冒険者ギルド
ギルドの奥から出てきた老人は、周りを見渡すと騒ぎの現況が俺達だと察し睨んでいた。
「ギルドマスター!」
受付嬢が睨んでいる老人に言う。どうやらヴィシュメール冒険者ギルドのマスターらしい。俺達を一人ずつ見て、リディアを見ると少し驚く。
「リディアよ。まさか真面目なお主が問題を起こすとはのぅ」
リディアは普段から、この荒くれ者達の中でも品行方正らしい。そのリディアは、声をかけられようやく我に返って、ギルドマスターの存在に気づく。どうやら、リディアも俺とさっき絡んできた男のやり取りに驚き、呆けていたみたいだ。俺のやり方なんて今更だろうに。
「あ、グレゴルさん。すみません。実は……」
リディアがギルドマスター、グレゴルという名前らしいが、彼に今までの経緯を話す。
「ふん。なるほどな。おい、外で寝てる馬鹿に次騒ぎを起こしたら、冒険者として生活できないようにしてやると言っておけぃ!」
グレゴルが酒を飲んでいる冒険者達に怒鳴る。誰が怒られてるか分からないほど、声がでかい。エルが震えちゃってるから、あまり大声出さないでもらいたいのだが。
その酒を飲んでいる冒険者だが、みんながみんな自分が言われてるものだと思い、全員で頷いている。
「のう、ミリア。それで、こやつらのスキル確認はしたのか?」
受付嬢を見ながら言う。受付嬢はミリアという名前らしい。
「いえ、これからです」
「わかった。後はこっちでやる。お前たち三人、奥に来い」
そう言うとギルドの奥へと歩いていくので、後をついていく。まだ、エルが震えてるいたから、俺とリディアで頭を撫でながら奥へと向かった。
連れて行かれたのは、小さな応接室みたいな場所だった。三人程が座れるソファが二脚とそれに挟まれるように木の大きな机が置いてある。
「まぁ、座りなさい」
グレゴルが俺達に座れというので、大人しく三人並んで座った。そのグレゴルは、二枚の何も書いていない羊皮紙を持ってきてから、俺達の対面に座る。
「本来なら町中で問題を起こす輩なんぞ、冒険者ギルドに加入などさせんが、リディアが連れてきた者達じゃ、今回の件は大目に見てやる」
「ありがとうございます」
リディアがお礼を言うから、俺達も一応頭を下げておいた。悪いのはあの図体だけの男なんだし、文句を言われる筋合いはないのだが。
傍から見たら、あの喧嘩のやり取りも、勝手に殴りかかってきて俺の背中に当たって勝手に飛んでいったというだけだしね。
グレゴルが俺を見て溜息を吐く。あら、心を読まれたみたいだ。
「まぁ、お主の言いたいことは分かる。だが、わしも一応はここのトップじゃ。どちらが悪いか一目瞭然でも、両方に注意しなければならん」
気持ちは分かるので、もう一度頭を下げておいた。
「さて、じゃあさっさと終わらせようかの。お主達のスキルとステータスを見ようと思うが、いいかの?わしのスキルで見たものをこの羊皮紙に書いていく」
む。スキルを見られるのか……。
「リディアは外で待ってもらった方が……」
「何故じゃ?お主らはこれからパーティを組み共に依頼をこなしていく中じゃろう?お互いの所持スキルとステータスを確認して置いた方がいいと思うがのう?」
まじか。確かに一理あるが、リディアは落ち込まないだろうか。
まぁ、仲間外れみたいになるし、それでいいか。
そう思い、俺は頷いた。
「ではまず、エルミリア。見させてもらうからの?」
エルが頷くと、グレゴルがじっとエルの顔を見つめながら、羊皮紙に書いていく。相手のスキルやステータスを見破るスキルなんてのもあるのか。
書き終わると、エルの前に羊皮紙を出す。
【エルミリア】
ステータス
Lv 2
生命力 80
魔力 140
力 4
速さ 5
知力 6
精神 4
スキル
魔法理論 レベル2
魔法 レベル1
弓術 レベル2
料理 レベル4
これがエルのステータスとスキルだ。
最初は皆こんな感じなんだろうな。これからしっかりと成長させてあげよう。
エルは、自分の能力が数字として見れて感動しているようだ。目が輝いている。
「ほぉ?魔術と弓術が育っておるとはさすがはエルフということじゃな。これからがんばるのだぞ?」
グレゴルがエルを褒めると笑顔で頷いた。やっぱり素直で可愛いな。エルは。
「さて、次はお主、ギルか。では、見させてもらうぞ」
そして、俺をじっと見つめ、目が見開く。
「ば、ばかな!」
そう言うと、またじっと見つめ眉を顰めながら、紙に書いていく。
【ギル】
ステータス
Lv 7
生命力 700
魔力 700
力 45
速さ 40
知力 80
精神 64
スキル
話術 レベル3
料理 レベル2
細工 レベル3
鍛冶 レベル5
鑑定 レベル3
暗殺術 レベル4
弓術 レベル5
剣術 レベル5
魔法理論レベル8
魔法 レベル6
書き終えた紙を俺の前に置く。横から覗いた二人がびっくりしている。
「ぎ、ギルさま。これは凄まじいですね。自分がまだ未熟だというのがはっきりしました」
リディアはやっぱり少し落ち込んでるようだ。
「ギルお兄ちゃん凄いです!エルも早く役に立てるようにがんばる、です!」
小さな手を胸の前で握る。前向きでいいね。
「お主、何者じゃ?これは、レベル7のステータスとスキルではないぞ」
確かにその通りだと思う。そして、グレゴルのスキルでは表示されないスキルがあるみたいだ。俺のユニークスキルと一部のスキルが書かれていない。
逆に、俺が見た時には表示されなかった生命力という項目がある。一体どういうことだろう。
「まあ、努力しましたから」
こう言うしかない。異世界から来たなんて言えないしね。俺がこの世界に呼ばれた理由が分かったら、二人には打ち明けようと思っている。それまでは、誰にも言うわけにはいかない。
「努力でどうにかなる問題ではないがのう。勇者と賢者の素質、英雄クラスの逸材かもしれんのぅ」
話が大きくなりすぎたから、大げさですと言いこの話を終わらせた。
「で、俺達は冒険者ギルドに加入できるのでしょうか?」
「うむ。問題はないのう。リディアからどういうものか聞いておるか?」
俺とエルはまだ聞いていないと答えた。
グレゴルは頷くと冒険者ギルドのルールを一つ一つ丁寧に教えてくれた。
まず、加入金が必要になる。金額としては一人銀貨2枚。年会費などは必要ないし、依頼はいつ受けても良いとの事。受けないからと言って、ギルドから除名されるということもない。
そして、リディアも持っている『冒険者ギルド身分証明書』が発行され、同時にドッグタグのようなネックレスを支給される。
このドッグタグの色でランクが分かるようになっているみたいだ。ランクは6段階で一番下のランクがEランク。一番上がSランクとなっている。色はEとDはそのままの色。Cが青、Bが緑、Aが赤、Sが金とランクが変わる度にドッグタグが交換される。
このドッグタグにはギルドの登録番号が印字されていて、この番号で誰の物かわかるようになっている。命を落とした冒険者のドッグタグを見つけ、それをギルドに持ってくると感謝として銀貨3枚を貰えるらしい。そして、『冒険者ギルド身分証明書』とこのドッグタグを紛失した場合には銀貨5枚で再発行してもらえる。
俺とエルは、Eランクからスタートだから普通のドッグタグが貰えた。『冒険者ギルド身分証明書』は、発行に2日程待ってもらうと言っていた。
「ギル。お主の実力だと、Cランク、もしくはBランクだとは思うがルールじゃからな」
「いえ、それで結構です。エルとゆっくり上げますから。な?エル」
「はい!ギルお兄ちゃんとがんばる、です!」
「私もギルさまとエルのお手伝いをしますので!」
「うん。リディアもありがとうな」
エルはやる気があり、リディアもサポートをしてくれるみたいだ。素晴らしい仲間に恵まれた。
「いや、待てよ……。リディアがお主らとパーティを組むんじゃな?ふむ。すまんがDランクの依頼を任せたいのじゃが、いいかの?」
おい。ゆっくり上げるっつってんだろ。
俺がジト目で見ているとグレゴルは、申し訳なさそうに口を開いた。
「最近になってじゃが、街の付近の平原にアンデッドが出没するようになってのぅ……」
グレゴルが言うには、Eランクの依頼はそのアンデッドが出没している平原でこなすのがほとんどらしい。アンデッドが出没するようになってから、新米冒険者は依頼を遠征し達成しているのが現状だ。アンデッドの討伐はCランクの冒険者ぐらいの強さでないと苦戦、もしくは悪くて死ぬこともあるとか。
そして、その平原とは逆の森には今の所アンデッドが出没していないので、そこでDランクの魔物の討伐を依頼しているという事だ。もちろんこの提案は、Cランクのリディアのサポートがあるからこそだ。他のEランクパーティには提案していないと言っていた。
「アンデッド……ですか。それは厄介ですね」
「そ、そんなに強い、です?」
「いえ、強さはそれほどではないの。だけど、ほとんどのアンデッドは物理が効きにくいのが厄介ね。ゾンビだったら剣や弓でも大丈夫だけど、相手によっては、物理攻撃に完全な耐性を持っている魔物もいるわ」
それは辛い。俺はまだ魔法でなんとか対処できるが、二人は物理メインだ。
「なるほどねぇ。だが、森でDランクの依頼をこなす以外にも遠征って選択肢もあるじゃないか」
「わしとしてはそれでも構わんが、1日や2日の旅になるがいいのかのぅ?」
それは面倒臭い。できれば街の近くで依頼をこなしたい。ベッドと美味い飯を捨ててまで遠征をする気にはなれないな。依頼内容次第か……。
「まぁ、それほど難しい依頼ではないから、安心せぃ。森の中でうろついているゴブリンを3体倒すのが依頼じゃ」
それなら他のDランクに頼めば良いのではないか?、と思い聞いてみたら、アンデッドの件でDランクにはCランクとパーティを組んで、平原で討伐を頼んだみたいだ。普段は格上の依頼を頼んだりしないのだが、それだけ緊急な案件らしい。Dランク冒険者も早くCランクに上がれる可能性があるから、皆アンデッドの依頼に参加していると言っていた。
つまりはほぼ俺達しか、この依頼を請けられる者がいないという事だ。アンデッドも危険だが、ゴブリンだって数が増えれば危険だ。
俺はエルに依頼を受けても大丈夫か聞いてみた。
「街の皆さんの為に、がんばるです!」
うん。ええ子や。しっかり守ってやらねば。
「ということでお引き受けしますよ」
「そうか!やってくれるか!格上の依頼じゃからのぅ。10件程こなしてくれたらDランクに上げてやるから、がんばって退治するのじゃぞ」
だからゆっくり上げるっつってんだろ。まぁ、いいか。報酬金額が上がるのは嬉しいからな。金には困りたくないしね。
ゴブリン退治の依頼はリディアがやったことがあるから、細かい話は後で聞くことにした。
この後、グレゴルが『依頼遂行証明書』を発行して持ってきた。依頼遂行期日は10日程らしいから、一日に3体倒せば良い。一応、明日からの依頼ということで受諾した。これで明日から門を出て再度戻って来ても、入市税は払わなくて済みそうだ。
話が終わると俺達は応接室を出て、先程の受付まで戻ってきた。俺達が外へ出るために歩いているが、誰も俺と目を合わせない。さっきの喧嘩はやり過ぎたみたいだ。まぁ、でもこれでちょっかいを出されることもないか。
俺達は冒険者ギルドを後にし、街を歩いていた。
思いの外、時間がかかってしまい昼になっていたから、屋台で昼食を済ませようということになった。
色々食べたが、一番旨かったのは焼き鳥だった。炭火焼きで味付けはシンプルな塩だが、単純に美味い。
あー、ビール飲みてぇなー。
昼食を済ませ街を歩いていて気付いたが、それなりに亜人を見かけた。殆どが奴隷だったが、冒険者や商人の亜人も歩いていた。やはり、ある程度の地位や、戦闘能力があると奴隷商人には狙われにくいのかな?
俺は服が欲しかったから、服屋に行ったが俺の欲しい物は銀貨3~5枚と、結構な値段だったから今回は我慢することにした。今回の依頼を達成したら大銀貨1枚程になりそうだから、それまでこの服で済ませよう。
「ギルお兄ちゃん、服、高かったです」
「そうだなぁ。まぁ、今の服も大事に着ているし報酬が出るまで我慢するよ」
「ギルさまなら、すぐに高ランクになり良い報酬の依頼を受けることができますよ」
「いや、のんびりやりたいんだよね……。ん?」
そんな話をしながら歩いていると、かなり小さな武器屋を見つけた。だが、遠目に見ても中々に質が良さそうな武器が見える。その店の前で小さな女の子が客を呼んでいる。
「お兄さん!いい武器が揃ってるッスよ!見ていって下さいッス」
売り子かな?店の前を通ったヒト種の冒険者に声をかけている。
「へぇー。どこで仕入れた武器なんだぃ?」
「いえ!あたしが作ったッス!」
「そ、そうなのか。また今度寄らせてもらうよ。悪いな」
「そうスか……」
女の子ががっかりする。
あんなに小さな女の子が作ったのか、将来有望だな。ちょっと見てみるか。
「ちょっと見せてもらうよ」
「! いらっしゃいッス!」
「お嬢ちゃんが作ったのかぃ?えらいね」
俺は将来有望な少女にこれからもしっかりとがんばってもらいたいから、労いの言葉をかけた。だが、少女は不機嫌になる。
「お客さん。これでもあたしは二十歳ッスよ。そして鍛冶に優れたドワーフの子でもあるッス。冷やかしなら帰ってほしいッス」
これが初めてドワーフの女性と話した瞬間だった。
異世界の女の子の年齢が見た目ではわかりません。どうしたらいいですか?




