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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十一章 50層攻略
152/286

巨人を倒す方法

 巨人の投擲。

 人間だったならば、道端に落ちている石をただ投げただけ。しかし、投げたのは巨人で、俺たちからしたら投げられたのは巨石と言っていい。

 それは爆発的な威力で、もし当たっていたらどうなっていたか……。

 砂煙が風に流され散ると、投擲の落下地点が見えてくる。

 小規模のクレーターが出来ていた。

 爆音と舞い上がった砂埃で予想はしていたが……、すげぇ破壊力だな。いやいや、そんなこと言っている場合じゃない。


 「きょきょ、巨人、です!」


 「何なんスか!あたし、あいつの足の小指ぐらいじゃないっすか?!」


 「うはは」


 「何笑ってんスか!旦那!」


 「ふざけている場合ではないです!ギル様、どうしましょう!」


 そうだった、シギルの自虐ネタを笑っている場合じゃない。


 「ん、こっちに来てる」


 「アカーン!」


 「うはは」


 「何ワロてんねん!」


 おお、本場のナニワロを聞けた。いや、本当の関西人じゃないから本場じゃないか。

 いやいやいや、本当にそんなこと言っている場合じゃない。巨人が猛スピードでこっちに駆けてきている。まさに進撃だ。


 「ギル様、どうなさいますか!」


 リディアが俺に指示を仰ぐ。けど、そんな事言われてもな。巨人の対策なんてないぞ。

 地球の物語、神話、言い伝えにも巨人は出てくる。だがそれが宛になるかどうかは別の話。

 巨人は知能が低く乱暴、物語によっては人を食べたりもする。()()()非常に賢く、友好的であったりもする。物語によっては高性能な装備を作成出来たりもする。

 幻獣だったり、神と戦争したり、人間を滅ぼそうとしたりで情報に一貫性がない……、どころか情報が多すぎて何を参考にしたら良いのかすらわからない。

 指示するも何も手探りで確かめるしかない。幸運にも敵は一体だしな。


 「エリー、前衛防御!やれるな?!」


 「ん」


 俺の要求にエリーが短く返事をすると前に出て盾を構える。

 木ぐらいの身長がある相手に、物怖じせず前に出ることができるエリーの度胸は凄いよな。だが、助かる。


 「ギル様、私達はいかがなさいますか?」


 「まあ、いつもどおりやるしかねーな。対処法は見つけていくしかない」


 「はい」


 「う、ウチは?!」


 ……ティリフスか。あんまり戦わせたくないんだよな。今までは魔物が雑魚だったから指示なんてせずとも瞬殺していた。それもあってまだティリフスをどうやって使っていいか考えがまとまってない。ホワイトドラゴンが見る限り、鎧が壊れなければ大丈夫らしいが、戦闘をすればその可能性は高くなる。さらにティリフスの魔法は攻撃向きじゃあない。

 それを踏まえてどうするか……。とりあえず、今回は見ててもらうか。


 「踊ってくれる?」


 「なんでや!」


 しまった、つい面白い願望が……。


 「とりあえず、エルの後ろで様子を見てくれ。自分が出来ると思った時だけ魔法でサポート」


 「わ、わかった」


 「よし、やるぞ!やばかったら早めの撤退!」


 俺の指示に全員が頷き、陣形を展開。

 俺を中心に右にリディア、左にシギル。前にエリー、後ろにエル。そして最後尾にティリフスだ。

 巨人が近づいてくるのに比例して足音も大きくなっていく。

 そして、巨人が俺たちの前まで辿り着いた。が、巨人は立ち止まらない。


 「な?!エリー気をつけろ!」


 「む」


 巨人は走ってきた勢いのまま、まるでサッカーをするかのように足をエリーに向かって振り抜こうとしている。


 「エリー、いなせ!エル、援護!」


 「ん」

 「です!」


 エリーが真正面から受けず、盾の角度をずらして受け流す。

 盾を滑るように巨人の蹴りは空振りし、体制を崩す。その隙にエルがクロスボウを巨人の身体に打ち込んだ。

 ボルトが巨人の心臓辺りに数本突き刺さる。

 よし、急所!

 巨人は悲鳴も上げずによろける。だが、倒れることはなく、それどころか更に追撃をしようと腕を振り上げている。

 マジかよ!心臓だぞ!人間とは臓器の構造が違うのか?いや……、ボルトの突き刺さり方が浅い?巨人の筋肉で止められたか!

 そして、巨人は腕を振り下ろした。

 狙いはエリー。

 エリーは盾を上げ受け止めるつもりだ。

 巨人の攻撃はパンチではない。握った拳を叩きつけただけ。それでも……。


 「くっ!!」


 ゴツンと、まるでハンマーで叩きつけられた音が響く。エリーの足が少し地面に埋まり、珍しく表情を歪ませる。

 コボルトキングやその親衛隊の強烈な攻撃を受けても表情を変えないエリーが?それだけでこの巨人の攻撃力が強いとわかる。


 「大丈夫か?!エリー!」


 「ま」


 「ま?」


 「まあまあ」


 まあまあって何だ?まあまあ大丈夫?意味不明だが、やせ我慢しているってことだろう。だが、今はその見栄が有り難い。

 エリーが受け止めている間に総攻撃をかけるしかない。こんな危ない魔物に時間を掛けるのは危険過ぎる。


 「攻撃!!」


 俺の指示と同時にティリフス以外が動き出す。リディアとシギルが巨人に向かって走り出し、俺は魔法陣を展開。巨人の目を目掛けて、魔法をマシンガンのように放つ。

 巨人は俺の魔法を受け嫌そうに顔を顰めた。

 チッ、連続魔法を受けて嫌がるだけかよ!シリウスみてぇな防御力してんな!だけど、目を瞑ってくれただけマシか。少しの時間だけでも攻撃を止められたからな。それに乗じてリディアとシギルの攻撃態勢は整ったみたいだし。

 二人は巨人の足元にいた。

 リディアがミスリルの刀を抜くと同時に足に斬りつける。その攻撃は銀色の光線が走ったように見えるほど高速だった。

 切れ味は抜群で、スパっと切れ血が吹き出すまで数秒遅れたほどだ。

 シギルはゴツい篭手をカチャリと鳴らしながら振りかぶり、拳を振り抜いた。ただ豪快に殴りつけただけ。だが、威力は凄まじく巨人の足がズレる。


 《があぁああああ!》


 巨人が痛がり、よろける。が、倒れない。

 んー、シギルの攻撃でバランスを崩したのに、尻もちをつくどころか四股を踏むように耐えやがった。リディアの斬りつけも雑ではなく、転ばせるために足の腱を狙っていたはずだ。それでも倒れないということは、やはり体がデカイ分、防御力も体に合わせて桁が違うということだ。

 リディアとシギルは巨人の反撃に備えて、既に足元から離れている。

 転ばすことが出来なかったのは残念だが、二人の行動はこれが正解だ。

 それを証拠に、巨人は地団駄を踏むように今まで二人が居た場所へと狂ったようにストンプ攻撃をしているからな。

 二人が倒すことに執着してそのままの場所にいたら、今頃ぺしゃんこになっている。

 さてさて、俺の連続魔法も、エルのクロスボウも、リディアの斬撃も、シギルの打撃も決定的なダメージを与えることができない。エリーも今は耐えられるがずっとは無理だ。

 つまり、一撃で仕留める必要があるってことか。

 だったら、大魔法を使うしかないが……、26階層に来て早々、大魔法?先が思いやられるな。

 幸い、この巨人は頭が良くない方の巨人っぽい。時間を稼ぐのは簡単だ。

 皆に時間を稼いでもらっている間に、『電磁加速砲』で頭か心臓を貫くしかない。魔力もかなり使ってしまうが、初戦で耐久戦をするほうが後々響く。


 「仕方ない!皆、時間を稼いでくれ!大魔法で仕留める!」


 全員が頷き動こうとするが、シギルがそれを止める。


 「待ってほしいッス!」


 シギル?俺の指示に待ったをかけるなんて珍しいな。


 「なんか考えがあるのか?」


 「危なくなったらいつも旦那任せ。それじゃあ駄目だと思うッス」


 ふーむ、正しい。正しいが、それ今言うのかね?後でゆっくり聞きたいんだけど。いつ巨人が我に返ってこっちへ向かってくるかわからないんだし。

 だけど、シギルが自発的に意見してくれている。それを邪魔したくない。


 「すぐ出来るのか?」


 「あたしの魔法武器を使うのはどうッスか?」


 なるほどな。試し打ちとしても丁度いい相手ってことか。

 シギルの篭手に付与した魔法は、破壊力だけなら俺たちの中で最も強力だ。消費魔力は高いが、魔力を流すだけだから準備に時間が掛からない。俺の『電磁加速砲』より速いだろう。

 どうするか……。あの破壊力なら倒せるかもしれない。けれど、膨大な魔力消費というデメリットも存在する。魔法武器を発動させる場合、今のシギルで2発が限度。そのうちの一回をこの初戦で使っていいものか?

 いや、シギルの有用性は魔法武器以外が多い。戦術、高い物理攻撃力、鍛冶。ならば、ここはシギルの意見を尊重するべきだろう。


 「いいだろう。この戦闘はエリーとシギル、そしてティリフスの3人で対応する!あとは離れてくれ!」


 「ウチ?!」


 ティリフス以外が頷き、エルがいる位置まで下がる。

 ティリフスは鎧の膝当ての留め金が折れ曲がるかと思うほど膝を震わせているが、まあ知ったこっちゃない。

 やってもらうのは簡単な魔法だけだ。エリーも危険はあるがやることは殆どない。重要な役割はシギルのみ。俺は失敗したときの援護をする。

 急いで3人にやってもらう役割を伝え、俺もエルの近くへ下がった。


 「ギル様、3人は大丈夫でしょうか」


 「大丈夫だろ」


 「お兄ちゃん、なんで、あの三人、です?」


 「俺とリディア、そしてエルは法国で一緒に戦った。その時、エリーとシギルは留守番していただけだ。自分たちが役に立たない、もしくは活躍できないから留守番させられたと考えてほしくなかったんだよ」


 「なるほど。ギル様はお優しいですね」


 それに俺が何らかの事情で動けない時、自分たちで解決できると思ってもらうためでもある。皆には話していないが、このダンジョン攻略はそれを教えるためのものでもある。


 「ティリフスも、です?」


 エルはこう言いたいのだ。戦闘させたくないのに、なぜ戦わせたのか?言っていることと、やっていることが逆なのでは?


 「ティリフスは魔法が使える。戦闘は得意ではないが、サポートならできる。強制するつもりはないが、それを知っておくのも大事だろ?」


 「そうですね。エルも自分が助ける力がなかった時、無力感があったでしょう?」


 「はい、です」


 選択肢は多いほうが良い。だけど、まずその選択肢を増やさなければならない。

 強く頷くエルの頭を撫でると、シギルたちの戦闘を見守るために視線を向ける。

 巨人は力任せに、そしてデタラメに暴れまわっていたせいか、肩で息をしていた。だが休むという行為をしたおかげか、辺りを見渡すことを思い出したようだ。

 足元には既に誰もおらず、少し離れたところにはシギルとエリー、ティリフスの3人だけ。その後ろに俺たち3人もいるが、そこまで見えていないだろう。なんせ俺たちは小さいし、巨人も平常心ではないからな。

 巨人は「まずは目の前の3匹、その後に残りを踏み潰せば良い」などと考えているのだろう。ゆっくりとシギルたちの方へと歩いて来ている。

 歩いてもらっては困る。それこそ全力で来てもらわないと。な?エリー。

 エリーは得意な光魔法を発動し、それを巨人へと向ける。そして、盾を槍でガンガンと叩き始めた。

 巨人はピタリと止まる。おそらく、何を意味しているか考えているのだろう。

 そして、一つの考えへと行き着いたのか、鬼のような形相へと表情が変化した。

 そうだ。3人になったのは、逃げ隠れたわけではない。3人で十分だからだ。目の前で小さい存在が光を自分の目に当て、金属を叩いているのは、挑発している。()()()()

 巨人が激昂してエリーに向かって走り出す。あれに轢かれたらエリーでも無事では済まないだろう。

 だが、エリーの仕事は終わっている。エリーの仕事は巨人を走り出させること、それだけだ。

 次はティリフスが仕事を終らせる番だ。

 ティリフスは木属性魔法を発動させた。

 数本の木がロープのように絡み合い、地中から生える。その木はそのまま弧を描くようにまた地面へと突き刺さった。

 俺たち人間からしたら、それはただ頭上にある木のアーチに過ぎない。だが、あまりにも体が大きい存在にとってのそれは、足元にある蔦ぐらいの感覚だろう。

 だが、それが走り出した直後、足に引っかかったら?

 当然、バランス崩しぶっ倒れる。

 巨人もまたその予想通り、期待通りに体勢を崩し、ドジっ子よろしく倒れ込んだ。ビターンという効果音が似合うほど見事に。

 痛そう。いや、実際痛いのだろう。巨人が顔面を手で撫でながら立ち上がろうとしているし。でも、違和感に気づかないか?いいや、顔面の痛さを和らげるのに熱心で気づかないだろう。倒れ込んだ直後、背中にシギルが乗ったことには。

 シギルは巨人の心臓があるところに乗っていた。そして、右手の篭手を押し付けている。

 シギルが魔法武器へ魔力を流し込んだのか、その形状が変化している。

 元々ゴツい篭手が、更にゴツく。土魔法による金属生成で、篭手が変化したのだ。その形状は特殊で、肘から手首にかけて円筒形に穴が空いている。

 シギルが更に魔力を流すと、その部分に金属の棒が生成された。その棒はどんどん伸びていき、は肘側へ長く飛び出した。

 ここまでは準備段階で、ようやく攻撃することができる。しかし、ようやくと言っても準備段階は僅か数秒で完了する。それは細かい調整を全て魔石に刻まれた魔法陣がやっているからだ。その分、魔力を垂れ流し状態だけどな。

 伸びている棒は、正確には円柱ではなく手首の方は杭のように尖っている。

 これを更に魔力を流すことで、電磁加速させ発射するのだ。

 そう、これは杭打機。すなわち……。


 「『パイルバンカー』ッス!」


 様々な音が一斉に押し寄せ爆音と化す。

 男の子の夢の武器。パイルバンカー。地球の有名アニメ作品に登場し、その後様々な作品でも同名称、ないし同様の機構を備えた武器が登場している。

 巨大な杭、または槍を火薬や電磁力で加速させ射出。厚い装甲すら撃ち抜く近接戦闘装備。

 あえてもう一度言おう。これは夢の武器である。

 その威力は俺の大魔法である『電磁加速砲』と同等だ。

 当然、巨人の体であろうとそれが生身である以上、杭はいともたやすく貫く。

 巨人は口から血を吐き出し、声にならない断末魔を上げている。

 パイルバンカーはプシューと排熱をし、その役目を終えた。

 シギルが魔力を流すのを止めたのか、それと同時に杭と篭手の拡張された部分は砂となって崩れ、元の篭手に戻る。

 見事にシギル、エリー、そしてティリフスの3人で巨人を仕留めたのだ。


 「倒したッスね!」


 巨人が戦闘続行できないことを確認すると、シギルが背中から飛び降りこちらへと歩いてくる。

 だが――。


 《がぁあああああああああああああああああ!あ……あぁ……》


 巨人が咆哮する。


 「何スか?!まだ生きてるんスか?!」


 慌ててシギルが反撃に備えて構える。しかし、最後の力を振り絞っての咆哮だったのか、それで力尽き動かなくなった。

 なんで叫ぶ必要があった?おとなしく死んどけよ。


 「い、いやあ、びっくりしたッス」


 今度こそ死んだのを確信し、シギルが額に浮かぶ汗を拭いながら息を吐く。


 「心臓貫かれて叫ぶ生命力が凄いな。だが、間違いなく死んだだろう。初戦は勝利だな」


 「ッスね」


 「凄い武器になりましたね」


 「まあ、破壊力重視の武器にしたかったからな。力のあるシギルしか使えないけど」


 魔法とはいえ、少しの時間何十キロもある杭を狙いを定めて構える必要があるパイルバンカーは、力のステータスが高くなければ扱えない。

 それもあってシギルが最も適していた。


 「巨人がこのエリアの魔物……」


 エリーが受けた盾を見ながら呟く。攻撃を受けたエリーにはその辛さを理解したのだろう。


 「防御力と生命力が目立っていたが、当然攻撃力も高いよな。あの巨体だし」


 「ん。複数体だと辛い」


 たしかに。倒す方法は強力な一撃以外にもあるが、時間がかかる。巨人を複数相手にするとなると、こちらのダメージも覚悟しなければならない。

 付近にはこの一体しか居なかったから良かったよ。ほんと。


 「でも、周りにはいないみたいだし、後は慎重に行動すれば問題ないだろ」


 「アカン」


 「どうした?ティリフス」


 「でっかい気配が近づいて来てる。それも大勢」


 「は?」


 「お、お兄ちゃん……。きょじん、たくさん走って来て、ます」


 言われて気づく。遠くで太鼓を鳴らすような音が、徐々に近づいているのを。

 遠くに土煙が上がっている。それも複数。つまり、巨人たちが俺たちに向かって走っている?でも、なぜ?

 待てよ、さっき倒した巨人の最後の咆哮……。あれは断末魔じゃあなかった?

 ということは……。


 「あの巨人!仲間を呼びやがった!!」

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