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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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入国開始

 あの数日に渡る徹夜仕事から一ヶ月が経った。

 俺の汗と涙と睡眠不足の結晶である、ショートケーキは大好評だったようだ。

 特に女性冒険者に人気で、口コミが広がり徐々にエルピスの街へ女性たちがやってきたのだ。今ではあのコーヒー店は女性客で常に満席状態だそうだ。

 ショートケーキの売上も上々で、俺の良い資金源になってきている。

 ショートケーキは城で料理番の役割をしている半魔たちで作成してもらっている。作成に必要な魔法は、もちろん専用プールストーンを作って代用した。

 そして、注文が殺到していた照明用のプールストーンはキオルに任せることで俺たちの睡眠不足は解消された。

 元々、キオルにプールストーンの販売を任せていたのだから丁度良いし、キオルも実績が重ねられると喜んでいる。紹介料金は払ってもらったがこれからはキオルが全て請け負うことになるだろう。

 ただそうなると、俺たちの収入源がショートケーキのみとなってしまう。

 十分な収入を得ることに成功したが、料理してもらっている半魔たちに多くの給料を渡してしまった為、結局俺個人の儲けは微々たるものとなった。

 それでは冒険費としては心許なく、シギルと相談してもう一つ商売を始めることにした。

 それは陥没穴で活躍したプールストーンを組み込んだ調理道具をヒントに、似たような便利グッズを販売することにしたのだ。

 空いた時間に作成できるのも都合が良い。

 それに既に準備してあるシギル魔法武器店も閉じたままにするのも勿体なかったからな。ただ店名は変更することになった。

 シギル魔道具店。

 この店名から分かる通り、プールストーンを組み込んだグッズは『魔道具』という名称になった。

 個人的にはありきたり過ぎてつまらなかったのだが、わかりやすいというのが決め手でこの名称に決定された。

 さて、それでどんな物が商品として並ぶかだが、基本的には冒険に役立つ物だ。もちろん、家庭でも役立つようにしてある。

 まず、石のコテージ。緊急用テントのような役割をする。

 シギルが作ったプールストーンに圧力を加えたまま固定する器具に、本体のプールストーンがセットの商品で大金貨2枚の高価な商品だ。

 地球の価値換算で200万円もするが、あくまでこれは買っても買わなくても良いものだ。

 プールストーンに圧力を加えると、土魔法が発動し箱型の石のコテージが出来上がる。ただそれだけだが、小型の魔物が近くにいようが安心して眠ることができる空間を作り出し、それなりの広さもあるからパーティでも十分な寝床が確保できる。

 それに魔法師が魔力を消費しなくとも、土魔法が発動し続けるとメリットは非情に多い。

 デメリットは十分な広さがないと使用できないことぐらいだ。

 もちろん、それだけではなく石のコテージ内部にも仕掛けが施されている。所々に他の魔導具を設置できるように設計したのだ。

 それは別売りの商品になる。

 灯りを確保するためにランタン型のプールストーン。

 温かい水が溜まる石の器が出来上がる風呂のプールストーン。

 部屋を作る為や見られたくないものを隠す為に仕切りを作るプールストーン。

 調理ができるプールストーン。

 温風冷風の両方を出すエアコンプールストーン。

 その他にもどうでも良いような物もある。本棚、机、椅子、ベッド。こちらの売れ行きは期待していない。なぜなら石の椅子やベッドなど心地よさなどないからだ。

 これらを数個ずつ作って魔道具店に置き、まだ仕事が割り振られていない半魔たちに順番で店番させることにしたのだ。

 どれも金貨以上の高価な商品だが、金はあるところにはある。

 名うての冒険者や珍しいもの好きの貴族が買い漁ってくれるだろう。

 商人のスパイは問題にしていない。そいつらはキオルが売る安価のプールストーンに群がるはずだしな。

 現在でもちょいちょい住人に売れているが、一般人が魔法都市に入れるようになれば、少しずつ噂が広がり冒険費や生活費の足しになるはずだ。

 俺たちが金儲けに奔走している間、三賢人たちも着々と準備を進めていた。

 スパールは雷属性の練習をしつつ、魔法学院の準備だ。

 さすがは三賢人の最長老というべきか、雷属性は既に扱えるようになっていた。そして、魔法学院の準備だがこちらも順調だった。

 魔法試験に出す問題から、魔法学院で学ぶ内容、教師の選出、記念すべき1代目の学生の面接。これをスパールと弟子たちで全て終わらせた。

 タザールは研究に没頭していた。

 タザールに教えた魔法は爆属性。主に爆発する魔法で、教えた3つの合成魔法中では一番難しいが、もちろん扱えるようになっていた。

 それから研究をしていたのだが、研究材料がなく殆ど手つかずだった。そこに無属性魔法という研究材料を俺が持ってきたのだ。

 そこからは寝る間を惜しんで研究し続けている。

 そして、キオル。

 彼は商売と魔法の練習だ。

 スパールやタザールと同じく氷属性はすぐにマスターし、『無詠無手陣構成』まで練習をしている。しかし予想通り、『無詠無手陣構成』は完成に至っていない。

 だが、逆に商売は大繁盛だった。

 キオルオリジナルのプールストーン販売や俺から回された照明のプールストーンで着々と投資金の回収が出来ているようだ。

 魔法都市が開放され、一般人が入れるようになればどれほどの売上を叩き出すのか。

 その傍らで魔法都市の建設に携わり、メインストリートの店や宿泊施設、魔法学院の学生が泊まる寮を完成させている。

 もうこいつが代表で良いんじゃないかなと思えるような仕事ぶりだった。

 俺の仲間たちも遊んでいるわけではなく、この一ヶ月は忙しかった。

 リディアはスパールの所に通い、魔法戦士授業の内容をスパールの弟子と共に決めている。

 エルは城の料理班に料理を教えた。その過程で半魔のティアが素質があるということで、料理長にエルの独断で就任させるということがあった。

 シギルはもちろん俺と組んでプールストーン商品の作成。もちろんそれだけではなく、キオルと時々会っては魔法都市計画の打ち合わせもしていたようだ。

 エリーは魔法都市側で新しく雇った警備隊の指導。厳しい訓練だったらしいが、不思議と辞める奴はいなかったらしい。

 ティリフスはタザールの所へ行って、無属性魔法を教えていたようだ。よく疲れたと言っていたが、あいつ疲れる肉体ないだろうに。金属疲労か?

 そんな感じで、しっかりと睡眠を確保しつつも忙しい一ヶ月間を過ごしたのだった。



 そして、いよいよ魔法都市を開放する日がやってきた。


 「なあ、こういうのいらなくない?」


 「何を言っておる。建国日になんの挨拶もなく入り口を開放する国がどこにあるんじゃ」


 俺はエルピス側の魔法都市入り口に設置された小さな舞台の袖にいた。もちろん、俺の仲間や三賢人、そして半魔も。

 建国の式典を開催し、そこで代表である俺が挨拶することになったのだが……。


 「まあそうだが……、一番有名なスパールとかが適任だと思うんだよ」


 「ギル様、さすがに代表ではなく、学院長が挨拶するのはどうかと……」


 そうなるか。まあそうだよなぁ。

 あんまり目立ちたくないんだよなぁ。もう遅いかもしれないが。

 仕方ないか。言わなければならないこともあるしなぁ。

 俺は舞台袖から少しだけ外を見てみる。もしかしたら、そんなに人が集まっていないかもと期待しながら。

 が、そこには魔法都市開放を心待ちにしていた人々が大勢いた。早くしろと野次を飛ばす者や学院に入学できたのかそわそわと待つ者、プールストーン商品をライバルより先に手にいれたいのかイライラしながら待つ商人たちで、舞台の前の広場を埋め尽くしていた。

 野次を飛ばしている奴はいったい何が目的で開放を待っているのかわからんな。


 「……というか、よくこんな短時間で人が集まったな」


 なんとなくそろそろ魔法都市に人を入れてもいいかと決め、告知したのが約半月前だったのだが、急な告知だったのに予想外の集まりだった。


 「ずっとエルピスで過ごしていたり、商売がてらオーセブルクを往復したりしていたらしいッスね」


 「ん、エルピスは滞在するのに向いている」


 「そうだね、貴族の方々も最近では保養のために訪れるぐらいだよ」


 その貴族に自慢し、このエルピスに集める原因となったのはこのキオルだ。

 なんにしても、ゴネて逃げるのは無理そうだ。

 俺が挨拶をどう辞退するか悩んでいると、今まで一言も話さずにいたタザールが不意に口を開いた。


 「そろそろだ」


 うげ、結局逃げ出すことは出来なかった。それより、携帯できる時計がないこの世界でよく時間がわかるな。

 仕方ない、覚悟を決めるか。


 「じゃあ、行くとしますか」


 俺の言葉に全員が頷く。そして、俺を先頭に舞台に上がったのだった。



 全員が舞台に並び、俺が壇上へ上がると集まった人々がざわめく。

 舞台袖より観客の声がよく聞こえるな。

 俺は挨拶もせず、その声に耳を傾ける。


 「お、やっとかよ。ってゆーか、あの子供はなんだ?」

 「さあな、もしかしたら代表が出る前に静かにさせる役かもな」

 「そんなことより見てよ。噂通り三賢人がいらっしゃるわ」

 「マジかよ、この魔法都市にいるってことは、やっぱり魔法学会を脱退した話は本当だったんだな」

 「三賢人もいいが、あのローブを着た連中はなんだ?凄い人数だが全員顔が見えねぇじゃねーか」

 「顔が見えない奴らより、俺はあの美人たちしか目が行かねぇ。色んな種族の美人がいるとは魔法都市は侮れんぞ」


 こんな会話がそこら中から聞こえる。

 が、俺が壇上に立ってから一言も話さないことに違和感を感じ、徐々に静まっていく。

 そして、話し声が俺に聞こえないヒソヒソ話になってようやく俺は口を開いた。


 「今日は記念すべき魔法都市建国の日に、わざわざお越し頂いたこと感謝する。私が魔法都市代表、名をギルと言う」


 ここまで話すと静かになった話し声が大きくなりざわめいた。


 「あれが代表?!冗談だろ!」

 「まだ16か17ぐらいだろ?成人したてじゃねーか」

 「いや、俺は賢者試験で見たぞ。あいつで間違いない」

 「は?あいつが賢者共をこき下ろした奴だってーのか?!」

 「気づかないのか?あいつ、普通に話しているのにこの広場全体に声が聞こえているのが」

 「……確かにそうだ。まさか、これも魔法?!」


 気づいた奴がいたか。そうこれは風魔法で声の音量を増幅させているのだ。地味ではあるがこの世界には存在しない魔法だ。

 しかし、魔法の講義をしてやる義理はない。俺は手を上げて騒ぎ始めた人々を改めて静める。


 「魔法都市という大仰な名の通り、この国では最先端の魔法を体験、学ぶことが可能だ。既に知っての通り、建国の際には元三賢人の手助けがある。だが、元三賢人だけではなく、この舞台に立つ全ての者たちが重要な役割を果たしてくれた。ここに集まる皆が気にしているローブを着た者たちもだが、なぜ姿を晒さないのか疑問に思っていることだろう。それは紹介する前に騒がれたら困るからだ。これからローブを脱がせるが、ぜひとも騒がず落ち着いてほしい」


 ここまで一気に話すと、半魔たちにローブを取れと手で合図する。

 半魔たちには事前に説明したが、やはり躊躇いがあるのかスパッと脱いではくれない。だが、一人また一人と脱いでいった。

 半魔の姿を見た者たちは、動揺したり騒いだりし始める。


 「お、おい、アレってもしかして……」

 「ああ、魔物っぽいな」

 「魔物なら危険だろ!」

 「でも、代表は落ち着いているわ」

 「逃げたほうが良いんじゃないか?」

 「三賢人がいるんだから大丈夫じゃないか?」

 「そ、そうだな。とりあえず、話を聞いたほうがいいかもしれない」


 予想通りだな。三賢人がいるなら話だけはできそうだな。


 「皆が今したように騒ぐならば、一度で済ませたいと思いこの場まで秘密にしてきた。彼らはエルフや獣人に続く新種族、『魔人種』。私が旅をして見つけた種族で、その能力が我ら魔法都市に必要と判断し連れてきた。この容姿とは裏腹にかなりの知識人、且つ紳士淑女であるから襲われる心配はないぞ。もしかしたら、ここに集まっている者たちより安全かもしれないな」


 俺が落ち着きゆっくりと話していたからか、ざわめいた人々も安心したようだった。中には俺の冗談に笑う者もいたぐらいだ。

 法国で実験されたとは言わなかった。今では法国と同盟関係なのだから、真実を教えて法国の名を落とす必要もない。


「もちろん我々と同じ言葉を話すから、もし魔法都市で見かけたら恐れず話しかけてほしい。新たな世界が広がるかもしれない。さて、長々しい挨拶は嫌われると聞く。君たちの目的も代表の話ではなく、魔法都市だろう。後はその目で体験し、学び、大いにその感情を動かしてほしい。さあ、建国の時だ」


 俺は両手を広げながら締めの言葉を口にすると、大歓声が広場に響いた。

 よしよし、これで疎らな拍手や無言だったらしばらくは立ち直れなかっただろうな。

 俺は胸に手をやり小さく礼をし、全員で舞台袖に下がると混雑前に魔法都市側へ戻るために、急いで舞台を後にした。

 こうして無事に建国し、魔法都市の入国が開始されたのだった。

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