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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十章 魔法都市への復讐者 下
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炎帝

 ギルの授業とその後の2時限目も終わり、エミリーとエレナ、テッドの三人はここ最近の溜まり場になっているエルピスにあるケーキとコーヒーの店に来ていた。

 三人が店に入ると、エミリーがキョロキョロと客を見渡す。そして、目当ての人物を発見すると笑顔で指差した。

 その人物とは、クルスだ。

 クルスは学院を早退してからこの店に来ていたらしく、ボーッとしながらコーヒーを啜っていた。

 クルスを発見したエミリーはエレナとテッドに教える。


 「あ、やっぱりここにいましたよ、クルスちゃん」


 「え?……エミリー……」


 エミリーの声に気づき、クルスは少しだけ気まずそうな表情を出す。


 「おい、不良娘。さすがにあの態度はヤバいぞ」


 「まあまあ、テッド。とにかく、座りましょう。クルス、相席いいかしら」


 「あ、はい」


 エレナが断りを入れ、クルスの了承を得ると3人は座る。座るといつもの流れでと注文を店主に伝える。


 「えっと、私はですね……、ケーキとコーヒーでお願いします。あ、コーヒーはミルク入れてください」


 「私も同じで。けれど、コーヒーはブラックでお願いします」


 「俺はこのあと仕事ないから、ビールとサキイカ」


 「テッド……」

 「テッドさん……」


 エミリーとエレナが呆れ顔になり、クルスがそれを見て苦笑いをする。

 店主が頷いたことで注文が滞りなく済んだと分かると、テッドがエミリーとエレナに向き直り不満をぶつける。


 「なんだよ、いいじゃねーか。今言ったようにこのあと仕事ねぇんだから」


 「いいですけどぉ。あれ?そういえばこのお店にビール置いてあったんですね」


 「いや、最近ようやく代表の許可が出たってことで入荷を始めたそうだ」


 クリークの部下が経営する三店のうち、ビールを出す店はイカフライを出す店のみだったが、他の二店がギルに陳情したことで許可が下りたのだ。

 それだけビールの人気が凄まじかった証拠でもある。

 イカフライの店のアドバンテージが無くなってしまい、同店よりさらなる苦情が出ることが予想できたが、新商品をイカフライの店に用意することで丸く収まったのだ。

 そんな説明をテッドがエミリーにしていると、注文した料理がテーブルに並ぶ。

 テッドは目を輝かせ、ビールを一気飲みする。


 「ぷはぁ!美味い!店主、もう一杯!」


 ビールの泡を髭のようにつけたテッドが、サキイカを咥えると大きな声でビールの再注文を出す。


 「テッド、さすがにこの時間から一気飲みは……」


 魔法学院の授業は2時限制で、このあとの授業料を稼ぐ仕事もあってか、早くに学院が終わる。この世界に時計があれば、14時ぐらいだろう。

 その時間からテッドのペースで呑めば、テッドがこの後どうなるかなど想像に難くない。

 エレナは、それを心配しテッドに注意をするが……。


 「今日は頭を使ったから良いんだよ。それより今日はクルスの嬢ちゃんだ!さっきも言ったが、あの態度はやりすぎだぞ」


 テッドは自分が責められる前に話題を戻す。

 クルスがギルに食って掛かった件について話しているのだ。


 「……まあ、いいわ。……そうね。代表様を怒らせるのも恐いけれど、それ以前に押し付けがましいと私は思えたわ」


 エレナがテッドに注意するのを諦め、クルスとギルの言い合いについて感想を言う。

 すると、端正な顔立ちであるクルスが苦渋の表情になり頭を抱える。


 「あぁっ、わかっています!私が礼を欠いたことや、自分本位の意見を押し付けたことは……」


 数秒ぷるぷると震えると、スッといつもの凛々しい表情に戻り背筋を伸ばす。


 「ですが!私は王国を愛しています!この大陸でも法国には及ばなくとも歴史は長く、どの国よりも領土は広い。街道の魔物退治は念入りにし、国民が安全に各町へ行き交うことができるのはこの王国だけでしょう。そんな国を誇りに思っています。そんな王国に対し、あの代表は国民の安全を守る兵士を4万も虐殺したと言ったのですよ!許せるはずもありません!」


 「クルスの自国愛は認めるわ。だからといって、攻められた魔法都市の代表様にあの暴論をぶつけるのはどうかと思う」


 「嘘は言っていません。代表一人と4万の兵士、やはり4万という数の命に重きを置くべきです」


 「極論だな。代表の犠牲でそれ以外に被害がないとも言い切れない。お前が王国を大事にするように、代表も魔法都市の住民を第一に考えている……はずだ。被害が皆無と言い切れないのであれば、守るために戦うのは当然」


 「ですが!」


 「なにより!なにより、だ。俺やお前、いや誰にもこの事を議論する資格はない。当事者であり、戦場に立ったあの代表か、王国の指揮官ぐらいだろう」


 「くっ」


 悔しそうにするクルスを見て、テッドは溜め息を吐く。

 クルスにとって王国は全てであり、何よりも優先すべきものだ。それは良い。誰でも自分が生まれた国を大事にしたいという気持ちは少なからずある。

 だが、王国の良い部分ばかりで、悪い部分を見ていない。いや、知らないのだ。

 極論、王国が攻めるのは良い。だが、他国が王国を攻めるのは許さないとクルスは言い出しそうなのだ。

 それをテッドは危うく思う。

 クルスはテッドを言い負かせることが出来ないと理解すると、ターゲットを今まで議論に加わることをしていないエミリーに変更する。

 なんとしても、味方を増やしたくて仕方がないのだ。


 「エミリーは私の言うことはわかりますよね!」


 議論を投げかけるのでも、質問でもなく言い切って同意を得ようとする。

 エミリーは幸せそうにケーキを口に含んでいた所で気を抜いていたのか、ビクッと跳ねるように驚く。


 「え?!私?!えっと……、私にはわからないよ」


 同意が得られないのと、議論に発展しないことにクルスはガッカリする。

 だが、エミリーの話は終わっていない。


 「でもね、代表様が仰ったように手を上げたのは王国が先。喧嘩は先に手を上げたほうが悪いよ。犠牲者が出て本当に残念なのはクルスちゃんと同じだよ。でも、私は代表様が死んじゃうのもヤダなぁって思う。あ、いや、代表様の魔法の知識は凄いから、まだまだ教えてもらいたいし……。み、皆が幸せだったら良いなって思うよ!うん!」


 途中から照れながら話すエミリーに、エレナは呆れテッドは感心した。そして、クルスは毒気を抜かれる。

 クルスは嘆息し、首を横に振る。


 「もう良いわ。……それでこの話の後に聞きづらいのですけど、代表の授業は……、どうでした?」


 ようやくエミリーも会話に入ることができる話題に、目をキラキラさせる。


 「凄かったですよ!クルスちゃん、なんで帰っちゃったのかな!青い火!『大事なのは3つ。可燃物、熱、そして空気』キリッ!って!」


 テーブルをペチペチと叩きながら熱弁するエミリーに、クルスたち三人は苦笑いする。


 「残念ながら、エミリーの話は代表7、魔法3だから理解できないぞ」


 「そうみたいですね。エレナさん、申し訳ないですが教えて下さい」


 「ええ。授業内容を書いた本持ってきているから」


 「ありがとうございます」


 「もう!無視しないでよ!!」


 「「「ははは」」」


 こうして、どうにかクルスの怒りを抑えることに成功し、いつもの4人組に戻ったのだった。


 ――――――――――――――――――――――――


 学院の授業を終わらせた後、俺は城にある自室に戻ると椅子に腰掛けたまま熟考していた。

 ちなみにこの椅子は俺が地球から持ってきた椅子ではなく、シギルに作らせた物だ。あの最高の椅子には劣るが、それでもゆったりとした座り心地に、適度なリクライニング機能。長時間肘掛けに肘を乗せても痛くならない素材選び。

 思考するには良い椅子だ。

 いやいや、長時間思考に費やしているせいか、椅子へと思考が傾いてしまった。

 俺が考えて続けているのは、シリウス王のことだ。

 テッドとエレナから聞き、その後他の帝国出身者にも聞いてみた。

 やはり、シリウス王は『魔法を使えない』ようだ。これは凄いことだ。

 シリウスは戦場に立てば一騎当千の強者だと聞く。なのに、魔法は使わないのだ。

 純粋に剣術でその強さなのだから呆れるばかりだ。いったいどれほどのレベルなのか、どれほどのステータスなのか……。

 しかし、他の帝国出身者から聞いた情報に気になることがあった。

 それはシリウスが火を操っていたという情報。

 その情報提供者の知り合いが、革命の時にシリウスと同じ戦場にいたらしいのだ。その時にシリウスが敵兵を火炎で薙ぎ払うのを見たと聞いたらしい。

 魔法が使えないのに、火を操る?魔法が使えないという情報が間違っていたのか?

 ……いや、あのテッドとエレナが言い切ったのだ。二人と揺るがない信頼が築けたとは言い難いが、それでも嘘を俺に教えるほど俺を甘くも見てないはずだ。

 だとすれば?考えられるのは……。


 「魔剣持ちか」


 そうとしか考えられない。

 魔剣は俺とシギルが作る魔法剣と似ているが、全くの別物だ。

 魔法剣は悪く言えば、作成者が意図した魔法効果しか発揮しない。

 しかし、魔剣は使用者の魔力を常時吸い上げ続けるという欠点があるが、使用方法が一つだけではない。使用者次第で、それこそ無限の使い方ができる。

 それに魔法では出来ないことが、魔剣には可能だ。

 魔法を無効化、使用者の意志で各属性を思うがままに操るなど。

 おそらく地球の科学では何千年かかっても解明できない、不思議なファンタジー武器だ。

 だが、魔剣にもランクがある。

 明言されていないが、威力や効果で魔剣の価値が上下するというのは、冒険者や蒐集家の間では当たり前のことらしい。

 それは当然だ。魔剣は全てが高価ではあるが、希少な物にはさらに高値をつける。つまり、このランクというのは値段のことだ。

 まあ、魔剣自体お目にかかるのが希少だが。

 何度も魔法都市とオーセブルクを行き来している俺でさえ、ボス報酬から出たことはない。それこそガチャ以上の低確率だろうさ。

 その中でも上位の魔剣を、シリウス王は所持しているのかもしれない。それこそ、戦場で他を圧倒できるほどのモノを。

 一騎当千の力は、シリウスの実力か、それとも魔剣のおかげか。

 最悪なのは……。


 「実力もあり、魔剣も逸品の場合」


 であれば、シリウスの噂がないことや、情報収集をしないことも納得がいく。他国が帝国を敵に回したくないのも得心が行く。


 「その可能性は高い。極めて高確率」


 まだ確証はないが、そう断言しても良いかもしれない。

 帝国全体が強すぎるからというのも捨てきれないが、でなければあれほどシリウスの異名は多くないずだ。

 シリウスの異名。

 不遜王、虐殺王、会敵確定死、そして炎帝。

 これは全て先程の火を操ると教えてくれた生徒の言葉ではある。が、それは同時にシリウスと同じ戦場に立った者の言葉でもある。

 全てが事実とは言わないが、真実味はある。

 それに、なんとも穏やかではない異名ばかりではないか。

 この異名を聞き、帝国自体が強すぎるからではなく、シリウスが恐怖の対象だから噂をしないと俺が断言した理由だ。

 もしかしたら、噂をしないのではなく、噂しているが信頼できる友人以外は話さないのが正しいのかもな。

 それはさておき、こうなるといよいよシリウスが魔法都市に来るのが一大事だと話す三賢人の言葉が理解できる。

 本当に何しに来るんだよ、シリウス王。戦争の火種を蒔きにじゃないだろうな?

 俺、嫌だよ、英雄と戦うの。法国の英雄だったホーライと戦った時もそうだが、面倒臭いんだよ。戦い方に一癖も二癖もあってさ。

 それにおそらくホーライは英雄と呼ばれている存在の中でも、弱い部類だと予想している。

 シリウスは違う。正真正銘の英雄だ。戦うことになれば、ホーライ以上にやり辛いのは間違いない。

 ホーライよりも弱いかもしれないとも考えた。が、それは俺の知り合いの言葉を思い出し即座に否定した。

 それはアーサーの事だ。

 あの馬鹿はどうやらシリウスと会ったことがあるようだった。しかし、誰とも戦いたくなる『狂化』スキルが反応しなかったらしいのだ。

 それは敵として見れない弱者か、強すぎるかのどちらかだとアーサーは言う。

 アーサーの頭はアレだが、あいつの言葉は信頼している。

 あいつの前では絶対言わないが、アーサーは強い。

 あいつが直線的な戦い方をしなければ、あのホーライや聖王など相手にならないだろう。

 ホーライの詠唱なし土魔法など速さで翻弄するし、鈍重な聖王の攻撃も同じだ。

 それで優しい性格をなくせば、この大陸で敵はほぼいなくなるはずだ。

 そのアーサーがシリウスには勝てないと話す。それだけでもシリウスの実力を疑う必要が無くなる。

 ここまでの情報を合わせると、シリウスは強者だと断言するに足る理由になる。

 シリウスと戦うこと自体、悪手。

 絶対に避けなければならないこと。

 なのに、俺の近くにいる奴らは、シリウスに関しては全く手助けする気がない。

 リディアには「お役に立てないかと」とやんわり断られ、エリーは興味がないと首を横に振り、シギルには仕事で忙しいと言われる始末。エルに頼めば側にいてくれるだろうけど、話についていけなくて首を傾げるだけだ。

 三賢人なんてはっきりと断ってきた。露骨に嫌そうな表情を浮かべるだけでは済まず、「シリウス王の視界に入るのが嫌だ」と言ったのだ。

 ティリフスに至っては、野性的な勘で察し逃げたのか、見つけることが出来ていない。おそらく、どっかの鍛冶屋の鎧に成りすまし、カモフラージュしているのだろう。それを見つけるのが時間の無駄だ。


 「どうしろってんだ」


 つまり、シリウスとの会談は俺一人で挑まなければならない。

 爆弾処理班の気持ちというの、こんなのだろうか。


 「一対一はヤダなぁ」


 半魔たちに頼もうかな。元王族だし、肝は座っているからな。その上、礼節をも弁えている。俺の仲間たちの中でも最適だろう。

 が、もしそれでもシリウスの機嫌を損ねた場合、巻き添えにすることになる。

 彼らの悲惨な人生を知っている俺としては、これ以上危険なことには巻き込みたくない。

 この魔法都市で安心して生活してほしい。

 それもあって頼むことはできない。

 だけど、やっぱり一人は嫌だ。

 駄々こねてもそうするしか無いのだが、嫌なものは嫌だ。

 もしシリウス爆弾が爆発しそうになった時のために、盾にできる奴どこかにいないかな。

 アーサーか!

 いや、オーセブルクのどこにいるかわかんねぇ。使えねぇな、あいつ。

 ん、待てよ。一人いるじゃないか。魔法都市の住人ではなく、盾に出来る人間が。

 そうだ、そうしよう!色々と調整は必要だが、今すぐ動けばなんとかなるかもしれない。

 そうと決まれば、早速書簡を送ろう。

 俺はまだ書くことが出来ないから、誰かに頼むことになる。

 誰に書かせるか。幸い、礼節を弁え、字が書ける仲間は多い。


 「礼節を弁え、強い字が書け、だが謙らない人物」


 よし、決めた。そうと決まれば、早速だ。シリウスはゆっくりと来るだろうし、こっちは伝書竜を使わせてもらう許可をルカに取ってある。とはいえ、速いに越したことはない。

 俺は思考を止めると目を開く。椅子から立ち上がると腰や頬杖をついていた顎辺りが痛い。何時間も同じ体勢で考えていたせいだろう。

 伸びをしてから、扉を開け部屋を後にする。


 その足で目的地に直接向かい、到着する。

 ここは魔法学院の地下にある研究施設。

 書簡を書いてもらう相手、それは。


 「タザール頼むわ」


 「何がだ」


 おっと、俺の中では既に確定していることだからか、言葉足らずだった。


 「書簡を()()作成する。タザール書いてくれ」


 こう言うと、珍しくタザールが顔をひきつらせる。


 「断る」


 「一通は後で書いてもらうが、もう一通は急ぎだ。できれば、今書け」


 「聞け」


 「悪いがタザール。これは確定事項だ。断ることは力づくで許さん」


 タザールが額に青筋を浮かべている。が、力づくでと言われたら勝ち目が低いタザールは反抗しないのを俺は知っている。

 タザールの強さは不明だ。しかし、それでも俺に勝てる実力に至っていないということは分かる。感覚でわかるのだ。

 この際、他の魔法都市関連の重要な案件もタザールに押し付けよう。


 「それにタザール、お前大臣な」


 「な?!俺にそんなこと出来るわけないだろう!!」


 「これ決定事項だから。断ることは――」


 「わかった!だが、理由を話せ!そして、納得させろ。でなければ俺は従わん!」


 むぅ、会社の部下みたいにはいかないか。あ、もちろん会社の部下にこんな頼み方はしないけどね。彼らは俺が頼めば喜んでやってくれるから。有能だね。

 だが、タザールは部下とは言えない。俺に反抗もし、しっかり自分の意見を言う。だからこそ、大臣に

向いている。

 諫言を言わない部下はいらない。

 それもあって大臣はタザールしかいないのだ。スパールでも問題ないと思えるが、あのジジイとは最終的に子供の喧嘩になるからな。やっぱり、タザールだ。

 俺は大臣の任命の理由と、書簡の件を順を追って説明した。

 その間タザールは何も言わず、頷きもせず聞いていた。

 全て話し終わると、タザールは俺に聞こえるほど大きい溜息を吐く。


 「書簡のことは良いだろう。だが、大臣はどうなのだ?研究に集中させてくれるのではなかったのか?」


 む、痛い所を突く。

 研究はタザールのしたいことだ。だが、それだけをさせるわけには行かない。

 しかし、魔法学院の2時限目の実践で教師をやり、魔法都市の会議に参加させている。これ以上の役目を与えてしまえば、研究に集中出来ない。

 でも、それでもだ。


 「ある程度は俺とスパールで片付ける。が、大臣という役職は必要だ。他国の使者が来た時に相手をしてくれるだけでいい。元三賢人の一人が大臣ならば、出来たばかりの都市の大臣でも甘く見られないだろう?」


 スパールはさっき考えた通りで、キオルは王国の貴族。どちらにしろタザールしかいないのだ。

 タザールはこめかみ辺りを中指で押さえ、もう一度溜息を吐く。


 「……仕方ない。元三賢人のうち、俺だけの仕事量が少ないと言われるのも癪だ。その役目引き受けよう」


 「よし!じゃあ、大臣。早速、帝国に書簡を送ろう」


 「……しかし、こんなことをしても良いのか?シリウス王との会談が壊れることもあり得るぞ」


 「本来、会う会わないはこちらが決めることだ。だから、主導権は俺が持っている」


 「……ならば、いいのだがな。それがシリウス王に通用するかは博打になるな」


 「そのための肉壁、じゃなくて盾だ」


 シリウスの怒りの矛先を向けさせる盾を用意する。

 帝国からの返事待ちなるが、法国の伝書竜があればギリギリ間に合うだろう。

 タザールは苦笑いしながら首を横に振る。


 「その盾役には同情する。自分だったらと思うとゾッとするな」


 「これぐらいはしてもらわないとな。ささ、書いてくれ」


 「ああ」


 こうして俺とタザールの企みは、密かに進行していったのだった。

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