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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十二章 王国西方の戦い
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新たな事件

 俺たちはダンジョン攻略を終え、オーセブルクの街に戻ってきていた。


 「すげぇ!おい、見てみろよ!街が活気づいてんぞ!お?おいおいおいおい、アレって冒険者ギルドか?でっけー建物だな!ん?!なるほど、商人ギルドと一緒だからか!!そりゃあ、こんぐらいの建物じゃねーと収まらないよな!なあ!?聞いてるか?!」


 目の前で少年のように騒いでいるのは、エリーの父……と思われるオヤジ。エリーが子供の頃にダンジョン攻略を目指してその最中に死んだと思われていたのだが、俺たちがオーセブルク50層を突破し、出口に出たところで発見した。

 子供のエリーを残して冒険に出るだけあって色々なことに興味津々なおっさんだ。

 ……いや、俺が地球にいた頃と同じぐらいの年齢だと思うから、おっさんとか言うと俺にもダメージがあるから止めておこう。


 「うるさい、エリック。もういい大人なんだから少しは落ち着きなよ」


 エリックというのは、エリー父のことだ。

 それを叱りつけるのは、超絶美女の……、あー、たしかティタリスとか言う名前の、クールビューティー。装備からして魔法士だろうか。


 「そうだ、娘の前なのだろ?少しは格好の良い姿を見せてやれ」


 同じくエリックを諭すように話す男はジルド。この三人はパーティで、ジルドはどうやら盾役のようだ。

 ガタイが良く、エリーより大きい大盾を担いでいるから間違いないだろう。


 「うるせーな!俺の中ではまだちっちゃいエリーちゃんなんだ!まさかこんな美女になっているなんて納得できないんだよ!」


 「サイテー」

 「クソだな」


 「うるせー!」


 そう、エリックたちの感覚では、数ヶ月のダンジョン攻略を終えた直後ということになっている。しかし、実際は10年の月日が流れていた。

 俺たちの前方を歩きながら大笑いするエリックを見て、出会った時のことを思い出す。



 パーティメンバーの紹介をしあってから、俺たちは野営の準備を済ませ焚き火を囲んだ。

 その間、エリーがエリックに詳しい話をしたみたいだ。


 「はぁ、まさかあの可愛いエリーちゃんが、こんな美女になっていたなんて……。騙してないよな?本当のエリーちゃんか?」


 理解できていなくても、納得している辺りは冒険者らしいと言える。


 「ん、間違いない。父、出ていった時のまま」


 セミロングの綺麗な銀髪をいじりながら、再開した喜びを全く表情に出さない美人がエリー。俺のパーティで魔法まで使える万能型の盾役。普段は全身鎧を着ていて巨人の一撃さえ耐える防御力だが、その中身は豊満な胸と引き締まった肉体で誰もが魅了される。少々、表情の変化に乏しいが、それでも余りある魅力の持ち主だ。


 「パパって言ってくれない……」


 「エリーの年齢になって、パパと言っている姿を見られるのは流石に恥ずかしいと思いますよ?」


 苦笑しながら焚き火に木を追加しているのが、リディア。刀で戦う近接のプロフェッショナル。刀での戦いは俺が教えたのだが、もはや近接では敵わない。頼りになるからそれはそれで良いのだが、ちょっとだけ立つ瀬がないなと感じる今日此頃。

 元王女だが高慢な態度など皆無で、丁寧な口調と柔らかい物腰は誰にも好かれる。17歳という若さだがしっかり者で、さらに美少女という完璧なヒト種。


 「そうッスよ。続柄で呼んでもらえるだけ有り難いと思わないと。したことを考えれば、完全無視だってあり得るんスから」


 紫のツインテールを揺らしながら、ちっちゃい体を大げさ動かして話すのはシギルだ。鍛冶や物作りは優秀で、さらにパーティでは近接をもこなすドワーフレディ。見た目幼女だが、年齢は二十歳だ。

 王国にあるヴィシュメール出身でそこに祖父の店があり、その店を大きくするという夢を持っている。のだが、すでにそれを可能にするほどの腕前だと思う。しかし、王国という土地柄、ヒト種以外は差別対象になっているせいもあってか道のりは遠そうだ。


 「あ、はい。い、いやぁ、しっかりしたお仲間ばかりでパパは安心だ……」


 ずーんという効果音が聞こえてきそうなほど項垂れるエリック。


 「あわわ、だ、だいじょうぶ、です?」


 それを慌てて慰めようとしているのは、エル。美しい金髪から覗く長い耳が特徴のエルフだ。遠距離攻撃では抜群のセンスを持っているが、そんなことはどうでもいいと言わんばかりの美少女。見た目のわりに長生きしているが、それは精神の成長が遅いくかなり人見知りが激しい。


 「しっかし、どうして10年もかかったんやろ?」


 カタタッと漆黒の鎧が鳴る。この鎧はティリフスという名前で、精霊だ。法国で監禁されていたところを助けたのだが、今の所魔法以外は役に立たない。まあ、それは鎧が壊れてしまうのを恐れた俺が戦わせないだけってこともあるが。精霊の精神を鎧に移動させた存在で、どうにかして体を取り戻してあげたいが、まだその方法はわかっていない。

 ティリフスは、エリックが数ヶ月と思っているのに、どうして実際は約10年の時を経ていたのかという疑問を俺に聞く。

 すると、俺の仲間たち全員が俺に視線を向けた。

 いや、俺に聞かれても。

 まあ、なんとなくわかっているけれど、その前に聞かなければならないことがある。


 「それは後で説明するとして、その前に手記のことをエリックに聞きたい」


 俺がそう言ってエリーを見ると、エリーが自分のマジックバッグから汚れた本を取り出した。


 「おおー!それは俺の日記じゃねーか!エリーが手に入れたのか?やっぱり親子ってことだなぁ、うんうん。で、何が聞きたいんだ?」


 「俺たちはその手記を見て、エリックが45階層を攻略できず命を落としたって思ってたんだ」


 手記には44階層突破を突破し、45階層のボスには魔剣クラスの武器が必要だと書かれていた。そこで手記は終わっていたから、エリーは死んだと予想した。

 だが実際は生きていて、50階層を突破していた。疑うのではなく、事実を知りたい。


 「あー、それには深いワケがあるんだ……」


 「何言ってんの。ただ44階層で落としただけでしょ」


 「言うなよ!娘の前だぞ!」


 ティタリスが事実を言うと、エリックが慌てて立ち上がる。

 まあ、そんなことだと思っていた。けど、そうなると更に疑問が増える。


 「俺は宇宙エリア……、あの体の自由が効かないエリアのせいでエリックたちの時間がゆっくりになったと予想している。でも、そうなると辻褄が合わないんだよ」


 俺は35から40階層の宇宙エリアのせいだと確信している。

 しかし、エリーが手記を手に入れたのはずっと昔の話だ。44階層で失くしたのなら、やはり辻褄が合わない。

 宇宙エリア攻略後、41から44階層で失くした場合、エリーが子供の頃に手記を手に入れることは不可能なはずだ。


 「体の自由が効かない?ああ、35階層あたりのか?」


 「そう」


 「ああ、そりゃあ一度戻ってるからな、あのエリアに」


 は?あんな危ないエリアに戻る?何いってんだ、ボケてんのか?

 どういうことか聞いてみると、45階層のボスを入り口から眺め、今のままでは勝てないと理解し、対策を考えるために一度44階層に戻る。

 どうやらそこで手記を落としたそうだ。

 それから45階層の突破のために魔剣を手に入れようと宇宙エリアのボスまで引き返したのだという。

 なるほど、それで納得した。

 失くした手記はどうやってか1から25階層の、逆側へと流れ着き他の冒険者の手に。それがエリーの元へと辿り着いた。

 そこから10年近い年月を、エリックは宇宙エリアのボスを倒すために費やしたのだ。

 ま、彼らからしたら一日かそこらだろうけどな。


 「あのボスに引っ張られただろ?」


 「ああ、危うく喰われそうになった」


 「あの周りにいると時間がゆっくりになるんだ。僅かな時間戦っていただけで、数年の時間が過ぎる」


 「ええ?!じゃあ、今は数年後ってこと?!」


 ティタリスが涼しい顔を崩して驚く。

 いや、さっき言ったろ?その時に驚けよ。ティタリスは見た目とは違い、少し抜けているところがあるのか?


 「……やはりエリックの指示は間違いだったってことだな。いや、ここは独身で良かったと思うべきか」


 ジルドも頭を抱えてため息を吐いている。とはいえ、こっちは随分ポジティブな考えの持ち主のようだ。


 「はは……」


 気まずいのか、エリックは頬を掻きながら彼女たちと視線を合わせないように視線をそらす。


 「だが、あんな危険なボスを倒したのか。凄いな」


 「いや!倒すのは余裕だったんだよ!だけどさ、時間がゆっくりになるって知ってたら、わざわざ倒しに戻らなかったわ!」


 倒し方を聞いたら、近づいて手に入れた武器を投げまくっただけらしい。

 どんどん引っ張られていくのに恐怖し、手当り次第、物投げたらそのうちの一つがクリティカルヒットして倒せた。だが、近づきすぎて外界では10年が過ぎていたようだ。

 しかも、倒した報酬は望んでいた魔剣ではなく、結局は巨人ゾンビをスルーして突破するというぐだぐだっぷり。

 踏んだり蹴ったりだったようだな。だが、なるほど。確かに無重力で遠距離攻撃の威力が減衰しないから、強力な遠距離攻撃が可能なら楽に倒せたのか。超重力にビビって判断が鈍っていたみたいだな。

 だけどなぁ、本当に超重力で時間がゆっくりになるなんて思わなかった。

 地球の仮想科学では、そうなると推測されているが、実際のところはブラックホールがあるかどうかも疑問視されているレベルだからな。つまり、未だに予想の域を出ていないのだ。

 ここはボスをビビって倒さなかったが、浦島太郎にならなくて良かったと自分の慎重さを褒めておこう。ひっそりとな。


 「まあ、無事でよかったな」


 「ああ、完全攻略したしな!俺らが第一突破パーティだぜ!はっはっは」


 どうやらエリックたちはオーセブルクを完全攻略したと思っているらしい。

 実際は隠し通路があるのだが、それは今の所秘密にしておこう。また、ふらっといなくなっても困るからな。


 「そうだな、おめでとう」


 心からの賛辞を呈した後は何気ない会話でキャンプを楽しんだ。



 と、そういう経緯があったのだが……。


 「な、エリー?すげーな!」


 「……ん」


 エリックとエリーの親子仲は良好ではないらしい。

 まあ、これからゆっくりと話し合っていけばいいさ。

 それよりも、久々の街だ。今日はゆっくりするぞぅ。


 「よし、宿を探すか」


 「ギル様、その前に冒険者ギルドが先ですよ」


 「そうだった……。おーい、エリック!」


 「ん?なんだよ、ギル」


 「冒険者ギルドに向かうぞ」


 「なんで?お前の話だと、早めに宿を確保しないと行けないんだろ?それからで良いじゃないか」


 その通りだ。ギルドに行くとなるとそれなりの時間を費やす。だが、宿を探すのもそれなりに時間が掛かる。

 だったら、代表がギルドに向かって報告を済ませ、その間に仲間たち全員で宿を探し回るのが効率的なのだ。

 この場合、俺とエリックが報告に行くべきだろう。この事をエリックに説明し納得してもらうと、俺とエリックは仲間たちと別れた。

 冒険者ギルドは目の前だ。さっさと済ませよう。

 いつもの通り、顔見知りの受付嬢マリアに挨拶すると、またいつも通りアンリを呼ばれ、またまたいつも通り待合室へと連れて行かれた。


 「いやいや、なんで俺まで待合室に?」


 「君も攻略したのだろう?このダンジョンを」


 妙齢の爆乳美女アンリが笑いながら話す。

 その度に揺れる豊満な胸を意識しないようにするのは非常に困難だ。子供がいるエリックでさえも、チラチラと見てしまっているからこれは仕方ないのだろう。

 アンリにダンジョンを攻略したと伝えた時は、それはそれは大変な驚きようだった。話が聞こえていた冒険者が騒ぎ始めたから、待合室へと案内したのだろう。

 だが、俺はエリックを指差して、「彼が第一攻略者」と伝えたはずだ。話を聞くなら第二攻略者は必要ないのだが。


 「さっきも言ったけど、このエリックが第一攻略者だ」


 「どうも」


 「エリック殿、おめでとうございます。たしかに話を聞くのは一人、それも第一攻略者だけいれば事足りる。……しかし、一人より二人に話を聞いたほうが情報の確実性が増すだろう?」


 チッ、正しい。仕方ないから、適当に答えてさっさと終わらせるぞ。

 それから俺とエリックは、どんな場所だったか、それをどのように攻略したかを説明した。

 約1時間ほど説明し、その間アンリは静かに相槌を打っていた。


 「そして、最後は巨大イノシシを倒し、俺たちはダンジョンを攻略したってわけさ」


 「なるほど、二人の話に齟齬はない。どうやら本当にオーセブルクダンジョンを攻略したようだ」


 「そうだぜ!ま、ちょっと時間がかかっちまったけどな」


 エリックは俺が教えたように、宇宙エリアのボスのせいで10年の月日が流れていたこともしっかりと説明した。


 「そうだったな。エリック殿の体験談は、これから攻略する冒険者の為になる話だった」


 「ああ、あのボスは遠距離攻撃さえあれば比較的簡単に倒せるらしいが、無視できる状況ならそうした方がいいかもな」


 「だな。なんせ物理攻撃しか効かなかったからな、あいつ。投擲か弓が必須だから、これから攻略する奴らにはそう説明してくれ。俺たちには遠距離攻撃手段がなかったから、近づいて投擲するしか方法がなかった」


 その話は聞いてないぞ。マジか、あいつ魔法効かないのか。よかった、戦わなくて。


 「わかった。それでだ、エリック殿とそのパーティには第一攻略者として、冒険者ギルドからS級昇格を確約しよう。ギルたちには2段階の昇格を」


 いらねー……、昇格より金の方が……。


 「おお!俺らもこれでS級冒険者か!これでもう稼ぎには困らないな!」


 そういう考えもあるのか。こういう前向きなところは見習わないとな。


 「記録とタグの発行が済み次第渡すことになる。それまでは済まないが今までのタグを使って欲しい」


 冒険者ランクの証明にはドッグタグのような物がある。このタグの色でランクの判別が可能なのだが、発行に時間が掛かるようだ。

 ま、しばらくは冒険者の仕事はしないからいいけどな。今度立ち寄った時にでも受け取ることにしよう。

 ここでようやく話が終わり、席を立とうとしたがアンリに呼び止められる。


 「そうだ、ギル。王国のレッドランス殿より書簡が届いているぞ」


 「レッドランスから?魔法都市に直接連絡すればいいのに」


 「どうやらそっちにも書簡を送っているようだ。オーセブルクには念の為だろう」


 なるほど。慎重なのはレッドランスらしいな。さて、いったいなんの話だろうか?シーフードフライ絡みかな?

 などと気楽に書簡を受け取り、その場で開く。

 そこでしまったと思った。俺、読めない。

 アンリやエリックには俺が地球から召喚された存在だと教えていない。この世界の識字率から、字が読めないのは珍しいことではないと知っているが、これでも魔法都市の代表だ。

 読めないとバレるのは、色々勘ぐられる要因になる。どうするか。


 「……ギル代表殿、助けて欲しい……ってなんだ?」


 どうやって誤魔化そうか考えていると、横から手紙を覗き込んだエリックが内容を呟いたことで俺も知ることが出来た。

 盗み読むなんて、少々礼儀知らずだが今回は許すことにしよう。

 しかし、この内容。

 前置きなどなく、この一文だけ?あのレッドランスらしくない。だが、もしこの書簡を出したのがレッドランスなら、かなり切羽詰まっているはずだ。

 いったい何が……。


 「ふむ、なるほど」


 アンリは少し考えてから深くうなずいてこう呟いた。

 何か心当たりがあるようだ。


 「アンリ、何かわかるか?」


 「あくまで噂だが……、その内容からすると、あながち……」


 「教えてくれ」


 「レッドランス領の北と南に大量のアンデッドが出没したという噂を聞いてな。冒険者ギルド本部にも、その討伐依頼が沢山来ているのだ」


 レッドランス領の南北二方向から?でも、なんで俺に助けを求めるんだ?

 王国を助ける義理はない。なんならそのまま滅亡してほしいとさえ思っている。……が、レッドランスの南が気になる。まさか……。


 「アンリ、南はどの辺りからだ?」


 「ヴィシュメールだ。ギルドマスターのグレゴルから連絡が届いている。今はヴィシュメールの冒険者がなんとか対応しているらしいが……」


 ヴィシュメール?チッ!シギルの家があるところだ!これは王国に恨みがあるとかないとか言っている場合じゃないな。


 「情報助かった!悪いが俺はこれで失礼する。行くぞ、エリック!またな、アンリ!」


 手を挙げて挨拶し、俺は冒険者ギルドを飛び出したのだった。

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