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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十三章 憤怒の像
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日常と非日常の午前

 「どうだ?ちょっと分かりづらいか?」


 いつもの事ながら空は真っ暗だけれど、今は早朝。絶えず人が活動している魔法都市でさえも、どちらかと言えば静かな時間帯である。

 その早朝に俺は、城の中庭でリディアと居た。


 「……いえ、説明はわかりやすかったのですが、とてもすぐに出来る技ではありませんね」


 「まあなぁ、俺も理屈は理解出来ているけど、この剣技は理論上可能ってだけだしな。出来なくても気にすることないよ」


 「……はい」


 リディアの表情が暗くなる。

 技を習得出来なかった自分にがっかりしていると言ったところか。

 リディアと二人で何をしているのかと言うと、簡単に言えば修行である。新しい技の伝授、いや、こんなの技とは言えないな。


 「こんな技は偶然に偶然が重なって出来る代物だよ。こういう理論があるぐらいに思っておけばいいさ」


 「……はい。あ、私の訓練に付き合ってくださりありがとうございます。ギル様にとってまだおやすみの時間なのに」


 「いや、いつもの事だけど、これから寝るんだよ。眠れなかったから、少しだけ体を疲れさせようとね」


 彼女にとっては欠かさずにする毎朝の訓練で、今日はそれに参加していた。

 トイレと時計事業がスタートしてから一ヶ月が経った今でも忙しさは増す一方で、最近の就寝時間は朝方になっていた。

 今日はようやくエリーに頼まれていた防衛システムを完成させることが出来たが、興奮し過ぎて眠れなくなったところで、修行しているリディアを発見したから俺も参加することにしたのだ。

 体を動かして、ぬるいシャワーで汗を流し終わった頃には眠くなるだろう。


 「ふふ、それでも嬉しいです。ギル様も無理はなさらないで下さいね」


 「そうも言ってられないだろ」


 「そうでしたね。まだ賢人キオルは帰られてないのですか?」


 そう、キオルが帰って来ないのだ。

 いや、王国の首都まで行くのだから、急いで用事を終わらせたとしても、魔法都市に帰ってくるまで一ヶ月ぐらいは必要だ。だが、オーセブルクに連絡が届いていないのだ。

 もしかしたら忙しいのかもしれいないが連絡をしないのはおかしい。キオルはアレでも大商人だ。責任感のある彼が、どれくらいで帰ることが可能かを連絡し忘れるなんてあり得ない。

 しかし、実際に帰って来る気配がないのだからどうしようもない。

 でもそうなると、キオルに追加される仕事が消化されない。つまり、その仕事が俺に回って来ているのだ。

 俺の睡眠時間が削られているのはそういう理由だった。


 「キオルも魔法都市建国からずっと休みなしで動いているから、たまには王都にある自分の家でゆっくりしたいのかもな」


 「そう……ですね、そうだと思います」


 「……」


 わかっている。『もし』を排除し、お気楽に生活することはしないさ。キオルが何らかの事件、または事故に巻き込まれた可能性も考えている。

 それでも王国にいる限り、俺に出来ることがないのだ。

 俺が飛空艇をすっ飛ばして様子を見に行くことも考えた。変装したら王国を歩くことぐらい出来るしな。

 だがそれは最終手段だ。まず情報収集を優先すべきだろう。レッドランスにでも聞いてみるか。


 「レッドランスに書簡を送ってみるよ。商人キオルを呼びつけたいと言い訳すれば問題ないだろう」


 「それでしたら、私がオーセブルクまで行って参りましょうか?」


 「んー……、それが良いかもな。まだ字も書けないし、リディアならオーセブルクまであっという間だろう。あっちで一日ゆっくりしてもいいから、頼めるか?」


 「はい、もちろんです。ですが、すぐに戻ってきます」


 「そんな無理しなくても」


 「戻ってきます」


 「あ、はい」


 リディアは出会ってから変わらず真面目なままだ。俺の頼みだからだろうけど、少し肩の力を抜いた方が良いよな……。まぁ、それがリディアの性格だし、俺がとやかく言うこともない。俺はリディアをそのまま受け入れるだけだ。


 「じゃあ任せるよ。そろそろ俺は軽く寝る」


 「わかりました。今日はありがとうございます」


 「いいって。また訓練に参加させてもらうよ」


 「はい!」


 リディアの笑顔に癒やされてから、俺は部屋へ戻った。


 ――――――――――――――――――――――――


 ギルがベッドに入った頃、レッドランス領ではゲオルグの従者であるミゲルが目を覚ました。

 朝食を終え、身だしなみを整えるとすぐに家を出る。

 目的地はゲオルグの屋敷。

 ミゲルの家と屋敷は近い。緊急で呼び出された時、すぐにでも駆けつける事が出来るようにと、ミゲル自身が近い位置の家を借りたからだ。

 屋敷に着き、ドアの前に立つと銅製のドアノッカーを三度打つ。するとすぐに屋敷の執事が顔を出した。


 「おはようございます」


 「ミゲル、今日も早いですね」


 「いつもの通りです。それで、閣下はまだ?」


 「はい、ゲオルグ様はまだ戻られていません」


 「そう……ですか」


 「心配ですか?」


 「王都に着いたと知らせが届いた後、連絡がありません。陛下に呼ばれたとは言え、さすがに10日以上も連絡をしないのは……、閣下らしくありませんから」


 執事が「ふむ、たしかに」と頷く。


 「途中で何か問題が起きたと?」


 「いえ、それ以前の問題かと。閣下ならば、王都を出る前に早馬なり鳩なりで、連絡をするはずですから」


 「では王都で事件に巻き込まれたのかもしれませんね。しかし、護衛は十分だったはずですが」


 「やはり私も同行すべきだったか」


 ミゲルが舌打ちしながら、執事に聞こえないように呟く。

 ミゲルは今回の王都行きに同行しなかった。というより、させてもらえなかった。

 最近にはレッドランスと二人で自由都市へギルに会いに行ったこともあり、疲労を心配したゲオルグがミゲルを今回の王都行きに同行させなかったのだ。

 他国ではなく国内、それも王都へ行くだけだし、護衛も手練で人数も多く連れて行く。だからミゲルも従ったのだ。

 それがゲオルグだけならまだしも、同行した護衛からも連絡が届かないのではミゲルも焦る。

 王都で問題が起き、巻き込まれたとしても護衛が対処する。それ以前に警備がしっかりしている王都で、貴族であるゲオルグが巻き込まれる可能性は限りなく低い。

 しかし、だからこそミゲルは心配する。

 安全な王都滞在中に連絡を断つなどあり得ないと。


 「他に何か知らせはありますか?」


 「ゲオルグ様から以外なら」


 「閣下以外?それはどなたからですか?」


 「しばらくお待ちを」


 執事は一度屋敷の中に入り、すぐに戻って来る。執事の手には書簡が握られていた。


 「こちらです」


 ミゲルは書簡を受け取り、封蝋の紋様を確かめた。


 「この紋章は王家の……。閣下、お許しを」


 ミゲルは一瞬だけ迷うが、封蝋を破り書簡を開く。


 「ミゲル、何を?!王家からゲオルグ様宛の書簡を許しもなく開くなど!!」


 執事が慌てて止めるが、それを手で制して中身を読んでいく。

 読み進めるにつれ、ミゲルの頭は疑問だらけになっていた。


 「何故、これだけの事を王家が書簡で……?」


 「………それにはなんと?」


 執事も気にはなっていたのか、ミゲルの独り言を聞いて思わず尋ねてしまう。


 「いえ、陛下にお貸しした兵が戻って来るとだけ……。ただ、戻ってきた兵には陛下から密命が与えられているそうです」


 「陛下の密命、ですか?ですが、それは良くあることだと思いますが。陛下直々の命ならば、内容が伏せられることも」


 「はい、よくあることです。ですが、それは大臣からの書簡で、閣下に頼むことはですが。王家が書簡で決定事項のように命令をするのは有りえません。レッドランス領の兵に直接命令し、それが伏せられていることも有りえません。そんなことをしては、貴族たちに不満を持たれますから」


 王が命を下すのは兵ではなく、貴族でなければならない。

 それをせず貴族の頭越しに兵へ命令するなど、不満を持たれる原因になりかねないのだ。それはすぐに貴族たちに広まり、場合によっては反乱の火種になる。

 それに今回の場合、王ではなく王家なのだ。不満どころの騒ぎではない。

 なんせ、その権限すら持っていないのだから。


 「私は行きます」


 「ミゲル、急にどうしたのですか?」


 「情報を集めます。何かがおかしい」


 ミゲルは執事に挨拶もせず屋敷を後にし、城へと向かった。

 城に辿り着き早速入ろうとするが、ミゲルはある光景を見て身を潜める。

 城門には大勢の兵がいて、城内に入ろうとしていたのだ。


 「……領主不在の城に、大勢の兵が入る?有りえない」


 城門には門番の他にゲオルグの親衛隊の一人がおり、彼が笑顔で招き入れていた。


 「彼はゲオルグ閣下の……。それにあの兵士たちはレッドランス兵ではないな」


 さも当然のように兵を城内へと入れているが、親衛隊でもその権限はない。

 その上、レッドランス領の兵ではないのだから、その行為は当然……。


 「裏切ったな。普段は見ているこちらが恥ずかしくなるほど閣下を持ち上げていたが、裏切りを隠すためだったか」


 ミゲルの予想は当たっている。

 オーセリアン王は貴族が裏切った時、すぐ把握出来るように潜り込ませていたのが彼だ。レッドランスが魔法都市に出向いたことや、ラルヴァと共に魔法都市と戦をして負けたことを知っていたのも、この男が原因だった。


 「奴は魔法都市に出向いた時にも同行していたな。料理屋で怒鳴り散らすほど礼儀知らずだったが、ここまで下衆だったか」


 ミゲルは裏切っていた親衛隊の男が、魔法都市の料理屋で店主に怒鳴り散らしていたの思い出し、吐き捨てるように呟く。


 「だとしたら、ゲオルグ閣下は……」


 そこからミゲルの優秀な頭脳はフル回転する。

 ある答えを導き出すと確かめるために走り出した。

 ミゲルが向かった先は教会の鐘塔だった。

 神父に断り、鐘塔を駆け上がる。上り切ると丁度朝の鐘が鳴り、その音に驚いた鳥が飛び立った。

 ミゲルは街全体を一望でき、その絶景を背景に飛び立つ鳥の素晴らしい光景など見ている暇はないと言わんばかりに城壁の外に目を凝らす。

 そして、予想が確定事項に変わる物を見た。


 「大軍がレッドランス領を歩いている」


 ミゲルが見たものは、王都側からレッドランス領を通り過ぎて行く大軍の行進だった。


 「閣下はどういうわけか、捕らえられてしまったようだ。レッドランス領を軍が通り過ぎるならば、必ず閣下から連絡が来るからな。それにあの王家からの書簡の意味もわかった。あれは領主が不在と知っていての命令書だったか」


 現領主のゲオルグがレッドランス領を離れていた場合、その代理は息子だ。しかし、捕まることすら知らなかったのだから、代理の準備などしていない。

 ゲオルグの息子はこの街にはおらず、すぐに連れ戻すことなど不可能。

 それを知っていての書簡だったのだ。

 後々、このことが問題になったとしても、書簡は送ったと言い訳するために。


 「さらに城を押さえたのは情報を漏らさないためか」


 ミゲルは位置を変えて屋敷の方へ目を凝らす。

 屋敷にも数人の兵が押し入っているのを発見すると舌打ちをした。


 「チッ、屋敷までか。あの親衛隊の男が裏切っているなら当然か。この調子では私も探しているだろうな」


 自分の家の方を見ると、予想通りに鎧を来た兵士が向かっている。


 「やはりか。これは私だけ逃げるのは無理だな。しかし何故こんなことを?王の目的はなんだ?」


 頭の中で大陸の地図を思い浮かべ、大軍の向かっている先に何があるかを考える。

 思いついたのは4大都市の一つだった。


 「自由都市?まさかナカンを打倒した直後に、自由都市を攻める?」


 そこまで考えて「馬鹿な」と吐き捨てる。


 「国力が下がっている今、自由都市と渡り合える力は王国にない。自由都市と事を構えるなら、尚更ゲオルグ閣下のお力は必要だ。有りえない。……では、どこ――」


 ゲオルグの捕縛、情報漏洩を防ぐ為の城押さえ、ゲオルグの親しい者たちの拘束。そして、自由都市方面というピースを当てはめ、ミゲルは辿り着く。


 「オーセブルクダンジョン。魔法都市か」


 ミゲルは鐘塔を急いで駆け下り、神父に羊皮紙と羽根ペンを借りてサラサラと何かを書く。

 そして、腰にぶら下がる革袋を乱暴に外すと、それと羊皮紙を神父に渡した。

 神父が革袋を受け取り中を確かめると、十数枚の金貨が入っていたことに驚く。


 「寄付です。それとお願いがあります。その羊皮紙を内密にオーセブルクの冒険者ギルドに送って頂けますか?伝書竜でお願いします」


 そう言うや否や教会を出て自分の家へと向かう。

 そこには当然、兵士たちが待っていた。

 ミゲルは驚いた表情をした後、笑顔で兵士たちに言った。


 「おや、もしかして私に御用ですか?朝の礼拝に行ってまして」


 そして、何も知らない従者を演じるように、丁寧な礼をした。


 ――――――――――――――――――――――――


 僅かな睡眠を取り、今度は熱いシャワーで無理矢理覚醒させた。

 眠い目を擦りながら城を出て、エルピスへと向かう。目的地はエルピスとダンジョンの出入り口。

 辿り着くと兵士たちが俺に敬礼をして迎えてくれる。

 俺は手を上げて軽く挨拶を済ませ、目的の人物の下へ近づく。


 「おまたせ」


 「ん」


 その人物はエリーだ。

 俺はエリーから頼まれていた防衛システムを設置しにきたのだ。

 エリーは俺の声に気づくと振り向いてから小さく頷いた。


 「頼まれていた防衛システム、今日完成したぞ」


 「そう、よかった」


 待ちに待った物が完成したのになんとも薄い反応だが、エリーはこれでも喜んでいる。無表情に見えるが、長い付き合いでそれがわかるようになった。

 ほんの少しだけ口角が上がっているしな。

 もう少し分かりやすく表現してほしいと思うけど、防衛システムは任せてくれと言ってから一ヶ月も経ったことに対して、「遅い」と言わないってだけで彼女の優しさは伝わっているから良いか。


 「これから設置するんだけど、通路内で作業するからその間は通行を止めてほしい」


 「わかった」


 そう答えたエリーはキョロキョロと見渡し、一般兵士より上等な装備の兵を呼びつけた。


 「エリーの姐さん、どうしたんで?」


 どうやら上等装備の兵士はクリークの迷賊時代の部下のようだ。知らぬ間に良い装備に変えていたから気づかなかった。


 「今から通行止め」


 「は?……あ、いえ、了解でさぁ。おい、おめぇら!今から往来するヒト止めんぞ!」


 「「「はっ!」」」


 マジか、理由すら聞かないのかよ。まあ、立場的にもエリーは上だからな。だが、それだけではない。

 エリーは兵士たちの訓練をたまにするが、その時に圧倒的な強さを見せつけているのも理由だ。

 最近聞いた話では、10人相手にして盾で防ぎきったとかなんとか。

 エリーの魔法都市での役割は、警備や防衛の指揮である。地球だったら防衛庁長官ぐらいの立場だ。その立場と示した実力で、ここまで聞き分けが良くなるらしい。

 俺でもクリークの部下なら即承諾してくれるが、その下の兵ともなると話が違う。「代表、何をなさるのですか?」ぐらいは聞かれるだろう。

 やっぱりエリーがいる時間帯に来てよかった。

 俺は持ってきたものをマジックバッグから出し、通路内に設置していく。

 魔法で通路内の壁を削り、内部に器具を埋め込んだ後は壁を修復するのを繰り返した。

 一時間ほどの作業で通路内の設置は終わり、エルピスへと引き返す。

 今度はこれを街側から操作出来る器具を取り付ける。通路内に設置した器具と繋がっているワイヤーを街側の器具と繋げて完了。


 「終わった?」


 「おう、とりあえずこの通路は終わった。テストしてみるか?」


 「ん」


 小さく両手をグーに握って頷く辺り、エリーもちょっとは楽しみにしていたようだ。

 よし、なら時間がかかった言い訳がてら、この防衛システムの試運転を見せてやるか。


 「おい、お前」


 クリークの部下に手招きして呼ぶ。


 「なんですかぃ?代表」


 「俺とエリーが中に入ったら、このレバーを二段階下げてくれ。で、少ししたらこのレバーを全部上げてくれるか?」


 器具はレバーがあり、それを下げる毎に防衛システムが段階的に発動する。

 段階は4段階で、レバーを4段階まで下ろしてしまうと、通路内を照らしているプールストーンまで壊れてしまうから、今回は二段階で様子を見ることにした。


 「了解でさぁ」


 「よし、じゃあ行くか、エリー」


 「ん」


 俺とエリーが二人で中に入ると、クリークの部下がレバーを下ろした。すると、通路の出入り口に土の壁が降りてきて塞がる。

 今この中は完全な密室状態だ。


 「これだけ?」


 「いや、まだまだ」


 俺がそう言った途端、通路内に冷気が漂う。


 「寒い……、これ?」


 「そう、防衛システムの第2段階の『アイスフィールド』の魔法が発動したんだ」


 「凄い、けど」


 「ちょっと拍子抜けか?」


 「……ん」


 まあ、敵を街に入れない防衛システムにしてはショボいと感じるか。でも段階があるからには、これだけじゃ終わらない。それをちょっとだけ説明するか。


 「エリー、ちょっと歩いてみて?」


 「?……ん」


 エリーが通路をゆっくりと歩いていく。


 「!?」


 「わかったか?」


 「ん」


 エリーはゆっくり歩いていたわけじゃない。エリー自身はいつも通り歩いていたが、『アイスフィールド』の効果で()()()()()()()()()のだ。


 「歩行の阻害効果で、速度が著しく低下する。その状態で3段階目が発動するんだから、エグいよな」


 「ん。出口も塞がってる」


 「そうだな。その状態で辿り着けたとしても、出口の塞ぐ岩を破壊しなければならない。お、開いた」


 説明していると、外にいるクリークの部下が指示通りレバーを上げたのか、塞がっていた岩が砂になり通路内に明かりが差した。


 「凄い」


 「まあ、問題もあるがな」


 「問題。……あ、魔力残量?」


 「正解。結局はプールストーンだからなぁ。内包する魔力残量が無くなってしまったら機能しなくなる。まあ、一応出口を塞ぐ壁のプールストーンだけは補充できるようになっているけどな」


 「大丈夫。時間を稼ぐのが目的だから」


 「そう、避難させるにせよ、防衛陣地を築くにせよ時間が必要だ。それを稼ぐのが目的だからな」


 「ん」


 プールストーンに込めた魔法出力だと、通路内の罠は1日か2日程度で終わってしまう。だが、避難や防衛陣地を築くだけならそれで十分。更に。


 「これが魔法都市側にもある」


 エルピスと魔法都市を繋ぐ通路にも設置する予定だ。避難だけなら()()を通して、住民全てを移動させることは可能だろう。

 建物がないあの場所なら陣形を整えて迎え撃つことも可能。

 これだけ用意していれば、かなりの時間を耐える事ができる。その間に俺と仲間たちで殲滅してしまえばいい。

 まあ、あくまで大勢の敵が攻めて来た場合だけどな。今の所その心配はないが、用意しておくに越したことはない。

 防衛システムの取り扱いにも注意が必要だし、まだまだ考えなければならないことは山積みだ。

 エルピスへと戻ってくると、エリーが思い出したかのように口を開く。


 「そう言えば、3段階目はなに?」


 そう言えば、3、4段階目はどんな効果なのか教えてなかったな。

 でも、そんな機密をこんな人が多い場所で話すわけにはいかない。


 「じゃあ、これから個室がある飯屋に行くか。俺朝飯まだだし……。エリー、奢るから一緒に行――」


 「行く」


 清々しい程の食い気味な即答だ。これはもしかしたらかなりの空腹具合なのでは?大丈夫かな、俺の財布。

 まあ、エリーにこの防衛システムの取り扱いについて意見を聞きたかったから、その仕事料ってことで良いか。


 「よっしゃ、じゃあ行くか」


 「ん」


 この後、俺の財布が空になったのは言うまでもない。

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