指導者の責任
ここ最近、いや、どうだろうか。魔法都市という言葉を言った時から忙しくなり、夜に睡眠時間を確保することが難しくなったように思う。
忙しいのは良いことだ、と思うようにしてはいるが……。
魔法都市を作ったことで、知り合いも仲間も増え楽しい日々。仕事も忙しく、順調そのものだ。睡眠時間の確保は難しくなったものの、ベッドに入れば熟睡できる。
忙しいのは良いことだ。……そんなわけあるか!
知り合いも仲間も増えたが、忙しすぎて近くにいるのに個人的に会っていない!仕事は忙しいのに、魔法都市の資金は何故かカッツカツだ!夜に寝れず、ベッドに入ればドロのように眠り、夢を見る間もなく起床。その毎日の繰り返し。
働き方が下手だな、俺は。会社にいた時もそうだった。部下に頼みづらく自分で仕事をやるのが確実と思っていたから毎日残業だった。
異世界に来たというのに、第二の人生だというのにだ。前世の繰り返しだ。
肉体はまだ二十歳にもなっていないというのに!過労死まっしぐらは勘弁だ。
はぁ、尻が痛くなってもいいから旅してぇなー。行っちゃおうかなー。
とはいかず、俺は眠い目を擦りながら料理を作るための準備をしている。
朝食ではない。仕事で使うからだ。
なんで?なんで俺は、1時間の睡眠しか取っていないのに、起きて仕事で使う料理作ってるの?
というのも、今日が帝国の王と面談日だからだ。接待用の料理を用意しているのだ。
でもやはり思う。なんで?と。俺たちの城には、料理スキルがグングンと成長した料理班の半魔がいる。彼女らに作らせれば良いではないか。
それは昨日、長引いているクリークの相談中にとある情報を聞いたからだ。
クリークの相談は、エルピスで街が経営する賭博場の件だった。
ギャンブルは非常に難しい問題だ。賭博を開くとしても開かなくても問題が起きる。
賭博場があれば、必ず出てくるのがギャンブル依存だ。この問題は根深く、取り締まるのが難しい。だが、何も対策しなければ、最悪全財産を失って自殺する可能性だってあり得るのだ。
だからといって、経営側や街がやってはいけないこともある。
それは儲けの制限と禁止だ。
考えても見ろ。宝くじでも万馬券でも何でも良い。配当金が1千万だとする。大儲けだ。だけど、法律で一回の配当は10万円まで!なんて言われてみろ。
それこそ、いつか反乱が起きる。
国や街が娯楽に関して禁止、もしくは一部制限するのは、地球の歴史からみても悪手だ。禁酒法しかり。
では始めから賭博場なんてなければ良い。というわけにもいかないのがこの問題の難しいところだ。
ダンジョンの中の街。ダンジョン攻略を助けるため、疲れきった冒険者の一時のオアシスになるのが目的であっても街である以上、長期滞在する可能性はある。
だとすれば、娯楽は絶対に必要なのだ。
でなければ、住民やこの街にやってくる人が減ってしまい街として維持できない。八方塞がりな案件なのだ。
賭博場を開いても開かなくても問題……、これがクリークの相談を長引かせている原因だった。
損は自己責任だ!と、言えればどんなに楽か。迷賊時代のクリークならば言えたのだろうか?
さて、それはさておき。その相談中にとある情報を聞いたのだ。
なんでも帝国の王ともうひとりの面談予定人物が既にこの街に滞在していて、ある店に毎日現れるというではないか!
それに両人とも、大変その料理が気に入っている様子だとか。
城にも会談は予定通りで良いと使いが来たから、この情報は信頼性がある。
俺の『おまえが盾なんだよ作戦』があるとはいえ、それは諸刃の剣。盾なのか剣なのかという話は置いておいて、最悪の場合、盾諸共本体である俺に被害があるかもしれん。
その予防策として、料理を用意することにしたのだ。幸い、両人の好物は一緒らしいからね。
まあ、ご機嫌取りとお詫びの印だ。
色々と思われるだろうが、俺の努力を知れば熱意は伝わるさ。大丈夫!きっと……。頼むから頑丈且つ優秀な盾であってくれよ。
さてさて、どうなることやら、だ。
時間はあっという間に過ぎ、客が来たとエルが呼びにきた。おそらく、会談参加者だろう。
下準備は終わらせている。
じゃあ、ささっと最後の仕上げを済ませて、俺も出向こうか。
会議室の扉を開くと、そこには二人の不機嫌そうな男たちが、会話もせずに座っていた。
一人はサラサラの金髪を下ろしたカッコいいお兄さん風。真っ白に金色の装飾があちこちにある鎧を身に纏い、両手を剣の柄に乗せて待っていた。
もうひとりは、髭を蓄えた渋いおじさん風。アイロンもないのにパリッと糊の効いた礼服に身を包み、何故か顔色が青く、どこか具合が悪そうな汗を額に滲ませている。
俺が笑顔で姿を現すと、まずはじめに口を開いたのはおじさんだった。
「あ、あなたが魔法都市代表殿か?これはいったいどういうことかお聞かせ願おうか?」
この人物がレッドランス領主だろう。
残念ながらこの会議室に通されたのは二人だけ。護衛はいない。
護衛がみすみす一人にさせるわけないが、『待合室』と『もうひとり高貴な貴族』、そして『護身用の武器は所持可』という言葉で引き下がってもらった。
護衛がいる本当の待合室はすぐ隣だしね。その上、俺の料理でおもてなししているから、しばらくはそっちに夢中だろう。
ふーむ。見るからに居心地が悪そうだ。俺が最後の仕上げをしている十数分、さぞ寂しく、生きた心地がしなかったろうな。
でも、今日の主役は君だ。盾おじさん。
おっと、挨拶しないのは社会人として許されないな。
「貴公がレッドランスの領主、ゲオルグ・フォン・レッドランス公だな?」
「はい」
一応は国のトップである俺が上の立場だ。謙るわけにはいかない。が、フルネームで呼ぶことで敬意を示す。
だが、彼の質問には答えず、俺はもうひとりを見る。
「では、あなたが帝国の……、シリウス皇帝だな?」
シリウスは俺を鋭い目で見る。ただ、見ただけだ。
なのに、見下されていると感じる威圧感。彼は座っているのにだ。
「面白い余興よな?魔法都市の。どうした?王国のレッドランスが聞いておるぞ。答えんのか?」
答えによってはどうなるかわかっていような?と言外に言っているのが分かる。
これが帝国の王。すげぇな。ホワイトドラゴンと戦っている時みたいだ。体が逃げたがっている。
間違いなく強い。当然、俺よりも。
本当に答えを間違えば、ここで死ぬかもしれんな。
よしよし。よーし。逃走ルートは良し。頭に入っている。じゃあ、始めようか。
「俺が魔法都市の代表、ギルだ。レッドランス公の質問に返答するその前に、まずはお二人に謝罪をしたい」
「な?!」
「ほう?」
レッドランスは驚き、シリウスは品定めする目つきだ。
「知っての通り、魔法都市は出来たばかり。これを理由にするのも俺が無能だと証明するみたいで言いたくはないが、非常に慌ただしくてな。予定が詰まっていて、空けるのが厳しい。一人は帝国の王、一人は王国の有名な領主。手本になることも多いのに、たった数分の会談など勿体ない。悩んだ結果、無理矢理今日の予定を空け、なんとか数刻確保することが出来た。だが、今日だけ。だから、無礼だと思ったが二人同時、三名のみで会談をしようと思った次第」
俺が一気に話すと、シリウスは鼻で笑う。
「ふん、策略もお手の物と言いたいか。狸め」
ま、シリウスには俺のやりたいことなんてバレるよな。
「であれば、一領主がこの会談に加わるなど恐れ多い。私の時間配分など少し、それもこの会談の後で良いので」
もちろん、レッドランスにも自分が緩衝材役割にされているのはわかるよね。
だが、逃がすわけにもいかない。それ以前に、あなたに選ぶ権利など無いのですよ。
「おや、良いのかな?かの法国が国と認めるこの魔法都市と、シリウス帝国の王同士が秘密の会談をする。王国としては気にならないのかな?俺としては秘密になどしたくないな。聞かれて困ることもないし。これをキッカケに魔法都市と帝国が、王国に戦争を仕掛けられても困る。ね?シリウス王」
「ほう?そうなのか?レッドランス公」
おやおや?俺が似ているというだけあって、シリウス王もこういうのはお好きらしい。乗ってきたよ。
今反対側から攻められたら困るのは王国だ。魔法都市はまあいいとして、帝国と戦争なんて困るどころの騒ぎではない。
俺とシリウスにこう言われたら、王国の代表になってしまったレッドランスは席を立てない。
早速盾効果。良いねぇ、盾。だけど、今のは盾を手放さないための準備運動のようなもの。これからもっとシリウスの攻撃を受けてもらうぞ。
レッドランスは席を立ちかけた姿勢を直し、椅子に深く腰掛ける。
「私などが同席しても良いなら」
「ふん、本来は許さん。が、まあ良いだろう。今日のみ我の声を聞く事を許そう」
「俺もシリウス王が了解してくれるならば、全然問題ない」
レッドランスが額の汗を拭い、聞こえないように溜息を吐く。
溜息聞こえてるよ。かわいそうに。
しかし、シリウス王は本当に不遜だ。が、それが似合う王でもある。俺は不快に感じないが、他国の王だったら腸が煮えくり返るだろうね。
「それで、お二人はどんな会談をするつもりなのですかな?」
「あ、その前にまだお詫びが済んでいない。初対面の言葉だけでは誠意など伝わらない。お二人とも食事は?」
答えなど聞かず、立ち上がって会議室の扉を開く。
すると、数人の半魔が料理を持って入ってくると、俺たちの前に並べていく。
「こ、これは?!」
「ほほう?」
二人共、半魔には反応を示さない。この数日で目撃した経験があるのだろう。もしくは、噂を聞いていたか……。どちらでもいいか。見た瞬間、斬りかかるようなこともないならな。
並んだ料理を見てレッドランスはまた驚き、シリウスは感心したようだった。
用意した料理、それは――。
「これは天ぷらという料理だ。隣町のエルピスの町長とは仲良くしていて、とある情報を聞いた。なんでも、お二人に似た人物が『シーフードフライ』の店に毎晩出没するとか。同じものを用意するのも何だから、似た料理をね。その料理屋に来店するのがお二人ではないかもしれないが、それをヒントにさせてもらったというわけでね」
「シーフードフライとは別の料理か?天ぷら、知らない名だな」
「たしかに食材を包む殻の色が薄いようにも……」
おいおい、興味津々だな。ちょっとだけ、嬉しいぞ。いや、その前にシーフードフライの店に現れていたのは本当だったのか。否定すらしないぞ、この人たち。
「毒など入っていないし、入っていても二人ならポーションぐらい持っているだろう?俺としては食べても食べなくても良い。これは謝罪の誠意だ。どこが誠意かは食べてもらえたら分かるのが残念だが……」
この料理で並んだ皿の数は一人4つ。
大皿に天ぷらの盛り合わせ。深底の食器『呑水』には天つゆ。小皿には塩のみ。そして、デザートプレート。
なんとも質素な食事だよな。でも、これで十分だと判断した。
俺は塩を指先でつまみ、野菜の天ぷらにかけてからフォークで刺し齧り付く。
まだ出来たてだ。サクッと音を立て、熱さが残る野菜をほふほふと咀嚼する。
「うん、美味い」
俺が美味そうに食べる姿を二人が見つめている。
レッドランスは興味津々。
シリウスは表情を変えないから分からないが、レッドランスと同じく食べてみたいと思っているはずだ。
二人ともトップクラスの地位だ。見たこともない料理を目の前の少年が旨そうに食べているのに、王と貴族ならば知ってみたいという知識欲が湧くだろうさ。
だが、食べ方は知らない。説明するのは馬鹿にしているのと変わらないのだ。俺がやってみせるしかない。
塩で食べた野菜の半分を、今度は天つゆにつけて口に放り込む。
「うんうん、天つゆでもイケる。外の衣はサクサクで、中はホクホク。最高だな」
最後はデザートプレート。用意したのはアイスだ。ただのミルクアイス。
アイスの歴史は古い。遠い昔から楽しまれていた料理のひとつだ。最も古くでは、紀元前にアイスに近い氷菓が楽しまれていたという記録もあるぐらいだ。
15世紀になり、ホイップクリームを凍結させたフランス発のアイスがイギリスに広まった。
つまり、この異世界でもアイスという氷菓があっても不思議ではない。
だが、ソフトクリームは?
口に乗せた瞬間に、溶けて無くなるような絶妙な柔らかさ。そんな氷菓は、さすがこの時代では発明されていない。
俺はデザートプレートに添えられたスプーンでソフトクリームを掬い、口に咥える。
「んんー、熱い料理の後は氷菓で冷やす。たまらんな、これは。おっと、申し訳ない。二人共どうぞ食べて」
ここでお膳立ては終わり。
俺自身で毒味、食べ方レクチャー、そして促し。ここまでされて食べないわけにはいかんだろ。
レッドランスは動かない。いや、シリウスが食べるのを待っているのだ。
さすがに他国の王より先に食べるわけにはいかないか。
そのシリウスはというと、怖がる様子もなく俺と同じように食べていた。
「ほほう?なるほど、シーフードフライも絶品だが、これも逸品。好みは分かれるが、ふむ、俺はこっちが好みだ。レッドランスの領主、貴様も食って感想を言ったらどうだ?」
キッチリ虐めるシリウス。
良いねぇ、やっぱり嫌いじゃない。口調はアレだが、楽しい事が大好きな趣味人だろう。
レッドランスも意を決して口に入れる。
「む、これは……。シリウス王と同意見。だが、私個人としてだが、『ビール』と一緒に食べるシーフードフライに軍配が上がると言わせていただく」
「ふはは!我と同意見ではないな。が、この料理と『ビール』に免じて許そう」
ビールかー。ま、美味いよね。シーフードフライとビール。この気温だしねー。
「ビールを用意してもいいけど……、この後会談する気になる?」
「ふはは!ならんな!」
「たしかに」
「だよね」
よしよし、なんとか場が温まってきた。
「だが、代表。私が言う立場ではないし、追求するつもりもないが、どこが誠意だったのですかな?」
おっと、レッドランスの反撃。さすがは領主といったところか。
シリウスに誠意を証明出来なければ、以降盾役は俺になってしまう。
ここはしっかりと話すべき。
「天ぷらの食材はどうかな?レッドランス公」
「どれも美味しいと思う」
「それは新鮮だからだ。さっき取ってきた。それで作った」
レッドランスは俺の言葉を反芻しているのか、険しい表情だ。そして、気づいたとかハッする。
「まさか!」
「そう俺自身でダンジョン中から取ってきて、その後俺が作ったんだよ。信じてもらえるかわからないけどね」
起床から会談まで11時間。その間にオーセブルクダンジョンの春夏秋冬エリアの1~4階層で野菜を取ってきて、そのままクラーケンのいるエリアに戻り漁をしたのだ。
俺が猛ダッシュしても、到底間に合わない。はずだったが、無属性魔法を覚えたことで更に速い速度で行き来出来るようになり、なんとか間に合わせることができた。
そして、さっきまで料理していたってわけだ。これを誠意と呼ばずしてなんと呼ぶ?
まあ、今言ったばかりだが、信じてもらえたらだけどね。
「ふははは!やはり、面白い!ふははは!」
おお?!シリウスがウケた。え、どこ?誠意だよ?冗談言ったんじゃないぞ。
「それが真実かどうかは置いておくとして、一国の王が口にしたのだから誠意ですな」
そういうものか。まあ、誠意は受け取って貰えたということか。
つまり、全員が了承して、会談の席につくということだ。
「さて、食べながらで結構だが聞いてもらいたい。この会談、三国が代表として席につくよう仕向けたのは、なにも忙しいだけではない」
もう全員にバレている。俺が故意にこういう状況を作ったと。
三国が了承して席に着いたのなら、堂々と理由を話す。
「シリウス王は既に知っていると思うが、王国のとある一部が俺の魔法都市に攻撃してきた。それを撃退し、その謝罪をするためにレッドランス公が来た。そうだな?」
レッドランスが表情を真面目にして頷く。笑いながらだったら殴ったけど、良かった。
「しかし、俺は国の代表としては未熟だ。王族に通用する礼儀作法を知っている常識のある仲間もいるが、それでも国を動かした経験はない。つまり、俺はレッドランス公に慰謝料を求めるが、それが正当なものか判断ができない」
ここまで言うとシリウスも理解出来たのか、ニヤリと口元を歪める。
「この我に助言を求めるか」
「そう。シリウス王は戦の専門家と聞く。こういうことに、俺より知識が豊富なのは聞くまでもないしな」
「そういうことにしておいてやろう。馳走に免じてな」
ひー、何が不遜王だ。シリウスに会った人間が嫌味を言っただけじゃねーか。シリウスは間違いなく優れた観察力を持つ、力のある王だ。
この反応は、俺が隠していることも読まれているぞ。
「そして、シリウス王だが……、まだ何故来たのか聞いていない。ただ戦は避けたい。それが帝国でも王国でも」
シリウスが興味を持っただけならばまだいい。ただ、戦争を仕掛けるつもりでも、同盟を組むのでも戦は避けたいのが本音。
「だが、私が王同士の会談に同席する理由にはなりませんな」
「そうだね。だけどどうだろう。さっきも言ったように、もしシリウス王が同盟を組みに来たと言ったら?それは王国にとっては危険な同盟で、どうしても阻止したいはずだ。場合によっては、シリウス王の帝国より危険度が低い魔法都市を潰しにかかるかもしれん。今戦争している背後に、賢者以上の魔法の使い手と、革命の国がいるのは避けたいだろう?」
「ふむ、肯定と言っておきましょう」
「というより、誰がどう見てもそうだろう。では、逆の場合。もしシリウス王が戦のキッカケを探すために来たとしよう。こうなれば、王国としては無視を決め込んだ方が得だな。だが、もしレッドランス公がオーセリアン王への橋渡し役になってくれたら、俺は今やっている戦に手を貸しても良い」
「つまり、同盟を申し出ると?」
「同盟というより、手助けをしてやろう。俺一人で良いならだが。それでも5万相当の兵力だとレッドランス公は理解しているな?」
「むぅ」
レッドランスは顎髭を撫でながら考え込む。
おそらくメリット・デメリットを天秤にかけているはずだ。
そして、もし橋渡しをしてくれるなら、オーセリアン王は乗るだろうな。俺を今の戦に駆り出し、その後はシリウスにぶつける為に。
どちらにしろレッドランスがこの場にいるのは、悪い話ではない。いや、胃痛にさえ耐えれば利益の方が多いだろう。
この話をしてもシリウスの表情は変わらない。
本当に何しに来たんだよ。この王様は。
「しかし、それもシリウス王の口から目的を言ってもらわないと分からないけどな。さて、それを踏まえて……、責任のある指導者として発言してもらいたい」
俺としては、この会談を気楽な食事会で終わらせたい。だけど、国の代表として座っている以上、その言葉一つ一つには責任が付きまとう。
戦争が起きるかもしれないし、永い平和を獲得できるかもしれない。
その事を肝に銘じて、発言しろと釘を差したのだ。
シリウスの表情はあいも変わらず変化なし。だが、レッドランスはこの会談に居合わせることが出来て良かったと思えたみたいだ。顔色が先程よりは良い。
さて、この会談はいったいどうなるやら。
だけど――。
「その前に食事を済ませよう。全てはそれからだ」
そう言いながら、天ぷらを口に放り込む。
こうして、会談の前の唯一心休まるひとときを過ごすのだった。