表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
二章 術式付与
17/286

森のゴブリン

 俺は異世界の街、ヴィシュメールのとある小さな武器屋の前で、見た目が子供、心は大人なドワーフに怒られていた。

 幼女に見えるが、二十歳を過ぎたドワーフの女性。職業は鍛冶師だと言う。


 「ギルさま、さすがに大人の女性にお嬢ちゃんと年下であるギルさまが言うのは失礼かと……」


 「ギルお兄ちゃん……ダメです」


 え?二人共分かるの?マジかよ。

それよりこの中で一番年上はエルって事になるのか。いやー、異世界はわからん。とりあえず言い訳しとくか。


 「気を悪くしたのなら謝る。ドワーフの女性を見るのは初めてだったから」


 「あぁ、なるほどッスね。それなら仕方ないか。エルフと並んで老化が遅いッスからね。ドワーフの女は」


 ドワーフは男は若くしておっさんになり、女はずっと子供の見た目だそうだ。慣れれば、見分けがつくそうだ。本当に?俺、自信ないよ?


 「それで、武器見てくれるッスか?」


 「あ、あぁ。今の所買う予定はないけど、遠目に見てかなり質の良い武器だったから見させてもらおうと思って」


 「ほんとッスか!?いやー、そう言ってもらえると嬉しいッスね!どうぞ見てくださいッス」


 店に並んだ色々な武器を見て回る。どれも高い水準で鍛えられていた。さすがはドワーフという所か。


 「へー。槌で鍛えたんだな?丁寧な仕事だね」


 「! 分かるんスか?!」


 剣なんだから、槌で叩いて鍛えるのはあたりまえだろ?と、思うかもしれないが、型に鉄を流し込んで作る技法も多い。

 これは西洋の剣と、日本の刀との違いでもある。西洋の剣は、重く硬い。そして両方に刃がある。どちらかというと叩き斬るという表現が正しいだろう。多少刃が欠けても鈍器として戦い続ける事が可能である為、使い手を選ばない。戦の多い時代では、早く大量に作らなければならないために型に鉄を流し短時間で仕上げていたとされる。

 一方、日本の刀は片側にしか刃がなく、薄くしなやかだ。斬る事に重点を置いている。刃が欠けると切れ味が大幅に落ちる為、骨を切断することが困難になり戦闘不能にさせる可能性が低くなる。しかしながら、腕のある剣豪になると何人斬っても刃が欠けなかったと言われている。使い手を選ぶ武器なのだ。ただ、戦国時代のように戦の多い時代では、刃が欠けても戦い続ける事が出来る西洋風の叩き切る剣が多かったとも言われている。折れず、曲がらず、斬れるを目標にして、日々研究を重ね槌で打ち進化して、今の刀があるのだ。

 まぁ、文献でも未知な部分が多いから、俺の推測もはいっているが。


 剣は力が重要で、刀は技術が大事だということである。もしかしたら、リディアは刀向きなのかもしれないな。ゴブリン退治の時にでも使わせてみるか。


 「まあ一応俺も剣を打った事あるしね」


 言いながら、自分の腰にある刀を見る。


 「へぇ、ちょっと見させてもらっても良いッスか?」


 「いいよ。ちょっと歪だけど初めて打った割にはよく出来たと思う」


 刀を抜き怪我をさせないように渡す。刀を受け取ると刃を眺めながら呟く。


 「……。凄い綺麗な刃ッスねぇ。これ初めて打ったって本当ッスか?」


 「まあな。さすがに俺が思い描く美しい刀には程遠いけど、斬るだけなら中々だと思う」


 「今度、もし作る機会があったら見させてもらっても良いッスか?うちの工房使ってもらって良いッスから」


 物凄く勉強熱心だ。自分の知らない技法を見て覚えたいのだろう。

 俺も考えてた事を試すのに鍛冶場が必要だった。これは渡りに船かもしれない。材料もまだ残っているし近い内に作ることになるかもしれない。


 「いいよ。俺も作りたい物があるんだ」


 「本当ッスか!じゃあ、その時に見せてもらうッス!あたしはシギルッス」


 「シギルッスか」


 「シギル!ッス」


 む、ややこしいな。シギルか。


 「シギル、だな。俺はギルだ」


 「ちょっとだけ名前似てるッスね」


 確かにそうだな。かなりややこしいことになりそうだ。

 俺の自己紹介が終わると、エルやリディアの紹介もし、また近い内に寄らせてもらうということで、シギルの武器屋を去った。


 「面白いドワーフでしたね」


 「かわいかっった、です」


 リディアとエルのシギルの印象だ。俺もパワフルなのはドワーフぽかったと、改めてシギルをドワーフとして認識したのだった。


 シギルの武器屋を出て宿に戻る頃にはもう夕方になっていた。部屋に戻る前に食事をすることになり、一杯やりながら明日の事を話す。

 明日は試しに森に行って、ゴブリンと戦ってみようということになった。俺とエルはゴブリンと戦った経験がないが、リディアは問題ないですと言っていたから大丈夫だろう。

 食事が終わり二階へ行こうとして、あることに気付いた。宿は明日までしか取っていない。追加で宿泊することに決め、受付で追加料金を払う。

 しめて大銀貨6枚と銀貨8枚だった。残りの所持金は金貨4枚、大銀貨3枚、銀貨7枚に鉄貨2枚程だ。今日の屋台や今食べた食事代も馬鹿にならない。これはゴブリン退治で10日も使ってしまったら大赤字だ。早めに終わらせることを心に決める。


 二階へ上がり、自分の部屋へ行こうとしたら、エルがこんなことを言い出した。


 「今日はギルお兄ちゃんと寝たいです」


 え?待て待て。確かに俺の鉄の意志があれば、間違いが起きることはないだろうが、確実に悶々としてしまうだろう。睡眠不足になってしまうかもしれない。なんとか傷つけずに断る方法はないだろうか?


 「ダメ、です?」


 エルは涙目になりこう言ってきたのだ。もちろん速攻でOKしてやったさ。誰が俺を責めることができる?リディアもしょうがないという顔をしている。ん?俺に呆れているのではないよな?


 そういうことでリディアに部屋を交換してもらい、エルと寝ることにした。ベットは2つあるし距離が離れているから問題はないだろう。

 さて寝なければならないのだが、俺は現在スーツ一着しか持っていない。寝る時は下着で寝ている。つまりはエルの前で脱がなければならないのだ。そんなの嫌がるだろうしどうしようか。

 考えていると、エルがためらいもなく服を脱ぐ。エルは、上半身から腰部を覆う薄い肌着になるとベッドに入った。いわゆるシュミーズと呼ばれているものだろう。

 エルは恥ずかしがりもせずニコニコしている。


 「お兄ちゃんと一緒に寝るの馬車以来、です」


 そんな笑顔に毒気を抜かれた。まあ、色々考えすぎた俺が馬鹿だったな。

 馬鹿らしくなったから、普通にスーツを脱いでボクサーパンツとタンクトップになった。俺の下着だ。

 俺もベッドに入り、エルにおやすみを言う。


 「よし、明日は森で戦闘があるから早めに寝て疲れを取るぞ」


 「はいです。ギルお兄ちゃん、おやすみです」


 「はい、おやすみー」


 とは言ったものの寝れるだろうか……。


 いつもの事だが、ぐっすりだった。俺は一体なんなんだよ。



 目が覚めると朝だった。ひとつあくびをし、エルの方を見るとベッドは空だった。

 もう起きたのかと思ったが、何か違和感ある。掛け布団を捲ってみるとエルが俺のベッドで寝ていた。


 ななっ?!


 それだけではなく、エルが朝オッキしている俺を掴んでいるのだ。ちょっと何言ってるかわからないけれど、それだけ動揺している。

 まずいですよ。15~6歳の若い身体で、しかもこの世界に来てから賢者タイムを経験していない。オッキしているモノを掴まれたら何かが出てしまうかもしれん。

 どうしてこうなったのだ。


 「どうです~?30メートル、届いた、でふ~。次は50メートル、目指す、でしゅ~」


 どうやら弓の練習を夢の中でしているようだ。

 あ、そんなに強くは握っちゃらめ。


 「いきましゅ~」


 そういうと、エルは縦やら横やらにグイグイと傾けた。

 やめなされ、やめなされ。

 そして、強く握り上下に手を振った。


 な、な、なふぅううううううう!


 俺の鉄の意志とは関係なく、色々汚されてしまったのだった。



 朝の事はすっかりなかったものとして、俺達は今森にやってきていた。

 あ、ちなみにパンツは宿で干してあるよ。

 さて、ここは森と言うよりはジャングルに近い。木々だけでなく、草も生い茂って非常に視界が悪い。突然、魔物が出てきたら反応が遅れてしまうから、気が抜けない。

 俺達は、エルを挟むように先頭にリディア、最後尾に俺といった感じで縦一列で進んでいた。

 もし敵が現れた場合、エルに直接行かせない為だ。


 俺達が森を進んで一時間程経っただろうか?視界が悪い中で、魔物に襲われるかもしれない緊張感で歩くにはそろそろ集中が途切れる頃だろう。一度戻り森を抜け、休憩してから再突入しようかと思っていたら、エルが小声で俺とリディアに言う。


 「お兄ちゃん、お姉ちゃん。多分、あの先に魔物いる、です」


 真剣な口調だ。俺とリディアは目を細めて確認する。いた。多分ゴブリンだろう。数は3体だ。もし、倒すことができれば、一日の最低目標は達成出来る。さて、どうしようかね。

 すぐに作戦を立て、二人に話す。


 「エル、まずはあいつらに向けて射ってもらえるか?三匹こちらに向かってくると思うが確実に当たる距離までひきつけてまずは一匹仕留めてくれ。もし失敗しても焦らず、次の矢を準備だ。一匹仕留めることが出来たら、今度は俺が相手している方を狙ってくれ」


 エルに指示を出す。コンビネーションを育てる為に俺とコンビを組んで戦うことにした。

 エルが頷き理解したことを確認すると、リディアの方を向く。


 「リディアには一匹任せる。やれるな?」


 「任せてください」


 リディアはいつものように頷きながら返事をした。大丈夫そうだな。

 作戦が決まると俺は()()()を抜いた。

 それを合図にエルは弓に矢を番え、リディアは()を抜いた。リディアには朝、刀の使い方を教え今日は試しに使ってみるように勧めたのだ。リディアに刀は向いていると思う。

 

 エルが弓を引き絞り、キリキリとした音が緊張を誘う。そして、矢が飛んだ。俺達の初めてのパーティ戦が始まった。


 矢がゴブリン達の少し離れた場所に刺さると異変を察知し、矢が放たれた場所を探すように見渡している。うちの一匹がエルより少し前に出ていた俺を発見し他の二匹に伝えると、まっすぐ俺に向かってきた。

 エルは既に次の矢を番え狙いを定めていて、確実に当たる距離になるのを待っていた。

 やがて、俺から10メート程までゴブリン達が近づいてきた。一番先頭を走ってきていたゴブリンがその勢いのまま俺に殴りかかろうと、持っていた棍棒を振り上げる。その瞬間、俺の耳に風を切る音が聞こえると、棍棒を振り上げていたゴブリンの眉間に矢が突き刺さっていた。エルが一匹仕留めた。

 目の前で矢が頭に突き刺さり倒れたのを見たゴブリンの一匹が、標的を俺からエルに変更し向かっていく。

 だが、横からリディアが走ってきていた。ゴブリンの横っ腹に蹴りをぶちかます。ゴブリンは2メートル程吹っ飛んで倒れるが、これで決着がつくわけではない。いや、リディアがこれで終わらせるわけがない。

 ふらふらと立ち上がったゴブリンが、自分に攻撃したリディアにまた標的を変え棍棒を振り上げた姿勢のまま、リディアに向かっていく。

 そのリディアは既に刀を頭上に振り上げた構え、上段の構えをとっていた。ゴブリンはゆっくりと歩きリディに一歩踏み込めば棍棒が当たる距離まで近づいていた。間合いに入ったリディアをゴブリンはじっと眺めると小さく鳴き声を出す。まるで笑っているかのような鳴き声だ。そして、ゴブリンは大きく一歩踏み込んだ。

 胴ががら空きで隙と思ったのか、ゴブリンはリディアの左脇腹目掛け薙ぎ払おうとする。だが、既にリディアは刀を()()()()()()()()()()()

 ゴブリンの首の左側から右の脇を袈裟斬りにしたのだ。ゴブリンは薙ぎ払おうとした姿勢のまま、胴体が滑るようにズレ、嫌な音を立てて地面に落ちた。

 リディアは刀を目の前まであげ、驚きの表情をしている。小さな声で「素晴らしい」と呟く声が俺の耳まで届いた。

 その俺はというと、既に戦闘は終了していた。俺が倒したのではない。俺は最後の一匹のゴブリンの攻撃をただ避けていた。

 リディアが戦っている間、エルは俺と戦っているゴブリンを狙える位置まで静かに移動していた。

 そして隙を見つけ、矢を頭を狙って射る。しっかりと一発でこめかみ辺りに突き刺さりゴブリンはゆっくりと倒れたのだった。


 「よし、お疲れ様。二人共よくやった」


 「ギルお兄ちゃんの指示どおり、うまくできた、です」


 「エルは初の戦闘なのによく当てたな。えらかったぞ」


 頭を撫でると、エルは「えへへ~」と表情を緩めている。


 「ギルさま。刀というのは凄いです。素晴らしい切れ味でした」


 「いや、切れ味だけでは体を真っ二つになんて出来ないよ。リディアはやはり刀に向いているな。お見事」


 「あ、ありがとうございます」


 今度はリディアが表情を崩した。俺から借りた物だから緊張したのだろう。俺に刀を返すと自分の剣を見て少し複雑な顔をしていた。リディアは力もあるが、何より剣を振る速度が早く、技術もある。明らかに西洋風の力重視の剣より技術向きの刀のほうが自分に合っていると、自覚したのだろう。

 近い内にリディアに内緒で刀をプレゼントしてやろう。喜んでくれるといいが。


 「よし一度森を出て少し休憩したら、もう一度ゴブリン探すぞ」


 こうして俺達は初パーティ戦を余裕の勝利で飾ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ