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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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金策

 三賢人との会議が終わった後、夜の街を城の窓から眺めた。地球のような夜景が部分的にだがそこにはあった。

 いや、この街は常闇だから夜も昼も関係ないか。

 とにかく、俺が作ったプールストーンの街灯はかなり明るく、安全に出歩くことができるようになったということだ。

 この街は常に真っ暗で、松明やランタンでは燃料費が嵩んでしまう。しかし、プールストーンの街灯であれば、魔法師が魔力を注入するだけで何度でも使える。

 まあ、地球の電球に比べれば発動している期間が短いが。

 注入できる魔力量が少ないからか、1ヶ月程しか効果が持たないのだ。しかし、現状の燃料代に比べれば断然安上がりだろう。

 ぶっちゃけた話、プールストーンの魔力注入は魔法師でなくてもいい。魔法を使えなくとも、注入だけはコツさえ掴めば誰でもできる。

 それなりの練習が必要になるし、練習もせずに魔力注入をした場合、もしかしたらプールストーンに悪影響を与えることもあるから、やはり魔法師に頼む方が安上がりかもしれない。

 しかし、それで半永久的に光源が確保できるなら発動期間が短くても、それに魔法師に駄賃を渡すぐらい問題ないだろう。

 地球の夜景を見た感覚に満足し、俺は一つ頷いてから速攻でベッドに潜って眠る。

 これでしばらくはゆっくりできると期待しながら。



 が、その期待はたった3時間で打ち砕かれた。

 またもシギルが爆音ノックで俺を起こしたのだ。

 俺の仕事は終わったのにどうして起こしたのかと問い詰めたところ、その理由はなんとも単純だった。

 俺のプールストーンに感動したこの魔法都市に既に住んでいる、もしくは働いている者たちから買うことが可能かと聞かれたのだ。

 つまり、シギルが商売の匂いを嗅ぎつけたから俺を起こしたのだ。

 明日でもいいじゃないと誰でも思うだろう。

 だが、シギルはこう言ったのだ。「今じゃないと他の魔法師に頼まれちゃうかもしれないッスよ?」と。

 別にそれはそれでいいじゃない。街が活気づくのはいいことじゃない。俺はこう反論した。

 するとシギルは更にこう言ったのだ。「次の冒険費用がないッスよ?」とね。

 何を馬鹿なことを。

 俺の革袋には大きな金貨同士がぶつかりあう音が聞こえる。まだ大丈夫だ。

 だが、シギルの答えは非情なものだった。

 現在残っている金は、大金貨2枚程らしい。地球の価値に換算すると二百万円ぐらいだ。

 正直余裕だと思ったが、考えてみれば俺が面倒をみなければならない人数が増えてしまったのだから、比例して必要生活費も増えるのだ。

 正確には食費だが、うちには暴食の二人がいる。5人パーティだった時ですら、月に金貨二枚を食費に当てていたのだから、この人数では考えるだけでも頭が痛い。

 法国で使った費用が高く付いたのもある。ミスリルを掘る業者やそれを運ぶ業者、半魔たちの衣服や半魔たちをここに運ぶ為の馬車代で大金を使った。

 そして、ミスリルを掘る業者とミスリルを運ぶ業者に関してはこれからも継続して費用が発生する。

 それを考えると、次の冒険費が捻出できないらしいのだ。

 マジか。本当に今稼がないと駄目じゃないか。

 という流れで、俺は今またせっせとプールストーンに魔法陣を刻んでいる。


 「どこに居ても、世知辛いな……」


 眠気、肉体的精神的両方の疲労。結局、三時間の睡眠で仕事を再会している。

 そりゃあ、独り言も漏れますわ。


 「あぁ……、甘い物食いてぇ……」


 そう言えば、こっちに来てから菓子というものを食べてないな。地球から持ってきたミルクイチゴ味の飴は取引に全部使ってしまったし。

 ………作るか。

 ちがう、これは現実逃避じゃない。これも金儲けになると感じたからだ。断じて、試験勉強中とかに普段は面倒くさいRPGのレベル上げが楽しく感じてしまうアレではない。

 俺の仲間たちも魔法都市計画の手伝いで疲れているはずだ!皆に食べさせてやれば笑顔が見れること間違いなしだ!


 「よし、そうと決まれば早速例の場所に行こう」


 そうして俺は、部屋の窓から飛び出したのだった。



 ふー、なんとかバレずに抜け出すことができた。シギルに見つかったらグチグチと言われてしまうからな。

 シギルもプールストーンを取り付ける器具を作っているから、俺がフラフラと出歩いているのを見つけると流石によくは思わないだろう。

 ならば見つからない方がいい。たぶん。

 さて、窓から飛び出しどこへ向かっているかというと、エルピスの街の郊外にある小さな倉庫だ。

 ここには俺の命令で、クリークの部下がある物を保存しているのだ。


 「よし、着いた」


 「おい、ここは魔法都市代表殿が所有する倉庫だ!早々に立ちさ――、なんだ、旦那じゃないっすか」


 「おー、ご苦労さん。悪いな、仕事頼んじまって」


 「何を仰るんですか。給料は出してもらってるんですから謝らんでください」


 「それで、どうだ?」


 「へへ、まぁ、とりあえず中に入ってください」


 男について倉庫の中に入る。

 中には麻袋や樽、ガラス瓶が何個もしまってあった。


 「もしかして、コレ全部か?」


 法国に行っている間にかなり集まったみたいだ。


 「かなり集まったんじゃいっすか?……それでこれは何なんですか?言われるままに作って袋や容器に詰め込んでるんでわからんのです」


 雇っているのはこの男一人ではなく、数人だ。その殆どが何を作っているのか教えていない。


 「これは保存食や調味料だ」


 クリークの部下を密かに雇ってやらせていることは、食料や調味料を作ることだ。

 オーセブルクの1から4階層の春夏秋冬エリアにある野菜や果物を採ってこさせ、また別の倉庫で加工させたものをここに保存しているのだ。


 「やっぱりそうですか!旦那の作るもんはどれも美味いと聞いてますぜ!」


 「完成したら、そのうちこっちの店に並ぶかもしれんから、そのときは食ってくれよ」


 「もちろんです!」


 中身を確かめて目当ての物を見つけるとそれをマジックバッグに入れていく。


 「よし、じゃあ引き続き頼むよ」


 「了解でさぁ」


 倉庫を後にすると次の場所へと向かう。

 次に訪れたのはコーヒーを出している店だ。

 中に入ると、店内の様子が全く違うことに驚いた。

 以前はただの木造の店という感じだったが、今は飾り付けや椅子やテーブルを別のものに変えて、落ち着く雰囲気になっていた。

 ただ、出している目玉の料理がコーヒーだからか、客が二人しかいない。


 「おや、旦那いらっしゃいませ」


 「よぉ、今日はちょっと材料貰いに来たんだ」


 「どうぞどうぞ、持っていってください。余ってますから」


 クリークから相談された通り、経営があまり上手く行っていないようだ。

 ん?ちょっとまてよ……。コーヒーと甘い物って合うよな。


 「そうだ、今から新メニュー作るから、それをこの店で売ってくれるか?」


 「つまり、旦那が作る商品を私が仕入れるということですか?」


 「そうだ。新メニューのレシピを頼まれていたが、俺の方も金に困っていてね」


 「そうですか……、いえ、それで結構です。ですが、あまり高いと支払うのが遅くなりそうですので、待っていただくことになるかと……」


 なるほど、ギリギリで店を経営しているからか。儲けが出るまで仕入れに金を使えないということだな。

 まあ、それぐらいはこっちでなんとかするか。


 「とりあえず、試しに一日置いてくれ。料金もいらないし、お前も客から金を取るな」


 「は?あ、いえ、失礼。それはなぜ?」


 「新商品だから無料で配るんだよ。美味しかったら常連になってくれるさ」


 「……なるほど。それは面白そうですね!あ、いえ、まだどんな料理かわかりませんが」


 少し暗かった表情がぱあっと明るくなる。結構追い詰められていたんだな。


 「とりあえず、もう少しだけ待っててくれよ」


 「もちろんです!よろしくお願いします!」


 「うん、じゃあ貰っていくよ」


 そして、調理場に行き目当ての物をいくつか見つけると、それもマジックバッグにしまう。

 保存が効かない物はこうして店から手に入れるしかない。これは魔法でもどうしようもないから仕方ないけど。

 よし、材料はこれで全部だ。

 さっさと城に戻って調理場で作るか。



 再び城に戻ってきた俺は、すれ違う仲間たちと目を合わせないようにして、そのまま調理場へと駆け込んだ。

 そして、失敗を繰り返し5時間が経った。


 「か、完成だ!自分で言うのも何だが、コレは芸術だ!」


 テーブルの上に置かれていたものは、生クリームたっぷりのイチゴショートケーキだった。

 いや、イチゴのショートケーキっぽいモノだ。イチゴに似た果実を使っているからそう見えるだけ。

 しかし、味は中々イケるんではないか?

 試しに仲間たちに味見してもらうか。

 俺はショートケーキを持って仲間たちがいるであろう場所へと向かう。

 一番はもちろんシギルだ。サボっていたのがバレると怖いのもあるが、商売に関しては彼女に聞くべきだからだ。

 シギルがいるのは、城の端にある鍛冶場だ。シギルが仲間の防具を修理するのに、わざわざ街の鍛冶場を借りに行くのが面倒臭いからと、俺に黙って建設した場所だ。

 必要だったし良いんだけど、シギルが一番金を使っているような気がするな。

 まあ、いいか。


 「おーい、シギルちゃん」


 黙々と槌を振るい、金属を打つ小気味良い音鳴らしていたシギルが俺の声にビクリとする。


 「ぴゃっ!!だ、旦那ッスか!?な、何なんスか、もう!」


 「いい声で鳴くじゃないか」


 「ここに手を置いてほしいッス」


 そう言いつつ金床を指差すシギル。


 「まあまあ。それより、ちょっと味見してくれよ。疲れが取れるぞ」


 シギルの目の下にも隈がくっきりと見える。

 やっぱり、シギルも無理してたな。その様子じゃ、思考も鈍くなっているはずだ。そこに糖分はさぞかし効くだろうな。

 俺は皿を近くにあった机に置く。


 「何スか?うわ……、綺麗っスねぇ……、コレ食べ物ッスか?」


 「とりあえず、金策を兼ねて売ろうと思うんだ。感想を聞かせてくれ」


 「そういうことなら……」


 シギルは商売の話になると真面目になる。

 すぐに食べようとはせず、まず色々な角度から観察。そして、顔を近づけると香りを嗅ぐ。

 一つ頷くとようやくフォークでショートケーキを一口大に切り、口に入れた。


 「!!ふぉ!あっま!うっま!」


 よしよし。良い感触だ。


 「どうかね?」


 「良いッスね!これは売れるッス!見たことも聞いたことも、味わったこともない甘味ッス!」


 そりゃそうだ。地球でもショートケーキが登場するのは19世紀。中世ではまだタルトがメインだ。ふわっふわのスポンジに生クリームを塗ったケーキなんてどこにも存在しない。

 魔法を何個も使ってようやく完成したものだ。撹拌させる為とミルクからクリームを分離する遠心分離に風魔法。スポンジをふんわりとさせる絶妙な熱を与える為に火魔法。そして、ケーキを美味しく食べる為に必要な温度に下げるために氷魔法と、こちらの魔法使いでも中々できる芸当ではない。

 自分でも言うのも何だが、かなりの力作だ。


 「ただ、甘味が好きじゃない人にはちょっとキツイッスね」


 「まあまあ、ちょっとまて」


 俺は地球から持ってきた水筒をだし、コップに中身を注ぐ。

 香ばしい匂いが鉄臭い鍛冶場に広がっていく。


 「これって旦那がよく飲んでいるコーヒーってやつッスか?あたし苦いの好きじゃないんスけどね」


 ブツブツ言いながらコーヒーが入ったカップに口をつける。


 「!なんか、まろやかッスね!」


 「そうだろう?甘い物を食べた後のコーヒーは口直しに良いんだよ」


 個人的には甘いものはコーヒーではなく、無糖の紅茶派だけどね。

 俺の言葉に返事をせず、ショートケーキとコーヒーをガツガツと食べていくシギル。

 そして、あっという間に皿もコーヒーも全て平らげた。


 「ほぁ……、美味しかったッス。これ良いッスね。なんかもうちょっと集中できそうッス」


 ふっ、単純な奴め。糖分や炭水化物を摂取すると、一時的に問題解決や学習、記憶能力を高めることにもつながるが、その後反動でイライラしたり、ぼーっとしたりしてしまう。

 菓子を食べるのはイライラしないどうでも良い時間がいいのだ。

 シギルはこの後大変だぞ。

 さて、イライラされる前に逃げ出すとするか。


 「高評価で良かったよ。じゃあ、他の連中にも味見してもらってくるよ。シギルもがんばってくれ」


 「うん、がんばるッス!あ、それとプールストーンは明日の朝まででお願いしやッス!」


 くっ、逃げ出すのが遅かったか!作り終わることが出来なくても、この菓子を理由に許してもらおうと思ったのに、先手を打たれてしまった!


 「と、当然だ」


 「さすがッス!」


 「じゃぁ、俺はそろそろ行くよ……」


 「ッス」


 ……今日の徹夜が確定した瞬間だった。

 その後、他の仲間たちにも食べさせてみたら、かなりの高評価を頂いた。

 エルとエリーに、もっととせがまれ俺の分を食べられてしまい、再度作ることになったのは言うまでもない。

 でも、これでクリークに頼まれていた店の新メニューは片付いた。明日にでも大量に作って店に持っていくとするか。

 さて、プールストーンの作成の続きでもするとしましょうか。

 ケーキを食べ終えた皿とフォークをテーブルに置き、コーヒーが入ったカップを持ち上げると自分が作業をしている机と向かっていく。

 この後、イライラしながら朝まで作業をするのだった。

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