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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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仲間との再会

 大分前から元『迷賊』の村の名前を決めるべきだと思っていた。

 言い難いし、何より『迷賊』と大っぴらに言えないしな。

 それがようやく決まったという。その名もエルピス。希望という意味が込められているらしい。

 大変喜ばしいし、この記念を祝したい気分だ。

 だが、今はそれどころではない。


 「………なにこれ?」


 俺たちはクリークの案内で、俺たちに用意された家の前にいた。

 疑問はあった。23人が寝泊まりして、それでも余裕という言葉がだ。その意味がようやくわかった。


 「おしろ、です?」


 「お城ですね」


 そう、目の前にあるのは城なのだ。昔に有名なゲームで見た小さい城そのものだった。


 「ク○パ城じゃねーか!」


 「く?クッ○城?」


 「なんでもない、気にするな」


 「そ、そうか」


 クリークが苦笑いしながら頷く。

 まあ、訳のわからないことを言っているよな。

 でも、子供の頃繰り返し見た配管工が主人公のゲーム、それに登場するボスの根城のような外見に、俺が異世界人だというのも忘れて地球にある物を口走ってしまうぐらい驚いているのだ。

 クリークに案内されて、魔法都市側の真っ暗な空間へ連れられて来たぐらいから不安を覚えていた。どうしてこっち?と。

 それに魔法都市側の広間の更に最奥へと歩かされた時には、不安を通り越して心中穏やかではなかったほどだ。

 まあ、それはいいとして、理由は土地問題だとクリークが説明していたが見て納得した。

 そりゃあ、こんなデカイ家だったら土地が足りないわ。


 「色々言いたいことはあるが、住む人間が増えてしまったし都合が良いと思うことにするか……」


 「おう、色々大変だな。とりあえず、俺は仕事があるからよ。明日また話そうや」


 そう言うとクリークはそそくさと帰っていった。

 少しぐらいは話す余裕あるはずだろうに、そんなに忙しいのだろうか?


 「ま、ここで突っ立っていてもしゃーないやろ。入ろ入ろ」


 ティリフスの言う通りだ。全員が疲れているのだから。っていうか、なんでこいつが仕切ってんだ?

 重々しい扉を開いて中へと入ると、内装も非常に凝ったものだった。

 俺が魔法都市で使う予定である、プールストーンによる電灯をこの城でも使うつもりなのだろう。まだ、明かりが灯っていない豪華な照明器具が所々に設置してある。

 エントランスにはシャンデリアと赤い絨毯。細部まで拘りを感じる壁や柱の装飾の数々。

 これだけで誰がこれを指示したのかがわかった。


 「あ、シギル、です!」


 エルが満面の笑顔で大声を上げる。

 え?どこ?見えないんだけど。

 まだ照明器具は起動していない。蝋燭が柱ごとにあるのみで、ほぼ真っ暗といっていいのだ。


 「そ、その声!!もしかして、エルッスか!!」


 パタパタという音が暗闇の向こうから近づいてくる。ちょっと、怖いんだけど……。

 そして、その姿がようやく視えた。ドワーフの女の子。シギルだ。

 一頻りエルと騒いだ後、ようやく俺とリディアの存在に気づく。


 「だ、旦那!!リディア!!会いたかったッスよ~!」


 むぅ、こんなに喜ばれるとちょっと嬉しいな。


 「シギル、私も会いたかったですよ」


 「あたしもだよ!それに旦那に急ぎで解決してほしいことがあるんス!」


 「なに?問題か?」


 「大問題ッス!この家の費用の支払いが足りないんス!」


 「……やっぱりお前が犯人じゃねーか!」


 この凝った内装を見れば一目瞭然。拘りを持った職人が設計したことがわかる。それはもちろんシギルのことだ。

 シギルが設計し、業者に頼んで作ってもらったのだろう。


 「……法国から白金貨を5枚も送ったじゃないか」


 「…………後5枚ッス」


 「は?」


 「5枚足りないッス」


 この馬鹿野郎!法国で苦労して稼いだ分、全部この家に使いやがったってのか?!

 地球換算で1千万、この世界の価値的には1億円をたった2ヶ月で全部?!


 「確かにシギルへ送った手紙には報酬を書きましたが、全部使ってしまったのですか?」


 普段から俺の奇抜な行動で慣れているリディアですら、今回の件には驚きを隠せないようだ。


 「はじめは普通だったんスよ。でも、途中からテンション上がって……」


 テンションで普通の家が城にはならないだろ。

 たしかに城としては小さい。なんせ、○ッパ城だし。されど城なのだ。半魔やティリフスが仲間として加わっていなければ、過剰な程広かったはずだ。

 しかし、だ。また次の冒険の費用がカッツカツになるが、今回ばかりは住む人数が増えてしまったから助かったのも確かだ。

 それに既に作ってしまったのだから、今更グチグチと言っても仕方がない。

 俺はリディアと二人で嫌味を言いながら、シギルに残りの白金貨を渡した。エルはというと、シギルの周りをぐるぐると不思議な踊りをしながら回っている。

 やめるんだ、エル。俺の魔力は残り少ないんだぞ。


 「はぁ、もういいや。そういえば、エリーは?」


 これだけ大騒ぎしているのに、俺のもうひとりの仲間はここに来る気配がない。


 「あー、エリーは寝てるッス。最近、原因不明の不眠症で夜に寝ていないらしいッスよ。あたしもここの所昼に見ていないッスから」


 果たして、常に真っ暗なこの魔法都市エリアで昼も夜もあるのかという疑問はあるが、さすがに原因不明だと心配するな。

 魔法都市エリアといえば、この城に来る途中歩いて来たけど、人は工事関係者殆どで一般人はいなかったのだが、街の主要部は出来上がっていた。


 「魔法都市の街は随分と出来上がってきているみたいじゃないか」


 「そうッスね。皆さんが頑張ってくれているッスから。そうだ!旦那にも照明器具を完成してもらわないと!すぐにでも!」


 「え!?」


 シギルがあの装置を照明である街灯だと見破ったことを褒めてやりたいが、それよりも「すぐ」という言葉が気になって仕方がない。

 一体何故?俺は魔力ミリなんですよぉ?


 「いやぁ、魔法都市の中心部への通路、商店になる予定の建物、魔法学院は完成しているんスから、後は明かりさえ確保できれば、ここを開放して人を入れることも出来るってキオルからせっつかれてんスよ」


 キオルは三賢人の一人だ。商人であり貴族でもある彼に、この魔法都市の出資をしてもらっているのだ。

 まあ、キオルからすれば出費ばかりで、そろそろ回収をしたい気持ちなのはわかる。

 街を開放すればそれなりの収入は見込めるとは思う。が、どうやって儲けるのかを詳しく話し合っていないし、色々と相談しなければならないこともある。すぐには無理だ。

 何より街灯を起動させるのには、プールストーンに魔法陣を彫り、そこに魔力を注入しなければならない。現在、魔力が心許ないどころか、ぶっ倒れる寸前の俺には到底無理だ。


 「今日は無理だ。暗くて視えないかな?俺の膝、子鹿のようだろ?」


 「子鹿?ペリュトンの子供みたいなものッスか?強そうッスね!」


 ペリュトンはアトランティス大陸に棲んでいたとされる、鳥の胴体と翼、オスのシカの頭と脚を持った怪鳥だ。

 ……なんで膝を震わせる程弱っているという表現で使った言葉が、伝説の怪鳥になるんだよ。

 と、そんなことを説明している場合ではない。今、しっかりと否定しなければ、俺はこのまま流れで働かされることになってしまう!


 「今日は無理!体力と魔力が限界!」


 「あー……、そういうことッスか。すぐというのは言葉のあやッス。それだけ急いでいるってこと。だから、今日は休んでもらっていいッスから」


 なんだ、そういうことか。良かった……、いや、本当に。


 「ところで……、その方々が?」


 そういえば、焦っていたせいで新たに加わった仲間の紹介を忘れていた。


 「そうだった。手紙で書いたけど、彼らが半魔たちだ。まず彼女はティア、それに弟のティム。次は……」


 そうやってひとりひとり紹介していった。シギルは半魔に生えている鱗や角、爪などに興味津々で、紹介する度に目を輝かせる。

 そして、最後は鎧だ。紹介しようとするとガシャガシャという音を鳴らしながらティリフスが前に出てきた。


 「これがティリフスだ。今の姿は鎧だが、本来は精霊らしいぞ」


 ティリフスを見た途端、シギルは走りだし鎧に触れる。


 「これが!!ほぉほぉ!良い鎧ね!いや?これは絶品なのでは?なのでは?」


 精霊よりも鎧の質か。半分魔物の姿をした人間や、中身がない鎧を見ても物怖じしないのは流石シギルだと言いたいが、口癖はどこいった?

 ティリフスに頬擦りするシギルと、その周りをぐるぐると踊りながら喜ぶエルの様子は少々おかしいが、気にしていないようで良かった。


 「ウチはどうしたらいいんや……」


 こうして、久しぶりの仲間との再開は終わった。



 半魔とティリフスの紹介が終わると、用意された部屋へ移動した。

 広く豪華な部屋で落ち着かなかったが、疲れが限界だった俺はベッドに寝転んだ瞬間から記憶がなくなった。

 だが、食事を取らずに寝てしまったせいか、空腹で夜中に目が覚める。 

 ノソノソとベッドから這い出ると、食堂と案内された場所へと向かった。

 近くまでいくと、食堂から僅かに漏れる灯りがあった。

 誰かが俺と同じく空腹で起きて来たのだろうか?

 部屋を覗くとそこには久しぶりのもうひとりの仲間がいた。


 「エリー?」


 エリーが一人で何かを食べていたのだ。

 エリーは声にビクリと驚くと顔を上げる。俺の顔を見ると一瞬だけ間を開けて勢いよく立ち上がると、俺に抱きついてきた。

 いつものように無表情であったが、この行動でエリーの喜びようは察することができた。

 だけど、ちょっとだけドキドキする。エリーがいつも着ているゴツゴツした鎧を、今は着ていない。

 スタイルの良いエリーが、生身のままこれだけ密着するとさすがの俺でも胸が高鳴ってしまう。


 「ひ、久しぶりだね、エリー。元気だった?」


 「おかえり、ギル!」


 普段は抑揚のない話し方をするエリーが、こんなに大きな声で話すとは。やはり、喜ばれると嬉しいものだ。顔がニヤけてしまうな。


 「ご飯作って!」


 ……だろうね。そんなことだと思ったよ。

 まあ、いいよ。俺も腹へっているし。ただ、ちょっと不思議なことがある。今、食べてなかった?

 疑問を頭から振り払うと、陥没穴で活躍した調理道具を出すと、法国で買った食料の余りを手早く料理した。

 料理は陥没穴でも大人気だったハンバーガーだ。夜中に食べるのは少々抵抗があるが、パテが余ってたから仕方ないんだよね。

 料理が完成し、皿にのせるとエリーの前に置く。すると、凄い勢いでハンバーガーにかぶりついた。


 「おいしい!」


 「そうか、よかった」


 俺も陥没穴では死ぬほど食ったハンバーガーにかぶりつく。

 うん、何度食べても美味いものは美味い。

 少しの時間、二人で黙々と食べていく。

 食べ終わったエリーが、思い出したかのように二人分の飲み物を用意してくれた。そして、唐突に話し出す。


 「それで、どうだった?」


 エリーも法国から送った手紙は読んでいるはずだが、そういうことではなく俺の言葉で聞きたいということだろう。


 「大変だったよ。エリーが居てくれたらもう少し楽になったと思う」


 俺がそういうとエリーは微かに笑う。

 そして、今回の冒険を一から話していった。


 「そう。ほんとにご苦労さま」


 「ま、これでエリーの危険は排除されたってわけだ」


 「うん、ありがとう」


 無表情だが、エリーから感謝の心を感じる。

 エリーは法国の前聖王から狙われていた。命の危険ではなく、嫁候補、つまり妃になれと言い寄られていたのだ。

 前聖王が死んだ今、その危険はなくなった。

 エリーの表情も心なしか喜んでいるように見える。


 「みんなは?」


 「元気だよ。明日にもさっき話した半魔とティリフスを紹介するよ」


 「うん」


 「そっちはどうだった?」


 「こっちも色々あった。キオルの偽物とかとっちめた」


 「なにそれ!」


 報告は終わったが、この後もエリーと長時間の会話を楽しんだ。

 だが、なんでエリーが不眠症なのかの理由はさっぱりとわからなかった。何とかしてあげたいな。

 こうして、再会を喜びながら一日が終わったのだった。

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