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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
九章 魔法都市への復讐者 上
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失われた魔法

 空には雲ひとつなく青一色で、太陽も燦々と陽光を振りまいている。

 寒い気候から温かい所へ行くにつれて、大地からむき出しの土は見えなくなり、草原や木々が多くなりその枝が優しい風で揺れる。

 風や木漏れ日に当たりながら旅をしていれば、最高の気分だろう。

 ただ。そう、ただ数日間ずっと上下左右に揺らされていなければ。

 俺たちは迷宮都市オーセブルクの北にある、エステル法国に召喚され、またも事件に巻き込まれた。

 危険やピンチはあったものの俺と仲間は無事で、さらには法国という新たな友人ができた。

 その上、その法国から魔法都市に開発資金の提供までしてもらえるのだから、悪いことばかりではなかった。

 ……何度も言うが、馬車に揺らされていなければ、尚良かったが。


 「なんでそんな顔なん?」


 道はお世辞にも整備されているとは言えず、小石がそこら中にある。それを馬車の車輪が乗り上げる度に、今俺に話しかけているこいつは鎧をガシャガシャと鳴らす。

 この鎧は法国で女神(笑)と呼ばれ崇め奉る対象とされていた。

 だが、実際は妖精族の上位種である精霊だった。名前はティリフスといい、法国で閉じ込められていた。

 それを仲間たちと共に助け、そのまま法国に残しておくことはできずにこうやって連れてきたのだが……。


 「そんな顔とは?まさか、苦虫を噛み潰したような不機嫌そうな顔のことを言っているのかな?」


 「あ、うん」


 「それはね、お尻が痛いからだよ?」


 「え」


 「それに、ガタガタと揺れる馬車に合わせて隣で金属の擦れる音。まあ、君の発する音に関しては仕方がないし、何より君は悪くない。で、その音が鳴る毎に俺は小さく跳ねるか、横にズレてね。その積み重ねでスリップダメージを受けててね、文字通り」


 「あ、うん」


 「ギル様はティアさんのたくさんいるご兄妹が馬車の運転に慣れるまで、この馬車の御者をずっとやっていましたからね」


 久しぶりに御者の役目から離れ、その代わりを務めながら後ろを振り向いて俺の援護をする凛々しい少女はリディア。

 リディアは魔法の素質が一切ないが、弛まぬ努力をし剣術に関してはかなりの実力を持っている。

 俺もかなり頼りにしている。


 「ありがとう、リディア。だけど、不満はこれだけじゃない。この痛みと熱を帯びたお尻を、優しく包んでくれる椅子があるの知ってるかぃ?ティリフス」


 「そ、それやろ?」


 ティリフスが俺の勢いに少しだけ怯みながら指を差す。


 「そう、それだ。俺個人の所有物で、俺の宝物と言っていい。その宝物に所有者である俺が座れず、エルが腹を出しながら眠っているのを見ていたら不機嫌にもなる」


 食事をした後って眠くなるよね。

 エルというのも俺の仲間だ。食事が大好きな子で、最近は食後お腹を出して寝るのが癖になっている。

 少し天然で人見知りのところがあるが、クロスボウによる射撃が得意で、風魔法も使えるエルフっ娘。クロスボウという中距離武器で、超長距離射撃までやり遂げる凄腕だ。

 頼りにしているし、これからも頼りにするだろう。

 俺に遠慮をしないところに好感がある。だけど、最近は遠慮という言葉をエルが知っているか疑っている。


 「そ、そうなんや……」


 「ギル様は椅子のことになると我を忘れますよね……。でも、ティリフス。ギル様は本当に怒っているわけではないんですよ?」


 「そうなん?そうは見えないけど……」


 「まあ、ただの愚痴だな。気にしなくていい。半魔たちも馬車の操り方を覚え、他にいる仲間たちにもうすぐ会える。そして、拠点としている街に帰ることが出来るのもあり、どちらかというと悪くない気分だ。だが、暇過ぎる」


 半魔というのは、法国の前王の息子や娘たちのことだ。実の父に魔物へと変化させられていたのだ。

 法国で保護し、俺の本拠点である魔法都市予定地に連れて行こうとしている。自由に住める場所はそこしかないからだ。

 半魔たちも信頼して俺に従ってくれた。少しでも力になれるといいが……。

 他にいる仲間とは、その魔法都市予定地で俺たちの帰りを待っているシギルとエリーのこと。

 シギルはドワーフの女性で鍛冶師として俺たちのパーティに参加してくれている。もう成人しているのに幼女みたいな見た目だから、俺も接し方に困っている。が、戦闘も出来るし頭も良く、俺たちにとって居なくはならない存在だ。

 エリーは人間の女性で、スタイル抜群の美女。主に盾役として活躍し、俺のパーティには必要な人材だ。だが、無口で無表情、エルと同じく食事に目がない。

 全員が女性で最近では、とある三人の賢人に「ギルの仲間になるには、性別が女性であることが必須だという論文を発表すべきだ」という嫌味を言われているが気にしない。

 なぜなら、腕がいいからだ。理由はそれだけで十分。……後、目の保養にもなるし。

 それはさておき、暇だという話。

 誰だってそう言うだろう。半魔たちの姿では騒ぎになるから街に入れないのだ。ここ数日間ずっと草と木しか見ていない。たまに鎧。

 何もすることがないのであれば、考えることは尻の痛さということになる。結果、尻の痛みは何のせいかという無駄なことを考えてしまうのだ。


 「何か集中することさえあれば、この痛みを忘れることができるかもしれないのに」


 「うーん。せやったら、今は使われていない魔法の話でも聞く?」


 「何っ?!木属性魔法の他にもあるのか?!」


 この鎧精霊は馬車を操ることができない役立たずというだけではない。俺の知らない魔法を使えるのだ。

 この数日で木属性魔法を教えてもらうことができた。

 属性魔法はこの魔法世界で最も一般的な魔法で、火、水、風、土、そして光と闇の6属性が基本である。

 他にも特殊属性というものがあると、俺が学んだ本に書いてあった。

 しかし、ティリフスが言うには、元々の属性は7種だというのだ。この大陸にも木属性はあったが戦いには役に立たない魔法として、時代とともに消えていったのだと。

 ただ、この大陸の更に東にある国では、今でも使われているかもしれないと話していた。

 その国では、魔法の事を七曜術といい、月、火、水、木、金、土、日の七種類の属性なのだ。

 俺のいる大陸と比較すると、風属性がなく、木曜術と、金曜術がある。

 当然だが、木属性は木曜術だ。そして、風属性は金曜術に分類されている。

 金曜術はこちらでいう錬金術で、何かと何かを合わせて作り出すことを指している。なぜ風属性が錬金術に分類されているのかと疑問に感じるが、おそらくは暑さのイメージである火属性と、寒さのイメージである水を合わせて発生するものだからその分類ではないかと、俺は勝手に思っている。

 だが、ティリフスはこの他の魔法を教えてくれるというのだ。

 これは俺の知識欲を満たすためには、是非とも聞かなければならない。


 「うわ、勢い凄いなぁ」


 「そんなことはどうでもいい、続きは?」


 「あ、うん。こないだの戦いを見ていてわかったんやけど、無属性魔法を使ってなかったやろ?」


 「無属性?特殊属性か?」


 「んー……、特殊というか、基本というか……」


 マジか。基本なのか。また俺が基本を知らないだけという落ちか?


 「あー、ちゃうよ?さっきも言ったけど、今は使われていない魔法やから」


 俺の表情を見て、何を思っているのか察しさティリフスが鎧をカタカタと震わせる。

 それ笑ってんのか?怖いんだけど。

 ティリフスの感情表現については、今は置いておくとして無属性魔法について詳しく聞いた。

 魔法とは、体の中に巡っている魔力(ティリフスはマナと言っている)を魔法陣で変化させて発現させている。

 この変化前の魔力が無属性だ。

 ティリフスたち精霊は、マナが集合して生まれた生命体で、人間の体と構造的に違うらしく寿命がない。

 マナの集合体であるから魔法が得意と言われているし、実際そうなのだ。

 しかし、肉体的な力、筋力はない。

 では、どうやって重い物を運んだりするのかというと、それを無属性魔法で補うらしいのだ。

 つまり、無属性魔法というのは、肉体を一時的に強化できる魔法、ということなのか?


 「へー。つまり、それを覚えれば、今より強い攻撃力や、防御力を一時的に手に入れることができると?」


 「ま、そうやな。体壊れるけどな」


 「………」


 「いやいや!加減を間違えるとやからな?」


 「あー、そういうことか。だったら理解できるかも」


 人間は強欲だ。おそらく、昔の人は魔力調整せずに全力で使ったのだろう。

 精霊のようにマナで構成された肉体ならまだしも、血や肉で構成されている肉体で限界以上の力をなんの加減もなく引き出せば壊れるのも頷ける。

 それで禁呪扱いにでもされて、いつの間にか忘れさられてしまったと……。いつものことながら愚かだなぁ。


 「よし、教えてくれ」


 「んー、と言ってもなぁ、マナを感じて、溜めるだけなんやけど」


 「は?」


 「うちらやと簡単やけど、ヒトは難しいかもしれへんな」


 いやいや、そういう事じゃない。説明不足過ぎ。魔力を感じて溜めるって……。

 いや、待てよ?実はその説明が全てなのでは?

 魔法陣を描く時、指先に魔力を集中する。スキルだと魔力操作だが、それを強化したい部位に変えればいいだけかもしれない。


 「よし、試しにやってみるか」


 腕でやってみるか。

 魔力を腕に溜めるだけなんだけど、前腕伸筋群に集中させても無意味だろう。防御するなら多少意味があるだろうけど、今回は肩である三角筋と手首に集中させてみる。

 魔力を留めようとするが、すぐに全体へ戻ろうとしてすぐに散ってしまう。

 なるほどなるほど。確かにこれは難しいかも。

 でも、魔法を発射直前で止める技術である魔法陣発動待機状態が出来る俺ならなんとかなるだろう。

 同じ要領で、もう一度やってみよう。

 肩と手首に集中させて、それを留める。

 このまま軽く腕を振ってみるか。


 「そいっ」


 ブォオオン!!スバンッ!

 あ、馬車の幌に穴が……。


 「ふえっ?!何?しゅうげきです?!」

 「あー!ギル様、何やっているんですか!!」

 「ギルー!穴が空いてんで!!」


 すっげー怒られた。でも、本当に軽く腕を振っただけで、革製の幌に穴が空くとは……。

 確かにこれは難しい。魔力を溜めるのもそうだが、加減が難しいぞ。溜める魔力量と、それでどのくらい強化されるかを覚えておかなければいけない。


 「痛っ!」


 幌を貫いた手を引き抜くと、拳に痛みが走る。


 「ぎ、ギル様!血が出ていますよ!」


 幌を殴った場所の皮がズル向けて血が流れていた。


 「あー、これもしかして、手に魔力を流してなかったからか?」


 「んー、わからんけど、多分そう」


 「そんなことを言っていないで、さっさと治療してください!」


 「はわわ、ぽーよん、ポーション、れす!」


 エルはまだ寝ぼけているのか噛みながらではあるが、ポーションを俺の手に掛けて治療してくれた。


 「ふーむ。確かに難易度が高いな。加減を少し間違え、魔力を流さない部分があっただけでこの騒ぎだ」


 「そやろ?大昔に聞いた話やと、足だけに全部のマナを集中させて走ったヒトが、上半身潰れた姿で発見されたらしいで」


 マジかよ!あぶねぇな!っていうか、今気づいたけど()()()()()って死んでんじゃねーか!


 「これは練習しないと扱えないなぁ。戻ったら研究するか……。タザールに実験させるか」


 「誰だかわからんけど、程々にな?」


 「わかってるって」


 「本当に気をつけてください!ギル様!」


 「ごめんごめん、わかったよ」


 ちょっとした騒ぎを起こしてしまったけど、時間潰しにはなるな。

 そうして、俺はバレない程度に無属性魔法の練習をしていると、急にエルが大声を上げた。


 「あ!見えてきた、です!」


 「ひうっ!」


 「なんで驚いてんの、ギル」


 集中している時に大声出されてびっくりした。軽いムチウチになるぐらい驚いた。


 「な、何が見えたのかな?エル」


 俺には何も見えてないけど、視力の良いエルには何かが見えているのだろう。


 「オーセブルクの入り口、です!」


 こうして、俺たちは久しぶりにオーセブルクへと戻ってきたのだった。

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