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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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教師

 エミリーとエレナ、そしてテッドは昨日と同じく、三人で固まって講堂の席に座った。

 テッドはいつもと変わらず、お気楽そうに口笛を吹きつつ教員の到着を待っている。しかし、エミリーとエレナの表情は暗い。

 それは昨日のボイコットとも言えるような生徒の無断退室が原因である。

 二人の目的は違えど、魔法を学びたいという気持ちが本物だからこそ、昨日の残念な結果が表情を暗くさせていた。

 そんな暗い空気に耐えられなくなったのか、テッドがいつもより明るく声をかける。


 「今日こそは大丈夫だって」


 エレナは明るく言うテッドを睨むように見てから、溜息を吐きつつ口を開く。


 「はぁ、なんでテッドはそんなに元気なの?」


 「そりゃあ、今日は二日酔いもなく元気だからさ」


 「じゃなくて、学べなくて悔しいと思わないのかしら?」


 「そんなこと言われたって……、俺たちはなんも悪いことしてないだろ?学院側の責任とまで言う気はないが、こういうことも起こり得るってわかってたはずだ」


 「それはそうだけど……」


 「だからさ、今日は大丈夫なんじゃねーの?対策もしているはずだし、なんたってこの学院には賢人が二人もいるんだから」


 「……確かにそうだけど」


 エレナがそう言いながらもう一度溜息を吐く。すると、同じように溜息を吐きながらエミリーが会話に参加する。


 「そんなに上手く行きますかね?」


 「なんか引っかかることでもあるのか?」


 「んー、わかりませんけど……。あれを見て下さい」


 エミリーが首は動かさず指である方向を指す。

 エレナとテッドは目だけでそちらを確認すると、昨日のボイコットの主犯である貴族が取り巻きと一緒に固まって座っていた。


 「調子に乗ってるな。で、あの貴族の坊っちゃんがどうした?いつもの事だろ」


 「馬鹿ね。取り巻きが昨日より増えているじゃない。何をしたいのかわからないけれど、勢力が増しているわ」


 「あ、いえ、それもなんですが、あの余裕があるって顔が気になって」


 「ああ。いつも通り、いけ好かない顔だな」


 「賢人二人がいる学院で、初日からあんな騒ぎを起こしたのにあの余裕ですよ?」


 「それは貴族だからじゃねーか?何が起きてもお家が守ってくれるって思っているのさ」


 「それもあるんでしょうけど、スパール様やタザール様は貴族にも顔が利くって言いますよね。賢者様が親に話をしてしまったら怒られると思うんですが……」


 エミリーがそこまで話すと、エレナは何か気付いたと言わんばかりにポンと手を叩く。


 「それかも」


 「何がですか?」


 「もう賢者様ではないからかも」


 エレナの言葉にようやくテッドも理解する。


 「あー、賢人じゃないから権力も失ったってことか」


 「ええ。貴族も賢者なら話を聞くけれど、いくら有名でも元賢人なら怖くないってことじゃないかしら?」


 「じゃあ、どうしようもないじゃないですか」


 「あくまで勘だし、考えすぎかもしれないけどね」


 「だな。それが当たってても、間違っていても、どっちにしろ俺らにできることはねーよ。それに……」


 テッドが顎で教壇を指す。そこにはいつの間にか、教員のアニーが立っていた。


 「学院関係者が説明してくれるさ」


 その言葉に二人は頷くと、無駄なお喋りを止めアニーが話し出すのを待つ。

 静かになったのは極一部で、貴族や取り巻き、アニーを軽視している生徒はお喋りを続けている。もちろん、アニーが既にいるのは知っている。

 だが、アニーは昨日の慌てっぷりとは大違いで、今日は落ち着いていた。

 そして、深呼吸すると講堂の全ての生徒に聞こえる音量で朝の挨拶をしたのだ。


 「おはようございます!!」


 その挨拶に講堂が静まり返り、一部の生徒が挨拶を返した。


 「「「お、おはようございます」」」


 その一部の生徒の中には貴族と取り巻きは含まれていない。それどころか、無視してお喋りを再開している。

 だが、アニーはそれも気にしていない。

 アニーの態度に、エレナやテッドは心の中で「もしかして、無視する方針か?」と勘繰るが、それが直後に否定された。

 アニーは貴族と取り巻きを注意したのだ。


 「そこ!お静かに!!」


 注意された貴族たちと取り巻きはアニーを睨む。

 当然、昨日の騒ぎの原因である貴族も黙っておらず、アニーに文句を言う為に立ち上がる。


 「庶民が誰に向かって言っているのかね?」


 「あなた達です」


 「ふむ。それは僕たち貴族に言っているのですか?庶民が貴族に?」


 「その通りです」


 「ふふふ、それは聞けません。我々は寛大ですから、貴女の無礼な言葉ぐらいでは怒りすら覚えません。が、その言葉に従うつもりもない。昨日お話したでしょう?賢人以上でなければ、教える権利はないと」


 「ですから、今日はその賢人以上のお方が、わざわざお越し下さいました」


 「……なに?」


 貴族は一瞬だけ驚くが、すぐにいつものニヤケ顔に戻す。


 「なるほど、賢人以上という僕に教えることが出来る人物を用意したと。……ですが、残念ですね。この国には、賢人はいな――」


 「どうぞお入り下さい。魔法都市代表、ギル様」


 貴族が予定通りと言わんばかりに準備していた言葉を並べていたが、アニーはそれを遮り『賢人以上』である人物を紹介したのだ。


 「「「………え?」」」


 その言葉の意味が講堂にいる全ての生徒に理解が出来なかった。

 ギルは黒い外套を翻しながら教壇に立つ。

 それでも生徒たちは唖然としていた。

 ギルは今も唖然とし言葉を失っている生徒を他所に、何事もなく口を開く。


 「どうも、魔法都市代表、ギルと言います。皆さん、ご入学おめでとうございます」


 ギルはそう言いながら、小さく礼をする。

 誰がどう見ても少年だ。

 だが、自分たちの近くにいる貴族より紳士的な態度に、たまらず息を漏らす。そして、今まで何かを言っていた貴族を見ると、今度は溜息を漏らした。

 貴族はなんとなく察したのか、これ以上は舐められまいと口を開く。


 「こ、これはこれはギル代表殿!我々の為にお越しくださるとは光栄の極み!我らも貴殿の言葉であれば――」


 「ちょっと席を替えようか。昨日、授業の途中で帰った者たちはそっち。最後まで残っていた者たちはこっちに集まってくれるかな?」


 貴族の社交辞令的な挨拶。

 ギルはそれを無視して、席替えの指示を出した。

 貴族は自分が無視されたことで、いつものニヤけ顔をやめ、こめかみに青筋を浮かべていた。

 しかし、この国の代表に言われたとなれば、貴族だとしても従わざるを得ない。ギルを睨みながら言われた通りに席を移動する。

 それを見ていたギルも満足そうに頷くと、話を続けた。


 「これで移動したね。さて、以前ここで三賢人が説明したと思うけど、説明不足があったからね。昨日はその説明もあったんだけど、君たち途中で帰っちゃうから説明できなかったんだ。で、俺がその説明をするためにきたわけです」


 大嘘だ。なぜなら、これは昨夜、もっと細かく言えば数時間前にスパールと決めたことで、三賢人が説明会をした時には、話すら出ていなかったからだ。

 ギルが今更話すことに「考えがある」と言ったのは、緊急休校になったせいにすること。なんと汚いのかとギルも感じているが、辻褄合わせをするためにこう説明するしかないのだ。

 ギルがここまで話すと、今まで黙って様子を見ていたエレナが手を上げて質問の許可を求めた。


 「質問?いいよ、何?」


 「あ、は、はい。お話を遮るような無礼をお許し下さい。代表様」


 「うん。それで質問は?」


 「それは私たちにも関係があるのでしょうか?」


 「へぇ?君頭いいね。俺がこの学院に来たことで予想したんだろうけど、色々とすっ飛ばし過ぎかな。頭の回転速度を上げるのが苦手な人もいるからさ、ゆっくりと話しをしようよ。ね?」


 ギルに笑顔でそう言われると、年上であるエレナは顔を真っ赤にしながら「す、すみません」と言ってから席に座った。


 「さて、彼女はわかっているみたいだけど、まだわかっていない人の為に順々に説明するよ。どの学び舎にもある規則についてだが、この学院にもあるんだ。ただ、厳しい規則ではないから安心してほしい。君たちの学びたいという気持ちがあれば、何も問題はないからさ。じゃあ、説明するね。まず――」


 ギルが説明した規則は4つだった。

 1、学院及び第三者に害がある私闘は禁ずる。

 2、生徒の身分は無いものとする。

 3、悪意のある授業の妨害は厳罰に処す。

 4、一定の点数に届かなかった場合、その時点で退学。


 この4つの内容を聞いた生徒はざわめいた。

 だが、ギルはそれを無視して話を続ける。


 「一番目の私闘関連はどの学び舎でも一緒だから当然だ。大事なのは2番目から。生徒の身分うんたらは、貴族や平民、農民の職業や称号は関係なしに学生を楽しもうぜってこと。3番目の悪意ある授業の妨害なんてのは、以ての外だ。即刻、この学院を去ってもらう」


 ここまで話すと昨日授業を受けずに去っていた者たちが青褪めた。

 ギルは青褪めた連中を見渡しながら頷いた。


 「そうだな、君たちだ。だけど、こっちにも非がある。なんせ、その説明を初日の授業が終わってからしようとしていたんだからね。これからは気をつけるよ。まさか、初日から授業を我慢出来ずに帰るやつがいるなんて思わなかったからさー」


 青褪めた者たちは、退学処分にならなくてよかったと安堵の息を吐く。


 「4つ目の説明がまだだったね。席を分けたのはこれがあったからだが……。一定の点数に届かなかった場合という言葉を聞いても意味不明だろう。それを簡単に説明するね。君たちは授業を受ける度に点数を得ています。これがある基準に達しなければ、この学院の卒業権利を得ることはできません」


 地球の日本では当たり前になっている『単位制度』を真似ている。

 だが、この世界には単位制度なんてなく、生徒たちにとっては意味不明だろう。


 「なぜ、こんなことをするかわからない?そうだね、例えば君たちが授業をサボり続けたとしよう。そして、卒業の日を迎える。果たして、彼らを我が魔法学院の卒業生と呼んで良いものだろうか?学院側としても、彼らを学院卒業生として世に出すのは憚られる。なんせ、学院が定めた『魔法の基礎』すら知らないんだからね」


 ギルはもう一度、昨日授業を受けずに帰った人らを見渡す。


 「昨日の騒ぎはこちらにも責任があるから、なかったことにしよう。だが、君たちは初日からこの『点数』を稼げなかったんだ。これから先、がんばってくれよ?大変だぞぉ」


 実際は大変になることはない。

 スパールとの話し合いでは、一度の授業につき一点の加算で決定している。学院の卒業には400点必要と定めた。

 一日に2限あり二点稼げ、それが週五日。約250日以上授業を受けることになり、全部受けた場合は単純計算で500点稼ぐことが出来る。

 50日は休んだとしても卒業できる計算だ。

 しかし、まだ理解できいない殆どの生徒は、まさに恐怖だろう。頭の中で点数計算をしているはずだ。

 彼らとは打って変わって、昨日帰らなかった生徒は余裕の表情である。今度はそちらを見ながら話を続ける。

 

 「君たちは余裕そうだけど、君らも昨日午後の授業は受けていないから1点しか稼げてないんだよ?」


 そう言われ、余裕だった顔が引き攣る。だが、実際に受けていないのだから点数はもらえないかと泣く泣く納得した。

 だが、テッドは抗議の為に立ち上がる。


 「いや!俺らは真面目に受けようとして、それを一部の奴らに邪魔されただけだ。その、点数?がもらえないのはおかしいだろ?!代表さん!」


 「ふむ、一理ある。あるが、それは無理だ。さっきも言ったように、点数を稼ぐということは、授業を受け、学んだということだ。君は昨日の数分で何かを学んだのかな?本来なら一点もやりたくないね」


 「な、なに?!」


 「何百点ある内の一点だが、この一点を甘く見てもらっては困る。大事な一点なんだよ。この一点に俺らが開発した魔法の時間、教員が一生懸命考えた授業内容の時間が凝縮されているんだ。それこそ膨大な時間がな。まあ、それはこっちの事情だけど、君らだって彼らの暴挙を止めなかったんだろ?俺からすれば同罪だね。どちらにしろ、授業を甘く見ているんだよ、君らもね」


 「う」


 こう言われてしまえば、テッドも引かざるを得ない。

 ある程度は納得し、他の生徒に異論はないようだった。ある一部を除いては。


 「承諾できませんね!代表殿!」


 この声がすると、ギルは飽き飽きしたような表情をした。


 「何が承諾できないの?」


 「わかるでしょう?生徒の身分は無いものとする?貴族の身分を、学び舎風情が無いものと決めつけることはできない!!」


 「できるよ、俺の国だもん。あー、そういえば、聞いたよ?昨日の君がアニーに言ったこと。たしか、『賢者の弟子はただの弟子』だっけ?その理屈を借りるなら、貴族の子供はただのガキになるんだが?」


 「ぶ、無礼だぞ!代表殿!」


 「無礼なもんか。実際に君は爵位を持っていない。例えば君がある人から馬鹿にされたとするね?すると、君は家に帰ってお父さんにこう話すわけだ。『いじめられたから仕返ししてよ』ってね。力を持っているのは君のお父君だよ。君じゃない。そんな爵位を持っていない君が、一都市の代表に向かって無礼とは……、これはおかしな事を言うね」


 「ぐっ!貴族は貴族だ。そ、それに、僕はとある賢者から魔法の基礎を学んでいる!知っている者に、同じことを教えるのは時間の無駄ではないか!」


 「基礎ねぇ……。その賢者がどの程度基礎を知っているか聞いてみたいところだが……、じゃあ、テストしてみるか?」


 「テスト、だと?」


 「何も難しい問題を出すわけじゃない。君が『魔法の基礎』を知っていれば、簡単だとも。今から使う魔法を君も同じように使ってみるだけだ。それができれば、君の言い分を認め、自由にしていい」


 貴族は余程自信があるのだろう。焦りの表情からようやくいつものニヤケ顔になる。


 「いいだろう、『魔法の基礎』を学んだ事、嘘偽りはないからな」


 「わかった。アニー、手伝ってくれるかぃ?」


 「は?わ、私なんかでいいのですか?」


 「俺がやっても意味ないだろう。教師である君がやるんだ」


 「は、はい」


 「これとこれ、出来るかぃ?」


 「はい、一応はキオル様から学びました」


 「うん、じゃあやってみようか。講堂の一番後ろの席辺りに出してくれ。さて皆、君たちの先生が『魔法の基礎』を知っていれば使える魔法をやってみるからね、貴族の君はさっきも言ったが後で同じことをやってもらう。ただ、貴族の彼だけじゃなくて皆も自分ができるかどうか確かめてくれ。なんせ、『魔法の基礎』だしね。じゃあ、アニーやっていいぞ」


 「はい」


 アニーが腰にある杖に手をかけようとしてやめ、手で魔法陣を描き始めた。

 10秒、20秒経つと、魔法経験者が笑い始め小声で馬鹿にする。


 「おい、まだ魔法陣が完成しないぞ」

 「私の方がまだ速いわね」

 「基礎ってことは、指から火を出すとかだろ?」

 「ってことは俺らも賢者の弟子になれるってことじゃないか」

 「いや、あのアニーって人が大したことないんだよ、ふふ」


 アニーにもこの声は聞こえているはずだが、それを無視して魔法陣を仕上げていく。

 そして、30秒が経った頃、魔法陣が完成した。


 「いきます」


 アニーの一言で魔法が発動する。

 その魔法の効果は、講堂の一番後ろの机の上に現れた。

 机の上に魔法陣が浮かび上がると、小さな花が咲いたのだ。

 この魔法を見た生徒の全員が驚愕した。

 ギルは生徒の反応はまったく気にせず、アニーを労う。


 「はい、アニーよく頑張った。凄いじゃないか、良く修行しているね」


 「あ、ありがとうございます!」


 「さて、じゃあ貴族の君やってみて」


 貴族はギルの声にはっとした後、怒りのこもった声を出した。


 「何が『魔法の基礎』だ!見たことのない魔法じゃないか!!」


 「じゃあ、できないってこと?」


 「当たり前じゃないか!6属性から離れた特別な属性なんて、一般魔法士には使えないことぐらい、貴公にもわかっているはず!」


 貴族の言葉にギルはわかりやすく溜息を吐く。


 「はぁ……、これはね、昨日の一限目の授業を最後まで聞いていれば使える魔法だよ」


 「な、なにを言って……、魔法の基礎に6属性以外のことを教える学び舎がどこにある?!」


 「昨日のアニーが話した授業内容の最後を覚えている生徒はいるか?」


 生徒たちが顔を見交わす。そして、一人の生徒が手を上げた。それはエミリーだった。


 「君、言ってみて」


 「えっと……、『魔法の属性は6つあります。ですが、最近見つかったのですが、実は』で、話は終わってしまいました」


 「うん、その通り。君記憶力良いね、良い魔法士になるよ」


 「あ、ありがとうごじゃ、ございます!代表様!」


 「うん。じゃあ、この続きは俺が今話す。実は、最近になって6属性ではなく、元々は7属性だったのではないかという、とある属性が見つかった。東方では7曜術と呼ばれ、我々の使う属性より一つ多かったんだ。火、水、風、土、闇と光の他に、『木』という属性がね」


 生徒たちは関心しながらギルの話を聞いていた。しかし、問題の貴族はまだ怒りが収まってなかった。


 「そんな新発見の属性が、『魔法の基礎』なわけないじゃないか!」


 「だから言っているだろ?昨日の授業を聞いていれば、わかることだって。属性は魔法の基礎。君は馬鹿にした基礎すらわかっていなかったってことだ。これは現賢人にも言えることだが、魔法の深淵は果てしなく深い。この大陸の賢人ですら、この基礎である『木属性』を知らなかったんだからな」


 ギルは一度区切って、生徒全員を見渡してから続けた。


 「魔法戦士には関係ないと言った人もいたようだけど、敵が木属性を使った場合はどう対処するんだ?」


 魔法戦士科で昨日講堂を出ていってしまった者たちは、申し訳無さそうに下を向く。いや、少しでも基本を甘く見ていた生徒たち全てが俯いていた。

 ギルは教師の経験はない。ギルのやったことは、地球の新人教育でやっていたことをそのままやっているに過ぎない。

 『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』

 連合艦隊司令長官、山本五十六の有名な言葉。この言葉を教育方針に組み込んでいる企業は少なくない。

 実際に効果のある教育方法で、やる気のないアルバイトでも知らず識らずに、この教育方法で仕事を覚えていることもあるほどだ。

 今回の場合、『させてみて、ほめる』事はできなかったが、それでも効果は絶大だった。

 元々やる気がある生徒は、改めてこの学院のレベルの高さを確信し、更に学ぶ意欲が湧いていた。

 昨日、途中で退室した生徒たちは、自分の軽率な行動を反省し、次からは真面目に授業を受けようと心に誓ったのだ。

 一人を除いては。


 「これでわかった通り、君たちは基礎すらわかっていなかったんだ。納得したなら、次からは真面目に――」


 「み、認められるか!!そ、その新属性だって花を咲かせるだけの無意味な属性なのは見てわかる!だからこそ、省かれて6属性になったんじゃないか?!」


 ギルが締めの言葉を言っていると、ある生徒がそれを遮り反論したのだ。

 当然、食って掛かってきたのは、ニヤケ顔の貴族だった。今はそのニヤケ顔は引き攣っているが。

 ギルは疑問に思う。

 納得できなければ辞めればいいのだ。プライドが高いとしても、ここまで食い下がるのはおかしい、と。

 そして、貴族はギルが黙っているのを良いことに、とんでもない事を仕出かす。

 嵌めていた手袋を脱ぐと、それをギルの前の床へ投げたのだ。


 「魔法都市代表!貴公に決闘を申し込む!まさか、逃げまいな?!」

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