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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
二章 術式付与
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ドワーフの鍛冶屋

 森のアンデッド討伐依頼を受けた次の日。

 俺は一人で街へ来ていた。エルとリディアには昨日戦いがあったから、今日は休みだと伝えてある。俺は一人でやることがあると言うと、二人で街を見てくるそうだ。二人には昨日のゴブリン退治の報酬の大銀貨1枚をお小遣いとして渡した。二人の報酬でもあるからね。

 考えながら街を歩いていたら、もう目的地に辿り着いた。シギルの武器屋だ。


 「よう、シギル」


 「ん?あ、ギルの旦那じゃないッスか。今日はこんな早朝からどうしたんスか?」


 無事に目的の相手に会えた。留守にしていたらどうしようかと思った。


 「悪いが鍛冶場を使わせてくれないか?」


 新しい武器を作るのが目的だった。俺は今の所刀で事足りるが、エルとリディアは武器が弱い。リディアはしっかりとした剣を持っているが、刀の方が使いやすかったらしいから、俺がサプライズフレゼントしようと思ったのだ。エルに至ってはコボルトが使ってた弓だけだから、近づかれた時用を。


 「早速、その武器の作り方教えてくれるッスか?」


 「ああ。でも、その前に実験したいことがあるから、それが終わったら作ろうと思うが大丈夫か?」


 そう言い店を見る。俺に釣られてシギルも武器屋も見て、俺が言いたい事が分かったようだ。


 「あー、店はどうせ閑古鳥が鳴いているから大丈夫ッス。客が来たら呼び鈴を鳴らしてもらうッス」


 確かに一人で店番をしているのだから、食事を取りたい場合、店が無人になってしまうだろう。呼び鈴で対応してたのか。そういえば、店でシギルだけしか見たことないな。


 「そう言えばシギル。この店はシギルの家族のか?それとも親方がいて、その修業として売り子をしているのか?」


 「あたしのじいちゃんの店ッス。じいちゃんは去年に死んだッスよ。だから、あたしが店を残す為に武器を作って売ってるッス」


 「すまん。悪いこと聞いたな」


 亡くなった家族の店か。ちょっと、考えが足りなかった。


 「いやー。気にしないでくださいッス。かなり長生きしましたし大往生ッスから。死ぬ間際まで酒飲んで幸せそうだったッス」


 さすがはドワーフ。死の間際まで酒は放さないか。どうせなら槌を握っててくれたら格好良かったのだが、死んだ人に言うのは野暮ってもんだ。


 「そうか。じゃあ悪いが鍛冶場に案内してくれるか?」


 「はいッス。こっちッスよ」


 俺達は店の中を通り店の裏口から出る。裏にはログハウスのような家が建っていて、そこに案内された。どうやらここがシギルの住んでいる家、兼鍛冶場みたいだ。

 家の中に入り奥へ進むと、その部屋だけ石造りになっている部屋があった。ここが鍛冶場らしい。確かに火を使うのだからログハウスでは火事になってしまう。

 部屋の中は、鍛冶の専門家のドワーフらしく、かなり良い鍛冶場だった。


 「すごいな。揃ってない道具なんてないんじゃないか?」


 「確かにじいちゃんは鍛冶道具オタクだったッスからね」


 見たことのない道具が壁にずらっと飾られていた。もっと見ていたいがゆっくりしていられない。刀を作るのは一日がかりだ。

 そしてその前に実験もしたいと思っていた。


 「さて、早速作ってみたいのだが、シギルが知っている作り方で最も早い作り方を教えてくれるか?」


 「どれも時間かかるッスよ。強いて言えば型に流すタイプッスね。それでも固まるまで時間かかるッス」


 「しまったな。さて、どうしようか……」


 「どうしたッスか?」


 「いや、実験するのに簡単な武器を作ってからと思っていたんだ」


 俺がどうするか悩んでいるとシギルが救いの手を差し伸べてくれた。


 「それはどんな武器でも良いんスか?」


 「ん?ああ、実験だからな」


 「あたしが作った武器の失敗作でしたら、適当に使って良いッスよ」


 そう言うとシギルが一本の剣を持ってきた。それを手に取り見てみたが悪くない作りだと思う。


 「ちょっと削ったりするんだけど、これ使って良いのか?失敗作と言っていたが悪くないと思うが」


 「少し歪んじゃったッス。売り物としてはダメッスね。気にせず使ってくださいッス」


 プライドを持って仕事をするタイプみたいだ。買う側としては安心できるだろうな。だが、この街の住人の中でどれだけの人がそれを分かっているのか。分かっていたら閑古鳥なんて鳴かないだろうに。

 もしシギルが手伝ってくれるなら任せたいことがあるのだが、後で聞いてみよう。


 「じゃあ、悪いけど使わせてもらうぞ」


 「どうぞッス」


 「すまないが道具も借りる」


 シギルが了承するのを確認すると、俺は道具を借りシギルの剣を削っていく。普通ならドリルみたいな物で回転させて削るのが正解だが、この世界に機械なんてものはないし電力もない。自力で削るしかないから、時間がかかった。


 「それは……、魔法陣ッスか」


 そう。俺は魔法陣を剣に刻んでいた。俺が作ろうとしているのは魔剣だ。この世界にそういう物があるかは知らないが、魔法の使えないリディアでも魔法剣としてなら使えるようにしてあげたいのだ。

 リディアは魔力集中の維持が出来ない。だが、魔力の操作は出来ていた。ならば、剣に魔力を流すだけで魔法が出来るようにすればいいのだ。

 シギルの言葉に軽く頷いて、俺は作業を続けた。


 「よしっと。とりあえずは描けた」


 魔法陣は描けた。後は魔力を流せば発動するかやってみるか。

 手に魔力を集め、剣の魔法陣に流してみたが上手くいかない。


 「あー、ギルの旦那。それはダメッス」


 「ん?なぜだ?」


 「金属は魔力を通さないッス。それに通す事が出来ても魔法は発動しないッスよ」


 なんだと?それじゃあ、俺がやろうとしていることは無駄じゃないか。

 詳しく聞いてみると、魔力を通す金属は希少金属のミスリルだけだそうだ。ミスリルは大きなダンジョンからしか取れず、量も少ない為にかなりの高額で売買されているとか。

 だが、通すことが出来ても魔法が発動しないというのはおかしい。紙に描いた魔法陣でも発動したんだから可能なはずだが、これにも理由があった。結局の所、土に描こうが、紙に描こうが魔法使いはその上をなぞるように魔力を流すから発動するだけで、魔力操作だけ出来る人がやったところで魔法陣を魔力で描く才能がないのだから一緒だということだ。

 この世界の人々も馬鹿ではない。魔法が使える世界なのだ。既にやれることはやっている。

 シギルに魔剣のことも聞いてみたら、存在するらしい。ダンジョンの奥深くへ行き宝箱から稀に出るらししいが、奇跡的に見つけても皆売ってしまうそうだ。かなりの高額で売れば一生遊んで暮らせる程らしい。だから所持しているのは、王族か貴族のコレクターだけだということが分かった。

 シギルも見たことはないと言っていた。


 つまりは行き詰まった。

 だがここで諦めるわけにはいかないから、色々考えてみるか。

 最新の魔法理論書でもあれば、それをヒントに閃くかもしれないが……。いや、待てよ。そういえば、リディアの魔法理論には、最近の魔法使いは杖を使って魔法陣を描くと書いてあった。なぜ、杖には通せる?


 「シギル、魔法使いが使っている杖は魔力を通せるよな?」


 「そうッス。あれはマナの木で、工房にも何本か置いてあるッス。元々魔力がある木で、ダンジョンに生える木ッス。切った後は魔力が無くなりますが、魔力を通しやすい素材に変わりそれを杖にして魔力を通すと安定すると言われているッス。だけど、所詮は木ッス。剣にしても木刀が精一杯で火の魔法を使えば燃えてしまうッスよ」


 なるほどね。だけど、それは握りの部分に使えばいいだけじゃないか。それに元々魔力を持っている物なら良いのか。待てよ、あるじゃないか、魔法を通しやすい素材を俺は持っている。


 「悪いがシギル。マナの木を少し都合してもらえないか」


 「別に良いッスよ。高いものではないッスから」


 そう言うとシギルは鍛冶場から出ていった。

 シギルがマナの木を取りに行っている間に準備しておこう。

 俺はマジックバッグから魔石を取り出し小さく割り、そこに魔法陣を描く。

 しばらくするとシギルが戻ってきた。俺が作業をやっているのをみると近づいてきて手元を覗く。

 真っ黒な石に魔法陣を描いているのを見て、首を少し傾げたあと急に大きな声をあげた。


 「ちょっ、それ魔石じゃないッスか!そんな高価な物に何やってんスか!」


 魔石も高価な素材みたいだ。シギルがこの後聞いてもいないのに魔石は有用性について語ってくれた。魔石は錬金術に使われていて、魔力を回復する薬を作る材料だとか。小さな魔石でも売れば金貨以上になるそうだ。

 だが俺は気にせず魔石に魔法陣を描いた。

 魔法陣を描き終わると、シギルが持ってきてくれたマナの木の先に穴を開け、そこに魔石を嵌め込む。


 「よし実験第一号完成」


 「もったいないッス」


 シギルが小声で言うが、俺は無視しマナの木を握ると魔力を流してみた。

 すると、マナの木の先から小さな火が出た。一応魔法陣を作るようにではなく、単純に魔力を流してみたが、多分上手く言っているはず。


 「おお!どうなってるんスか?!あたしにも使えるんスか?!」


 「シギルは魔力を流すのは出来るのか?」


 「まぁ、ドワーフは魔法は使えないッスけど、少ない魔力を流すぐらいは出来るッスよ」


 そう言うので実験第一号をシギルに渡し、魔力を流させてみたら問題なく火が出た。シギルは凄く喜んでくれたから、その実験第一号『たいまつ君』をシギルにプレゼントしたら更に喜んでくれた。

 魔石を削って魔法陣を描くだけで、魔法が発動するのは俺が裏で色々実験して気付いたことが元だった。実は魔法陣さえ描けていれば魔法は発動する。魔力集中をすると空中に光の字が書けるのだが、逆に光を紙にして字の部分に魔力を通さなくても魔法は発動するのだ。魔力消費が激しいし魔法陣の部分に魔力を流さないのがかなり難しいから誰もやらないが、魔力を絡めて魔法陣を描ければ魔法は発動するのがわかっていた。


 さて、これで問題はなくなった。次は武器を作ろう。


 「シギル、次は刀を作るから手伝ってくれ」


 「ようやくッスね。了解ッス」


 「長時間かかるぞ」


 そう言うと俺はマジックバッグから玉鋼を取り出した。


 「クズ鉄なんて取り出してどうするんスか?」


 そうだった。この世界では玉鋼はクズ鉄と言われているのだ。

 俺は丁寧に玉鋼の事をシギルに説明すると信じられないという顔をしていた。

 そして俺はコボルトのダンジョンでやったように刀作りを始めた。

 途中シギルが質問をするから手を休めずにしっかりと答えてあげながら、ようやく刀を作ることが出来た。外は暗くなってきていた。


 「刀の完成だ。あー疲れた」


 「疲れたなんてもんじゃないッスよ!なんすかこの面倒くさい工程は」


 「だが見ろよ。素晴らしいだろ?」


 そう言うと刀をシギルに渡す。シギルが刀を持ち上げるとうっとりしながら眺めている。


 「確かに綺麗ッスねぇ。この刃の紋様、刃紋ッスね?これが素晴らしいッス」


 シギルに手伝ってもらったからか、今回は歪な形をしておらず出来はかなり良い物となった。だが、まだ完成ではない。

 俺は魔石を刀に合うように切り魔法陣を描く。それが終わると今度は刀に嵌め込むように穴を開ける。今回の刀は魔石を埋め込む為に柄の部分を長くしてある。その柄と刃の間に穴を開けそこに魔石を嵌め込むのだ。握りをマナの木で作ると魔石に触れるようにし完成した。俺の刀を含めて鍔や鞘もシギルに手伝ってもらい、全ての工程を終了した。


 「さて、早速実験してみようか」


 俺は柄を握り魔力を流してみた。すると刃に纏うように炎が上がった。


 「す、凄い!ギルの旦那は魔剣を作ってしまったッス!」


 「シギルも一緒だろ?これで一つの武器は完成した。もう一つ作りたいが手伝ってくれるか?色々相談しながら作りたい」


 「はいッス!」


 シギルも未知の武器作りに興味津々で、もうすぐ日が暮れるというのに興奮して疲れを見せない。

 これなら今日中に終わりそうだ。俺では難しい作業があるから、シギルに相談しながらやっていこうと思う。


 それから真夜中になるまで二人でエルの武器を作った。

 作った後は二人でその場に倒れ、朝まで寝てしまった。朝起きたらシギルが俺を抱きまくらにして寝ていたが絵面がかなりやばい。俺の妹といえばなんとかなるが、血は繋がっていない。俺は静かにシギルを引き剥がすとシギルを起こした。そして、お礼を言おうとしたら、逆にシギルにお礼を言われた。貴重な経験をさせてくれたからだそうだ。それ外で言うなよ?その言葉で色々誤解されるから。

 そして俺はシギルの工房を後にした。


 宿に帰るとエルとリディアにジト目で見られ、何故か色々怒られた。

 だが、俺は二人に武器をプレゼントすると今まで見たことない笑顔で受け取ってくれた。やっぱりどの世界でもサプライズプレゼントは嬉しいよね。


 ようやくアンデッドと戦う準備が終わった。

 今日はゆっくり休み、明日にはもう一度森に行きアンデッドを退治することに決めた。

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