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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十一章 50層攻略
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無重力攻略

 大地と呼べるものはなく、どこまでも続くような闇の空間に漂う。

 しかし、完全な闇というわけではない。太陽が設定されているのか、この空間にある物ははっきりと見えている。当然、俺や仲間たちの姿もだ。

 このエリアは間違いなく宇宙そのものだった。

 でも、宇宙って……。


 「な、な、なんスか!?」


 「ギ、ギル様!私、空に浮いています!」


 「ああ、浮いてるねぇ。無重力なんだね」


 「む、むじゅうりょく、です?」


 ああ、無重力なんて言葉知らないか。そりゃそうか。宇宙の仕組みを考えるのはまだまだ未来の話だろう。この時代では占星術ぐらいか?

 このエリアも宇宙とは全く違うけど……。無重力だが酸素があって息が出来る。気温も適温だし、被爆もしないだろう。

 言うなれば、無重力を体験できるシミュレーションルームと言ったところか。地球の宇宙飛行士候補生や科学者が喜びそうだ。こういうところは異世界さまさまだよ。

 とはいえ、この世界の住人にとっては未知過ぎて攻略すらままならないだろうなぁ。


 「重力……、重さがない空間なんだよ、ここは。空の更に上に存在する空間でもある。ただ呼吸できる点は俺の世界のとは違うけどな」


 「息ができないのは、いや、です」


 「でもちょっとだけ楽しいやん」


 「楽しんでなんていられないぞ?」


 「なんで?」


 ティリフスが鎧の手足をガシャガシャと動かしながら、俺に向かってくる。止まれないから、俺が手でティリフスを受け止めて慣性を相殺する。


 「うわわ。ギル、ありがとな。それでなんで楽しめないん?」


 「そりゃそうだろ。ここでどうやって休むんだ?」


 「あ……」


 落ち着いてはいるが、俺だって無重力の体験なんてない。だけどここで苦労することは分かる。

 それは寝ることができないことだろう。ここでは石のコテージを展開する地面もないし、浮いたまま寝るのだって厳しい。

 そしてダンジョンだから魔物だって出る。その中でコテージなしで寝るのは無防備すぎる。

 仮に眠れたとしても、慣性を殺すことが出来る方法を用意できなければ、朝起きたら全く違う場所にいることだってある。

 それは起きていても同じだろう。慣性を制御できなければどこまでも勝手に移動してしまう。

 もしかしたらこのエリアは、巨人エリアや空エリアなんかよりも難しいかもしれない。


 「とにかく、一度階段まで戻ろう。この無防備な状態で魔物に襲われたら、間違いなく苦戦しちまうからな」


 「ですが、どうやって……」


 リディアがバタバタと手足を動かして入り口へ戻ろうとするが、全く移動できていない。

 そうだった。今の所このエリアで自由に移動出来るのは、風魔法が使える俺とエルだけだろう。

 俺は魔法陣を自分の手に展開し、そこから一瞬だけ風を出す。

 プシュと音がすると俺の体がゆっくりと移動した。

 やっぱり地球の宇宙と同じで、風魔法でも移動できそうだ。火はダメだな。自分の手に直接魔法陣を展開しなければならないから火傷しちまうし。

 でも力加減が難しいな。間違えると体が回転してしまう。

 俺は時間を掛けながら風魔法で移動し、仲間たちを一人ずつ入り口へと連れて行った。


 「た、助かりました。ここでは私はまったく役に立ちそうにありません」


 入り口まで移動して重力を取り戻すと、魔法が全く使えないリディアが申し訳無さそうにしていた。

 うーん、たしかにリディアは今の所活躍を期待できないだろう。だが、攻略法が用意されているはずだし、それさえ見つければ移動は問題なく出来ると思うんだけどな。

 それを見つけるまでは、俺が頑張るしかないか……。


 「気にするなよ。こんなのはこの世界の誰だって苦労するだろうし」


 「はい……」


 「でも、どうするの?」


 さすがのエリーも少しうんざりした口調だった。


 「とりあえず、この重力がある階段で食事を取っておいてくれ。移動を始めたらもう食事も休憩もできなくなるからな。今のうち休んでおいてくれ。それとシギル、(から)のプールストーンに魔法陣を刻むのは出来るよな?」


 「え?うん、刻むだけなら出来るッスけど……。でも魔法陣なんてわからないッスよ?」


 いつもプールストーンに魔法陣を刻むのは俺の仕事だ。シギルにさせたことはない。でも、刻むことだけならシギルでも出来る。

 俺はマジックバッグからメモ用紙を出してさらさらと魔法陣を描いてシギルに渡す。それとプールストーンも出して床に置く。

 何も刻んでいないプールストーンのストックは常に何個か用意してある。


 「これを人数分用意しておいてくれ」


 「了解ッスけど、これは何に使うんスか?」


 「このプールストーンから風が出るようにするんだ」


 「なるほどッスね。それで旦那みたいに自由に動けるようになるんスね」


 「いや、それは緊急用だよ。俺は今から移動手段を見つけに行くけど、その移動手段が無限に使用できるか分からないしな」


 移動手段があることは確信している。だが、その移動手段に制限がないとは限らない。その時に移動できる緊急手段を用意してもらうのだ。

 プールストーンで移動できたとしても、中に込めた魔力だけで次のエリアまで足りるとも思えないしな。


 「それじゃ俺は行ってくるよ。戻ってくるまでにしっかりと休んでおいてくれ」


 そして俺は宇宙へと飛び出した。



 飛び出した俺は入り口の目印としてエルから借りた光を発するプールストーンを設置。

 それから移動を開始する。

 風魔法でバランスを調整しつつ進んでいく。

 進むのは簡単だ。一度だけ風を噴出させればその方向へ勝手に移動するのだから。だが、バランスは崩してしまう。

 わずかに回転する体を止めなければならないが、それが非常に苦労する。


 「んー、手で魔法を発動すると、バランスが悪くて回転しちまうな」


 両手は論外。バックで移動するようなものだし、魔物に遭遇した時に対処が遅れる。やっぱりここは背中に魔法陣を展開するのが良いのか?

 俺は手に魔法陣を出すのを止め、背中に展開して移動することにした。

 進むだけならそれで安定した。しかし、それはそれで苦労することになる。微妙な進行方向の変更は体をよじれば問題ないが、障害物を避ける場合、それでは間に合わなかったのだ。

 このエリアには地球の映画で見た通りに隕石も飛んでいる。その隕石の障害物を避けることが面倒なのだ。

 その時は手に魔法陣を出して方向転換するが、やっぱり体が回転してしまう。

 両手に魔法陣を展開してなんとか回転を制御しているが、慣れるまで時間がかかるだろうな。こんなことは他の魔法師にはできないだろうから、この進み方はやはり間違っているのだろう。

 体を制御しつつ移動するにつれ、ようやく慣れたのか一時間ほどで自由に動けるようになった。


 「やっと慣れてきたな。でも、今度は酔ってきた。ぐるんぐるん回ったからなぁ。これは皆苦労するだろうな。ん?また隕石が向かって来ているな」


 俺の体より少し大きい岩の塊が、俺に向かって飛んできている。だが、このまま進んでいれば当たることはなさそうだな。

 そう思っていたら、岩が突然向きを変えた。


 「?!」


 あり得ないことに気づくのが遅れた!噴射して位置を変えなければ直撃する!

 俺は風魔法を強めに出し速度を上げて避けることにした。

 判断が良かったのか、隕石は俺の2、3メートル横を通り過ぎて行った。


 「あっぶね!判断が遅かったらぶつかってたな!」


 だが、まだ終わりではなかった。

 通り過ぎた隕石が急停止したのだ。それだけでも驚きなのに、更に俺を追うように方向を変えてまた向かってくるのだ。


 「なにぃ?!あり得ないだろ!!」


 宇宙と同じなら隕石は急停止なんてしないし、方向転換なんて色々な要素が絡まってようやく可能だというレベル。俺へ的確に向かってくることなんて絶対にあり得ない。

 この異世界の宇宙がこういうものだという可能性は捨てきれないが、宇宙という原理はどこも同じだと信じたい。

 地球と同じだと仮定した場合、この出来事はやっぱりあり得ない。

 だとすれば、そんなことが可能なのは……。


 「魔物か!!」


 この宇宙空間を移動できる手段を持つ魔物だということ。

 いったいどうやって移動しているのか?

 いや、考えている場合ではない。あの隕石をどうかしなければ。

 ただ壊すのはダメだ。勢いよく壊して、あの割れた隕石が散弾のように飛んできたらもっと危ない。

 ならばどうする?

 隕石を完全に停止させるか……?ダメだな。風魔法や水魔法で止める自信がない。氷魔法で隕石を止めるか?

 魔物の本体を仕留めることができれば、それが最も良い方法なんだが……。あの隕石自体が魔物かもしれないし、隕石に寄生する微生物の仕業かもしれないし、隕石の中心に隠れているのかもしれない。つまり、どんな魔物なのかわからないと対処しようがないということだ。

 リディアのように真っ二つにできれば良いのだが、残念ながら俺の魔法にはそんな切れ味の良いものは用意していない。どれも迫力のある破壊系だ。

 そうなると、当然やることは避けるしかない。避けながら魔物の正体を見極める。

 魔法で強風を出し、速度を上げて隕石の激突を避ける。

 すれ違いざまに観察しようとするが、じっくりと見る余裕はない。


 「クソッ!こうも無重力がやり難いとは思わなかった!」


 避けたとしてもバランスを崩していたら観察どころではないのだ。しかも、相手はこのエリアに生息する魔物。俺なんかよりも自由に動けるのだ。

 もうこれは数をこなすしかないな。焦らず時間を掛けて解明するしかない。

 隕石は俺が避けると向きを変え再び向かってくる。

 それを何度も何度も避けて観察した。

 そうして、隕石にあるものが生えていたのに気づいた。

 それは花だった。


 「あんなに目立つものになんで気が付かなかったんだ?」


 それは灰色の花だった。

 目立つと呟いたが、隕石の色と似ていて気づかなかったのか?……いや、それでも草の緑は目立つだろう。

 ということは、気づかなかったのではなく、相手が隠れていた?つまり……。


 「あの花が本体か!」


 また面倒くさい……。

 あの魔物を倒すには、隕石を避けつつその裏に隠れている花を切り落とすしかない。

 かまいたちで切り落とす方法があるにはあるが、成功率は低いだろう。突撃してくる隕石の裏に隠れている魔物を、予測して切り落とすのはさすがに厳しい。

 ならばやることは一つか。

 俺は隕石を何十回も避けながら魔物の位置を特定する。


 「あの位置か。次避ける時が勝負だ」


 隕石が向きを変え再度突撃してくる。

 ここだ。

 俺は隕石をギリギリまで引きつけてから最低限の横移動だけで避ける。

 そして、隕石とすれ違うと刀を抜き振り下ろした。

 結果は、成功だった。

 隕石はそのまま進み、あとには切り落とした花だけが無重力の海を漂っていた。

 よし、花が本体なら倒したはず!隕石は……、戻ってこない。これで始末したということで間違いない。


 「………やっべ!あの隕石を調べないと!」


 俺は慌てて隕石を追いかけた。風魔法を駆使してなんとか隕石を止めると詳しく調べることにした。

 隕石自体はそれといって特徴はない。ただの岩だ。

 しかし、俺が見た通り草が根を張っていた。草系の魔物で間違いないだろう。

 隕石を追いかける前に、切り落とした花も回収したからそれも一緒に調べてみたが、ただの花のようにしか見えない。

 恐らく、食虫植物のようなものなのだろう。


 「しかし……、どうやって移動したんだ?」


 この魔物が何らかの方法で隕石を動かしていたのは間違いない。根っこごと引き抜いて調べるか。

 そう思い草を引っこ抜こうするが全く抜けない。このまま強引に引っ張れば草が千切れ、根を回収できなくなってしまう。

 隕石を砕いて回収するしかないか。

 俺は土魔法で金属製のトンカチとノミを作り出すと、丁寧に隕石を削っていく。

 またその作業が面倒だった。叩くとその衝撃で隕石が移動してしまうのだ。

 魔法で壁を作って止めたりしながら作業して、多くの魔力を消費してしまった。

 だが、その努力の甲斐あって、魔物の根っこをそのままの姿で回収することができた。何よりどうやって隕石を移動させていたのかも判明した。

 魔物の根っこはこぶし大の球根で、その中に酸素が圧縮して詰まっていたのだ。

 球根を握ると、切り落とした茎の所から物凄い量の酸素が噴出して驚いた程だ。花の部分で風量を調節したり、向きを変えたりして方向転換したのだろう。

 そして、この魔物が俺の求めている物でもある。

 この魔物の根さえあれば、この宇宙空間でも移動が可能になる。

 この魔物を倒しながら移動するのがこのエリアの攻略方法に違いない。


 「よし、じゃあ仲間の数の分を回収したら戻ることにするか」


 慣れさえすれば、この魔物を倒すのは簡単だ。

 ま、見つけるのは難しいけど。なんせ、隕石はそこら中にあるが、どれが魔物かはわからないからな。

 俺はため息を吐くと、魔物を見つけるために宇宙を漂うのだった。

来週は都合により昼の12時投稿になります。

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