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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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魔力放出

 テッドの判断は咄嗟だった。

 足元に魔法陣が浮かび上がった瞬間、ある程度の状況を把握した。

 これは攻撃だと。


 「この場所から離れろ!!」


 テッドの声にエレナは迅速に行動した。

 反応できなかったのはエミリーだけだったが、エレナが手を引っ張って魔法陣の外へと出ることが出来た。

 直後、魔法陣から火柱が上がる。


 「ったく、何だってんだ!!てめぇら何者(なにもん)だ?!」


 テッドはエレナとエミリーの無事を確認した後、火柱から飛び散る火の粉を払いながら襲撃者に叫ぶ。

 三人の襲撃者に反応はない。無視して更に魔法を行使すべく魔法陣を作り始めていた。

 それ見たエレナは、エミリーを背に守りながら詠唱する。

 それと同時にテッドが襲撃者たちを止めるために飛び出し、腰のナイフを抜いて猛スピードで三人の襲撃者に詰め寄る。

 決して焦らず、狙いを定めさせない為にジグザグに移動し、後数歩の所まで距離を詰めた。

 しかし、そこに大量の火の玉がテッドに降り注いだ。


 「なっ?!三人じゃねーのかよ!!」


 慌てて横へと飛んで回避すると、テッドが今いた場所へ火の玉が着弾し、敷き詰められた石畳が飛び散った。

 テッドが飛んできた石畳の欠片を腕で防ぎながら、エレナに向かって叫ぶ。


 「エレナ!!防げ!」


 それはテッドが避けたことで、射線が通ったのを教えるためだった。

 そして、その指示は正しかった。

 テッドの指示のすぐ後、襲撃者の魔法陣が完成し、そこから石礫がエレナとエミリーに向かって発射された。


 「――防げ!ストーンウォール!!」


 エレナもテッドとパーティを組んで長い。最悪、間に合わないこともあると考え、『ストーンウォール』の詠唱を始めていたのだ。

 エレナの詠唱が間に合い、エミリーとエレナの足元から石の壁がせり上がる。

 石壁が完成すると、その壁を石礫が何度も何度もぶち当たった。立ちふさがった三人が順番に発射し、終わったらまた魔法陣を作るのを繰り返しているのだ。


 「きゃああああ!」


 「テッド、このままじゃ()たないわ!」


 ストーンウォールの魔法は(あら)ゆる攻撃を防ぐ事が可能だ。しかし、その強度は術者の魔力によって決まる。

 何度も強い打撃を受け止めるのは、熟達した魔法士でも難しい。

 何より、ストーンウォールの土属性は魔力の消費が激しい。

 いつまでもエミリーを守るために石壁を作り続けるのは不可能だ。

 それはテッドも理解していた。だからこそ行動を起こす。

 テッドは石礫を交代で発射する三人を止めるために、再度飛び出す。だが、それはまたテッドを狙って飛んできた火の玉によって邪魔をされてしまう。


 「くそっ!いったい何人いるんだ!!」


 悪態をつきながらローリングして火の玉を躱す。


 「テッド!!」


 「わかってる!わかってるが動けねぇ!!……なら!」


 姿が見えている襲撃者の三人を止めるために攻撃を仕掛けようにも、他の場所から飛んでくる魔法で徹底的に防がれてしまう。

 ならばと、まずはそれを邪魔する魔法士を優先して攻撃するしかない。

 テッドは今飛んできた火の玉の方へと向きを変え駆け出す。

 だが、別の方向から飛んできた火の玉が、テッドの足元に落ちてきて慌てて止まる。


 「ちくしょう!!囲まれてやがる!!屋根か?!」


 新たな火属性の魔法は、上方向から飛んできたことが理解できた。つまり、屋根の上に潜伏しているとテッドは見抜くが、それを確認するために動きを止めてしまう。

 そこへ火の玉が数個向かっていた。


 「ちっ!しくった!」


 テッドはギリギリ気付き、回避行動を取ろうとする。

 しかし、ギリギリ過ぎた。火の玉が命中し、テッドは声を上げることも出来ずに派手に吹き飛んだ。

 建物の外壁に激突し、そのまま崩れ落ち動かなくなったのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――


 その様子を見ていたラルヴァは、拳を強く握る。


 「よし、やったか!!」


 「ええ、やりましたな。間違いなく数発命中しました」


 屋根の上から覗きながらヒスロは力強く頷く。


 「ふん、どんなに速く、そして全属性の魔法を使えようと、急襲されればこの通り。慌てていれば、何も出来ないものだ。……だがまあ、仲間連れの時は少しばかり肝が冷えたがな」


 ラルヴァが最後の語気を強めながらドルフを睨む。報告では一人でいたと聞いたからだ。

 ドルフは俯いたまま何も言わない。


 「仕方がないでしょう。料理屋にいた時点で待ち合わせしていたと考えるべきでしたな。……しかし、どうします?」


 「ヤツの仲間か?ワシは目標であるあのガキを仕留めたら、後はどうでもいい。つまり、今は気分がとても良い。よって、やはりどうでもいい。ヒスロ、お前はどう思う?」


 ヒスロは軽く息を吐いてこめかみに指を置く。数度、こめかみをトントンと叩いてからもう一度息を吐いた。


 「完璧を目指すのならば、仕留めたほうが良いと考えます。復讐されるのは面倒ですからな」


 「ふむ」


 「ローブで顔を隠しているが、どこから足が付くかわかりません。ですが、生き残りがいなければ?」


 「ならば、不幸にもどこからか石が飛んでくるかもしれないな」


 「だとすれば、続けるしかありませんな」


 ラルヴァは疲れたと言わんばかりに肩を揉みながら、ドルフに命令を下す。


 「攻撃を継続と伝えろ。あの石壁を崩せ」


 ドルフは返事はせずに礼をすると、弟子たちへ命令を伝えるために走り去っていった。


 ――――――――――――――――――――――――


 エレナは攻撃が苛烈になったことを理解した。

 石壁を崩そうとする音の感覚が短くなったことが理由だ。


 「エ、エ、エレナさん!!か、壁に穴が……」


 もう既にボロボロだった。壁の所々が崩れ落ちつつある。


 「わかってるわ!」


 「新しい壁を出した方が……」


 「無理ね」


 「え……」


 「もう一度新しい壁を作って耐える程の魔力が残ってないの」


 『ストーンウォール』の魔法で防ぐのは、魔物の強烈な一撃を止める時に役立つ。攻撃を止めたら後はすぐに魔法を解くのだ。

 継続して耐える、つまり耐久には向いていない。

 消費魔力が多いのと、魔力放出中に別の魔法が使えなくなってしまう。実際は魔力放出中にでも魔法は使えるのだが、魔力操作に余程の自信がなければ難しい。

 エレナは魔力操作に自信があっても、魔力所持量が乏しい。

 もう一度『ストーンウォール』を作り出すことはできない。


 「わ、わかりました!わ、私も戦います」


 両手に握りこぶしを作って気合を入れるエミリーを見て、エレナは苦笑いする。


 「……心強いわ」


 でも、この壁が崩れたらあっという間に殺されるでしょうね、とエレナは心の中で嘆いた。

 そして、それはもうすぐ。

 壁に空いた穴が徐々に大きくなっていく。

 その隙間から砕けた石が入り込んで、エレナの頬を掠めた。

 穴の数が増え、もはや壁とは言えない。エレナが魔法を保てているのは、ただ運が良いだけ。

 襲撃者たちの魔法の命中率がそれほど高くないのが理由だが、それも時間の問題だった。

 比較的大きい石礫が壁にクリーンヒットした。

 そして、壁は崩れ去った。


 「エレナさん!」


 「ここまでね」


 舞い上がる砂煙と、崩れ落ちる瓦礫の隙間から、無数の石礫が飛んでくるのがわかり、エレナは覚悟を決めた。

 エミリーを庇うために抱きしめながら。


 だが、何時まで経っても石礫は来なかった。

 正確には石礫が当たる直前、空中で砕け散っていた。

 一体何が起きているのか理解できなかった。辺りが暗すぎたのだ。

 エレナも目を凝らしてようやく理解した。

 氷の壁。

 エレナとエミリーの目の前に巨大で透き通った氷壁が立っていた。

 その後すぐに真っ暗だった路地裏が一瞬で昼のように明るくなる。

 そして、声がした。よく知った人の声。

 自信に満ち溢れ、この窮地を何でも無いと思っていそうな声。


 「お、遊んでもらってるのか?」


 魔法都市代表、ギル。

 ついさっき、食事をしながら話していたのと何も変わらない口調だった。

 『ストーンバレット』の魔法が防がれ、急に明るくなったことで攻撃の手が止まる。それだけではなく、襲撃者が驚いている気配がした。


 「代表様!!」


 だが、そんな襲撃者のことなんて知ったことかと、助けてくれた人の名前を笑顔で呼ぶエミリー。


 「二人共無事か?」


 「はい!」


 「はい、ですがテッドが!」


 ギルはテッドの方へ視線をやると鼻で笑う。


 「おい、テッド!冒険者の最終手段である『死んだふり』をこんなところで使うなよ!魔物はいねーぞ?」


 その言葉にエミリーとエレナも驚いてもう一度テッドを見た。すると、テッドはむくりと起き上がり、二人は再度驚いた。


 「うっせぇ!魔物じゃないから『死んだふり』してんだ!魔物だったら食われちまうだろ!」


 「そりゃそうだ」


 「だ、代表様。どうしてわかったんですか?もしかして……、ずっと見ていたのでしょうか?」


 「いや、今来たところだよ。だけど、俺の服着てるだろ?こいつらの魔法ぐらいだったらダメージはない」


 「そ、そういうことですか。疑って申し訳ありません」


 エレナが謝罪すると、ギルは肩をすくめた。


 「……まあ、いいさ。危険があれば俺は迷わず逃げるしな。でも、この程度だったら逃げる必要もないさ」


 エレナは思う。この程度で逃げなければ、いつ逃げるんだと。

 そんな呆れ気味のエレナを他所に、ギルはまるで散歩でもしているかのように軽やかに歩いていく。

 ギルはちょうどエレナたちとテッドの間で立ち止まる。襲撃者から一番狙われやすい場所に。

 エミリーもエレナもテッドも、ギルのこの行動が危険だとわかる。しかし、声を出して注意も、心配もできなかった。

 なぜなら、ギルから濃密な殺気が漏れ出ていたからだ。

 講堂で貴族の青年に発したものとは段違いの、死を確信させる殺意。

 ギルは腕を組み、目だけで辺りを見た後、口を開いた。


 「それじゃあ、無様な魔法を見せてもらおうか?」


 ――――――――――――――――――――――――


 ラルヴァたちは驚愕していた。

 今まで攻撃していたのがギルでなかった事と、死んだと思ったギルの偽物が生きていたことに。


 「い、いったいどういうことだ!影武者か?!」


 「ラルヴァ殿、今はそれは良いとしてどうしますか?!」


 「まだ衛兵は来ていない!やることはひとつだ!一斉に魔法で片付ける!全員でだ!」


 ラルヴァが魔法陣を描き始めたのを見ると、ヒスロは頷いて弟子たちに命令する。


 「諸君、あれが賢人の敵だ!一斉に魔法で攻撃する!準備!」


 ヒスロも魔法陣を描きはじめるが、弟子たちは命令を遂行できなかった。

 ギルの殺気で震えてしまい、魔法陣を描くための魔力操作が上手く行かなかったのだ。

 ヒスロは舌打ちし悪態づく。奮起させようと考えるが、良い言葉が思いつかない。

 だが、ここでギルの声が全員の耳に入る。


 「それじゃあ、無様な魔法を見せてもらおうか?」


 ギルの言葉で弟子たちは動き出す。

 『無様』という言葉で、怒りが恐怖を上回ったのだ。彼らも賢者の弟子でプライドはあるのだ。

 その結果、屋根の上には発射を控えた魔法陣が二十数個。道を塞いでいた三人や、建物と建物の間に潜んでいた弟子たちも魔法陣が完成していた。

 発射の命令を待っている。

 ギルの態度は変わらない。余裕のままだ。

 ラルヴァは顔を真っ赤にしながらギリッと歯噛みした。


 「何時まで余裕ぶっているつもりだ!やれ、ヒスロ!」


 ヒスロは頷いて命令を下す。


 「総員、目標に向けて発――」


 ヒスロは命令を最後まで言うことは出来なかった。

 反撃を受けたわけでも、攻撃を躊躇したのではない。

 悍ましい気配がした後、30近くあった魔法陣が全て掻き消えたから。


 ――――――――――――――――――――――――


 うん、上手くいったな。魔法陣が見えないなにかに吹き飛ばされたみたいだったな。

 いくつあったか数えていなかったけど、全部の魔法陣が消えたはずだ。

 これは俺の新魔法だ。

 『魔力放射』による魔法無効化。

 ティリフスとタザールが無属性魔法の研究成果を話した時、『魔力はマナに影響する』と言っていたのがヒントになりこの新魔法が完成した。

 魔力は別の言い方でマナ。マナは魔力で、魔力はマナ。言い方を変えただけで同じものである。

 全く同じ物が影響し合うのは、当然ことで無意味のように感じるがこれは全くの別物だ。

 ここでの魔力は自分の魔力、マナは自分の魔力以外の全てという意味だ。

 つまり、()()()()()()()()()()()()()ことが可能なのだ。

 俺は全身から魔力を全力で放出しただけ。新魔法というには、あまりに単純で強引な方法だが、効果はこの通り絶大だ。

 しかし、デメリットも多い。

 まずは、魔力消費が途轍もなく多い。ただでさえ、無属性魔法は魔力消費が多い。それを全身から全力で放出しているのだから、当然というもの。

 次にこれを使っている間、俺自身も魔法を使えない。俺の魔力で作った魔法陣でも、体内から出した時点で自分の物ではなくなるらしい。

 まあ、辺りに漂っている安定したマナを、俺の魔力で押し流しているのだから、魔法陣も同じく安定が保てなってしまうのは仕方がないことだろう。

 大きな波が来たらバランスを崩してしまうのと同じことだ。

 最後に、恐らくこの魔法を使えるのは俺だけだ。

 大量の魔力を持っていて、魔法無しでも戦うことが出来る()()()

 それはこの世界でも限られているはずだ。

 多いデメリットに対し、メリットは魔法陣を掻き消すだけ。限定的過ぎて、使い所が難しい。

 しかし、今回のように統制の取れた魔法の一斉射撃に対してはもってこいの魔法だ。

 その証拠に敵さんも慌て、正体がバレたくないことを忘れて喚き散らしている。


 「い、いったいどういうことだ!?」

 「わからん!魔法陣が吹き飛んだ!」

 「失敗しただけじゃ?」

 「全員がか?!」

 「いいから、もう一度やるぞ!」


 パニクってるし、悠長なこと言っているなぁ。なんか忘れてんじゃないの?


 「襲撃したってことは、撃退されることもあるんだが?」


 この魔法陣無効化魔法は全ての魔法陣に影響を与える。が、影響されないこともある。

 それは体内の魔力。

 肉体が押し寄せるマナの防壁になり、体内のマナを乱さない。

 つまり、魔法は使えなくとも他の無属性魔法による()()()()ならば問題はないのだ。

 俺は魔力放出を止め、肉体強化を施す。魔力放出を止めても、辺りに漂っている俺の大量の魔力が魔法陣構成を阻害しているから、俺はゆっくりと肉体強化をしていく。

 必要な部位を強化したら、今はない俺の刀がある腰を見る。


 「お前ら運が悪いな。俺の愛刀は今貸していてないんだ。骨折は治癒ポーションじゃ治らないからなぁ」


 俺はまず立ち塞がっている三人へ向けて飛び出す。

 肉体強化の効果は凄まじかった。

 自分でも驚くほどの速度で襲撃者との距離を詰めた。それこそ、俺と同じく地球から来た、あのアーサーのように。

 襲撃者からしたら、いつの間にか目の前に現れたように感じたはずだ。

 襲撃者三人が驚愕して固まっていたのがその証拠だろう。

 俺は襲撃者の一人の膝を狙って蹴る。

 膝から下が逆に折れ曲がり、バランスを崩して横へ倒れ込む。余りに刹那の出来事だったからか、襲撃者は悲鳴はワンテンポ遅れる。

 俺は更に拳を強く握る。


 「意識を失うことを祈るんだな」


 倒れ込む勢いを利用し、カウンターになるように拳を横っ面に叩き込む。

 襲撃者の顔が跳ね上がり、他の襲撃者を巻き込んで倒れ込んだ。

 運良く一人目は、意識を手放せたようだ。ピクリともしない。

 ……死んでんじゃねーか?ま、いっか。

 さて、二人目と三人目も逃げないようにしないとね。

 二人の膝を順番に踏みつける。鈍い音の直後に叫び声があがる。

 足が折れてたら、素早く逃げることは出来ないだろう。こいつらはこれでいい。

 残りは、建物の間に潜んでいる奴らと、屋根の上。

 俺は作業のように一人ずつ処理していく。

 ぞんざいに拳を振り抜き肋骨を砕く。頭突きで鼻骨を折る。肘を振り回し顎を砕く。肩、足、腕、頬骨、手当り次第、砕いて行く。

 もちろん、屋根の上にいた奴らも順番に片付けていった。

 魔法陣を無効化して俺が作った光属性の明かりもなくなってしまったからか、何が起きているのか分からなかったのだろう。

 襲撃者の殆どは逃げなかった。

 結果、この一帯に約30人近い人間が倒れ込んでいた。

 呻き、泣き、叫び、苦しんでいる者たちが。

 こうして、恐らく俺を狙ったであろう襲撃は決着がついた。

 鎮圧にかかった時間は、たったの5分だった。

 ただ、俺の知っている人物は倒れている中にはいなかった。

 ラルヴァの姿が。


 ――――――――――――――――――――――――


 ギル襲撃から一時間後。

 ヒスロはダンジョンをひたすら走っていた。


 「なんてことだ!あんな化け物なんて聞いてなかった!発射直前の魔法陣を掻き消すなんて!!」


 ヒスロはギルが一人ずつ殴っている間にラルヴァと逃げ出していた。

 魔法陣をかき消された時に、逃げる決断をした。弟子たちを置いて。


 「ラルヴァともはぐれてしまった!と、とにかく、オーセブルクまで行ければ!」


 オーセブルクまで行けば、ラルヴァと合流できるかもしれない。でなくとも、外に出れば安全な国へ逃げ込むことが出来ると考えて逃げている。


 「もっと、もっと速く!」


 数秒おきに後ろを振り返る。走る速度を緩めることはない。できる限り、魔法都市から離れるために。

 だが、ヒスロは忘れている。

 ここがダンジョンであることを。

 冷静さを失い、余所見しながら走るのは危険だ。

 ヒスロが全速力で曲がり角を曲がる。

 そこには、アンデッドの群れがいた。

 ヒスロの悲鳴がダンジョンに響き渡り、しばらくした後、静寂を取り戻した。

 こうして、賢人まで上り詰めた男は命を落としたのだった。


 ――――――――――――――――――――――――


 ラルヴァは運良くオーセブルクへ戻る冒険者たちに出会い雇っていた。


 「よぉ、あんた」


 「な、なんだ?」


 「オーセブルクまで護衛すれば、金貨3枚って話は嘘じゃないだろうな?」


 「ああ!無事にオーセブルクまで送り届けてくれたら、間違いなく渡そう!だから、出来るだけ急げ!」


 命令口調に冒険者も気を悪くするが、好条件の上客だからか舌打ちするだけで何も言わない。

 普段のラルヴァであれば、貴族の称号を出し罵るのだが、今はそれどころじゃない。

 考えなければならない。ギルを倒す計画を。


 (魔法では太刀打ち出来ない。どうすればいい?どうすれば、あの悪魔を止められる?!)


 手札を全て出しても仕留めることは出来なかった。ならばどうすればよいか。


 (ワシの力だけでは無理だ。力を借りなければならない。強大な権力を持つ人物の!)


  爪を噛み、頭を掻き毟る。


 (だが、たった三十人の魔法士でもあの悪魔を止められなかった!では、どうするか?決まっているだろう!もっと人数を増やすしかない!奴の手に負えない人数をまで!ならば!)


 そして、結論づけた。


 (軍隊だ)


 ラルヴァは口元を邪悪に歪め、太陽を拝める場所を目指し歩いていく。

 魔法都市に戦争を仕掛けるために。

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