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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十一章 50層攻略
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水中探索

 おそらく41階層であろうこのエリアは、入り口から見る限り洞窟のような場所だった。ただ、違う点は水没しているところだ。


 「海底洞窟、です?」


 「いや、わからないけど多分そうだ」


 「なんでッスか?」


 「海藻っぽいのが生えているし……」


 地球で見た画像はこんな感じだったし。

 だが、それは俺たちにとってどうでもいいことだろう。もっとも重要なのは、テントを張ってゆっくりと睡眠を取れないことが確定した点だ。

 石のコテージも換気のための空気穴があって、水中用ではない。それ以前にプールストーンに込めた魔力で展開するのだから、それがなくなったらと考えるだけで安心して眠ることなんてできない。


 「そうなんですね。ギル様がそう仰るならここは海底の洞窟なのでしょう」


 「入り口不思議」


 入り口から中を覗くリディアの横で、エリーが入り口で止まっている水に感心している。

 俺たちはまだ入り口にいて、エリア内に侵入していない。入り口から水は流れてこず、まるで表面張力があるかのように水が止まっていた。


 「確かに不思議な現象だけど、俺たちが気にするところはそこではないだろ。階段睡眠が確定した事実から目をそらしてるけどさ」


 「はぁ、そうだった」


 珍しいエリーの溜息。だが、俺も含め誰もそのことを気にしない。なぜなら全員が同様にうんざりしていたからだ。

 空エリア以外では野営することすらできてない。疲労は既に限界だろう。


 「とりあえず、3人先に寝てくれ。後の三人は見張りだな」


 「え?ここだったら全員一緒に寝ても大丈夫じゃないッスか?」


 「……どこにそんな場所があるんだよ」


 「………そッスね」


 その言葉を最後にシギルは寝っ転がる。

 誰もが先に寝たい気持ちがあるのに、何も言わず先に寝ようとする清々しいほどの自分勝手さを発揮するシギルには惚れ惚れする。

 それから寝る順番を決めた。先に寝るのはシギル、エル、リディアになった。

 その間、俺はこの海底洞窟エリアを探索するか。


 「エリー、ティリフス、俺は中を少し調べてくるよ」


 「一緒に行く?」


 「いや、念の為見張りをしておいてくれ。寝てる間に襲われたら流石に助からないだろ」


 「ん。……でも、呼吸はどうするの?」


 「宇宙エリアで手に入れた球根がそのまま使えるよ」


 宇宙エリアで手に入れた球根には、圧縮された酸素が詰まっている。要は酸素ボンベと同じだ。だとすれば、これで呼吸をすることが可能なはずだ。


 「そ」


 「じゃあ、行ってくる」


 頷くエリーに手を上げて答えると、球根から伸びている茎を口に咥え海底洞窟へと侵入した。



 中に入ってから気がついたが、この水が海水ではなく酸とかだったら終わってたな。流石に迂闊だった。やっぱり俺も疲れているようだ。

 だが酸などではなく、地球と同じ海水のようだった。おそらく舐めたらしょっぱいはずだ。

 でもそんなことはどうでもいい。

 予想通り、球根で息が出来る。酸の海でもない。それは良かった。しかし、先が全く見えないのだ。

 入り口からの様子だと、中は他の階層同様に薄っすらとダンジョンが光っていた。だが、暗いものは暗いし、水の中だ。水中メガネなどないのだから視界は最悪だ。

 さらに、服が水を吸って動きづらい。この状態で動き回るのは厳しいな。

 海底洞窟内で辺りを探せば、水中でも役立つ物が見つかるのだろうが、まずそれを見つけるのが厳しそうだ。

 どちらにしろ単独でここを探索するのは無理だな。仲間と一緒に進んだほうが安全そうだ。数メートル進んだだけだが、一度戻るとしよう。

 ……ところで、俺はこのビチャビチャの状態でどうやって寝よう。



 仲間の下に戻り、慌てて服を乾かした。火と風の魔法で温風を当て続けて乾かしたが、こんなことで魔力を使うのはどうなのだろう。

 そうしていると、交代の時間はあっという間にやってきた。


 「おはようございます。先に休ませていただきました」


 「うん。少しは眠れたか?」


 「いや、全然ッス。体伸ばせないし、うるさいしで」


 「だよね」


 寝るのは階段だから当然体を伸ばせないし、俺が魔法で服を乾かしていたから騒がしくて眠れなかったのだろう。

 やっぱりここで休むのは無理があったか。休憩も眠れないと疲れるだけだからな。


 「エルは……」


 「すぴー」


 しっかりと眠っていた。もはや、弱いのか強いのかわからんな。普段はあんなに人見知りして弱々しいのに。

 心苦しいがエルを優しく起こしたあと、ようやく俺とエリーの順番がやってきた。ティリフスは残念ながら睡眠が必要のない体だから引き続き見張りをしてもらう。

 階段に腰掛け、壁を枕に目を閉じる。しかし、ウトウトとはするが熟睡できない。記憶がはっきりしていて、眠っているのか起きているのかわからない状態だ。

 エリーも同じだろうか。

 薄っすらと目を開けてエリーの様子を見てみる。

 エリーは熟睡していた。フルプレートの硬さを利用し、階段でも体を真っ直ぐにできているのだ。

 クソ……、鎧なんて邪魔なだけだと思っていたが、こういう使い方もあるのか。俺では階段の角が痛すぎてアレは真似できない。

 そんなことを考えながら、眠るために四苦八苦していると、俺の休憩時間は終わっていた。


 「やっぱりダメだったよ」


 俺がゲッソリしながら立ち上がって伸びをすると、仲間たちは苦笑いをした。


 「ギル様の予想ではあちら側とほぼ同じ難易度だと仰ってましたが、こちらの方が辛いですね」


 あちら側というのは1から25階層のことだ。V字型のダンジョンだから俺たちが目指しているゴールからも侵入できるはずだ。だから難易度はこちら側も同じだと予想したのだが、リディアの言う通り休憩できない分こちらの方が辛い。


 「たしかにこっちの方が辛いな。でも、今の所魔物には苦労していないし、体力的には疲れていないだろ?」


 「いや、体力的にも辛いッスよ?」


 「そうじゃなくて、体に負担がかかることはあまりないだろ?空では乗り物だったし、宇宙では体は動かさなくても進んだし。今回は海だ」


 「言われてみればそうですね」


 まあ、水中は体が軽いから楽に感じるが、実際は全身を使うから陸上より疲れるのだが。


 「それで、俺がうたた寝している間にこのエリアに出没する魔物を見たか?」


 「視界が悪くて見えなかった、です。でも、いなかったと思う、です」


 エルで確認できないならいなかったのだろう。


 「ティリフスはどうだ?何か感じるか?」


 「んー、いるはずやけど……」


 「なんだ?曖昧だな」


 「気配が希薄なんよね。水中やからマナが読み取り難いのかも」


 なるほど、辺りに漂う魔力というのは酸素と似たようなものなのかもな。水中にも溶け込んではいるが、陸上とは違い水が邪魔をしているから気配察知を妨げているということかな。

 うーん、海だから魚だと考えるのが普通だが、空と宇宙では普通じゃなかったしな。

 空は虫だし、宇宙は花だ。こんなの予測するのは不可能だろ。ここでも俺の予想を超える魔物が出てもおかしくない。

 つまり、いつもの通り考えても仕方ないと。


 「そうか。じゃあ仕方ないな。全く休憩にならなかったが、さっさと出発して少しでも余裕があるうちに突破するか」


 そう心に決めると、さっさと支度を済ませ出発した。



 全員で海底洞窟に侵入するが、その辛さを改めて痛感した。

 まず洞窟の広さがそれほどないところだ。二人が並んで進むのが限界の幅で、このまま戦闘することはできないだろう。

 その上、水中で動きが緩慢だ。素早い魔物相手には、対応できない。これは厳しい戦いになりそうだ。

 しかし、良いこともあった。

 それは鎧勢であるリディアとエリーが鎧を脱いでいることだ。水中で動きづらいからとマジックバッグにしまってから攻略を開始したのだが、鎧の下は肌着に近い服。

 エリーに至ってはキャミソールで、その豊満な胸が水流で踊るのだ。疲れ切った心を癒やすには十分だろう。

 普段隠されている肉体がそこにある。それだけで俺のナニかを奮起させる!

 しかし、見辛い。今日ほど水中メガネがないのを悔やんだことはない。

 ここが水中で良かった。流れ続ける涙を見せなくて済むからな!

 そんな支離滅裂なことを考えながら先に進むために泳ぐ。

 海底洞窟は入り組んでいた。

 6階層の洞窟エリア同様、どこを進んでいるか分からないのだ。マッピングができない水中でこれはかなり厳しい。6階層のように突破した冒険者が多いわけではないから、目印も期待できないしな。

 魔物の出没率が低いのが唯一の救いだろう。

 俺たちは黙々と泳いでいく。まあ、水中だからどうせ話せないんだけどね。

 ある程度進んでいくと、あることに気がついた。海底に海藻ではない草が生えていることに。

 何故そんなことに気がついたとのかと言えば、目立つ花が咲いていたからだ。水中なのにそんなものがあれば誰だって気がつくだろう。

 俺は仲間たちを待たせ、その花が生えている場所へ近づくていく。

 それには見覚えがあった。宇宙で隕石に生えていたものと同じものだ。

 つまり、この海底洞窟エリアを進むために必要なものもこの花だということか。たしかに息をするのに必要か。

 逆側から侵入した場合も、海底洞窟でこれを手に入れておけば、宇宙エリアを探索せずに済む。なるほど、よく考えられている。

 この水中でどれほど使用するかわからないから、手に入れながら進むべきか。

 俺は球根を引っこ抜くためにさらに近づいた。

 すると、突然海底から何かが飛び出してきた。

 あまりの驚きに慌ててしまい、ゴボゴボと酸素を吐き出してしまったほどだ。

 いったい何が飛び出してきたのかと、急いで距離をとって確認する。

 それはゾンビだった。

 ……海底洞窟の魔物ってアンデッドかよ。いや、たしかに呼吸が必要ないアンデッドは水中でも自由に動ける。だけど最適ではない。

 元々ゆっくりな動きが更に緩慢になり、もはやスローと言っても過言ではない遅さだ。奇襲されたのに逃げ切れたし。ぶっちゃけ、いてもいなくても良いほどだ。

 どうやら6階層の洞窟エリアが水没したという設定っぽいな。魔物も同じアンデッドだし。

 素通りしたいところだが、通路が狭すぎてすれ違うのは無理そうだ。倒すしかない。

 俺は石の槍を作り出すと風魔法を併用し射出する。当然命中し、ゾンビの頭部が砕け散って戦闘は終了した。

 ゾンビは人間だから怖いことは怖いのだが、なぜかこの海底洞窟エリアでは癒やし系の魔物に昇格したな。

 出没する魔物は判明したし、脅威でないこともわかった。警戒しながら進めば、危険は少なそうだ。さっさと進むことにしよう。

 球根回収後、仲間たちに前進の合図を出して先へ進む。

 この階層の最大の難所は迷路のようなところだ。ゾンビを倒しつつ、球根を回収しながら進んだとはいえ、3時間ほど迷っただろうか。それでも次の階層への道は見つかっていない。

 いったいどこにあるのだろうかと考えていると、リディアが近づいてきた。

 リディアは指で上を指す。

 見上げてみると、そこにはポッカリと空いた穴が天井にあった。

 次の階層への道はこれか!階段だと思ってたから壁しか見ていなかった。ここも空、宇宙と同じで階層がつながっているタイプか。

 リディアにナイスの意味を込めてサムズアップした後、次の階層に行くため縦泳ぎをする。が、足をがっと掴まれてそれが阻まれる。

 俺の足を掴んだのはティリフスだった。

 俺が怪訝な顔をして疑問を表現すると、ティリフスは泳ぐような仕草をした後、手を☓のように交差させた。

 そうか、ティリフスは泳げないのか。なんかずっと海底を歩いているなとは思っていたが、鎧が重いからそっちのほうが楽なのかもと気にしていなかった。

 泳げるのかもしれないが、その重鎧ではさすがに上へ泳ぐのは厳しいだろう。仕方ないから手伝ってやるか。

 俺はティリフスの腕を掴み天井に空いた穴を上がっていく。

 ティリフスの重さでスピードは出ないが少しずつ上っていき、30分ほどすると開けた場所へ出た。

 位置的には42階層だろう。そこは41階層のように迷路ではなく、そのまんま海中だった。

 様々な魚が泳ぎ回り、海藻が水流で優しく揺れる。珊瑚が幻想的な世界を創り出し、その近くで甲殻類が休んでいた。

 控えめに言って美しかった。

 海底に大量のアンデッドが歩きまわっていなければ。

 本当になんでこいつらがいるんだ?意味ないだろ。それにこのエリアも階層がつながっているタイプなら、俺たちは上へ進んで行くから海底にいることは殆どないはずだ。

 ……ああ、そういうことか。逆側から侵入した場合、海底に道があるからか。この通路を探すためと、球根を手に入れるためにアンデッドと戦うことになるのか。

 まあ、俺たちには関係ないな。さっさと上へ進むか。

 今度は全員でティリフスを掴み、上へと泳いでいく。海流が強いのか流されながらも、ようやく海面へと浮上することができた。

 周りを確認するが魔物の気配はない。やはり海底で歩いているアンデッドがこのエリアに出没する魔物のようだ。

 それに嬉しいものも見つけた。

 陸地があったのだ。

 それを発見した俺たちは、元気を取り戻し急いでそこへと向かい上陸したのだ。

 ダンジョン攻略を再開してから最上級に嬉しい出来事だ。皆も口元に笑みを浮かべている。

 そう、これでようやくキャンプをすることができるのだ。

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