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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十四章 反撃の狼煙 上
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向かう先は

 【リディア】


 少し落ち着いた。今はエルが眠っているベッドに腰掛けている。

 あの後、疲れ切ったエルをギル様の世話になった者たちに任せ、冒険者ギルドへと向かおうとしたら必死に止められた。

 彼女らが私の代わりに出向き伝えてくると、諭すように言われたのだ。

 その間、鎧や身体、髪に付着した血を洗い落とし、軽い食事もしてようやく頭が冷えた。

 そうしていると、冒険者ギルドのギルドマスターアンリ本人が宿へと訪ねてきてくれた。血相を変え、慌てるように入ってきては、私に怪我ないかを聞いてくれた。

 おそらく、血に濡れた剣士が街を徘徊しているという情報があり、それが私だと知ったのだろう。

 有り難いことだ。私などにも、気を使ってくれるのだから。

 ギル様を護れなかった私などを……。

 アンリさんはギル様の結末を聞いて、さらに顔色を悪くし、目に見えて落ち込むのが分かった。ギル様ほどの方が死……、身動き取れなくなったと聞かされたら当然だ。

 説明を終えた後、私は書簡を書いてアンリさんに渡した。

 アンリさんはすぐ法国へ送ると言ってくれたから、私の役目はもう終わったことになる。やってほしいことを書いてはいないけれど、法国の方々ならばきっと救う手立てを見つけてくれるはず。

 これからは私がどうするかを考えなければ。

 エルは、ギル様の世話になった者たちが借りた宿の部屋で眠っている。

 オーセブルクに到着するまでの間、涙が枯れるまで泣き続け、それでも戦い続けた。ボルトはすぐに尽き、魔法で精製して代用し戦った。魔力はすでに空だろう。

 エルも全てが限界だったのだ。


 「よくがんばりましたね」


 そう言って、私はエルの髪を撫でると、パチリと目を開き、急に起き上がる。

 余計なことをしてしまった。どうやら眠りを妨げてしまったようだ。

 エルは焦ったようにきょろきょろと周りを見回した。息も少しだけ荒い。もしかしたら悪い夢でも見たのかもしれない。


 「もう大丈夫。ここはオーセブルクの宿ですよ」


 「夢……」


 そう言ってエルはまた涙を流す。


 「悪い夢でも見たのですか?」


 エルは勢いよく首を横に振った。

 どうやら夢見が悪かったわけではないらしい。ではいったい、どんな夢を?


 「……お兄ちゃんたちと、楽しくお料理食べていた夢、です……」


 それを聞いて息が詰まりそうになる。

 エルが見た夢は、楽しい思い出だった。だから目覚めてすぐに確かめた。ギル様がいつもと同じように近くにいるかを……。


 「そう……ですか……。でも、現実はここです。辛いことを言うようですが、あの結末を受け止めなければなりません」


 「……」


 「大丈夫です。ギル様の代わりに私がエルを護りますから」


 できるだけ優しく伝えた。けど、エルは両手で目を隠すように顔を覆ってしまう。

 手の隙間から涙が零れ落ちていた。心の傷はかなり深いようだ。

 今はシギルやエリー、ティリフスがいない。私がささえてあげないと。


 「……敵も石化しているのを見ました。おそらく、自分を犠牲にする秘術のようなもの。私たちもギル様から離れて戦っていましたし、助けることはできなか――」


 「ちがう!!」


 驚いた。エルが叫ぶように言ったことではなく、言葉が乱暴だったことに。これが初めてかもしれない。

 でも、何が違うというのだろう?

 その答えはすぐに分かった。エルが矢継ぎ早に続きを話したから。


 「エルだけが気づいてた!エルだけが助けられた!王国のヒトが箱から何かを出すのを見ていた!エルはそれを止められた!止める武器を持ってた!」


 私はギル様の手の先が石になってから気がついたけど、エルはその前に何かされると分かっていたみたいだ。

 私や他の皆には阻止できなかったけれど、遠距離武器を持つエルだけはそれが可能だった。でも、それをしなかった。


 「なぜ、阻止しなかったの?」


 「……エルが、エルが臆病だったから。お兄ちゃんなら、エルがヒトを傷つける前に、何とかしてくれるって……」


 人任せにしていた、エルはそう言いたいみたい。たしかに、エルはヒトを殺めることを避けている。できれば傷つけることすらしたくないのかもしれない。

 口には出さなかったけれど、ギル様はそれを懸念していたと思う。でも、私はヒトを殺すことが出来なくても良いと思っていた。もちろん、ギル様もそうだったはず。


 「ギル様だってエルがヒトに対して攻撃を躊躇っていることを知っていた。けれど、それでもエルを頼りにしていました。エルが止められなかったからと言って、ギル様は責めませんよ。もちろん、私もです」


 「お姉ちゃん……」


 それを言ってしまったら、ギル様に頼り切っていた全員が罰を受けなければならない。

 私もこの戦いを甘くみていたのを反省している。ギル様と共に打って出た時、なんの覚悟もせずに戦っていた。ギル様は皆殺しと言い続けていたけれど、それは召喚された際に付与された劣悪なスキルのせいで、怒りが制御できないからと思い込んでいた。

 だから私は敵を斬っても、生死は無視して行動不能にできれば良いと考えてしまった。

 でも、よく考えてみれば、行動不能の方が苦しみを長引かせているだけと分かる。あそこはダンジョンで、いずれは魔物が現れる。行動不能とは死と同義なのに、それまで苦痛を感じ続けなければならない。だから、ギル様は確実に殺していたのだ。

 どちらが残酷なのか……。

 そんなギル様の考えを、スキルや怒りのせいと決めつけ、思考放棄して戦っていた私など死罪でも足りない。

 どんな苦境でも、どんな劣勢だったとしても、ギル様なら犠牲者無しで勝利してしまうと思い込んでいた私は、阿呆以外の何者でもない。

 私は償わなければならない。

 何をすれば良いかは明白。ギル様の願いを確実に叶えるしかない。魔法都市が無事であること。そして、皆が無事であること。それは私たちも含めて。


 「ギル様がああなってしまったことは、私も悲しいです。けれど、それでエルや私、魔法都市にいる皆が落ち込んでいたら、ギル様に笑われてしまいます」


 「でも、エルは……」


 「エルはギル様の最後の指示は聞いてましたか?」


 「はい、です」


 「あの指示は魔法都市を守るためです。私たちは王国の包囲を突破し、ギル様の指示通りにオーセブルクへと来ました。ですが、これで終わったわけではありません。ギル様の願いは魔法都市を救うこと。私たちにはまだやれることがあると思いませんか?」


 「………何をすれば、良いです?」


 「一応、考えはあります。エルはどうしますか?私は戦いが終わるまで、エルはこのオーセブルクで泣き続けても良いと思ってます。とても辛い体験でしたから」


 「いやです!」


 「では手伝ってくれますか?」


 「はい、です!」


 エルは力強く返事してくれたけど、心は傷ついたまま。ギル様の名を出すことでしか、エルを奮い立たせる言葉が思いつかない。

 私は、なんて未熟なのだろう。

 自己嫌悪に陥りそうになっていると、扉をノックされた。誰かが来たようだ。

 危ない。私が自信を持たなくてどうする。

 私は軽く頭を振ってから扉へと視線を向ける。


 「はい」


 返事をすると扉が開く。開かれた扉の先には女の子がいた。

 私を助けてくれたテッドさんの仲間の一人で、たしかエミリーという名だったはず。


 「あ、あの、テッドさんが食堂で話を聞かせてほしいって言ってますけど……」


 食堂……。私はさっき食べたばかりだけど、エルは丸一日近く何も口にしていない。食事を摂ることで気が紛れるかもしれない。


 「エル、行きましょう」


 エルは少しだけ迷ってから頷いた。



 エルを連れて宿の食堂に行くと、既に大人数が座れる席が確保され、4人が席に着いていた。

 テッドさん、エレナさん、エミリーさん、それと確か……、クルスさん。

 私とエルは席に着くと、まずは自己紹介をした。

 注文して料理が届くと、エルに食べるよう促す。エルは料理をゆっくりと食べ始めた。でも、いつものような嬉しそうに食べる顔がそこにはなかった。

 魔法都市に比べれば、オーセブルクの料理は少々薄味でエルの好みとは程遠い。けれど、だからといって好き嫌いする性格でもない。まだまだ立ち直るには時間がかかるのだろう。

 エルの心配をしていると、テッドさんが早速とばかりに本題に入った。


 「それで……だが、魔法都市の状況を聞いてもいいか?あの姿だと、王国の包囲網を突破して来たんだろ?」


 「ここまでして頂いて申し訳ないのですが、私はまだあなた方を信用出来ていません」


 彼らが王国の手先かもしれないし、ではなくとも裏切らない保証もない。


 「たしかにな。俺はあんたたちのことを良く知っているが、あんたたちは俺らを知らない」


 「よく知っている?」


 「そりゃあ、あの代表の傍にいればな」


 その通りだ。ギル様の態度が演技だと知らなくとも、いえ、知らないからこそ良くも悪くも目立つ。その傍にいる私たちも目立って当然。


 「おそらく、テッドがお話したと思いますが、私たちは魔法学院で学んでいます」


 このヒトはエレナさんだったはず。彼女はとても賢そうだ。そして、テッドさんも実は頭が良い。衛兵との会話を聞いてそれが分かった。

 ギル様曰く、『アホの演技が出来るのは賢い奴だけ』らしいから、気をつけなければならない。


 「はい、お聞きしました」


 声色で警戒していたのが見破られたのか、エレナさんは微笑んで優しく続きを話す。


 「私とテッドは帝国出身、こっちにいるエミリーとクルスは王国出身です。エミリーは王国出身ですが、魔法都市を非常に気に入っていて手助けしたいと考えています。ただ、クルスは愛国者です。王国を愛するがゆえに裏切る可能性はあります」


 なぜこんなことを言うのかと思った。クルスさんのことを誤魔化せば少しは信用されるはずなのにと。

 でもそうではなく、包み隠さず話すことで信用を勝ち取るつもりだと気づいた。


 「エレナさんとテッドさんはどうなのですか?」


 「私とテッドはこの二人の護衛です。王国側でも魔法都市側でもないですが、エミリーを支持しています。つまり、魔法都市を気に入っているということです」


 エレナさんがそう言っている横で、エミリーさんが「えへへ」と照れている。

 彼女たちはエミリーさんを中心に集まっているのだろう。……なんだか、私たちに似ているかもしれない。ギル様を中心に集まる私たちに。

 だからではないが、少しだけ信用する気になった。

 考えてみれば、王国が魔法都市の防御を突破するには正面突破しかない。彼女らに裏切られたとしても、裏道の存在さえ明かさなければ問題ないのだ。


 「わかりました。今がどういう状況なのかをお話します。私たちは打って出ることにしたのですが……」


 私はあの時のことを全て話した。彼女たちは真剣に聞いてくれた。特にエミリーさんは面白く、表情をころころと変え、話し終わる頃には頬を膨らませて怒っていた。

 確信した。エミリーさんだけは信用できると。


 「では、代表様は……」


 「はい、崩御なされました」


 エレナさんが確認するように聞き、私が答えると、テッドさんが「嘘だろ、あの代表が……」と腕組をして唸った。


 「ちょっと待ってください。では、あなたは王が死んでも王国兵を殺し続けたということですか?」


 クルスさんが怒気を含みながら私を睨む。


 「何を言いたいのですか?」


 「負けたのに、これ以上死者を増やす必要はないと言いたいのです」


 なるほど、愛国者とは本当だった。クルスさんは、ギル様が討たれたことでこの戦は終わったと考えていて、それでも足掻き続ける私たちを許せないらしい。

 王が死んだのならば、潔く魔法都市を明け渡せと。でも、それはできない。


 「あなたは勘違いしています」


 「何がですか?」


 「それで戦は終わらないということです」


 「王が死んだのですよ?!抵抗を止め王国を受け入れれば、これ以上の犠牲を増やす必要はないのです!」


 「それが勘違いです。まず正確に言うならば、ギル様は代表であって王ではありません。ギル様が不在になれば他の者が代表になります。そして、防衛を止め王国を受け入れたとしても、犠牲者は増え続けます」


 ギル様が言っていた。だから間違いはない。

 魔法都市は人種差別せずに全てを受け入れる。ヒト種以外の多種族を排除する王国が、魔法都市を占領したあとどうするかなど、私ですら予想できる。


 「どうしてあの代表もあなたもわからないのですか?!王国は占領した国の住民を虐殺などしません!」


 テーブルに叩きつけそうなほど強く拳を握ったクルスさんからは、感情が怒りで埋め尽くされているのがわかる。

 だけど、この怒りに信念はあれど、根拠が全く無い。あくまで彼女は王国民としてでしか状況が見れていない。

 魔法都市側の私が見た王国の姿を話すべきだと思った。


 「その王国がなぜ攻めて来たのか、あなたは知っているのですか?」


 クルスさんの怒りを肯定も否定もせず質問で返したからか、クルスさんは一瞬だけ呆気にとられ、目を泳がした。

 もしかしたら、どうして王国が魔法都市を攻めたのか、クルスさん自身が知りたかったのかもしれない。


 「それ……は、わかりません」


 それを証拠に、クルスさんは椅子に座り直すと軽く咳払いして私を見つめた。「聞かせてほしい」という気持ちが伝わる。

 先程の怒りの感情はどこに行ったのかと思ったけれど、私は小さく頷いてから続きを話した。


 「教えてあげます――」


 私たちが何をし、何をされてきたのかを説明した。賢人ラルヴァに狙われ、ヴィシュメールを助け、王国西で戦い、ブルートと戦い、そして攻め込まれた経緯を。

 そして、嘘だらけの宣戦布告のことも。


 「そんな……、嘘です」


 クルスさんはみるみる青ざめ、ずっと否定の言葉を言い続けていた。これは全て虚言だと。

 だけど、これに関してははっきり言わなければならない。事実だと。


 「嘘をついているのは王国です。ご自分の理想を大事にするのは良いですが、それを他人に押し付けないでください」


 私の言葉でクルスさんは押し黙った。

 しまった、私も冷静ではなかったようだ。感情的になって責めるような言い方になってしまった。彼女が悪いわけではないのに……。

 空気も悪くなり、会話がなくなってしまった。

 テッドさんとエミリーさんは何かを考えていて、エレナさんは黙り込むクルスさんを心配そうに見ている。

 私から何か話すべきだろうか?

 そう考えていると、突然エミリーさんが机を叩いた。


 「わ、私に何かできないでしょうか?!」


 あまりに突然のことで面食らった。エミリーさんは考え込んでいたのではなく、ずっとこれを言い出そうとしていたのだ。

 そう言えば、ずっと手助けしたいと言っていた。本心だったのだろう。

 でも、どうするべきか迷う。私を手伝うということは、魔法都市側の味方をするということ。危険なことに巻き込まれるのは確実なのだから。


 「ですが……」


 「危険なのはわかってます!けど、お二人だけでは無理だと思います!私みたいなのが言うのも変ですが、人数は少しでも多い方が良いと思うんです!」


 純粋で、誠実だった。

 とても心強い。魔法都市を想ってくれるヒトがいるというのは。

 でも、口にするのは憚るが、足手まといとも感じた。自分の強さを過信するわけでないが、それでも私やエル単独の戦闘能力には全く及ばないだろう。

 だから、危険なことに巻き込みたくない。

 …………ギル様もそう考えていた?過保護気味だったのは、私たちが弱かったから?そうだったのなら、少しだけ寂しい。

 いえ、今は私の気持ちよりエミリーさんをどうするかが大事。どうするべきか。

 私が悩んでいると、テッドさんが頭をぼりぼりと掻きながらため息を吐いた。


 「仕方ねぇな。だったら俺も手助けする。というより、俺はエミリーの護衛だしな」


 「だったら私もね。テッドだけじゃ心配だわ」


 「いや、エレナは駄目だろ」


 「なんでよ?!」


 「どっちかがクルスを護ってやらなきゃ駄目だろ。オーセブルクで一人にする気か?」


 そう言われたエレナさんは、「そうだったわ」とクルスさんを見る。ただその言い方は、仕方がないといった感じではなく、だったら残るのは当然かと言っているようだった。

 テッドさんとエレナさんはただの護衛ではなく、友人として護っているのだろう。

 だけど、まだ続きがあった。


 「でしたら、私も手伝います」


 クルスさんも手伝うと言い出したのだ。そうなると、4人全員が私たちを助けると手を挙げたことになる。

 でも、頷くことはできない。だってクルスさんは明らかに王国側だったのだから。


 「何を言っているのか分かっていますか?それは王国と戦うという意味なのですよ?」


 「わかっています!今でも魔法都市の人たちが私を騙しているのではないかと疑っています。……ですけど、私はダンジョンの中で見ました。旗を掲げずに進行する王国軍を。エレナさんがホワイトドラゴンを倒すために来たのかと聞いた時、彼らはそうだと嘘を吐きました。私がどんなに愛国心を持っていてもわかります。悪は王国だと!ならば、国民がそれを正さねばなりません!」


 私は思い違いをしていた。クルスさんは愛国心で偏見を持っていたのではなく、正義感を持っていたのだ。

 王国のすることが正義だと考えていたが、それが悪行だと理解すると正すために尽力する。これこそ本当の愛国者だろう。

 ここまでの正義を見せられたら、私の答えは決まっている。


 「わかりました。ご助力感謝します。皆さんよろしくおねがいします」


 そう言って頭を下げると、四人が微笑む。


 「で、これからどうするか考えているのか?冒険者ギルドのギルドマスターに何かを頼んでいたようだが、それ以外にも手を打つんだろ?」


 エルにも言ったけれど、私には考えがあった。ただ、その考えは無謀だったが。

 でも、6人もいれば無謀だった難易度が、難しいぐらいにはなるかもしれない。


 「はい、あります。帝国皇帝に援軍を頼みに行こうかと思います」


 当然、テッドさんたち4人は目を見開き驚いていた。


 「馬鹿を言うなよ!あのシリウス皇帝が小国のために動くわけがない!」


 そう言えば、テッドさんとエレナさんは帝国出身だった。これがどれだけ難しいことかを理解しているのだろう。


 「かもしれません。でも可能性はあります」


 「リディアさんはそう言うけれど、私も無理だと思うわ。謁見することさえ難しいかもしれない。場合によってはその場で処刑だって……」


 エレナさんが首を横に振り、「無謀です」と肩をすくめる。

 それはそうだ。彼女たちはかの『不遜王』とギル様のご関係を知らないのだから。


 「シリウス皇帝はギル様のご友人です」


 「「えっ?!」」


 そうですよね。私もギル様ご本人から、シリウス皇帝と友人になったと聞かされた時は同じように驚いたのを覚えている。


 「真実です。ですが、ギル様もシリウス皇帝は国を動かさないだろうと最後に言っていましたから、難しいことに変わりないですが」


 テッドさんは椅子にもたれ掛かり、呆れるように息を吐いた。


 「とても信じられない……。帝国ではシリウス皇帝の名を口にするだけで、本当に泣く子が黙るぐらいなんだぞ……。でもそれなら、微かな希望は出てきたかもな」


 「そうね、シリウス皇帝が動けば、魔法都市は絶対に助かるでしょうね。でも、それ以外にも問題があるわ。オーセブルクから帝都までは遠い。馬が遅ければ一ヶ月は掛かるかもしれないわ」


 そう、それが問題だった。往復2ヶ月掛かることになり、それでは魔法都市が守りきれるかわからないのだ。

 伝書竜で書簡を送ることも考えた。でも、それではシリウス皇帝は絶対に動かないという確信が私にはある。直接会いに行くべきなのだ。

 だが、それも6人になったことで、短縮できる可能性が出てきた。


 「それは皆さんの力を借りればどうにかなるかと」


 私がこう言うと、4人はバッと私を見た。真剣にどうしたら魔法都市を救えるのかと考えているのが伝わってきて、少しだけ嬉しくなる。


 「なんだ?噂に名高い法国の竜騎でも借りるのか?」


 テッドさんは早く答えが聞きたいのか、エールの香りが漂う木のコップを呷ってから前のめりになった。


 「いえ、空を飛びます」


 私の答えは、テッドさんの口に含んでいたエールを盛大に吹き出す結果になった。

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