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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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暗殺

 ……こいつ、今なんて言った?

 まさかとは思うが、他国の代表に決闘なんて言ってないよな?

 もし、もしだ。そう言ったのならば、思考能力の低さか、脳の病気を疑うぞ。


 「聞こえなかったか?!代表殿!貴公に決闘を申し込むと言ったのだ!」


 あ、やっぱりそうなんだ。しかし、こいつの危機管理能力の低さを嘆くのは後にして、どうやって決闘を回避するかなぁ……。

 殺る気が出ないんだよな。こいつが弱すぎるせいかな?んー……、よし、脅すか。


 「えっと、そんなこと言っていいのか?」


 「何がだ?!」


 「一貴族が、一国の代表に対して決闘と言ったんだが……、これは大問題になるんじゃないか?君のお家にも迷惑がかかるしな」


 俺がそう言うと、貴族は一瞬だけ怯むが、すぐに元の勢いを取り戻す。


 「貴公の言葉を借りるなら、僕はただの子供なのだろう?ならば、王国や家は関係あるまい!一人の男として決闘を望んでいるのだ!」


 言葉での脅しは意味がないか。

 しかし、こいつが言っていることは支離滅裂だな。どう言おうが家に迷惑がかかるし、それは避けたいはずなのにそれでも決闘を申し込む?

 何かおかしくないか?

 駄目だな。今考えても無駄だ。情報が少なすぎる。

 まずはこの状況をなんとかしなければならんな。

 脅す方向を変えるか。力量差を見せてみよう。

 俺は靴裏に魔法陣を隠蔽展開して、貴族の投げ付けた手袋を火属性魔法で燃やした。

 魔法陣が無い事と、俺が詠唱も手で書くこともしてないこと、更に一瞬で魔法が発言したことにその場にいる全ての人が驚愕する。


 「断る」


 その上、決闘を断るという俺の言葉で、場は騒然とした。

 決闘を申し込んだ貴族に至っては、しばらく口をパクパクと金魚みたいな驚き方をしたぐらいだ。

 いったいなんでそんな驚くんだ?

 俺が首を傾げていると、我に返った貴族が口角泡を飛ばす勢いで捲し立てる。


 「な、な、何を言っているのだ!!貴族の決闘を断るなど不名誉なことだと知っているだろうに!!」


 あ、そういう事?でも、俺、貴族じゃねーしなぁ。名誉を大事にもしてないし、どうでもいいんだが。さらっと『貴族の決闘』って言っちゃってるし……。

 というか、それ以前に考えることあるだろうが。


 「っていうかさ、名誉とかそれ以前に、まず俺に勝てると思っているのか?今の魔法で力量差がわかるはずだが?」


 「やってみなくてはわから――」


 「わかるよ。現に今の会話中に、お前は何百回も死んでいるぞ」


 「何を馬鹿な」


 んー、こいつの把握能力が低すぎて、危機感がないみたいだ。言葉で説明しても駄目だな。

 今度は魔法陣を隠すことはせず、講堂を埋め尽くす数の魔法陣を展開した。

 そのうちの4つに魔力を流し込む。

 魔法が発動すると、4つの魔法陣から太い蔦が伸びていき、貴族の両手足に絡みついて拘束した。


 「な、なにぃ?!!く、くそっ、離せ!卑怯だぞ!」


 「お前は身動きが取れない。その状態でこの数の魔法陣から発射される魔法を防ぐことが出来るのか?」


 「くっ!け、決闘ならば負けん!僕は何度も決闘で勝利したことがあるんだ!」


 決闘を何度もやるなというツッコミをしたいのだが……。

 でも、何で引かないんだ?誰がどう見ても負けるってわかるだろうに。それほど決闘に自信があるのかな?

 んー、だったら決闘してもいいかな……、いや、やっぱり付き合ってられないな。なんか、引っ掛かるし。

 俺は更にもう一つの魔法陣に魔力を少しずつ流し込んだ。

 その魔法陣から氷の針がゆっくりと伸びていき、貴族の心臓辺りに触れる程度で止める。

 そして、殺意を言葉に乗せた。


 「決闘なんぞまどろっこしい。この場で殺すぞ……」


 「ひ、ひぃっ!」


 純粋な殺気を浴びたのは初めてだったのか、貴族の顔には恐怖の感情を浮かべ、情けない声を上げた。


 「どうせ死ぬなら、決闘中だろうと今だろうと同じことだと思わないか?選ばせてやるよ、今か、数分後か……、どっちだ?」


 氷の針の魔法陣にほんの少しだけ魔力を加える。

 氷の針が貴族の胸をチクリと突いたのだろう。貴族が更に怯える。


 「わ、わかった!僕が言い過ぎた!」


 「いやいや、お前立場わかっているのか?言葉遣いには気をつけようぜ?」


 他の魔法陣数個にも徐々に魔力を流す。魔法陣から石の槍や氷の剣が伸び、貴族の体中を軽く刺す。


 「ぐあぁあ!す、すみませんでした!どうか!決闘を無かったことにしていただけないでしょうかぁあ!」


 「よし」


 全魔法陣に魔力を流すのを止めると、全ての魔法が消え去る。

 よしよし、無事に死人を出さずにこの場を乗り切ったぞ。……少し貴族の服に血が滲んでいるけど。

 貴族は恐怖のあまりに震えながらへたり込み、俺をぼーっと見ている。

 ちょっと!他の生徒たちに悪影響だから、そんな怪物を見たって顔で俺をみないでほしいんだけど!

 他の生徒たちも沈黙しているし、ちょびっとだけやり過ぎたかな……?

 低い俺の評価が、更に下がってしまう心配していると、一人の生徒が拍手し始めた。

 あの記憶力の良い少女だ。


 「す、凄い!」


 その声をきっかけに生徒たちが立ち上がって拍手をし始める。それから徐々に声は大きくなり、大歓声になっていった。


 「なんだよ今の魔法!」

 「ああ!噂は本当だったな!」

 「瞬間詠唱ってヤツでしょ?!アレ!」

 「あれが使えるようになるかもしれないって事?!」

 「私、真面目に授業受けるわ!」


 ほっ。どうやら怯えさせずに済んだようだ。やる気も出たみたいだし、俺の評価も下がってないのかな。これならもう授業をサボる心配はいらないだろう。

 俺がいると授業にならなそうだし、そろそろ帰るとするか。


 「アニー、後は大丈夫だな?」


 「は、はい!噂に聞く代表様の魔法を見れて幸せでした!これからも精進します!」


 なんかアニーまでやる気出ちゃったけど、これはこれでいいか。


 「う、うん。じゃあ、俺帰るから、後はよろしくね」


 「はい!お気をつけて」


 俺が帰ろうとドアへ向かっていく。だが……。


 「お、お待ちください!!代表様!」


 呼び止められた。

 何事かと振り返ると、さっきの記憶力が良い少女が立ち上がって何かを言いたそうにしている。

 なんだ?不満かな?それとも、もう少しいてほしいとか?


 「えっと、なんだぃ?」


 「あ、あの……」


 「うん」


 「授業が終わったら、しょ、食事しませんか?!」


 ………………はい?


 ――――――――――――――――――――――――


 エミリーとエレナ、そしてテッドはエルピスの街を駆けていた。


 「ひぃひぃ……」


 「エミリー大丈夫?」


 「はひぃ」


 「ちょっと休む?」


 「だ、だいじょび」


 「だいじょび?」


 なぜ三人がこんなにも急いでいるのか。それはエミリーがギルを食事に誘ったのだが、あまりの迫力にギルが頷いてしまったことが原因だ。

 国の代表と食事をするとなれば、待たせないためにも急がざるを得ない。


 「ったく、どうしてメシなんて誘うんだよ」


 「テッド!」


 「なんだよ?エレナだってそう思うだろ?あんな怖ぇ人と楽しくメシなんて食えねーぞ」


 「え?そ、そうですか?そんなことないですよね、エレナさん?」


 「……」


 エミリーの熱い視線に、エレナは目を背ける。


 「ちょっとー!なんで、目をそらすんですか?!代表様は怖くないですよ!」


 「エミリーはそうかもしれないけどよ、俺ら冒険者からしたらあんな殺気を放つ男とは戦いたくないし、できれば、近くにもいたくないんだよ」


 「そうね。エミリーには悪いけれど、私も怖いと思うわ。でも、魔法士としては一度あの人と話してみたいって気持ちもあるわね」


 「そ、そうですよね!!」


 「だったら、別にメシに誘わなくても……」


 「ちょっと、テッド!エレナだって女の子なんだから、気になる男の子を誘う時だってあるわよ!」


 「ち、ちちちがいますよ!たまたまです!たまたま思いついた言葉がそうだっただけで!」


 「「ほーん?」」


 テッドとエレナがニヤニヤしながらエミリーを見る。


 「な、なんなんですかぁ!もう!」


 「ははは、わかったわかった。それよりもう少しで到着だから、そろそろ歩いてもいいんじゃねーか?」


 「そ、そうですね。息切らして登場するのも恥ずかしいですもんね。……ってエレナさん?」


 エミリーがエレナを見ると、エレナは離れた所で立ち止まって何かを見ていた。


 「どうしたんですか、エレナさん?」


 エミリーが声をかけると、エレナは口元に人差し指を当てて『静かに』のジェスチャーをする。そして、二人を手招きした。

 二人で首を傾げながらエレナの下へと近づいて、エレナが見ている方向へ視線を向けた。

 そこには自分たちの知っている人物がいた。そして、全員で眉根を寄せる。

 その人物はここ数日の問題児であるあの貴族だったからだ。その上、その貴族の近くに同行者がいて、その人物が入国の際審査官と揉めていたラルヴァであれば、眉根を寄せるのは仕方のないことだった。


 「見たことありますね」


 「入国の時の貴族ね。賢人ラルヴァ様」


 「あー。でも、どうして?」


 「さあな。だが、あまり良い組み合わせとは思えないな。絡まれないように、さっさと行こうぜ」


 「雑踏で気づかないとは思うけど」


 「気がついても大丈夫なんじゃないですか?」


 「念の為だよ。とにかく、待ち合わせもあるしここから離れよう」


 テッドの言葉に二人は頷く。そして、その場所から離れると待ち合わせの場所へと向かったのだった。


 ――――――――――――――――――――――――


 ラルヴァが宿泊している高級宿の部屋へ戻り椅子へ腰掛けようとするが、ドアのノックで邪魔される。

 大きな溜息を吐いてから、ドアへ近づいて開ける。

 そこには先程まで一緒にいた人物が立っていた。


 「もう来たのかね?」


 「は、はい、ラルヴァ公。荷物を部屋へ置いただけなので。良い宿を紹介してもらって助かりました」


 緊張でぎこちない青年は、魔法学院に所属する貴族だ。

 ラルヴァは満足そうに頷くと部屋へ招き入れる。

 二人で椅子に座ると、早速とばかりにラルヴァは青年に聞きたいことを質問しはじめる。


 「それでどうだったかね?」


 ラルヴァが聞くと、青年は顔を青くさせる。


 「そ、その……」


 青年は話し辛そうにしている。だが、ラルヴァは表情を変えずに続きを待つ。

 何故青年がこんなにも緊張しているのかには理由がある。

 その理由は……。


 「上手くいきませんでした」


 頼まれた事を遂行できなかったからだ。

 その答えにラルヴァはわかりやすく溜息を吐いた。


 「期待はしていなかったが、やはりかね。だが、あの元三賢人共がどのようにして避けたのか興味がある。起きたこと全てを話してくれるかね?」


 「は、はい。ですが、来たのは元三賢人ではなく、魔法都市代表でした」


 「なんだと?」


 「初日はそれこそ順調でした。ですが……」


 青年は魔法学院で起きたボイコット騒ぎを詳しく説明した。

 聞き終えたラルヴァは目頭を押さえて、もう一度溜息を吐いた。


 「なるほどな。あのガキがしゃしゃり出てきたのか。ならば、失敗しても仕方ないな」


 「は、はい。恐ろしい魔法でした」


 「ふん、大したことはない。が、ヤツは小賢しいのだよ」


 「ぼ、僕は大丈夫でしょうか?」


 「何がかね?学院を潰そうとしたことか、それとも代表に決闘を申し込んだことか?」


 「両方……、です」


 「問題ないだろう。貴族の要望に答えない学び舎が潰れることは良くあることだ。決闘に至ってはそもそも奴は代表ではないからな」


 「それは本当なのでしょうか?」


 「代表ではないことか?王国に書簡で確認してみたが、ここを国とは認めた覚えはないそうだ。王国が認めてないということは、国ではないということだとは思わないかね?」


 安心させる言葉だったが、青年の表情はまだこわばっている。

 青年は頷いても納得もしていないが、ラルヴァは気にせず続きを話す。


 「しかし、代表がしゃしゃり出て来たのは計算外だったな。だが、次はおそらく大丈夫だろう?」


 「い、いえ!!僕には荷が重いみたいです!」


 「何を言っているんだ、もう少しじゃないか。それに自分を都市代表などと嘯く小僧にもしてやれたのであろう?上手く事が運べば、君のお父様もお喜びになるし、あの小僧に悔しい思いをさせることが出来るのだ。もう少しだけ、ワシに力を貸してくれんか?」


 ラルヴァの真摯な言葉に、青年はもう一度考える。考えた末、あの講堂でギルの底知れない戦闘能力と殺意を思い出し身震いをした。


 「いえ、ラルヴァ公。やはりこれ以上は不名誉なことはできません。幼少の頃から色々と助けて頂いていますが、その恩を今回は返せそうもありません」


 「だがな……」


 「これ以上は、まず家を通していただきたい。僕も貴族の端くれですから、陛下の命や家からの言いつけならば何も怖くありません。ですから、まずは父にお話しください。では、僕はこれで失礼します」


 青年はそう言うと、ラルヴァの答えを聞かずに席を立ち、そのままドアを開けて出ていってしまったのだ。

 ラルヴァはつい出てしまいそうになる舌打ちを抑え込みながら、とっくに閉まったドアに向かって声をかける。


 「それは残念だ!お父様もきっと悲しむだろう!!」


 言い終えた後しばらく待ったが青年は戻ってこなかった。

 今度こそラルヴァは舌打ちし、爪を噛み貧乏ゆすりをしながら悪態をついた。


 「馬鹿め!誰が魔法を教えたと思っているのだ、あのガキは!恩すら碌に返せないのか!厚顔無恥なところは親そっくりだ!!これだから――」


 コンコン。

 ドアのノックにラルヴァは慌てて言葉を飲む。

 今の声の大きさでは高級宿の壁とはいえ心許ない。青年が戻ってきて今の言葉を聞かれでもしたら、さすがに問題だ。


 「だ、誰かね?」


 恐る恐るドアに向かって声をかける。


 「ラルヴァ様、我々です」


 青年ではなく、ドルフだった。

 ラルヴァは安堵の息を吐きながら「入れ」と言うと、ヒスロとドルフの二人が中に入ってきた。


 「ラルヴァ殿、少々声が大きかったですな。あれでは高級宿でも丸聞こえです」


 「そうですとも。それに今日お話していたのは公爵様のご子息ではなかったですか?もし、いまの悪態が耳に入っていたらラルヴァ様も危険でした」


 「こうも上手くいかないと悪態もつきたくなるわ。それに公爵家と言っても、あのガキは嫡子ではない三男坊だ」


 実はあの青年の家は、貴族としてはラルヴァよりも上位の公爵だ。ともすれば、このラルヴァの言い分は乱暴である。

 いくら貴族の称号を継げない三男とはいえ公爵の子なのだから、今の悪態を聞かれたら言い訳と謝罪を考えなければならないはずだからだ。

 だが、聞かれていないのだから問題ないと言わんばかりに、ラルヴァは別の話をし始める。


 「それで、そっちはどうだった?」


 ヒスロは危機感のないラルヴァに苦笑いしながら答える。


 「そうですな。我々の弟子たちは無事全員このエルピスの街に着きました。今は宿を確保し、ラルヴァ殿の命令を待っているはずです」


 「そうか、予定より速かったな」


 「ええ。たった2日でオーセブルクからここまで来てくれた。かなりの無理な行軍でしたがやってくれましたな」


 「ふん、30人もいるのだからそれぐらいはやってもらわねば困る。それに未熟でも賢者の弟子なのだからな」


 「……それでどうでしたか、そちらは。その様子では作戦は失敗だったようですが」


 「どうもこうもない」


 ラルヴァは青年から聞いた話をヒスロとドルフにも聞かせた。


 「元賢人を誘い出すはずが、最終的な標的である代表が出てきてしまったと」


 「おかげで厄介なスパールどもを封じる事ができんかったではないか。また、計画の練り直しだ」


 これがラルヴァの狙いだった。

 ラルヴァやヒスロにとって一番厄介な人物は、実力をよく知っている元三賢人なのだ。

 最終的な目標がギルでも、スパールたちの動きを封じないことにはどんな邪魔をされるかわからない。

 だから、貴族の青年を使って決闘を申し込ませようとした。

 青年が怪我でもすれば、元三賢人に抗議し王国へ呼び出してギルを孤立させようとしたのだ。


 「そうですな。しかし、失敗続きなのは納得が行きませんな。エルピスの街にいるガラの悪そうな連中を雇おうとしても、標的の名前を出した途端に怯えるか、こちらを逆に襲ってくる始末。ならばと、暗殺を仕掛けようにも、代表がいるのは路地裏ですら明るいあの魔法都市ですからな。暗殺犯の正体が露見してしまっては暗殺もクソもない。挙げ句、その暗殺対象に元三賢人の動きを封じるのを邪魔されるとは……」


 「まったく厄介だ。魔法都市の奥にある城にいるのはわかっているが、流石に防備もしっかりしているはずだしな。街で見かけても、都市の住民のほとんどはキオルの弟子か、あの得体のしれない『魔族』ばっかりだ。魔法都市で仕掛けるのはさすがに危険過ぎる。なんと忌々しいことか」


 「仕方ありませんな。我々がここを離れなければならない次の魔法学会まで、まだまだ時間はあります。ゆっくりと機会を伺いましょう」


 「……やむを得んか」


 ラルヴァが椅子の背もたれに寄りかかり、今日何度目かわからない溜息を吐いた。

 だが、思いがけない所から吉報が舞い込んできた。


 「ところで、その代表と言えば、先程見かけましたよ」


 今までラルヴァとヒスロの話を黙って聞いていたドルフだった。


 「ん?魔法都市のどこでだ?」


 「いえ、このエルピスですが」


 「なんだと?!何故先に言わんのだ!!」


 「い、いや、その……」


 「ええい、もう良い!それで見たのはいつだ?!ここから近いのか?!何人の護衛がいた?!」


 「は、はい。近くの我々もよく行く料理屋でした。ここに来るちょっと前です。護衛は見た所いないようでしたが……」


 「食事の最中だったか?!」


 「え?!ど、どうでしょうか。店に入っていく姿を見ただけですので」


 ドルフの話を聞くと、ラルヴァは顎に手をやってブツブツと独り言を言い出した。


 「ということは、食事前だな。店を出るまでまで一刻ぐらいはあるか?弟子どもを呼び出して、位置を決めれば……。いけるか……?」


 「あ、あのラルヴァ様?」


 「静かに、ドルフ殿。こういう時のラルヴァ殿には話しかけない方がいい」


 「う、うむ」


 ラルヴァの決断は意外にも早かった。肘掛けを強く叩き立ち上がる。


 「よし、今しかないぞ。ドルフ!」


 「は、はい?」


 「お前はあのガキがいる店まで急いで戻りヤツを見張れ!……何している、急げ!!」


 「は、はい!!」


 ドルフが慌てたせいで、乱暴にドアを開けて部屋から出ていくが、ラルヴァは気にしていない。それだけこのチャンスを逃したくなかったのだ。


 「ヒスロは弟子どもにローブを着させてから連れてきてくれるか?このエルピスの街ならば、魔法都市より暗がりが多いからな。そこで待ち伏せる」


 「……では?」


 ラルヴァが邪悪に笑いながら頷く。


 「ああ、暗殺するぞ」


 ヒスロは何も言わずに頷くと静かに部屋から出ていった。

 ラルヴァも急いでローブを羽織り、杖を持つと意気揚々と部屋を後にした。

 だが、現三賢人は知らない。全てが見当違いだということを。

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