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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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魔法学院説明会

 ラルヴァら『新』三賢人が悪巧みをしている頃、エミリーたち三人は魔法学院の講堂にいた。

 魔法学院は地球の学校とは違い少々小さい。

 各科の授業をする教室が6室、他に保健室、職員室、室内運動場、食堂、地下に研究施設。そして、エミリーたちがいる講堂が全て施設だ。

 魔法知識を教える事のみに特化しているだけあって、地球の学校のような施設は必要ないからだが、それでも教室が6室しかないのは、やはり小規模だろう。

 さらに現在はそのうち3室しか使わない予定なのだ。

 試験的な試みもあるが、まだ教える教員が十分成長しておらず、人数を確保できていないのが理由である。

 エミリーたち三人は、入学することが最難関と言われることになる魔法学院の一期生に選ばれたのだ。


 「それで、俺たちはどうしてこんなところに座らされているんだ?」


 「んー、まだ今日はお勉強はしないみたいですから、その説明ではないでしょうか?」


 「そうなのか?!」


 「テッドさん、話聞かなかったんですね……」


 エミリーたちは各教室に案内され、地球でもお馴染みの教員と自己紹介をし、今日の予定を聞かされた後この講堂に案内された。

 エミリーとエレナはしっかりと聞いていたらしく、二人同時にテッドの不真面目さに溜息を吐く。


 「そんなあからさまに本人の前で溜息を吐くなんて……。仕方ないだろう、俺は学び舎なんて行ったことないんだからよ」


 「あ、それは私もですよ」


 「あら、商人のご令嬢でも学び舎には通わせてもらえなかったの?」


 「ご令嬢って……。私の家は商人とは名ばかりの、田舎の商店ですから……」


 「まあ、田舎の商店でなくとも、貴族か大商人の子供じゃないと学び舎には入れねーよな。金がかかりすぎる」


 この世界にも学び舎と呼ばれる学校はある。

 帝国に存在する、武術全般を教える勇士学。王国には剣術専門のロイヤルガードスクール。

 法国、帝国、王国、自由都市にある魔法を教える魔法学舎。これは賢人たちの魔法学会が設立した学校で、賢者の収入源のひとつである。

 それに戦闘には関係ないが、自由都市に一般教養が専門の学校。

 他にも小さな学校はあるものの、全てに言えることは授業料が高いということ。

 テッドが話す通り、王族貴族、大商人や裕福な者しか通えない。


 「この学び舎はお金の話は聞かなかったですね……。もしかして、その説明ですかね?大金を払えって言われたら、初日で辞めることになるかも……」


 「まあ、そうだったら仕方ないがちょっとわかんねーな。そういえば、エレナは魔法の学び舎に行ってたんだよな?」


 「……まあね」


 「わあ、エレナさんこそお嬢様だったんじゃないですか」


 「お嬢様って、私は帝国の没落貴族ってやつよ。それで通ってたからなんなの?」


 「いや、そんな嫌そうな顔しなくても、ただこの後どんな話されるのか知ってるんじゃねーかなと思っただけだよ」


 「ああ、そういうことね。あんまり学び舎にいい思い出がなかったから……。でも、私に聞いても無駄だと思うわ。お金の話は入学前だし、こんな大きな部屋に学徒全員が集められることなんて経験がないもの」


 この講堂は地球の大学と同じ作りになっている。教壇があって、それを中心に扇状のひな壇形式だ。約200人が入ることが可能である。

 そこに全生徒である60人が各々自由に座っていた。


 「そうですよねぇ」


 「そうかぁ……。ま、直接聞けってことだろ。丁度、その説明してくれる人物が来たみたいだぜ?それも大物だ」


 テッドが教壇の方角へ顎をしゃくる。

 それに釣られてエミリーとエレナがその方角へ視線を移すと、ある人物たち三人がちょうどドアから入って来ていた。


 「さ、三賢人だ!」

 「おお!本当だったんだ!」

 「大賢者の三人よ!」


 その人物たちはスパール、タザール、キオルの元三賢人だった。

 魔法を学ぶ者にとって、この三人はまさに雲の上の存在。貴族や商人にとって会う機会はあるが、その子供となれば話は別。

 この騒ぎも仕方のないものだった。

 三賢人もこうなることがわかっていたのか、しばらくは黙って生徒たちのお喋りを許した。

 そして、段々と静かになっていき、そろそろ小さな声でも聞こえる頃になるとスパールが口を開いた。


 「ようこそ、魔法学院に」


 その言葉を聞くと、また生徒たちが歓声を上げた。

 しかし、今回はすぐにそれを止める。スパールが手で静かにと合図した後、続きを話しだした。


 「わしらは既に賢者としては引退しておる。そこまで騒ぐことのもんでもないわぃ」


 このスパールの言葉に、生徒たちが息を漏らす。雲の上の存在であるスパールが謙虚にそう言えば感動してこの反応になるのは当たり前だろう。

 どうでもいいという表情をしているのは、三賢人がどれほどの実力者か知らない者か、自分をもっとも高貴と思っている貴族ぐらいだろう。

 スパールは生徒たちの反応を気にすることもなく、キオルへ視線を向けた。すると、今度はスパールに変わってキオルが話し出す。


 「僕はキオルといい、この魔法都市の……そうですね、顔役といったところです。学院長であるスパール殿に代わって、この魔法学院についての説明を致します」


 話術に長けたキオルに説明させるのが、最も理解してもらえると判断し交代したのだ。

 スパールはすぐに哲学的な言い回しをするし、タザールに至っては高圧的な話し方をしてしまうのだから、この起用は妥当だろう。


 「まず初めに……、まだ君たちはこの学院の生徒ではありません」


 どんな説明かと耳を傾けていた全員が絶句した。

 そしてまた、騒ぎだそうとするがタザールが叱りつける。


 「騒ぐ前に最後まで聞きなさい」


 短い言葉だが、力強い声に口を開きかけていた生徒が黙り込む。


 「ありがとうございます、タザール殿。さて、何も試験をするとかそういうことではないのです。皆さんも気になっているとは思うお金の話をしていないからですね。これに納得して、がんばっていけるなと思いましたら正式に生徒、無理だなと思ったらそのままお帰りいただいて構いません。とにかく、まずは聞いて頂けますか?」


 生徒たちが顔を見交わし、そして頷く。それを見たキオルも満足そうに頷くと更に続けた。


 「結論から言いますと、授業料はやはり高額です。ですが、そのせいで金銭的に余裕がない者たちが学べないのは少々残念という魔法都市代表の意思もあり、『免除制度』を設けました。正確には免除ではなく、魔法都市のお仕事をしてもらい、その料金を学院の授業料に当てるというものです」


 この説明にエレナが質問するため手を上げた。

 他の生徒たちが「なんと無礼な」という視線をエレナに向けるが、構わず手を上げて続ける。

 キオルは別に気にした様子もなく、エレナを指した。


 「はい、質問ですね?どうぞ」


 「お、恐れ入ります。キオル様」


 キオルはこの言葉に微笑むと「続けて」と短く答えた。


 「つまりは生徒たちを働かせて、この学院が搾取するということでしょうか……。すみません、言い方が悪いですね。その――」


 「ああ、ああ、構いませんよ。その通りですから。ですが、決して悪い内容ではないと思います。貴族や商人が払う金額を庶民が払えますか?」


 「確かにそのとおりです。しかし、貴族や商人が払う授業料というからには、高額ですよね?かなりの仕事量になるのではないでしょうか?それこそ学業に集中できないような……。それだと利用されているとしか……」


 「その辺は心配しなくてもいいです。魔法都市代表殿と話し合って、あなた達にも利益のある働き口を見つけてきましたし、それで勉学に影響を及ぼすことは()()ないです」


 「ほぼ?」


 「それはあなた方次第ではないですか?我々は本気で魔法を学びたいと思っている方を選んだつもりです。授業が終わった後、簡単な仕事をする。そして、寝る前に復習する日々になるでしょう。空いた時間で勉強をするかしないかは、あなた方次第」


 「それはキオル様が賢者様だから言えるのではないでしょうか?」


 「元、賢者ですよ。君は僕たちがなんの努力もしないで賢人になれたと思っていませんか?それこそ血を吐く思いで学びましたよ。スパール殿や、タザール殿はどうかはわかりませんが、僕は貴族としての責務、商人としての仕事をした後に賢者試験の勉強をした経験がありますよ。それこそ本当に血を吐いた事すらありますし」


 この言葉にエレナは何も言えなかった。


 「話がずれましたね。君の言いたいこと、皆さんの不満が伝わってくるほどです。ですが、先程も言った通り、君たちにも利益のあることです。それをこれから話しますね。まず――」


 学生の利益とはこのようなものだった。

 仕事の種類は大きく分けて2つ。魔法都市で使用しているプールストーンの魔力補充か、魔法都市内で営業している店の手伝い。

 このどちらかを自分で選ぶことが出来る。

 働く日数は、週に5日。給料は全額魔法学院の授業料に当てるのではなく、3分の2。残りは自由に使って良い。


 「これが仕事の概要になります。が、利益はこれからです。生徒の利益とはこの魔法都市を知ることが出来るという点と、魔法技術の習得に繋がる点です」


 魔法都市内の店で手伝いをすること、そこで見聞きすることは魔法都市を知ることにおいてこの上ないだろう。

 もしかしたら、プールストーンを扱うこと店かもしれない。そうなれば、プールストーンの技術を学ぶにはもってこいの環境だ。

 魔法都市でしようしているプールストーンの魔力補充も一日の仕事量は多いもの、いずれこれを仕事にできるかもしれない。その技術を学ぶ機会には他にないのだ。

 ここまで聞くと良いことだらけに感じる。それに賢人が言っている事なのだから、間違いなくその通りであるとこの場にいる殆どが安堵した。

 だが、疑い深い人間もいる。それがテッドだ。


 「あー、ちょっといいか?利益があるってことは不利益もあるんだよな?」


 メリットのみは存在しない。必ずデメリットが存在する。

 キオルも当然と言わんばかりに頷いた。


 「もちろんだよ。君たちにとっての不利益は5日連続でこの仕事を休んだ場合、即刻退学」


 「おいおい、そりゃあ……」


 「厳しすぎるかぃ?えーっと、君は……、冒険者かぃ?」


 「そう、だが……」


 「もし君が、依頼不達成なら依頼人は違約金を要求するはずだ。それは当たり前だし、冒険者としてもそれは理解しているよね?それを知っていて、自分に出来るか出来ないかを判断して依頼を選んでいる。そうだよね?」


 自分の仕事に例えて説明されると、「まあ、そりゃあそうだな」と納得してテッドは黙る。というよりは、学院を去るだけで済むなら、違約金を払うよりマシと考え直しただけだが。

 キオルはテッドが黙ったことを、理解したと勘違いして続きを話す。


 「ただ、病気には考慮するよ。病人に店で働いてもらっても、逆に店側が困るからね」


 と、引き締めた空気を緩めることをキオルは忘れない。

 まだ続きがあるのだから。


 「ただし、これだけでは到底授業料は足りない。そこでもう一つだけ、この学院で仕事がある。それはこれだ」


 そう言うと、キオルは手に持っていた一冊の本を見せた。

 ページは全て紙で出来ていて、表紙は凝った柄、そしてプールストーンの欠片が埋め込まれている。プールストーンの欠片だが、魔道具的な使い方は出来ない。しかし、欠片にはこの世界の文字で『魔法学院書』と彫られていた。

 そして、中身を他人に読まれないように小さな鍵もついている本だった。


 「これは君たちにとって学生証と同じで、この学院に通ったという証明になるものだ。これを君たちに一冊ずつ差し上げよう」


 本の価値がわかる者はこの言葉に驚愕の表情をする。

 まだこの世界では、紙の本は貴重である。それこそ一財産になるほどの。それを生徒一人一人に無料でくれるというのだ。

 しかし、実際はこの本の素材料は微々たるものだった。

 紙はこのダンジョンの草原エリアから採った草から作ったもので、柄や止め金の金属もダンジョン製。これを作った人の人件費ぐらいしか費用はかかっていない。

 その人件費だって、クリークの部下に頼んでいるから激安だった。

 それを知らない生徒たちが絶句しながら、口内に溜まった唾液を音を鳴らしながら飲み込むような驚き方をするのは無理もない。


 「これは君たちにとっては授業内容を写すだけの本だ。これを卒業時に返却することでこの学院の授業料に充てがうということになる。ただ、この本がどうしてもほしいという生徒もいるだろう。もちろん、その代替案も用意してある」


 それはこの本をもう一冊貸し出し、それに同じ内容を写すという仕事だった。

 いったい何故こんなことをさせるのかというと。


 「君たちから受け取った本は、この学院で次に入学する生徒の教科書になる予定だ。だから、写す際には綺麗な字で頼むよ」


 この世界ではコピー機はない。写すにも手作業が普通なのだ。筆写師に頼むとそれだけで莫大な費用がかかってしまう。

 ならばと、それを学生にやってもらおうとしているのだ。

 一日の授業内容はそれほど多くない。毎日、それを別の本に写すだけなら、労力は少しずつで済む。自分の本を学院に返却したくない者でもこれなら出来るはずだ。

 もちろん、授業料を払える者はこの本はそのまま自分のものにしても良い。

 しかし、これにも問題はある。識字率だ。

 この世界は義務教育はない。読み書きができない者が珍しくないのだ。


 「もちろん字を書けない人は、字を教える居残り授業を用意したから安心していい。他の人より努力をすることになるけど、字を書けるようになるならそれはそれで得だよね?」


 これも対策はしていた。読み書きを教えてもらうことができるなら、この学院の授業料は破格と言っていいだろう。

 生徒たちの中には、既に入学を決意したという表情をする者もいた。


 「それに無事卒業を迎えた者には、仕事の斡旋もしているからね。魔法都市の店で働けるよ。まあ、僕の店だけど。それと、魔法技術科の皆はこの学院の研究施設で、魔法技術の研究する仕事に就く事もできる。詳しくはタザール殿に聞くといいよ。そして、教職員も募集しているから、それはスパール学院長殿と相談してほしい。もちろん!卒業することが確定している人だから、相談はまだまだ先になるけどね。さて、これで説明は終わった。さあ、この学院で学びたくないなら、今すぐ帰ってほしい」


 キオルの説明を聞き終えた生徒は考える。

 いや、考えるまでもなくこの仕組みは生徒に有益なものが多かった。

 当然、ドアから外に出る者はいない。魔法が学びたいから応募したのだから、必然である。


 「初日脱落は、いないか。じゃあ、今からこの本を君たちに配るからね。さっきも話した別の本に筆写を希望する人は、後日担任に言ってほしい」


 キオルがそう告げると、教職員が本を配っていった。

 それを生徒全員が受け取ると、キオルは最後にこう言った。


 「では、改めて。魔法都市、魔法学院へようこそ」


 こうして、魔法学院がスタートしたのだった。

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