ステータスとスキル
まばゆい光が収まり、恐る恐る目を開くとそこは、木々が生い茂る森の中だった。
俺は、ゆっくりと周りを見渡す。
俺が大事にしている家具、その名も豪華な椅子と木の机。机の上には光に包まれる前のまま、ナイフと読書中の本。そして、晩酌の缶ビールと惣菜各種がある。椅子の横には帰宅後置いたリュックサックも。
「なんで、家具も一緒なんですかね?これ大事なモノだよ?」
理不尽に多少の苛立ちを感じつつ、背凭れに体を預け、肘掛けに肘を乗せ顎を触る。
現在の状況を考察してみよう。
これは小説やアニメでよくある異世界転生やら、転移やらだと思う。なぜか?今は夜中のはずなのに、木々から木漏れ日が漏れてるからだ。つまり、日中だ。
テレビのドッキリだとして、一度も目を覚まさずにこんな場所まで連れてくるには、睡眠薬を盛らねばならんだろ。それはね、犯罪ですよ。そんなことまでするわけない。
信じがたいが、とにかく転移、または転生と仮定しとくか。夢があるし。
さて、それでここはどこかだが……。俺の知識を活用し、場所を特定してみるか。
俺は辺りを見渡してみる。
……うん、ここは森ではなく、山だな。緩い上り斜面が後方へと続いているからな。以上。
無理だよ。地図がないのは仕方ないとして、八分儀もない。ぶっちゃけ、異世界だと仮定してしまったら、太陽だって当てにならないじゃないか。
とにかく、ここはどっかの世界のどっかの木々生い茂る山奥だ。
え?馬鹿にしてんの?
こういうのってさ、どこかの城とかに呼ばれて、あなたは勇者です。世界を救ってくださいっていうのがテンプレじゃない?
なんの説明もなしに、異世界の木々生い茂る山に放り出されて、死ねって言われてるようなものじゃない?
……いや、ちょっとまて、こういうのってさステータスとかスキルとかが、チートクラスで無双できるタイプなんじゃね?
物は試しってやつだ。
俺は椅子から飛び降り、立った姿勢のまま呟く。
「す、ステータス」
すると、目の前にゲームでお馴染みのステータス画面が出てきた。
「おぉ!すげぇ!早速確認だ。なになに?」
Lv 1
力 15
速さ 11
知力 30
精神 26
ユニークスキル ???
ん?たぶんこれって、ふつーだよな?子供の頃に遊んだRPGゲームで、この能力値だったら間違いなく序盤だ。というか、レベル1って表示されてるし……。もし、これでチート級のステータスだったら、こっちの世界の住人は全ステ10以下とかだぞ。
一般人じゃないか?少し知力と精神が高いだけの一般人だよな?
ユニークスキルってのもあるけど、……わからないし。
いや、スキルとかが、ぶっ飛んでる系じゃないか?
ステータスが見れたなら、スキルも見れるでしょ。試しに……
「スキル」
そう呟くと、ステータス画面が消え、スキルが表示された。
おぉ!本当にゲームみたいだ。早速確認だ!
【スキル】
スタンド
え?これだけ?
そしてスタンドってなに?
オラオラですか?
スタンドという文字を注視してみると、説明文が浮き出てきた。
『スタンド…立つ姿勢の美しさ』
え?本格的に馬鹿にしてんの?
そんなものスキルにすんなよ。せめて戦闘系とかのスキルが一つでもあればモンスターが出てきても…。
はっとした。そうだ、モンスターがいるかもしれないんだ。
こんなステータスとスキルなんかじゃ、モンスターとかでてきたら……。
危機感を覚えた瞬間、遠くの方で何か生物の鳴くのが聞こえる。
「おいおい、なんの声だよぉ」
すぐさま椅子に隠れるように姿勢を低くする。
ん?あれ?椅子大きくなった?
そう思い自分の体と椅子を比べる。違う俺が小さくなったんだ。
手を見つめると、若干小さくなり、瑞々しい。
鏡が手元にないから確認できないが、明らかに若返っている?
「……転生か?それなら、地球の俺は死んだのかな?いや…」
その考えをすぐさま否定する。転生ならば、赤ん坊からだしなぁ。まぁ、考えても仕方ないか。情報が少なすぎる。それより、今すぐこの場を離れて、安全なところまで移動しよう。
すぐに椅子の横にあるリュックサックを手繰り寄せ、机の上にある本をしまう。ナイフカバーをベルトに付け、ナイフを抜く。
日本刀の切っ先のような刃が、光に反射し顔を照らす。
うん。いいナイフだ。
姿勢を低くしたまま、すぐ近くの木まで移動してまた身を隠す。そして、木に目印として何箇所かにナイフで傷を付けておく。
「絶対、あの椅子は回収してやる」
もう一度あの椅子に座ってやるのだと決意しその場を離れた。
しばらく木に目印を付けながら、下山していると微かなせせらぎが聞こえてきた。
「水だ! どこにある?!」
音のする方向へ、目印を残しながら歩いて行くと、森を抜けた。そして川が流れる平原が広がった。
「川か?! よし、ひとまずはなんとかなりそうだ!」
森の入口。今出てきたところに適当に石を積み上げ、目印を作る。索敵しつつ、川の方へ急ぎ足で向かう。
川の近くまで行き、すぐしゃがみ、周りを見渡し索敵。
気配はなし。目視で確認できる限りではモンスターはいない。
と、ここでようやく、座り込み安堵の息を吐く。
「川が見つかったのは僥倖だったな。これで人里にでられそうだ」
水が飲みたかったわけではない。もちろん、水は生命線だ。食料がなくても数日ならば、水だけで生きていける。だが、それだけではなく、人に出会える可能性が増えるのだ。
水の近くに街や村を作るのは基本だ。ここが異世界でもそれはかわらないだろう。
「川を下っていけば、街か村に出られる。今一番欲しいものは、情報だ」
安全と食料もかと、一人苦笑いする。
「しかし、本当にモンスターとかいるのか?いる前提で隠れながらきたけど…」
やめておこう。いないと決めつけても、いると思い込みすぎても、出てきそうな気がする。戦う準備ができていないのだから、会敵しても困る。
急ぎ、村だか街に行かねばならない。
立ち上がり、ナイフをカバーにしまい、また石を積み上げて目印を残す。
そして、下流の方へ走り出した。