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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
二章 術式付与
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魔術付加武器

 一日休み、体力と気力をしっかりと回復させ次の日、俺達は再び森に来ていた。早朝に出発し、日が暮れないうちに森を探索していたが、やはりゾンビやレイスなどの魔物は出現していない。だが、これでいい。出てこないのなら、そのうちに大本を叩けばいいだけなのだ。


 「この間襲われた場所まで戻ってきたな」


 「はい。ギルさまが連れて行かれようとしたのは、ここから東でしたね」


 「森の奥、です」


 俺達はレイスが誘い込もうとしていた方へと進んでいく。この森はそれなりの広さで、迷いやすい。慎重に行かなければならないが、慎重すぎるとこの森で一泊することになってしまう。

 アンデッドが出る森で一泊なんて勘弁したいよな。見張りしてても怖いし、寝るのも怖いだろ。ホラー映画の男役なんてごめんだね。即死亡確定じゃねーか。

 俺達はかなり森の奥まで入ってきていた。だが、高位アンデッドがいそうな建物や、洞窟は未だに見当たらない。

 もしかしたら勘違いだったか?それはそれで困るな。ギルドマスターのグレゴルにも勘だけどと言ってはあるが、期待はしているだろうし。


 「ん?あれは、なんだ?」


 勘違いかもしれないと思っていたら、突然木造の建物が現れた。

 こんな森の奥に住んでたのか?

 住んで()()というのは、その木造の建物が苔に覆われ、所々壁に穴が空いていたからだ。つまりは風化していた。こんな場所に住む人間はいないだろう。


 「なんだか嫌な雰囲気ですね」


 リディアが言うのも分かる。建物の上を木が覆うようにしているためか、太陽が当たらない。その場所だけ異様に暗いのだ。


 「なにか、いる、です」


 ドアが倒れて屋内が見えている。押し入られたのか、それとも風化してドアが外れたのか。

 俺の目には屋内は暗く何も見えないが、エルには何かが見えるらしい。

 どうしよう、すげー怖いんすけど。


 「エル、何が見える?」


 「薬品がいっぱい並んで、いるです」


 薬品?錬金術の家か?高位アンデッドの住処っぽいな。尚更入りたくないんスけど。


 「ギルさま、いかがしましょう」


 リディアも何かを感じているのか、俺に判断を迫ってくる。そんな目で見るなよ。俺だって入りたくなんだから。だが、そうも言ってられないか。


 「二人はここで待機。太陽が当たらないからアンデッドが出没するかもしれん。警戒してくれ」


 俺が行くしかないだろうなぁ。

 俺が指示すると二人は頷き武器を握り直す。

 俺は木造の建物に入るためドアへと近づく。いや、近付こうとしたが、違和感を感じ足を止めた。


 なんだ?何かおかしい。いや、これは、魔力か!?それもかなりでかい!


 「二人共!そこを離れろ!」


 俺がそう二人に警告すると俺も入り口から飛び退く。二人もなんとか俺の声に反応し入り口の正面から離れることが出来た。

 俺達が入り口から避けると中から大量の水が溢れてきた。いや、鉄砲水のように吹き出して来たのだ。もし今の水に当たっていたら大量の水に流され、体が木や石にぶつかり大怪我をしていただろう。もしかしたら戦闘不能になっていたかも知れない程、強くそして大量の水だった。

 今のは魔法か?上位魔法かもしれない。そんなのが使える魔物がいるのならば、かなりまずい状況だ。

 だが、それだけではなかった。地面が所々盛り上がっていく。そこから手が出てきて、地中からゾンビやスケルトンが這い出てきたのだ。数えるのも馬鹿らしくなるほど多い。

 そして、今までどこに隠れていたのか、木の陰からボロボロの黒い外套を着ていて、存在が希薄な魔物、レイスが出てきた。

 罠ではないだろう。ここが魔物達の本拠地で最終防衛ラインだということだ。


 「数が、多い、です」


 「何故この場所にこれだけの数が?!」


 確かにそうだ。この場所が本拠地と考えたら当たり前だと思うかも知れないが、()()()()()()()()のだ。つまり今の今までこの地中に魔物がいたということだし、この間戦った時にいなかったスケルトンもいる。それは、死んだ時期が違うということでもある。

 いや、今はそんなことを考えている暇はない。逃してはくれないだろうし、やるしかないか。


 「エルはゾンビを相手してくれ!俺はスケルトンを倒す!リディア!」


 エルに指示をし、リディアを呼ぶ。リディアは視線だけで俺に返事をした。


 「レイス、やってみろ!」


 「……はい!」


 リディアは少し微笑んでから強く返事をした。

 さて、大物はまだ屋内だ。仕掛けてこないうちに少し周りを綺麗にしようじゃあないか。



 【エル視点】


 エルは弓を構え流れるように矢を射る。まずは自分から距離が一番近いゾンビを倒していく。余裕が出来るとギルやリディアに向かいそうなゾンビを射る。精密射撃と言わんばかりに一射で確実に仕留めていた。

 しかし、ゾンビの中に違う魔物が潜んでいた。ギル達全員が勝手にゾンビだと思い込んでいたのだ。

 その魔物はレヴァナント。生ける屍ゾンビの上位種だ。何が違うのか?ゾンビは比較的倒しやすい魔物になるだろう。肉体の腐敗が進んでおり、足を引きずるように歩くため移動速度が遅い。攻撃手段は殴るや噛み付くなど原始的な攻撃で近距離の為に大勢に囲まれなければ、負けるほうが難しい。

 だが、レヴァナントは走るのだ。肉体も見た目は死んで間もないと言った感じに見える。肉体が再生しているのだ。その上にある程度の知能を持ち、武器を人間のように使用する。厄介極まりない魔物と言えるだろう。

 エルもゾンビだと思い込んでいた一人だった。ゾンビと同じように矢で頭を狙い射る。眉間に吸い込まれる。仕留めた、と思っていたら、首をずらし避けたのだ。

 そして避けた瞬間にエルに向かい走り出したのだ。


 「?!」


 エルは驚くがすぐに次の矢を番え、頭ではなく胴体に射る。結果、胸に突き刺さった。だが、レヴァナントは構わずエルに向かい走ってくる。エルは3射、4射と矢を放つが全て突き刺さってもレヴァナントは怯むことなくエルに向かってくる。エルは苦渋の色を浮かべるが、それは一瞬だった。なぜならレヴァナントはもう目前に近づいている。レヴァナントは間合いに入ったようで握っていた剣を振りかぶる。

 このまま避けなければエルは斬られてしまうだろう。だが、エルは避けない。背負っていた棒状の物を取り出しレヴァナントに向かって構えたのだ。

 ギルがエルに近距離専用武器として作成した物だ。

 その武器は、短い鉄パイプが横に2つ並んでいて持つ所はマナの木で作ってある。そして()()()()があるのだ。


 エルは引き金を引くと同時に魔力を武器に流した。

 ドンッ!と音がすると目前まで近づいていたレヴァナントは体中に穴が空いていた。そして少し、間をおいて穴から火が噴き出し、全身が燃え上がった。


 エルがギルから贈られた武器、それは水平2連ショットガン。もちろん偽物だとギルは思っている。引き金は弾を発射するものではなく、引く度にショットシェルとマナの木の持ち手を繋ぐ棒が左右に動くスイッチだ。この棒もマナの木で出来ているのだが、魔力を流すとショットガンの弾、ショットシェルの底の部分の素材になっている魔石に魔力が流れ魔法が発動するようにしていた。

 ショットシェル一個に2つの魔石が使われていてそれぞれ役割が違う。

 魔力を通すとショットシェルに刻まれている魔法陣に反応し薬莢内で圧縮された風魔法が散弾を押し出す。もう一つの魔法陣は散弾一つ一つに火の魔法を付加させ、時間を置いて燃え上がる役割だ。当たればショットガンのように穴が開き、体の中で魔法が発動し燃えがる仕組みになっている。魔力が込められた火だから、アンデッドにも効果覿面のはずだ。

 ではなぜ、マガジンを付け数多く撃てるショットガンにしなかったのか?それは魔石を使い切ってしまい、二個分のショットシェルしか用意出来なかったからだ。それに、ショットシェルは再利用が可能な為、空薬莢を排出すると勿体無いという考えでもあった。

 二発限定の超火力武器なのだ。


 レヴァナントは魔力の込められた火に包まれ、藻掻くとそのまま倒れた。一発でゾンビの上位アンデッドを倒したのだ。エルは目を輝かせて、ショットガンを見ている。

 だが、今は感動している時ではないことを思い出し残りのゾンビを弓で処理していった。心の中でギルにお礼を言いながら。



 【リディア視点】


 リディアはゾンビとスケルトンを無視し、レイスへと駆けていた。多少の不安はある。ギルから貰った新しい武器の練習はした。弾を作るのが面倒だからといってエルは練習させてもらえなくて、横で羨ましそうにリディアを眺めていたのを思い出していた。

 もうすぐレイスが間合いに入る。リディアは深く息を吸い込むと魔力を込めつつ刀を抜いた。


 「ギルさま、私に力をお貸しください。頼みますよ、『劫火焦熱ごうかしょうねつ』」


 劫火焦熱とはギルが刀に名付けた。元々は名前なんて付ける気はなかったが、シギルにこれだけの名剣ならば付けないのが逆に変だと、何度も言われ嫌々ながら名付けたのだ。ギル自身、なんでこんな趣味の悪い名前を付けたのかと思っていたが、刀の効果を想像したらこれしかないだろうということになったのだ。


 劫火焦熱が鞘から抜かれる。だが、なんの変哲もない刀だった。リディアは構わずレイスに近づく。

 レイスは近づいてきたリディアがただ物理攻撃をするものだと思い、避けずに反撃の魔法陣を構築していた。先にリディアの攻撃が入るだろう。リディアが仕留めなければ、間違いなく魔法を放たれリディアは深手を追うことになる。

 それでもリディアは気にせず、普段どおりの綺麗な姿勢でレイスを袈裟斬りにした。

 レイスは斜めに切り裂かれるが、物理攻撃では絶対に消滅することはない。不気味な声を上げているが、まるで笑っているかのようだ。切り裂かれたのを何も無かったことように魔法陣を構築していく。

 だが、斬られた所から火が噴き出した。

 レイスは一気に燃え上がり一瞬で消滅していった。だが、炎は消えることはなく、レイスが消滅した場所でまだ燃え続けている。

 その様子をリディアは見て、ギルの説明を思い出していた。



 【一日前】

 「刀は魔力を通しても見た目は何も変化がない。というより、燃え上がったり、真っ赤になったりしたら、刀として役に立たない。魔法剣が発動しているかは魔石を見てくれ。そこが光っているはずだ」


 「確かに魔石が光っています」


 リディアは魔力を流し魔石が光っている事を確認するが、まだ半信半疑だ。これだけで魔法が使えるなんて信じられないと言った感じだろう。


 「まぁ、気持ちは分かるけど、そんな顔するなよ。効果はかなりエグいことになっているから」


 どうやらリディアは半信半疑の感情が表情に出ていたらしい。刀を貰っただけでも幸せなのだ。もし魔法を使えなくてもこの刀だけでも充分だと思うことにしていた。


 「贈り物を頂けただけで私は幸せ者です。ありがとうございます」


 リディアが言うと少しだけギルが照れていた。


 「そ、それで、効果だが。さっきも言ったがかなりエグい。斬ると内臓から燃え上がるが、その熱は高温だ。一瞬で肉や内蔵は炭になるだろう。そして何より長時間燃え続ける。消すことに必死になっても消している間に焼死するだろうな」


 これがギルが『劫火焦熱』と名付けた理由だった。斬られ、肉や内蔵が炭化し、それでも生き残れば長時間炎に包まれ、消そうと藻掻くが結果は焼死。鎧に斬りつければ、素材が鉄なら溶かしながら燃え上がる。段々と火が広がっていき鎧を脱がなければ、結果焼死。万物を劫火で焼き、長く苦しい思いをさせる。さながら焦熱地獄のようだ。


 その説明に頷くようにリディアは聞いていて、人間には使いたくないものだと思っていた。


 「リディアは魔法使いにはなれないと俺は思う。魔法使いの才能がない。だけどな、魔法剣士にはなれるよ。リディア、今日からおまえは魔法剣士だ」


 ギルの言葉にリディアは震えた。魔法剣士なんて聞いたことがない。一般的な魔法は使えないと、自分の夢を否定されたのだ。普通なら怒りや悲しみが溢れてくるだろう。だけど、今は喜び震えている。


 その感動をリディアは思い出したのだった。



 【現在】

 リディアはその効果に驚いていた。

 物理攻撃が効かない敵と遭遇した場合、リディアは逃げざるを得なかった。それがどうだ。たったの一太刀で、物理攻撃無効のレイスが一瞬で消滅してしまったではないか。

 感動を隠せず、目尻は少し濡れている。目元を拭うと声を出しギルにお礼を言った。ギルには聞こえなくとも言わずにいられなかった。


 「ああ。ギルさまはやはり賢者様だった。他の者達が否定しようと私の賢者様です。ありがとうございます」


 そう呟くとリディア、次の敵へと向かっていった。



 エルとリディアの戦いを見て、俺は安心していた。実は少し不安だったんだよね。どっちもはじめての魔法武器だったし。

 さて、二人共頑張っているし、俺もそろそろやるか。

 そんなことを思っていると、後ろからスケルトンが武器を振りかぶっていた。

 俺はその攻撃を避けると、スケルトンの第一肋骨と第二肋骨の間に手を入れ、力任せに腕を下に振る。

 スケルトンの第二肋骨からしたが全て崩れるように折れていた。

 体制を崩したスケルトンの頭にすかさず大ぶりのフックをぶちかますと、頭蓋骨が粉々に吹っ飛び、スケルトンは崩れるようにバラバラになった。


 「スケルトンは剣や刺突武器で攻撃しても効果は期待できないからな。鈍器が有効らしいが、持ってないから殴打するしかないか」


 そういうと拳を強く握り走り出した。スケルトンに近づくと思いっきり顔面を殴る。それだけだが、頭蓋骨が吹っ飛び、ほとんどワンパンだった。


 「これは俺が一番楽な仕事だったかな?」


 呟くとひたすら殴っていった。そうしていくとスケルトンはいなくなっていた。

 辺りを見渡すと地面にはバラバラになった骨が無数に転がっているだけだった。


 二人はまだ戦っている。じゃあ高位アンデッドの相手でもしましょうかね。

 あんまり殴り倒していると、俺、ゴリラって呼ばれちゃうし、少しは良い所見せないとね。


 俺は木造の建物へと入っていった。

 中は想像通りにボロボロだ。もはや家や建物とは言えないほど風化している。暗くて見えなかったが、しばらくすると目がなれて見えるようになってきた。

 奥に誰かがいるのが見える。数は一人だろう。そいつは俺に気づくとゆっくりと向かってきた。

 ボロボロのローブを来ている魔物だ。元々は豪華で素晴らしい仕立てだったであろう事が所々残っている服の名残で分かる。かなりの長期間ここに居たのだろう。

 その長い年月でも劣化していない豪華な杖を握っていた。装飾が施してあり、宝石が散りばめられている。かなり高価な物だろう。

 顔はフードで隠しているが、ローブがボロボロのため顔が見える。ミイラのように乾いた肉がこびりついているだけだった。

 俺はこの魔物に心当たりがある。昔友人とやったゲームで苦戦した相手だ。


 その魔物はリッチと呼ばれていた。

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