表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十一章 50層攻略
156/286

空の旅、そしてただいま

 朝起き朝食を食べ、支度を済ませコテージを片付けると31階層の攻略をすべく歩を進める。

 しかし、すぐに足は止まる。


 「これ、どうやって進めばいいんだよ」


 「道、無い」


 俺とエリーが途切れる道の先を見ながら途方に暮れる。

 簡単に言えば、空に浮かぶ大地が飛び石のようにそこらにあって、それを乗り継いで次の階層の道をさがさなくてはならないのだ。それも魔物が襲ってくる中でだ。

 道はある。あるにはあるが、平均30×30ぐらいの小さな足場をジャンプして移動しないと次の島に行けないのだ。メートルじゃないよ?センチだよ。どうしろって言うんだ。多くの足場はマウスパッドぐらいの大きさしかねーぞ。

 もちろんマウスパッドより小さいのもあれば、大きいのもある。

 とはいえ、見た目が半透明なガラスだから着地するのも怖い。実際、ある程度の衝撃があった場合、この半透明な足場は壊れてしまうだろう。

 そんなものに飛び移りながら移動しようとすれば、慣れたはずの下腹部ヒュンヒュン感を再び感じてしまいダンジョン攻略どころではない。

 いや、正直に言おう。怖すぎ。

 ここはダンジョンで作られた空間で、偽物の空だ。行き着く先にはちゃんと壁もある。だが、肌を撫でる風もあり、落ちれば間違いなく死ぬのだから、感覚的には本当に空にいる気分だ。

 ぶっちゃけ、もう攻略しなくても良いんじゃないかなと思う。

 エリーのためにそれは出来ないが。


 「ギル様、どうしますか?」


 何が?攻略するかどうか?やめていいなら、速攻やめるけど……、そういうことを言いたいのではないのだろう。

 リディアはどうやって進むかを聞いているのだ。

 ホント、どうしよっかね。


 「あのちっちゃい足場に乗っても落ちないかな?」


 「ど、どうでしょう」


 「ちょっと……シギル」


 「いやッスよ!なんであたしに行かせようとするんスか!」


 「いや、ちっちゃいから」


 「どっちが?!あたしッスか?足場ッスか?どっちにしろ嫌ッス!」


 小さい足場だから小さいシギルなら適任だと思ったが、どうやら押し付けるのは失敗したみたいだ。

 皆の顔を見渡すが、俺と目が合いそうになると目をそらされる。あのいつも意味がわからなくてもニコニコとしているエルでさえも。

 クソぅ、結局俺が行くしかないじゃないか。いや、怖いから無理。


 「とにかく、安全を確認出来ないものに乗るのはダメだ!」


 「進めない?」


 無表情だが声色でエリーの悔しさが伝わる。

 エリーとしてはなんとしても攻略したい。だけど、皆が嫌がることはさせたくないのだろう。だから諦めようかと俺に聞いている。


 「いや、諦めるのは最終手段。まずは試してみよう」


 「試す?」


 「俺たちはまず、この足場のことに詳しくなるべきだ。色々試して、安全を確認してから進むか進まないかを決めても遅くない」


 「……ん」


 エリーが深く頷く。

 返事に少し間があったのは、逡巡したからだろう。危険な目に合わせたくないと自分のことよりも仲間を優先する優しさが垣間見える。

 だからこそ、エリーのために出来ることはやってあげたい。

 そうとなればさっさとこの不思議なガラスを調べよう。

 俺はそこらへんに浮いている小さい欠片を手にとって色々と調べてみた。

 時間にして約一時間ほどを費やした結果、様々なことがわかった。

 まず、この半透明のガラスのようなものは硝子ではない。どちらかと言えば石に近い。クリスタルに近い性質だ。

 叩けば割れるが、人間が乗ったぐらいでは問題ないこともわかった。石のような材質ならば当然と言えば当然だが。

 そしてどんなに小さい欠片だろうとも空中で固定する。浮くのではなく固定で、漂うことはない。このエリアに吹く風が強くないのもあるが。だが、力を入れれば手で動かすことは可能だった。

 ガスを入れた風船のように勝手に浮き上がることもなくその場で留まる。

 しかし固定されているとはいえ、飛び乗った場合、落ちる力と浮かぶ力が相殺されるまで下降する。

 今俺たちが乗っている場所でジャンプしたりしてもこの半透明の大地が下降しないのは、おそらく巨大だからだ。大きさで空中に留まる力が増減するようだ。

 だから粒ぐらいの大きさに俺が飛び移ったとしたら、留まる力が弱いから当然落下することになるわけだ。ある程度の大きさのものを選ばなければならない。

 勝手に浮かび上がらない浮遊石のようなものだ。


 「ふーむ。いいなぁ、これ」


 「あー、何がッスか?」


 一時間は長かったようだ。俺が半透明ガラスを撫で回し調べている間、興味をなくした仲間たちは様々なことをしていた。休憩していたり、片付けたキャンプ道具を再び引っ張りだし料理していたり、布団や枕を出して眠っていたりだ。

 材質に興味があるシギルだけが俺の行動を熱心に見ていた。


 「いや、これがあれば面白いことが出来ると思ってね。後は地上でも同じ性質だといいんだが……」


 「なにか面白いアイデアが浮かんだんスか?」


 「まあな。ダンジョンを移動するだけなら簡単になるぞ」


 「ホントッスか?!」


 「ああ。とりあえず、全員が乗っても下降しない大きさのものを探そう。あと、俺のマジックバッグに入るぐらいの大きさのも持って帰るぞ。出来るだけ沢山だ」


 俺の持っているマジックバッグは大きいリュックサック型で、入れる口の部分の大きさを超えない物ならばしまうことが可能だ。中に入る事ができる限界量はリュックサックの見た目の50倍ぐらいだろうか。かなりの量をしまうことができる。

 そのマジックバッグの限界量ギリギリまで持ち帰ろうと提案したのだ。


 「マジっすか……。まだ攻略出来ないんスね」


 「まあまあ、いいじゃないの。どっちにしろ俺が準備しないと攻略できないんだから、皆は集めておいてくれよ。あと、この半透明のガラスのことは浮遊石とでも呼ぼうか」


 この半透明のガラスを鑑定スキルで見ても何もわからない。名前すらないから呼びやすいように浮遊石と決めた。


 「はー、了解ッス。はーい、皆行くッスよー。エル、起きてー」


 シギルがため息を吐きつつ、すっかり寛いでいる皆を準備させ持ち帰り分の浮遊石を集めに出かける。

 その間に俺は皆が乗っても問題ない大きさの浮遊石を探す。

 大きさにして10畳ほどの浮遊石を見つけるとそれを引っ張って元の位置まで戻ってきた。

 俺が全力で引っ張ってやっと動かせるぐらいだから、全員が乗っても問題ないだろう。無属性魔法による身体強化は使ってないけどな。

 さて、あとはこれに手を加えるだけだ。

 何をするかだが、この浮遊石に魔法陣を刻むのだ。

 何故、こんなことをするか?

 それはこの浮遊石に乗って移動するためだ。風魔法を利用して浮遊石を動かせば、楽に攻略できるはず。

 魔法陣を空中に出しても浮遊石を動かすことはできない。魔法陣は魔法の出力に影響を受けないからだ。

 風魔法を出したとして、魔法陣は風圧の影響を受けずその場を動かない。つまり、魔法を使っている俺にも影響はない。当然だが、風を俺に当てるのなら影響はある。とても涼しい。

 ただし、物に直接描くと影響を受ける。小さい石などに風魔法の魔法陣を刻み、魔力を流すと小石が風の出力に負けて動いてしまう。小石を床に置いて指で触れながら魔力を流したりなんかすると、小石が暴れまわってしまい、すぐに魔力が途切れ使い物にならないから誰もこんなことはしない。

 床や壁に魔法陣を描くやり方は、描いた後その部分に魔力を流すから時間の効率が悪く、戦闘では使えないから誰もやらないのだ。

 でも、今回はこの方法が役に立つ。

 浮遊石にナイフで魔法陣を刻んでいく。それも上下左右前後分に数個ずつだ。一筆書きのように途切れないように書いていく。

 乗る面とその裏面には小さな魔法陣を8個ずつ必要になる。

 浮遊石の一部分だけに魔法陣を描くと、魔力を流した場合その部分に集中して魔法の影響があり、浮遊石のバランスが崩れてしまう。

 浮遊石が傾けば、上に乗っている俺たちは当然落ちてしまうから、バランス良く魔法陣を配置しなければならない。

 そんなことを考えながら魔法陣を刻んでいると、横移動分も合わせ全部で28個も必要になってしまった。

 更に、その28箇所に一定の位置から動かないまま魔力を流せるように、導線のように刻む。

 一時間もの時間を費やし魔法陣、そして導線が完成した。しかし、まだ終わらない。導線に魔力を流したところで、刻んだ魔法陣にそのまま魔力が流れるわけではないからだ。

 魔石とは違い、魔力を流しただけで魔法は発動しないのだ。

 ではどうするか?

 今刻んだ、つまり浮遊石の彫ったところに魔力が流れる何かを詰めるしかない。

 そこで考えたのが、溶かした金属で埋める方法だ。金属には魔力が流れる。

 鉄板に魔法陣を描いても魔法は発動しないが、金属の文字で描いた魔法陣に魔力を流せば魔法は発動する。

 まあ金属の種類にもよるが、金属に魔力を流すのは空中に魔法陣を描くより数倍の魔力が必要になるから誰もやらないが。

 俺のように総魔力量が多い人間にしか出来ない方法だ。

 俺はマジックバッグを漁り、使えるものがないかを調べる。すると、錫がマジックバッグから出てきた。

 この異世界に来た時、コボルトがいた出来立てのダンジョンで手に入れたくず鉄に混じっていた物だ。量も少なく、使い道がないからまったく注目していなかったが、まさかここで役に立つとは。物を捨てられない男で良かった。

 俺は錫を出すと彫った場所に押し当て、火属性魔法をバーナーのようにして溶かし流し込んでいく。

 錫の融点は232℃だから簡単に溶かすことが出来るのだ。

 更に1時間程使い、なんとか彫った場所に錫を流し込むことが出来た。しかし、これで俺がパイロットのように浮遊石を動かすことができる。

 試しに乗ってみる。

 予想通り、試運転は上手く行った。扱いは非常に難しく魔力消費も激しいが、浮遊石を自由に動かすことが可能になった。

 俺が空の旅を楽しんでいると、仲間たちが目をキラキラさせて歓声を上げている。

 それはそうだ。空飛ぶ絨毯のような、夢の乗り物なのだから。まあ、動力は俺の魔力だからずっと動かすのは無理だけど。

 準備は整った。計三時間も掛かってしまったが移動は楽になったはずだ。

 仲間たちも沢山の浮遊石を集めてくれた。これで心置きなく出発できるな。


 「よし、皆乗りな」


 まるで買ったばかりの新車に友人を乗せたがるように、サムズアップしながら皆を誘う。だが、仲間たちは尻込みしている。

 ただ見ているのと、実際乗るのとでは違うようだ。


 「全員で乗っても落ちないでしょうか?」


 「とりあえず乗ってみるしかないッスね」


 「ん、心を決める」


 「見てるとカッコよかった、けど、乗るの怖い、です」


 「やだなー、怖いねんなー」


 全員がまったく乗り気ではないという気持ちを吐露しながら、恐る恐る乗っかっていく。

 不評だ。まあ、手すりがないから怖いのは同感だけどさ。

 俺が努力して作り上げた浮遊石は、全員が乗っても下降しなかった。

 ゆっくりと移動させてみる。


 「こわっ!安定感全然ないやん!」


 フラフラと浮遊石が動く。

 これ……、なかなか難しいのよね。だけど、浮遊石が急にひっくり返って落下なんてことは起きないはずだ。

 と、心の中で祈りながら皆を乗せて練習を重ねる。

 まあ、今ひっくり返っても真下には俺たちがキャンプをした巨大な浮遊石があるから大丈夫だけど。だが、そろそろ勇気を出して下に安全な大地が無い場所へ行かなければならない。

 ゆっくりゆっくりと下に何もない場所へと移動していく。

 そして、下に巨大な浮遊石がなく、落ちれば死ぬ場所まで移動してきた。


 「おぉ……」

 「おぅふ」

 「はわわ」

 「……!」

 「神よ……」


 皆がそれぞれの恐怖を言葉として出す。だが、ティリフス、お前元女神なのになんで神に祈ってんだ。

 だが、大丈夫そうだ。これなら問題なく進める!はず!


 「よしよし、じゃあ覚悟を決めて行くか」


 俺が皆に覚悟を決めるようにと振り向いて伝えるが、皆は頷かない。だから、返事を待たずに出発する。

 全員が息を呑むのが伝わってくるが、それを無視しどんどん移動していく。

 初めの内はそれこそ緊張で乗っている浮遊石にしがみついたり、仲間同士支え合ったり、ぶつぶつと独り言を言っていたりしていた仲間たちだが、10数分ほど移動していると慣れて来たのか会話したりするようになった。

 だが、ここで問題が起きる。いや、予想通りに問題が起きた。


 「魔物、です!」


 魔物が俺たちに向かって飛んできているのだ。

 頼りになるエルの目が魔物を発見した。

 俺は浮遊石に逆噴射をさせて一度停止させる。


 「予定通りだが、魔物が現れる度に停めていたら、ここを突破するのがいつになるかわからない。ここはエルが対処してみてくれるか?」


 遠距離攻撃が出来るのは、俺とエルのみ。エリーも出来なくはないが、魔法武器の効果は中距離範囲攻撃だから、ある程度近づいてこないと意味がない。

 俺が運転しながらでも戦闘が出来るのか、試しにエル一人で対処してもらうのだ。


 「は、はい、でしゅ!」


 多少の緊張を噛むことで俺に伝えるエル。

 クロスボウのボルトを魔石が付いている魔法矢ではなく、鉄製のボルトに交換し終えると飛んでくる魔物に狙いを定める。

 魔物が段々と近づいてくるのがわかる。どうやら、ハエのような魔物みたいだ。

 エルが息をゆっくり吸い、止めたと同時にボルトを発射する。

 風鳴りがしたと思ったら、飛んできた魔物の頭部が破裂し、残った身体は底へと落ちていった。

 当然の必中だった。


 「さすがだ、エル!」


 「えへへ」


 「これが移動してても当てられそうか?」


 俺は乗っている浮遊石を指差す。


 「だいじょうぶ、です」


 「じゃあ、魔物の相手はエルに任せる。俺は運転に集中するから。もし万が一打ち漏らした魔物が近寄ってきたら、近距離が対処してくれ」


 「はい、です」


 エルが頷き、他のメンバーも続いて自信なさげにだが頷く。

 よしよし、問題なさそうだ。飛び移りながら魔物と戦うのは厳しいが、乗り物の上なら安定しているしな。うんうん、俺の判断は間違いじゃなかった。

 自分の判断が正しかったことに満足しながら浮遊石を移動させていく。

 途中、群れで魔物が現れるが打ち漏らすことなんて一切なく、エルが一人で仕留めてしまった。

 これは余裕だろと思い始めたのもつかの間、思いもよらぬことが起きた。

 エリアを円を描くように移動したが、上階に行くことが出来る横穴、もしくは階段が見つからなかったのだ。今は昨日野営した場所まで戻ってきていた。


 「階段が見当たりませんね」


 「見逃したか?」


 「んー、エルも見てたけど、なかったです」


 全員がたまたま見逃しと思ったのだが、エルが見落とすはずはない。

 だったらどこに?と、昨夜のように空を見上げてぼーっとしていたら、あることに気がつく。


 「もしかしたらさ、上階に上がる階段なんてないんじゃないか?」


 「ここで終わりということですか?」


 「でも、父の日記に44階層まで書いてある」


 エリーの父の手記には44階層まで突破した日付が書かれていたから、ここで終わりということはないとエリーは言いたいようだ。


 「そうだな。上層はあると思う。けど、このエリアには階段はないんじゃないかなって」


 「それはなんでッスか?」


 「上、見てみろよ」


 全員が空を見上げる。

 理解した者はしばらくして「あっ」と声を上げ、わからない者は首をかしげる。


 「もしかして、上にも浮遊石があるからそう思われたのですか?」


 「そう。このエリアってさ、もしかたら4層、または5層分の高さがあるんじゃないかな?」


 「なら、この乗り物がなかったらめっちゃ大変やん」


 「そういうことになるなぁ」


 なんせ、上へ上へと飛び移りながら進まなくてはならない。それも魔物を対処しつつだ。それは非常に大変で、困難な道だろう。

 だが、階段がないのだからそれしか考えられない。


 「まあ、とりあえず上へ行ってみるか」


 仲間たちは懐疑的だったが、俺には確信めいたものがあった。

 このエリアは飛び移る恐怖にさえ打ち勝つことができれば、比較的簡単に移動できるのが理由だ。途中で休憩できる大きな足場もあり、魔物も小さな足場に乗っている時に襲われるのでなければそれほど強くない。

 なのに、エリー父の手記には攻略法は書かれていない。

 跳ぶという行為は非常に疲れる。場合によっては這い上がるように移動する場合もある。

 エリー父は疲れ切ってしまったのではないだろうか?そして、巨人エリアと同じく飛び移るのが攻略法だとは思えなかったのではないか?

 本当に上に出口があるならそれぐらい書いておけよと思うけど、エリー父からしたらそれぐらい思いつけよと思ったのかもしれない。

 まあ、なんで攻略法を書かなかったのかは本人しかわからないけどな。

 俺はそんなことを考えながら、浮遊石を更に上空へと浮かせていく。

 それから一時間ほどゆっくりと上昇していくが天井へはつかない。ここまで来ると上層への出口は上空にあると確信した。既に1階層分以上、上昇しているからだ。

 しかし、突然エルが不思議なことを言い出したのだ。


 「空に、穴が空いてる、です」


 なんとも不思議なことを言い出したぞ。いやいや、空と行ってもここはダンジョン。果てには壁があるから、そこに穴が空いている可能性はある。

 だが、俺の目には全く見えていない。


 「どこ?」


 目を細めても穴なんてものはない。エルの超視覚でようやく見つけられる穴なのだろうか?


 「あっち、です」


 エルが指で方向を教えてくれる。

 うーん。先を急ぎたいが、折角エルが教えてくれたのだから確かめてみるか。


 「わかった。ちょっと寄ってみるか」


 俺はそちらへと浮遊石を進めていく。

 10分ほど進むと、たしかにエルが言う通り空に亀裂が入っているのが俺の目でも確認できた。

 でも、人ひとり通ることができそうなヒビ割れのようなものだ。よくあの距離からこんなのに気がついたな。

 さて、近づいては見たもののどうするかだ。調べるべきかどうか。

 んー、迷うけど調べてみるか。もしかしたら、ここより上空はフェイクで、ここが上層への入り口かもしれないしな。


 「よし、俺が中に入ってみるよ。皆はここで待っててくれるか?」


 全距離対処可能で、生存率の最も高い俺が調べるべきだ。何かあっても逃げ切る自信があるしな。

 皆が心配そうに俺を見るが、俺は構わず浮遊石を横付けし、穴へと飛び移る。


 「じゃあ、行ってくる」


 一言告げ、奥へと進んでいく。

 入り口は体を横向きにしなければ入ることが出来なかったが、中は普通に歩けるぐらいの広さがあった。

 今までが地上と同じ明るさだったのもあり、中は真っ暗に思えた。当然、ここもダンジョンだから他の階層と同様に薄く光っているはずだが、何も見えなかったから光魔法を使ってしまったほどだ。

 通路はそれほど長くなかった。すぐに出口があったのだ。

 そこを通り過ぎると、そこは広大な空間があった。


 「なんだここ?」


 思わず独り言を言ってしまうのも仕方がないことだ。なんせ、何もないんだから。

 光魔法をスポットライトのように照らして先を確かめる。が、やはり何もない。それこそ階段も横穴も、魔物すらも。


 「安全地帯?休憩場所のようなものか。…………いや、いやいや、ちょっと待て」


 俺に突然閃きがあった。まさか、そんなことがあり得るはずがと思いつつも確かめずにいられない。思いついてしまったのだから。

 俺は最奥まで行くと壁を確かめる。当然行き止まりだ。

 壁を刀の柄で軽く叩いてみる。横に移動しながら。

 ゴツ、ゴツ、ゴツ、ゴツ、コン。

 音の変化。


 「まさかまさか?ありえないでしょ」


 音が変化した場所に、小さな爆発が起こる魔法を使う。

 ボンッという音がした後、土煙が舞う。

 それが落ち着くと、そこにはもう一つ穴が出来上がっていた。

 穴は奥まで続いている。

 俺は迷わずそこへ入り通路を進む。

 中々に長い通路だが進むのを止めない。そのうち、壁に突き当たった。

 そこも同じく爆発魔法で破壊を試みる。いとも簡単壊れ、また穴が空く。

 その穴を通り過ぎると、そこには花壇があった。

 見たことがある風景。

 目の前には小さな城が建っている。

 よく見た光景。


 「ああ、やっぱりここは裏だったのか」


 そう、ここは魔法都市。俺たちパーティの城の裏庭だったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] パーティーのリーダーで最大戦力、頭脳労働と料理まで任せっきりなのに瞑想と睡眠でしか魔力回復出来ない魔法士に見張りまでさせるとか正気か? こいつら自分達の無能さをもっと重く受け止めた方…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ