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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十二章 王国西方の戦い
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圧倒的な力の差

「ギル様?!」


 リディアが動揺するのも仕方がない。

 身内の不始末の片を付けるのは、やはり身内であるリディアであるべきだからだ。

 当然俺も同じ考えだ。

 だが、こう見えても俺は元会社員で、役職についていたのだ。リディアを部下などとは思っていないが、嫌な役回りは上司の務めだからな。………いや、心の中で何を言い訳じみているのやら。別に誰にも聞かれるわけでもない。

 正直に言えば、リディアを助けてあげたい。

 誰だって家族を手に掛けたくない。

 どんなに悪逆非道な行いをしたとしても、幼少の頃の良い思い出はある。レイアと楽しく遊んだことや、何気ない会話の思い出が。

 もはや人間に戻ることはなく、そしてこれからも人間を食料にしていくことが確実であっても。

 それを元妹と割り切り殺したとして、その後は?

 リディアはレイアと過ごした楽しい思い出と、ヴァンパイアと化した妹を殺した思い出を一緒に抱えていくことになる。

 死ぬまで、ずっと。それは辛く長い人生になるだろう。

 そんな思いはさせたくない。

 だから、俺が殺る。


 「レイアは俺が殺す」


 「……レイアは私の妹です。姉として責任を――」


 「そんな責任はない」


 リディアの言葉を遮る。

 語気を強めて言ったのもあり、リディアが少しだけ怯むが今回ばかりは従順ではなかった。


 「ですが!やはりこれは家族の問題です!レイアはこれからもヒトを殺めます!もしかしたらこの大陸に生きる全て生命にとって脅威になるかもしれません!それが私の妹なのです!ですから、亡き父に変わり、最後の生き残りであるガウェイン王家の私がヴァンパイア・レイアを仕留めます!」


 あ、ガウェインって家名だったの?てっきり、リディアの親父さんの下の名前かと……。

 いやいや、今はそんなことに食いついている場合ではないな。

 ここは俺の知能ステータスをフルに使ってでも説得しなければ。


 「リディア」


 「はい」


 「レイアをヴァンパイアにしたのは誰だ?」


 「……」


 リディアは無言でチラリとブルートを見る。


 「ブルートだ。この国を滅ぼしたのも、リディアの家族を殺したのもブルートがやった。王国西の戦場で見たあの残酷な光景を作り出したのもだ。リディアが倒すべき相手は本当に妹か?」


 「ですが……」


 「責任という言葉で目的を誤るなよ?リディアが恐れ、力を求めた理由は妹を殺すためじゃないだろう。元々の目的を果たせ。ブルートを倒せ」


 妹を殺す殺さないの問題だけではなく、リディアの魔力の問題もある。

 リディアの剣技はあのシリウスにも負けないが、魔力は多い方ではない。ヴァンパイアを倒すには魔法剣が必須なのだから、レイアと戦った後に目標であるブルートを相手にするのは厳しい。

 賢明なリディアならば、それが理解できるはずだ。

 リディアはレイアを睨んでから、悔しそうな表情をして頷いた。


 「………はい」


 「よし。それに、どうやらレイアはもうリディアに興味がないらしいぞ。俺にご執心のようだ」


 レイアは俺を射殺さんと睨みつけていた。

 まあ、この会話も聞こえているだろうしな。目の前で自分を倒した後のことを話していれば、ムカつきもするか。

 リディアは一度深呼吸すると、気持ちを切り替えたのか困ったように笑う。


 「あの子は負けず嫌いですから。それとギル様」


 「ん?」


 「どうかよろしくおねがいします」


 何をよろしくなのか。俺と戦う以上、レイアは苦しむことになりそうだが……。


 「ああ」


 一応、こう答えておく。

 俺の答えを聞くと、リディアは後ろに下がった。

 さてそのレイアだが……、この長話の間に奇襲をかけてきてもおかしくないほど怒り心頭なはずなのに、動かなかったな。

 名無しヴァンパイアのようにいつの間にか消えて、背後から攻撃をされるかもと警戒していたのに。

 突っ込んできた所を土魔法のワイヤーで首チョンパする魔法陣が無駄になったな。

 んー、思い通りにはいかないな。調子が狂う。これも知能がある魔物だからだろうか。


 「話は終わったかしら?危うく最後のお別れをしている最中に殺しそうになったじゃない。ブルートの言い付けがあってよかったわね」


 お、何やらいつでも殺せた的なことを言っているな。リディアの話す通り負けず嫌いらしい。言い返したかったのだろう。

 だったらさっさとかかってこいよな。靴裏に隠してある魔法陣が増えすぎて厚底になっちまうぞ。

 しかしこいつ、ブルートの言い付けを守ってばかりだな。いったいどんな言い付けをされているのやら。

 だけど、それじゃあいつまで経っても戦いにならないんだよな。もう俺が得意とする不意打……じゃなくて、先制攻撃のタイミングは過ぎてしまったから、今はカウンターに切り替えているしな。

 どれ、少々怒らせてやるか。


 「こっちはいつでも良いんだがな」


 「………本当にイラつくわね」


 「おや?正直者で本音ばかり言っていたせいで、修復不可能なまでに関係が悪化したぞ。人間関係とは難しいものだな。ああ、いや、人虫関係か?血を吸う蚊だしな」


 「おまえ!!!」


 俺の煽りでレイアは完全に頭に血が上ったようだ。重心を下げ突撃体制になっている。戦闘開始だろう。

 思考加速。

 加速する思考で状況を確認。

 ブルートは今も椅子に座ったまま傍観している。どうやらあいつはレイアに加勢する気はないらしい。

 レイアは突進で間違いない。目線、体の向き、そして怒り。直接俺を狙うだろう。

 攻撃方法は?

 わずかに右肩と右肘が上がっている。右手が手刀の形。

 瞬足で俺の元まで距離を縮め、その勢いで手刀の薙ぎ払いか貫手だな。

 俺は椅子に座っている状態。それも足を組んで肘掛けに乗せた手で頬杖をしている姿勢。これじゃ避けようもない。まあ、避けるつもりも、この姿勢を崩すつもりもないが。

 彼女は少々調子に乗りすぎた。

 圧倒的な力量の差を見せつけるには丁度いいだろう。

 レイアが溜めた力で飛び出す。蹴り足で床が爆発したかのように飛び散り、途轍もない速さで俺に迫る。

 でもな、ヴァンパイアが速く動くことは法国で知っているんだよ。今更慌てることはない。

 靴裏に隠して展開し、いつでも発動出来る状態の魔法陣に魔力を流す。

 天井に魔法陣が現れ、小さな石ころを数個落とす。

 石が座っている俺の顔辺りの高さまで落ちた頃、レイアがそこを通過。

 落とした石を全てレイアは顔で受け止めることになった。

 レイアは小さいからな。座っている俺と同じぐらいの背丈だから、当然顔面に当たる。

 ガガガガガガッという痛々しい音が響いた。

 瞬足がゆえに、ただ落とした石が弾丸と化したのだ。

 レイアはどうやって攻撃されたのか分からないという思考と、石に当たったことによる衝撃で一瞬動きを止めた。

 足を止めたな?また俺に考える時間をくれるというわけか。

 じゃあ、読んであげよう。次はどうでる?

 レイアの表情を見ると、どうやら俺が攻撃したことを理解したらしい。さらに憎悪を込めた目で俺を睨む。

 今度はどんな攻撃をされても足を止めずに俺へ攻撃すると言わんばかりに、先程より深く腰を落として突撃体制をとった。

 まあな、何かをされたとしてもさっきぐらいのダメージなら、少し我慢すればいいだけだしな。

 でも、それすらも計算されているとしたら?

 俺は靴裏に隠してある魔法陣の内、()()に魔力を流す。

 すると、俺とレイアの間を遮るように炎の壁が吹き出した。

 レイアは左腕で顔を庇うと、構わず火の壁へと飛び込む。

 アンデッドならばこれで全身が燃えて決着がつくのだが、同じアンデッドでもヴァンパイアは違うらしい。レイアの突進スピードもあってか、火は恐れる対象ではないようだ。

 だが、それは俺が発動したのが火の壁だけだったらな。

 もう一つ発動した魔法は、石の壁。

 火の壁に並んで分厚い石の壁を発動したのだ。

 レイアからだと火の壁しか見えないだろうな。

 結果は当然、石の壁にぶち当たる。


 「びゃっ!」


 バチーンと壁に突撃し、その音に混じって変な声がした。

 だが、この魔法のえげつなさは、そんな叫び声だけじゃ済まないんだよ。

 石の壁にぶち当たったせいで、彼女は火の壁の中で止まったのだ。わかりきっているが、燃える。


 「きゃああああああ!」


 炎の壁からゴロゴロと転がり出て、服や髪に移った火を偶然そこにあった水たまりで消している。

 火を消し終わると、ゆっくりと立ち上がって俺を睨みつけた。靴がまだ燃えているけど。

 それに気がついたレイアは水たまりに地団駄を踏むかのように足を叩きつけ消火した。

 良かったじゃないか、水たまりがあって。思ったより服も髪も焦げていない。肌も焼けていないし、ヴァンパイアは頑丈で羨ましいよ。

 さてさて、お次はどうなさいますか?

 レイアはわずかに目を細めて俺を見る。俺と視線が交差する。

 さっきのような憎悪に染まった見方ではない。……考えているな。

 レイアは自然体の状態で立ち、視線を俺から外すと左側へ動かした。それから重心を左側へと傾け飛び出す体制になる。

 回り込む気か?一直線に俺へ向かった所で、カウンターで魔法を受けると悟ったのか。

 と思った矢先、レイアは無理矢理体を捻じり、逆側へと走り出す。

 おお!素晴らしいじゃないか!直情的で脳足りんかと思っていたが、しっかりとした思考能力をもってらっしゃる。

 俺が時間を掛けて魔法陣を描く必要がないことも、直線的に動けば罠が待ち構えていることも、俺がレイアの思考を読んでいることも見抜いたか!フェイントとは恐れ入った!

 靴裏に展開してある魔法陣の残り2つは、このフェイントで無駄になってしまった。ワイヤー首チョンパ魔法を含めると、3つも無駄に魔力を使わされたことになる。やるじゃないか。

 だけど、俺が準備していた魔法陣は全部で9つ。無駄になった3つに、石、炎の壁、石の壁。後3つ魔法陣が残されているはずだが……、それはもう発動している。

 一つは水たまり。

 都合よく水たまりなんてあるわけがない。これも俺が作り出した魔法の一つ。

 そして、最後の二つは火と風属性。合成魔法の氷属性だ。

 いつの間にか、水たまりが氷へと変わっている。今、レイアの片足は氷で床にくっついている状態だ。

 炎の壁は床から吹き出す魔法だ。靴が初めに燃えるのは予想できる。その状況で水たまりが足元にあれば消したくなるのは当然だ。

 しかし、水に濡れたおかげで足を氷漬けにしやすくもなった。

 レイアは走り出そうと一歩を踏み出したは良いが、その場から動いていない。なんせ、蹴り足が床と一体化しているからな。


 「な?!」


 驚いているところ悪いが、動きが止まったとなれば後は考えるまでもない。好きな魔法を使わせてもらう。

 レイアの言動や考え方からして、好き勝手やってきたのは明らかだ。

 何人の人間が犠牲になったのか。人間が食料なのもあって、犠牲者は多いはずだ。

 まあ、大量虐殺をした俺に言われたくはないか。

 だが、大義名分我にありだ。

 少しばかり性格を矯正させていただく。

 魔法陣を展開。今度は隠さず見えるように。

 すぐさま発動。


 「痛っ!」


 レイアの小さな悲鳴。

 ただ遠くから見てもレイアになんの外傷もない。

 それもそのはず。俺が発動した魔法は土属性で作り上げた針を打ち出すというもの。今レイアの身体のどこかに刺さっているはずだ。

 そう言えば今更だが、痛覚はあるんだな。ヴァンパイアは一応アンデッドなんだがな。

 痛覚があると考えるとこれは(むご)い魔法かもしれない。


 「なあレイア。アイアンメイデンを知っているか?」


 「何をっ!」


 レイアは俺と穏やかに会話をする気がないらしい。刺さった針を抜いてそれを叩きつけながら、悪態づくように返事をする。


 「拷問器具らしいぞ。俺の世界にあるんだ。拷問器具と言われているが、構造からして処刑道具と言っていい。その構造というのは、女性を模した鋼鉄の人形で中が空洞なんだ。その人形を観音開きのように左右に開けることが可能で、扉の内側には沢山の釘がついているんだよ。罪人はその中に入れられ、扉を閉められて全身を釘の棘で刺されることになる。こんな風に」


 俺は魔法陣を20展開すると発動する。それとは別にもう一つ手にも魔法陣を構築してく。

 20の魔法は針を飛ばすもの。20本の針がレイアへ突き刺さった。


 「いぃいいいいい!やめて!」


 レイアの悲鳴と拒否。

 俺はそれに耳を傾けず解説を続ける。


 「そのアイアンメイデンだが別名『鉄の処女』なんて言われているんだが、面白いことに大部分が木製で鉄の部分は釘と蝶番だけらしい。これで『鉄の』なんてよく言えると思わないか?」


 さらに魔法陣を30展開。すぐに発動。

 針がレイアへ突き刺さる。


 「いいぃいいいいい!痛い痛いイタイイタイイタイいたいたいたい!!」


 悲痛な叫び。それでも俺は魔法を使う。魔法陣を40、50、と増やしていく。


 「それに、実際にその処刑道具があったかも疑う研究者多くてね。その理由が釘の製造年がその当時か、後年に後付されたのか判断できないかららしい。他にも宗教的な見解もあるんだが、それは別にいいか。この世界には関係ないし。さて、解説はここまでにして、その実在するかわからない拷問はどうだ?死なないというのは辛いな?」


 初めは見えなかった針だが数が増えたのもあり、今ではよく見える。


 「殺す殺すころすコロス!!」


 「良かったじゃないか。蚊からハリネズミに進化したぞ」


 「コロス!!!」


 動きを止めていた足の氷が割れ、全身に刺さっていた針が抜け落ちる。

 痛みと怒りで火事場のクソ力が発動したらしい。筋肉の収縮だけで氷を割り、針を抜いたのか。こりゃあ、魔物と人間とでは元々の基本的なステータスに差があるというのも間違いではないな。

 しかし……、あれだけ力の差を()()しても反省は無し。殺意の方が強い……か。残念だ。

 終わりにしよう。ここまでやっておいてなんだが、やっている方も辛いんだよ。俺には加虐的な性的趣味はないんでね。

 この長ったらしい解説で時間稼ぎも出来た。時間の掛かる魔法の陣を描く分のな。

 俺の手には土魔法で生成された槍が出来上がっている。金属製の槍だ。

 残りの待機状態である魔法陣に魔力を流し指先に電気を生成。

 俺が使える魔法の中で、現状最強の威力。電磁加速砲。これで終わらせる。


 「さようなら、リディアの愛すべき妹。『電磁加速砲』」


 次の瞬間、レイアの胸と背後の壁に穴が空いていた。

 今だに決定的なヴァンパイアの倒し方というのは判明していないが……、地球でも心臓に杭を打つというのは有名な倒し方だ。

 その上、魔法で作った金属で心臓に風穴を開けたのだ。それも一瞬で。

 痛みも感じず逝けただろう。

 電磁加速砲が途轍もない威力と貫通力だったせいか、レイアは自分の身に何が起きたかわかっていない。

 激しい衝撃はあったものの、吹き飛ばされることもなく立ち尽くしている。

 自分の胸を見て穴が空いていることを認識した後、ゴフッと血を吐いて床に倒れ伏した。

 終わったな。

 辺りは沈黙が支配していた。魔法の威力に、呆気ない決着に。


 「う」


 沈黙だからこそ聞き取れた。今の呻き声はレイアのだ。

 死んでない?!「勝ったな」的なドヤ顔を返して!恥ずかしいから!っていうか、これで死んでないんだったら、どうやって殺すんだよ。木の杭じゃなかったから?そんなバカな!

 魔法を使った攻撃は有効的だった。レイアも針には痛みを感じていた。だからこそ、確信を持って電磁加速砲でとどめを刺したのだ。

 なのに、生きている。法国で倒したヴァンパイアとは違いすぎる。

 俺の背後で消し炭になっている使用人らしきヴァンパイアに名付けると言っただけあって、レイアはヴァンパイアとして格が違うということなのか?


 「……う……うぅ」


 だが、効いたのは間違いない。

 おそらく、意識はないだろう。回復力の強いヴァンパイアが立ち上がれないのが理由だ。

 油断を誘うための演技とも考えた。だが、この場合はあり得ない。殺すことが最終目標である相手に対して、意識がない演技は隙でしかない。それに俺はこの椅子から立ち上がる気もなく、魔法で戦うのだから、近づいた瞬間に反撃なんて古典的な逆転方法も無意味だ。

 もしかして瀕死なのかもな。

 なら、とどめを刺すなら今しかないのだが……。


 「ご………めん……な、さい………」


 俺が考えている間の僅かな時間。そこで聞こえた謝罪。

 やっと聞くことが出来たレイアの謝罪。

 俺たちに対して言った失礼な言葉や態度にではない。おそらくこんな状況になってしまった自分の行いの全てに対しての後悔と懺悔だろう。

 無意識だからこそ出た言葉。

 この言葉が聞きたかった。

 あくまで個人的な考えだが、生きるために人間の血を吸わなければならないのは仕方がないと思う。それは俺たち人間を含めどの動物もそうだからだ。人間を食料にするなんて許せないというのは自分勝手な考えだ。

 もちろん抵抗はするし、犠牲になったのが知人ならば復讐もするけどな。

 だが、今回レイアたちヴァンパイアがしてきたのは、ゾンビを使った戦争だ。犠牲者が大勢いる。

 窮地に置かれ、ナカンという国として色々考えた末の戦争だったかもしれない。

 ゾンビを使ったやり方だって、無人航空機で爆撃するのと変わらない。

 しかし、間違ったのだ。

 ヴィシュメールを狙ったこと。リディアを傷つけたこと。

 今自分が置かれている状況を引き起こした発端は、ヴァンパイアになり国を滅ぼしたことだと思いだしてほしかった。

 そこからリディアが逃げ出し冒険者として生きてきた。その数年後俺と出会った。

 そして、今俺たちが目の前に立っている。自分を討伐するために。

 全ては自分が撒いた種であると後悔してほしかった。

 ………だが、それも少しだけ遅かった。瀕死になる前に気がついてほしかった。そうすれば、レイアを助けられたかもしれないのに。

 でももう遅い。俺には死にかけのヴァンパイアを救うという選択肢はない。

 このまま、意識のないまま永遠の眠りについてもらう。

 と考えてみたものの、どうするかな。確実に殺せると思った魔法で生きているんだもんな。

 あと出来ること言えば、後ろで消し炭になっているヴァンパイアのように、全身を焼き尽くすぐらいしかない。

 さすがに意識を取り戻してしまうだろうな。そうすれば、全身を焼かれる痛みで苦しむことになる。

 だが、それしかない。俺の知識の少なさを許してくれ。


 「その生命力さえ無ければ、痛みを感じる暇がない速さで仕留めてやれたんだが……」


 出来る限り短い時間で焼き尽くす。

 幸いにもジェットエンジン開発で作った魔法がある。あれならば、短い時間で焼き殺せるだろう。少々面倒臭い魔法陣で、発動までに時間がかかるというのが難点だが。それまで意識を取り戻すなよ。

 俺は魔法陣の構成を調整すると、次々と展開していく。

 そして、完成。なんとか意識を取り戻すまでには間に合ったようだ。

 後は魔力を流せば、ジェットエンジンのバーナーで焼き尽くす事ができる。

 俺は一つ息を吐き、魔力を流し込もうと集中した。

 その寸前。


 「待て」


 今まで全く動かなかったブルートが俺を止めた。

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