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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十章 魔法都市への復讐者 下
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女神散歩(おまけ)

 「ティリフスはどこいったー?!」


 そんな大声が、今日も魔法都市の最奥部にある城の中でこだまする。ティリフスが持ち前のステルス能力を活かしギルという魔の手から逃げ延びようとしているのだ。

 いや、勝手に魔の手と思っているのはティリフスだけだが……。


 「ふぃー。危うく捕まるところやったわ」


 地球の関西地方訛りの可愛いらしい女性声を、金の装飾が施された漆黒の鎧の隙間から漏らすのが、法国で女神と崇められていたティリフスである。

 その実、女神などではなく、精神だけを鎧に閉じ込められた妖精族の上位種である精霊だ。

 法国の前聖王に約千年近く監禁されていたが、ギルに助けてもらい仲間に加わった経緯がある。

 ティリフスはギルを嫌っていて逃げ回っているのでない。どちらかといえば、助けてもらった恩もあるし、好意もある。

 しかし、妖精族は元々好奇心が強い。その上、千年という空白の時間がある。それを埋めようとし、自由に動き回ってしまうのは仕方がないことだった。


 「んー、今日はどこ行こ」


 そう独り言を言いながら城の廊下を、カシャカシャと鎧を鳴らし歩いていく。

 その言葉とは裏腹に、ティリフスの足は迷いもなく城の中を進んでいく。

 はじめに訪れた先は……。


 「お、今日も来たッスね?ティリフス」


 シギルの工房である。

 毎日フラフラと自由気ままに出歩いているように見えるティリフスにも行動パターンはある。必ず出かける前に、シギルの工房に訪れるのだ。


 「うん」


 「またギルの旦那から逃げたんスか?少しは手伝ってあげてもいいと思うんスけど」


 「今日はちゃうよ。廊下でぼーっとしてたら、ギルが何故か勝手に驚いただけ。なぜやろ……」


 「あっ……。そ、それより、見せてほしいッス」


 「うん」


 ティリフスが頷くのを確認してから、シギルは鎧に触れる。

 ティリフスの身体は既にない。鎧こそが今の身体なのだ。ギルもそれに関しては色々な意味で頭を悩ましていて、なんとか出来ないかと考えているが今のところ解決策は見つかっていない。

 その唯一の身体に何かあってはということでギルから指示され、通称『メンテナンス』と言われるこの身体検査のためにシギルの工房に来ているのだ。

 この身体検査が精神を鎧に移動させる未知の技術に対して、どれほどの効果があるのかはわからないが、それでもやらないよりはマシとシギルも協力している。

 シギルが目を凝らし鎧を隈なく調べて、異常がないと分かると微笑みながら頷いた。


 「今日も問題なしッスね」


 「ありがと」


 「それで今日はどこに?タザールのとこッスか?」


 「んー……、今日はタザ坊、研究出来ないんやて。せやから、皆のところ回ろかなって」


 「そっかぁ、帝国関係のせいッスかね?んーまあ、それはいいとして、皆の場所はわかんないけど街にはいると思うッスよ」


 「わかったぁ、ちょっと行ってみるわー」


 ティリフスは気兼ねなく話せる相手として、メンバーからも人気がある。ギルは知らないことだが、パーティメンバーと非常に仲が良い。

 シギルは笑顔でティリフスを見送る。そして、いつものように鍛冶仕事に勤しむのだった。



 城を後にしたティリフスは、口笛を吹きながら魔法都市の街を逍遥する。

 もしギルが近くにいたならば、肉体のないティリフスがどうやって口笛を吹いているのか、その答えを見つけ出す為に知恵熱を出していたに違いない。

 しかし、今日はそのギルはいない。魔法都市で最も戦闘力のあるギルが側に居なくとも、ティリフスの足取りは軽く、まるで庭を歩くようだった。

 それもそのはずで、ティリフスにとって魔法都市内は庭に等しい。それだけ毎日街を歩き回っているからだ。

 ともすれば、鎧姿とはいえ顔見知りは増える。


 「お、ティリフスさん、こんちわー」

 「どもー、空は真っ暗で昼かどうかもわからんけどな」

 「今日も元気そうだね!ティリフスさん!」

 「どもどもー、鎧で顔は見えへんけどな」


 商店をティリフスが通り過ぎる度に売り子や店主から挨拶され、ティリフスもツッコミを入れつつ挨拶を返しながら歩いていく。

 魔法都市の街ではギルよりも知り合いが多いのかもしれない。

 いつもなら声をかけた売り子と小一時間無駄話でもするのだが、今日は目的がある。歩みを止めずに仲間たちがいるかもしれない場所へと向かう。

 ただ、仲間の詳しい場所はわかっていない。だが、ティリフスもあてもなく歩いているわけではない。ある程度の心当たりはあった。

 ティリフスがまず訪れたのは、シギルの魔道具店だ。

 店を覗くと、中には運良く目的の人物がいた。


 「ティムくん、これが追加の商品です」


 「はい、リディアさん。これを出せば良いのですね?」


 店の中にいたのは、仲間であるリディアとティアの弟であるティムだった。

 今日の店番はティムで、リディアは完成した商品を納品しにきていた。


 「お、今日はティム坊が店番?」


 「あ、女神さ……、いえ、ティリフスさん。こんにちわ」


 「うん、こんちわ」


 当然、ティムとも仲が良い。ティムが口癖で『女神様』と言いかけ、すぐに言い直す。

 ティリフスにとっては、女神という言葉さえもトラウマになっても不思議ではない。だが、ティリフスは気にした様子もなく、ティムに挨拶を返した。


 「ティリフス、どうしたの?」


 リディアが首を傾げて質問する。

 ティムも仲間の一人ではあるが、今日の目的はリディアだ。


 「いやぁ、最近皆忙しいやろ?だから様子見に来たんよ」


 「ああ、そういうことね」


 「調子はどう?リディア」


 「いつもと一緒よ。ギル様も大変でしょうから、少しでも手伝いして楽させてあげないと」


 リディアはいつも忙しく動き回っている。

 今回のように商品を納入もそうだが、ギルの世話や手伝い、更にはシギルの手伝いやエルの世話。その上、自分の鍛錬までこなしている。

 なのに、不満はおろか疲れすらその表情にはない。

 一般的な精霊は人間を見下す傾向にある。しかし、ティリフスはリディアを尊敬している。その献身的な姿には感動すらしていた。


 「あんまり無理したらアカンよ」


 だから自然に労いの言葉も出る。


 「はい。ティリフスも無理はしないでくださいね」


 「うちはサボってるだけやで」


 「ふふ、そうですね」


 実際にティリフスはサボり癖がある。だが、ギルを含めたメンバーは、そのことを注意しない。

 ティリフスは働く時は働いている。事実、タザールの研究も手伝っている。

 しかし、リディアの言葉はそういう意味で言っているのではない。

 ティリフスは休憩も食事も必要なければ、睡眠も必要ない。その状態が健全であるとは到底言えない、というのがギルの考えなのだ。

 つまり、リディアはティリフスの体調を心配しているのだ。

 だが、ティリフスは今が最高に幸せだった。何もない小さな牢獄で千年近い年月の間、僅かな隙間から外を眺めるのに比べれば、危険があったとしても街を動き回ることや、知識を得ることはティリフスにとってかけがえのないものなのだ。

 リディアはそれも理解できるからか、少し困った顔で笑う。

 

 「それじゃ、ウチは行くわ」


 「はい、転ばないように気をつけてね」


 「ウチは子供か!」


 「ふふ」


 「ティムもがんばってな」


 「がんばります。ティリフスさんは迷わないでくださいね」


 「子供かっ!」


 丁寧にツッコミをいれつつ、二人に手を振って店を出る。


 「なんで子供扱いされるんやろ。ヒト基準やと900歳以上の年上なんやけど……」


 うーんと唸りながら、また街を歩いていく。



 「後はエルとエリーの二人やな」


 シギルの店を後にしたティリフスは、いつも通りにエルピスへ行くための通路を顔パスで通り過ぎ、目的の場所まで来ていた。

 ティリフスにはエルの居場所に心当たりがあった。


 「エリーの場所はわからないけど、エルは今日ここで仕事があるって言ってたし」


 その場所とは、王国のレッドランスと帝国のシリウス王のお気に入りである、シーフードフライの店だ。

 エルピスにあるクリークの部下の店、3店舗の全てがビールをメニューに加えることになり、元々ビールを出していたシーフードフライ店のアドバンテージが無くなってしまうからと、新しいメニューをギルが考える約束をしていた。

 その新メニューが完成し、そのレシピをエルが教える話をたまたまティリフスが聞いていたのだ。


 「さぁて、いるかなー?」


 店の裏口から入ってキッチンを覗く。

 そこにはティリフスの予想通り、エルがいて店主に指導していた。


 「これは美味しいですね!サー!」


 「……」


 いや、それは果たして指導と言っていいのかと、ティリフスは思い直す。

 エルは腕を組んだまま無言で頷いているだけだったからだ。


 (まだあの演技してるんか……)


 元迷賊である粗暴なクリークの部下たちを従えるには、エルの性格では難しいと判断したギルが、エルに地球の映画で観たとある軍曹の演技をさせた。その演技を今も続けながら指導していたのだ。

 その経緯を聞いていたティリフスは、その様子を見て呆れる。


 「それでこれは何という料理ですか?サー」


 「……」


 「サー?」


 店主は質問するがエルは答えない。先程と同じように無言で頷いているだけだった。違うところがあるとしたら、額に汗が滲み出ているぐらいだ。


 (セリフ忘れてるやん!!)


 ティリフスの推察通り、エルはギルから教わったセリフをど忘れしていた。

 人見知りを治すために極力エル一人で行動させている。最近は徐々に慣れ、一度仲良くなれば問題なく話せるようにもなった。

 だが、それまでは仲間が側にいるか、今回のように教えられたセリフで対応していた。

 それこそ色々な人に対応できるように、ギルが時間をかけて分厚いセリフ集を作ったほどだ。

 しかし、そのあまりに多くなったセリフ集のせいで、たまにこうして忘れてしまうこともある。

 今日は偶々そのセリフを忘れてしまった日だった。

 ティリフスは慌ててエルと店主の前に出る。


 「ちわー!!」


 「うわ!!」

 「ひぅっ」


 元気よく挨拶しすぎたせいか、店主とエルがビクリと跳ねる。だが、正体がティリフスだと分かると二人がホッとする。


 「なんだ、ティリフスさんか。今日はどうしたんです?」


 「あー……、えっとな」


 ティリフスがエルを見ると、エルは助けを求めるようにティリフスを見ていた。


 「ティリフスさん?」


 「あ、うん。そのな……、ちょっとこっちに」


 店主をエルから離す。


 「ど、どうしたんですか?」


 「今日な、エルの(あね)さん、めっちゃ機嫌悪いらしいんよ。だからな……」


 エルを姐さんと言ったのは、演技を壊さないための気遣いだ。

 ティリフスの言葉で店主も察したのか、得心が行ったように頷く。


 「やっぱりそうでしたか。今日はサー・エルの口数が少ないから不思議に思っていたんですよ。……それでティリフスさんが説明してくれるということですね?」


 「う、うん」


 「ではよろしくお願いします。サー・エルをさらに怒らせるのはマズイですからね」


 この後はエルに耳打ちしてもらい店主にティリフスが教えるという、かなり回りくどい作業をすることになった。

 そして、長時間に渡る伝言ゲームの末、無事にレシピを伝え終わった。

 店主に別れを告げシーフードフライ店を出ると、エルは突然ティリフスに抱きつく。


 「てぃりふす~」


 「おおぅ?!あー……、よしよし怖かったな。もう大丈夫やからな。あいつら顔恐いねん。今度ウチが鉄拳くらわしたるわ」


 鉄拳という自虐ネタはさておき、エルの見た目は16~17歳ほどだが、精神年齢はそれより若干幼い。気弱な女子中学生ぐらいだとしたら、怖い思いをしたあとこのように甘えるのも当然だ。

 しばらくエルを慰め、落ち着きを取り戻すとようやくティリフスからエルが離れる。


 「ティリフス、どうしてここにいる、です?」


 「おぉ、落ち着いた途端、突然やな。えっとな――」


 ティリフスはリディアにも話した内容を話す。


 「エル、エリーの場所知って、ます」


 「お、どこに居るん?」


 「えっと、衛兵さんに特訓してる、です」


 「あー、なるほど。じゃあ、あそこやな」


 エルの情報を聞き、ティリフスはエリーの居場所を理解した。


 「じゃ、ウチはエリーのとこ行くけど……、エルはどうするん?」


 「んー、ケーキ食べる、です!」


 「あっ……。恐い思いしたから癒やされに行くんやな」


 「はい、です。……ティリフスも来てほしい、です」


 「んー?じゃあエリーと会った後に顔出すわ」


 「はい、です!」


 そしてエルと別れ、エリーがいる場所に向かう。向かいながら先程の店主とのやり取りを思い出す。


 「しかし、新メニューの『カツシリーズ』ってどんな味やろ?あの串カツってのは食べなアカン気がするわ。食べられへんけど……」


 密かにギルがシーフードフライの店を揚げ物屋にしようしているのは別にして、味見をしていた店主を羨ましく思いながら次の目的地に向かうのだった。



 魔法都市、エルピスの衛兵の仕事はかなりの人気で、建国して数ヶ月経った今も応募が絶えない。

 だが、新人が増え続けていけば訓練をさせ指導する者が足りなくなる。そのことにギルとクリークは頭を悩ましていた。

 兵士や衛兵は必ず必要になるし、多いに越したことはないが、練度が足りない兵やこの街のルールを守れない者は必要ないとも考えていた。

 しかし門前払いをするのも勿体ない。であれば教えるしかない。でも現状だと、その教官役が育っていない。

 新人に教える教官を、育てる人間が居ないのだ。

 そこで経験豊富で実力もあるエリーに頼むことにした。

 コミュニケーション能力に不安はあるが、既に街のルールを知っているクリークの部下であれば問題ないと判断し、エリーに訓練させている。クリークの部下以外には、リディアにルールを理解させる座学を受け持たせている。

 現在はクリークの部下相手に、エリーの訓練による練度向上を図っている真っ最中だった。

 エリーの訓練は実戦的だった。寸止めで終わらせる模擬訓練に意味がないと考えているエリーは、ダンジョン内で魔物と戦わせている。

 一日で帰ってこれる辺りまで行き、魔物をしこたま討伐してエルピスに帰ってくるのを繰り返していた。

 「ギルが居ないなら、ダンジョンで泊まるのヤダ」というエリーの発言で日帰りになったのを、クリークの部下たちは色々な意味でがっかりしているが、そんなことは知るかと今日もエリーの指導に力が入る。


 「ダメ。それじゃすぐ死ぬ。盾を上手く使って」


 「は、はい!」


 「君は剣振り回し過ぎ。意味のない素振りは体力減らすだけ」


 「はいぃ」


 クリークの部下たちがゼーゼー言いながら返事をする。

 今日の訓練は、クリークの部下たちの間で『地獄の無限模擬訓練 序』と名付けられていた。

 今日の訓練場所は17階層、エルピスの街の出入り口近くだ。

 出現する魔物はコボルト系。一人が魔物を数匹おびき寄せ、残りで倒す。倒した部下たちの中で討伐数が少ない人物が休まず魔物をおびき寄せる。そして倒すのを数時間繰り返す。

 ちなみに『地獄の無限模擬訓練 終』は最終訓練であり、オーセブルクダンジョンの6階層まで行き、アンデッドに対して同じことをするのだ。魔法武器を持たず、倒しても倒しても蘇り、スタミナ不足など関係ないアンデッドと、休憩も出来ずに数時間ぶっ続けで戦う。その上、鉄製の武器でも唯一倒せる頭部への攻撃は禁止という猛特訓だ。

 この訓練を終えた者は歴戦の兵士のような顔立ちになる。ただ、数日間悪夢を見るが……。

 今はその前段階だった。

 そこへティリフスがやってきたのだ。


 「エリー」


 「ん、ティリフス?何しに?」


 エリーがティリフスの声に気がつき、クリークの部下たちに訓練を続けるように支持してから近づく。


 「いや、ただ顔見に」


 「それだけ?」


 「うん」


 「でも、ティリフスはダンジョンに出るなって、ギルに言われてなかった?」


 「大丈夫やろ。見た感じ、アンデッドおらんし」


 ティリフスがチラリと戦っているクリークの部下たちを見る。


 「それならいいけど」


 ティリフスは精霊種でマナの塊のようなものである。アンデッドは生者のマナを感知し近づいてくるが、ティリフスのようなマナの集合体の場合、アンデッドの感知範囲に引っかかりやすいのだ。

 17階層に出現する主な魔物はコボルト。だから問題はないとティリフスは言う。だが……。


 「うおお!!アンデッドだ!!」


 「なんでこのエリアに?!」


 クリークの部下たちが叫び、その声にティリフスとエリーが慌ててそちらを見ると、十数体のスケルトンがクリークの部下たちに襲いかかっていた。


 「なんでぇ?」


 ティリフスは理解できず呆然とする。

 しかし、これは当然の結果だと言える。なぜなら、ダンジョンの『主に出現する魔物』というのは、あくまで『最も多く出現する魔物』であって、他系統の魔物が出ないわけではないからだ。

 そこがダンジョン攻略の難しいところで、1系統の魔物に合わせた装備では思いも寄らないところでつまずくことになる。

 ただ冒険者もそれはわかっていて、攻略する場合の装備は環境に合わせ、魔物には職種で合わせることで対応しているからか問題にはなっていない。

 今回の騒ぎも、その稀に出現する別系統のアンデッドが集まって来たに過ぎない。

 だが、クリークの部下たちは現在、コボルトに対応できる装備しかない。そして、アンデッドを倒すことが出来る魔法士もいないのであれば、この混乱も仕方がない。


 「うぉおお!突進して?!」

 「しまった!!エリーさんの方へ行っちまう!!」


 アンデッドの群れがクリークの部下たちを掻き分けるように突進し、ティリフスとエリーを目掛けて向かってくる。

 正確にはティリフスへだ。


 「ちょちょっ!」


 「下がって」


 慌てるティリフスにエリーが冷静に指示を出す。

 ティリフスも黙って頷き、エリーの背後へと身を隠す。綺麗な女の子の後ろにゴツい鎧が隠れている不思議な光景に、クリークの部下たちもそれどころではないとわかっていても苦笑いを浮かべてしまう。

 エリーは自分の身長ほどある盾を構え、ショートスピアをスケルトンに向ける。

 すると、盾と槍がバチバチと鳴り、青い電気が纏わり付く。

 エリーがクリークの部下たちに、射線から離れるよう目で合図し、退いたのを確認するとアンデッドに向けた槍の位置を調整。

 刹那。

 眩しい光が溢れ、アンデッドは吹き飛ばされる。その直後に轟音が遅れてダンジョン内に響いた。

 アンデッドの群れはプスプスと煙を上げ、ピクリとも動かなかった。魔法武器の開放によりアンデッドの全てを殲滅したのだ。

 ティリフスとクリークの部下、そして魔物のコボルトでさえ呆然としていた。


 「何してるの?続けて」


 エリーの声でようやく戦っている最中だというのを思い出し、クリークの部下たちが戦闘を再開した。


 「エ、エリー、ごめんな」


 「いい。もうすぐ終わるからティリフスは街で待ってて」


 「あ、はい」


 さすがに迷惑がかかると理解したティリフスは、素直にエリーの指示に従って街に戻った。



 それから少しするとエリーが街に帰ってきた。後ろに続くクリークの部下たちも無事だったが、疲労は隠せていない。

 エリーが解散を告げると、クリークの部下たちは覚束ない足取りで街の中へと消えていった。


 「もうどっちがアンデッドかわからんぐらいやん」


 「なにが?」


 ティリフスが独り言を言っていると、いつの間にかエリーが近くにいた。


 「お、おぉう?!いや、何でもないよ?」


 「待ってたの?」


 「ん?うん、一緒にケーキ屋行こうと思って」


 「奢り、嬉しい」


 「奢り?!うーん、ええわ。タザールとギルから給料もらったし、さっき迷惑かけたから、お姉ちゃんがおごったるわぁ」


 「お小遣い貰ったんだ?」


 「え?なに?」


 「何でも無い、ありがとう」


 「おうよ」


 何気ない会話をしながら、エルが待っている店へ二人は向かった。



 二人が店に到着し中に入ると、エルもまだ店にいた。

 ギル一行専用の席で、エルが美味しそうにケーキを食べている。


 「エル、まだ食べてたんやね」


 「あ、ティリフスにエリー。おつかれさま、です」


 「ん、エルもお疲れ」


 ティリフスとエリーも席に座りケーキの注文をして待っていると、知っている人物が店に入ってきた。


 「あれ?3人ともここにいたのですか?」


 「考えることは一緒ッスか」


 シギルとリディアだった。


 「あ、お姉ちゃんとシギル、です」


 「ん、疲れたから甘いもの食べに来た」


 「シギルとリディアもそうやろ?」


 「はい、シギルに誘われて」


 「仕事でイライラしてきたから、甘味食べて発散することにしたッス」


 リディアとシギルも席につき、皆と同じようにケーキを注文する。


 「シギル、仕事の合間にケーキはダメ、です」


 「え、何でッスか?」


 「お兄ちゃんが、甘いもの食べると、イライラするって言ってた、です」


 「マジッスか!あーもう良いッスわ。今日は仕事終わりッス!」


 「「あはは」」


 ケーキが席に運ばれ、皆で食べながら何気ない会話を楽しむ。

 ティリフスは食べることは出来ないが、このひとときを大事に思う。


 「はー、今日もめっちゃ楽しい一日やったな」


 ティリフスが毎日している散歩の、とある一日の様子。

 思いがけず女子会となり、ケーキを食べながらの女子トークを数時間し、全員がクタクタになったのだった。

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