出来るかはわからないのだ。

 私は走る速度を落とすことなく、正直にわからないことを伝える。


 「申し訳ないのですが、発動する魔法に関しては私にもわからないのです。ですが、間違いなくあの魔法は、魔法武器によるものです」


 「あれが魔法武器……」


 テッドさんが私の腰にある『桜吹雪』をチラリと見て呟く。

 数百人をたった一度の魔法で倒せる魔法武器の価値に気がついたのだろう。更に興味が湧いたのか、目が輝いている。


 「そんなものどこで手に入れたんだ?」


 戦闘職であれば、自分も手に入れたいと思うのは当然だ。

 けれど、これ以上のことを教えるのは、魔法都市にとって危険だ。情報を他国に漏らすわけにいかない。

 どうせ飛空艇も見せることになるのだから、彼らには釘を刺す必要がある。これから先を知るには覚悟がいると。


 「それを聞けば、もう後戻りはできませんよ?あなた方は魔法都市の住人になる覚悟をしてもらわなければならなくなりますが?」


 私は彼らを先導するために先頭を走っているから、彼らから私の表情は見えないはず。けど、私の声色で冗談を言うことすら許さないと感じたのだろう。背後で息を呑むのがわかった。

 飛空艇だけならば、見せるのは問題ない。ギル様もいずれ露見すると言っていたし、飛空艇を作る工程や、技術を教えるわけはないからだ。

 しかし、魔法武器は違う。

 ギル様が魔法都市を作ると宣言したあの賢者試験で、魔法のみ効果がある魔物を倒すことが可能な武器を作れると仄めかしてはいたが、魔法武器とは一言も言っていない。それに、魔法都市を作ることやプールストーンの技術、ギル様が賢者にならないと宣言したことが重要すぎて、覚えてすらいないだろう。

 作り出せる物と教えるだけで、危険度が増す。各国で研究が始まり、あっという間に世界のバランスが崩れてしまう。

 我先にと競い、完成させることが出来た国が優位を保つためにさらなる争いが生まれる。

 だからギル様は少しずつ売り出すことにしたのだ。買うのも魔法学院で魔法戦士科の卒業生という条件が付いている。値段も魔剣ほどではないけど、高価な値段設定にすると言っていた。富があるからと言って、簡単に買えるものでもないのだ。

 それだけ、現段階では慎重に進めているということ。他国民に教えることではない。

 聞くには、これから先は魔法都市側に立ってもらう。自国を捨てて。

 

 「その覚悟はありますか?」


 私が再度確認すると、そこまでの覚悟が必要だと思っていなかったのか黙った。

 そのまましばらく無言で走っていると、大森林へと到着した。

 ここまで来れば飛空艇に行くための箱はもうすぐだ。そう考えているとエレナさんが私をじっと見ていることに気がつく。


 「何か?」


 「……覚悟が決まったら教えてくれますか?」


 真剣な表情で私を見ている。いや、見ているのはテッドさんとエミリーさんも同じだ。クルスさんも、チラチラと私を気にしている。

 その目でそう遠くない未来、彼女たちが魔法都市の住人になるのを予感した。

 だから私は、微笑んでから頷く。


 「あなた方は私とエルの恩人です。覚悟が出来たら教えて下さい。魔法都市の隠している技術をお教えします」


 そう言うと、彼女たちは真顔のまま小さく頷いた。


 「さあ、もう少しで到着します。王国兵に追いつかれる前に行きましょう」


 そうして私たちは森の奥へと進んでいった。

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