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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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魔法都市建国

 「俺は何をしてんだろ……」


 何故、異世界にまで来てまで三徹しなけりゃあかんのよ。若い頃、会社の繁忙期以来だぞ……。

 魔法陣を彫り込み終わったプールストーンを握り魔力を注入していく。


 「はぁ、魔力が減っていく感じにも不快感はあるが、この底をつく寸前というのは耐えられないな……。ほい、追加で一個完成っと……」


 完成したプールストーンを同く完成したプールストーンの山に投げる。

 このプールストーンは真っ暗な魔法都市を照らすために必要な物だ。

 今は松明で対応しているが、工事の作業効率も落ちるし見栄えが悪い。何より、魔法都市に人を入れる為にはこれが必要だ。

 後少しで終わる。だが、今日はやめよう。魔力ももうすぐなくなりそうだし、眠い。過労死はゴメンだ。

 伸びをしてから、ベッドへヨロヨロと歩いていく。


 「あ、灯り消さないと」


 今は深夜だが、部屋の天井に設置されたプールストーンが煌々と輝いていて昼のように明るい。

 部屋の壁についている小さいレバーが灯りのスイッチの役割をしていて、これを上げると灯りが消えるし、なんとレバーの加減で明るさ調整もできる優れものだ。

 街で設置するものと同じで、シギルがこの城にも組み込んでいたのだ。

 プールストーンは圧力を加えると、中に注入されている魔力が刻み込まれた魔法陣を通り、一つだけある出口へ魔力が流れ魔法が発現する。

 これを利用して、簡単な機械式の電灯にしたのだ。

 さて、灯りを消して寝るか。真っ暗じゃなきゃ眠れないんだよねぇ。

 壁まで辿り着くと、灯りを消す為にレバーへと手をかける。

 その時、豪華で大きな部屋の扉が激しい勢いで開かれる。


 「旦那!終わったッスか?!……あれ?なんで仰け反ってるんスか?」


 びっくりしたんだよ!


 「なんなんだよ!の、ノックして!ノック!」


 「?したッスよ?一回しただけで扉が開いちゃっただけッス」


 どんだけ馬鹿力なんだよ!これ以上扉を頑丈にするとなると、もう城門ぐらいの大きさになっちゃうだろ。


 「それで進捗どうッスか?旦那」


 その言葉やめてっ!なんかこう……、ゾワゾワする!昔を思い出すから!


 「く、区切りが良かったからそろそろ寝よ――」


 「プールストーンを設置してくれる業者の皆さん待ってるッスよ?」


 「あ、はい……。もうすぐなんで、終わらせます。とりあえず、出来た分だけ持ってちゃってください」


 「なんで敬語なんスか?まぁ、いいッス。それじゃ持っていくッスね」


 シギルは袋に山積みになっているプールストーンを担ぎ上げるとバタバタと出ていった。

 嵐のような娘だな。誰に似たんだ?親か?

 ……続きやるか。

 もう一度伸びをして、また作業するために机へ向かうのだった。



 「終わったぁ……。しかし、自業自得とはいえ、どうして俺一人でやってんだ?」


 自業自得とはこのプールストーン技術の情報漏洩を防ぐために、この魔法都市関係者以外には教えてなかったことだ。街灯のプールストーンに至っては誰にも知らせてなかったから、今がんばっているんだけどね。

 だけどね、その魔法都市関係者すら手伝いに来ないのはどうしてだろうか?魔力を込めるのは誰にでも出来るんだけどなぁ。

 まぁ、いっか。もう俺一人で終わらせちゃったし。


 「さて……、寝よ」


 何度目かわからない伸びをした後、今度こそ寝るためにベッドへ向かう。が、また扉が遠慮なく開かれ邪魔される。


 「お兄ちゃん!!じいちゃんたち来たです!」


 ノックもせず無遠慮に、満面の笑みで扉から顔を覗かせるのはエルだった。

 まぁ、エルだからノックはしなくていっか。エルに今更注意してもな。だが、大事な朝の挨拶ぐらいはしてほしいな。


 「おはよう、エル」


 「?もう、お昼です、お兄ちゃん」


 あ、そうなんだ。じゃあ、おはようはおかしいね。


 「それよりじいちゃん?もしかして、スパールか?」


 「はい、です」


 スパールは魔法都市関係者の一人である賢人スパールのことだ。スパールはエルのことを自分の孫のようにかわいがっており、エルもスパールに懐いている。


 「えっと、なんで来たの?俺寝たいんだけど」


 「お兄ちゃん……、今日『かいぎ』って言ってた、です」


 かいぎ?会議?!今日か!四徹で日にちの感覚がおかしくなっていたから忘れてた。

 そう言えば、今日話しあうことになっていたんだっけ……。まいったなぁ、帰ってくれねぇかなぁ?

 そうも言ってられないか。賢者共を帰らせるのは別にどうでもいいけど、約束を破るというのはエルの教育上よろしくない。


 「あ、はい。すぐ行きますね」


 「です!」


 エルは力強く頷くと走り去っていった。

 うーん。仕方ない、俺も着替えて行くとしますか。

 ……っていうか、ずっとパンツ一丁だったわ。今更だけど気をつけないとなぁ。ノックしないからな、あいつら……。



 城の中には会議室と呼ばれる部屋もあった。

 かなり広めの部屋に石造りの暖炉。凝った装飾の壁や柱、そして天井にはプールストーンをはめ込んだ照明器具。分厚い真っ赤な絨毯の上に二十人以上が座ることが出来る大きな机が置かれている。

 その大きな机に、目の下に隈と頬が痩けゲッソリとした顔の男が四人座っていた。


 「なんでお前らまでそんなに具合悪そうな顔してんの?四徹の俺と同じようにさ」


 「それはね、ギル君。僕たちも寝てないからだよ?」


 いち早く答えたのは貴族でもあり、商人でもある賢人キオルだ。魔法都市を作るにあたって資金援助と街の建設に関わっている。


 「忙しいのは貴様だけではないのだぞ」


 この厳しい口調の男はタザール。俺が設立する魔法学院で教師兼研究者として働くことになっている。彼もまた賢者の一人だ。


 「タザール、お前はなんで疲れているんだ?」


 「……言う必要はない」


 「進捗どうですか?」


 「やめろぉ!」


 俺は頭を抱えるタザールを見下ろしながら邪悪な笑みを浮かべる。

 やはり、タザールは研究が進んでいないようだ。

 どうだぁ?苦しかろ?俺だって言葉で傷ついたんだぁ。君たちだって同じ目にあったっていいんじゃないかぁ?

 だが、俺の言葉でダメージを受けたのは他の賢人二人もだった。

 おまえらもか。


 「なんでお前らまで苦しんでんだ?」


 「ギルよ。わしらとて、遊んでいたわけではないのじゃ。じゃがの、それでも終わらんのよ」


 遠くを見つめる御老体。なんとも悲壮感を漂わせるが、この御仁こそ賢人の中の賢人。大賢人の中でも最年長である賢者スパールだ。

 スパールには魔法学院の責任者の役割を与えている。

 寝るのは夕方と豪語するスパールが寝不足なのには心当たりがある。


 「やっぱりあれか?人数か?」


 「じゃな。ギルの連れの嬢ちゃんらと、クリークとその部下、そしてわしら4人だけでは少々足らんのぉ」


 だろうなぁ。規模は小さくとも都市をひとつ作ろうっていうんだから、この人数では話にならないよな。その上、実質指示を出しているのはこの4人。

 まぁ、それに対しては考えがある。その為の会議だ。


 「おぉ、そう言えばじゃ、法国では大変そうじゃったのぉ?」


 「あー、聞きましたよ。なんとも酷い話だったねぇ」


 「普段の行いが悪いからそういうことばかりに巻き込まれるんだ」


 「タザールは辛辣だな。しかし、そんなことを言って良いのかな?素晴らしい研究材料を見つけてきたのになぁー?」


 目を閉じ腕を組んでいたタザールは、見開くとギロリと俺を睨む。


 「詳しく」


 怖いよ。興味あるのはわかるけど睨まなくても。


 「まぁ、それはあとでな。今回集まってもらったのは、法国に行って面倒臭い事に巻き込まれはしたが、この魔法都市にとっても都合が良いこともあった」


 「ふむ、俺は研究が何より大事だがな。しかし、これから学ぼうとする学徒も大事にしたいと考えている。であれば、先に尽力すべきはこちらだろうな」


 「そうだな。魔法都市が完成とまではいかなくとも、人が入れるぐらいまで進んでくれたら後は勝手に発展するしな」


 「まぁまぁ、希望的観測は置いておくとして、それでその我々にとって都合のいいことってなんだぃ?」


 キオルは商人であり、現実的なことしか興味がない。皮算用は好きではないのだ。

 だったらまぁ、話を進めるとしましょうか。


 「まず、キオル。法国から資金援助が出る。これで派手に動けるぞ」


 「ほ、本当かぃ?!確かに僕は豪商とはいえ、出せる資金には限界があるからね!」


 「そうだろ?それもこの資金援助は、法国との取引のおまけだ」


 「取引?それは聞き捨てならないね。これから何人犠牲になるんだぃ?」


 「殺らねーよ!それに取引のおまけだって言っただろ?」


 「その取引こそが危険ではないのか?相手は法国だぞ」


 「普通ならね。どこまで法国での出来事を聞いているかわからないから、もう一度詳しく話すよ」


 俺は法国での全てを話した。

 面白い事に三賢人はそれぞれ違った事に興味を示していた。


 「そうか、あの者たちは前聖王の実験の対象にされておったか。なんと残酷なことを……。その上、女神様までそのようなことに……」


 スパールの興味は半魔たちだ。会議の前、既に半魔たちと会っていたのだろう。

 スパールはその優しさ故に、このどうしようもない悲惨な出来事に胸を痛めていた。

 だが、本当に興味を持ったのは、女神として祀り上げられていたティリフスかもしれない。


 「酷いことするねぇ。なんとかこの魔法都市では自由にさせてあげたいね。でも、凄いじゃないか、ギル君。まさか、好条件の資金援助にミスリル採掘権なんて!」


 やはりというべきか、キオルの興味は魔法都市の財政に関わることのようだ。しかし、これは大事なことだ。やるからには遊びでは済まないのだから。


 「ふむ、弟や妹を生き延びさせる為に、死んだ肉親を食べ精神を病んでしまったのだな。その者たちの勇気を称賛する。それに精霊の無属性魔法か。非常に興味深いな」


 タザールの興味は無属性魔法だった。まぁ、これも予想通りだな。俺がさっき後で話すと言った研究材料だしな。

 三人とも賢人らしく知識欲が満たせる話を聞けたと満足げに頷いている。

 だが、半魔たちを助けたいと思っているところも三人とも同じだ。

 これで話を先に進められるな。


 「それでだ、その半魔たちを人数不足の解消に当てようと思うが、どうだ?」


 「ふん、なるほどな。今は外套で姿を隠していると聞いたが、それをやめさせたいということだな」


 「わしは異論ないのぉ。さすがに不憫過ぎるわぃ。が、問題がないわけではないがの」


 「ですね。しかし、元王族で教養も十分。彼らが手伝ってくれるのであれば、我々としても楽になるでしょうね」


 お?三人とも良い反応だ。やっぱり、陥没穴での彼らの心情も話したのが良かったみたいだ。大いに同情心を煽れたようだ。


 「して、その策はあるのかの?」


 「そうですねぇ。さすがに何も対策しなければ、街に来る方々を驚かせてしまいますしね」


 「いや、対策なんてないな。そのまま紹介するだけだ」


 スパールとキオルは揃ってため長い息を吐く。

 そんな長い溜息を吐いてどうしたんだぃ?この世界の温暖化を進めるつもりか?


 「そんなことだと思っていた。が、俺としてはギルのやり方に一票投じるとしよう」


 「ほぉ?珍しいのぅ?」


 「何を言っているのです、タザール殿!わかっているとは思いますが、ギル君のやり方は殆どがめちゃくちゃですよ?!」


 酷くない?この件もキオルに投げようかな?


 「たしかにやり方は非常識だ。が、その破天荒なやり方は時には良いし、これが魔法都市のやり方だと示せる」


 「ふむ、なるほどのぉ。魔法都市は代表が我儘じゃからのぅ。これから先も強引に進めなければならないことが出てきた時には都合が良いか」


 「スパール老も何を納得しているんですか」


 「落ち着かんか、キオルよ。こういう事は隠すより堂々とするのが、良い方向へと転がるもんじゃて」


 「そうだ。このまま隠して魔法都市が発展したとして、後に魔物の外見をした者たちが関わっていたなどと勘ぐられる方が都合が悪いだろう。ならば、初めからその存在を公表した方が良い。外聞は悪くなろうが、問題が起きないとわかればそのうち気にならなくなる」


 「うーん……、言われてみればそうですね。賢者学会の時もそうでしたしねぇ。わかりました、それで行きましょう」


 賢者学会は俺が賢者試験参加時に、魔法を衰退させたと周囲に知らせる発表をして、今はかなり非難を浴びているらしい。キオルはそのことを言っているのだろう。

 それから三賢人のみで話し合い、対策まで用意してくれた。

 しかし、素晴らしいとは思わないか?

 1を説明して10理解するどころか、1説明して全てを終わらせるなんて最高の部下じゃないか。やはり、彼らを魔法都市に迎えられたのは良かったな。だが、話し合いの途中で俺の悪口が入っていたことは聞き逃さなかったからな。死ぬまでこき使ってやるぞぉ。


 「む、悪寒がするのぉ。ギルよ、何か良からぬことを考えておらんか?」


 ちっ、勘の良いジジィは嫌いだよ。


 「気にするな。それで、スパールはなんで寝不足なんだよ。人手不足なのはわかるけど、そこまで忙しい仕事はまわしてないだろ?」


 「何を言っておる。学院の建物が完成したという話が隣の街には広がっていて、入学希望者が引っ切り無しに会いに来ておるのじゃぞ。毎日それを終わらせて、その後書類仕事しておるのだ。寝る時間なんぞ取れんわぃ」


 マジか。そんなことになっていたとは知らなかった。

 しかし、それよりこっち世界では入学希望者というは直接会いに来るもんなのか?


 「やり方は任せるけどさ、ひとりひとり会っていたら時間が足りないだろ」


 「選ぶ対象は見て決めたいんじゃ。それにの、弟子に任せれば楽になるが、貴族共の圧力に抗うにはわしの方がいいじゃろうしな」


 なるほど。話題の新魔法に新技術。眉唾と疑ってはいても捨て置けない各国の貴族が魔法師を送り込んできているわけか。

 貴族の圧力ともなれば、そこらの人間では屈してしまう可能性は高い。これはスパールが正しいか。


 「わかった、任せるが無理はするなよ。あ、あと授業内容や試験内容、教師の用意も頼むわ」


 「……わしの死因は寿命ではなく、過労になるのぉ……」


 「まぁまぁ、そのために半魔の話をしたんだ。学院に通ったことがある半魔を何人かそっちに回すよ」


 「おぉ、それは助かるわぃ。正体を公表するまでは雑事を任せることしかできないが、それでも十分楽になるのぉ」


 半魔たちには働いてもらうという話は既にしている。もちろん、快諾してくれた。


 「だったら、ギル君。僕も彼らを借りていいかぃ?」


 「お前は必要ないだろ。弟子たくさんいるし、部下だっているんだろ?」


 「いるけど、彼らは元王族でしょう?その立場だった方々が庶民の仕事ができるか心配ではないのかぃ?」


 む、一理ある。

 俺としては、庶民の仕事ができるかは心配していない。なんせ、陥没穴で暮らしていたんだからな。だが、仕事ができるかは別問題だ。

 誰かから学ぶ必要がある。


 「つまり、あいつらに仕事を仕込んでくれるってことか。それなら願っても無いが、報酬は出してやれよ?」


 「もちろんさ。働き手にはそれ相応の報酬をがモットーだからね」


 何を教え込むか心配ではあるが、キオルのことだからしっかり教えてくれるだろう。

 さて、後は……。


 「タザールはいいのか?」


 「研究なんぞやりたくないのではないか?」


 タザールは半魔たちが聖王の研究であの姿にさせられたことを気にしているのだ。


 「研究にはティリフスを貸してやる。半魔たちも何人か行かせるが、彼らには魔法の技術を学ばせてやってくれ」


 「ふん、彼らに魔法を教えることが本命か。良いように使ってくれる。だがまあ、無属性魔法を知っている精霊に直接教えてもらえるのなら安いか……」


 「決まりだ」


 タザールは何を研究するかを大分悩んでいたようだ。彼は決して無能ではない。何を研究するかが決まりさえすれば、成果は必ず出すだろう。

 ティリフスの無属性魔法は俺も興味がある。今は肉体強化だけだが、驚くような進化をさせてくれるとタザールには期待している。


 「さて、とりあえず半魔たちに関してはこんなもんか。後は細かいことをお前たちに確認してもらいたい」


 この後、クリークの相談である不動産の件や、魔法都市入り口の警備の話をして了承をしてもらった。

 もちろん、これだけで終わるわけではなく、この日も深夜まで話し合いが続いたのだった。

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