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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
八章 神の国 下
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決着

 小さな火の玉が口からゆっくりと離れながら、周囲にある酸素を混ぜ合わせながら巨大化していく。

 一瞬の静寂の後、爆轟。

 まるで大量の爆薬が燃焼したかのように、音速を超える熱膨張と衝撃波が襲ってくる。そして、耳を劈く爆音が遅れて轟いた。

 凄まじい爆風で付近の砂や土、石が吹き飛び、木が薙ぎ倒され、焦がすような熱が伝わってくる。

 戦闘をしやすい場所を選んだせいもあり、身を隠す物は何もない。となれば、タコツボでも掘って潜るのが正しい対処方法だろう。

 しかし、地球での爆発とは違い、特殊な魔物である竜のブレスの暴発という未知の爆発現象だ。

 どれほどの規模で被害があるかもわからないのでは、爆心地付近の地面に潜るのは危険だ。

 だから、爆心地を空へ遠ざけた。だが、そのせいで今度はタコツボを掘る時間がなくなった。その上、耐爆防御姿勢の説明すらできなかった。

 となれば、俺に出来ることは魔法で仲間を守ることだろう。

 陥没穴で爆発を耐えた時のように、その場にいる()()を氷のドームで覆う。

 何故全員か?ホーライとアーサーあたりは別に守らなくてもと思わなくはない。

 なんせ、ホーライは残虐行為を指揮した張本人だ。聖王が親玉だろうが、ホーライは何をするかを知っていて部下に指示していたはずだ。

 それを証拠に聖王の姿を知っていて命令に従っていた。ホーライは紛れもなく悪だ。許すことは出来ない。

 これはホーライを逃がさない為の処置だ。爆発に紛れて逃げる可能性があるから。

 アーサーは……、何をしても死なないように思えたから。残りの魔力が少ない今、氷のドームで使う魔力をひとつでも減らせるならば、それをするのが当然だろう。

 だけど、間違いで死なれても困るから、念の為に助けることにした。泣く泣く……ね。

 なんとかその迷いを振り切って魔法を発動するが、氷の中にいても、爆発の凄まじさが伝わってくる。音、光、そして熱。

 灼熱が氷を溶かしているのがわかる。

 この魔法がなければ、死にはしなくとも爆風に吹き飛ばされて怪我をしていただろう。火傷もしていたかもしれない。

 しかし、完全に防ぎ無傷で切り抜けることができた。完璧だ。

 爆発で石の塔と巨大な木が崩れ去って、その瓦礫が降ってきていること以外は……。


 「ティリフス、魔力を止めろ!」


 俺の指示を聞きティリフスが魔力を止める。俺も同じく氷のドーム以外の魔力を流すのを止めると、物質形成が解かれ岩と大木が砂と枯れ枝に変化した。

 これでもし降ってくる瓦礫に当たったとしても、かすり傷か打撲程度で済むはずだ。

 そして、大量の砂と枯れ枝に紛れて違うものが重力に従い落ちてきた。

 大地に叩きつけられ、重く鈍い音が響く。

 聖王だ。

 爆発前に聖王が言っていた通り、所々焦げ、鱗も剥がれていたが生きていた。


 「お、おのれぇ……」


 話す元気もあるようだ。

 大の字でぶっ倒れながらブチギレられても怖くないから、とりあえず立ち上がってほしいものだ。


 「ふ、ふはは。してやられたわ。まさか、あれが防がれるとはなぁ。……だが、余の勝ちよ。精霊の手助けがあったとて、あれだけの魔法を使ったのだ。もはや、魔力も少ないのだろう?」


 かなりの高温を帯びているのか、体中から煙を立ち上げながらゆっくりと起き上がる。

 正解だよ。まさか、爆発を意図的に起こすとは思わなかったから、トドメの大魔法分を『石の塔』に使っちまった。

 聖王は傷つき、内蔵や骨にも異常があるだろう。でも、余力を残している。さて、どうするか。時間を与えると回復されてしまう。

 聖王の言葉に罵倒で返してやりたいが、その時間も勿体無い。


 「ふん!図星で声もでないとはな。想定していたより小者だ!ふはは!」


 勝ちが濃厚と感じた途端、言葉遣いまで変わってるぞ。ムカつくから一言だけ言ってやろう。


 「ちょっと煙たいんで話さないで頂けます?デカイ口から出る息で煙がこっちにくるんで。それに臭いし」


 「ふははは!!小者でも強がりだけは一端(いっぱし)よな!ふはははは!」


 強気になるにも程があるだろ。それにしても、本当に煙い。どれだけの熱を帯びてんだ?

 待てよ。煙……、熱を帯びる?もしかしたらイケるかもしれない。だとしたら、急がないと。

 初めて使う魔法だが、今使うことができる魔法の応用だからなんとかなるだろう。


 「ダメージを回復したいのが見え見えだな。じゃあ、そろそろ決着をつけようか。お前の体力と俺の魔力の勝負だ」


 「……良かろう!来い!」


 偉そうに。何が来いだ。……いや、動けないのか?好都合だ!そのまま動くなよ?


 「行くぞ!!」


 魔法陣を展開してから走り出す。

 それを見て、聖王が上半身を守るように腕でガードをする。

 だよな。弱点を守るのは当然か。だが、今回は関係ない。

 聖王は俺が氷属性で攻撃すると考えているだろう。しかし、俺が使うのは水と風魔法。

 魔法陣に魔力を流す。

 水を風属性で凍らない程度に冷やし、それを聖王にぶつける。


 「水だと?ふはは!水では余を倒すことは叶わんぞ!」


 ……それがそうでもないんだなぁ。そろそろだよ?

 パキィッ!ピシッ!

 金属に罅が入ったような音が連続で響く。


 「ぐあっ!な?!余の鱗が!!」


 熱応力の応用だ。ガラスを熱した後に冷水をかけると割れることがあるが、それと同じことをした。

 熱膨張もしくは、熱収縮が何らかの原因で妨げられた時に起こる。温度変化、温度差が大きいと熱応力が材料の降伏点を越え、永久変形や割れ目ができることがある。

 簡単に言えば、同じ物体に熱い部分と冷たい部分があると、変形したり割れたりすることだ。それが今、聖王の硬い鱗に起きている。

 あの爆発で、聖王は体中に高温を帯びていた。そこへ零度に近い水を掛けた。

 鱗は高温で熱膨張をしていたが、そこへ熱収縮を起こす冷水を疎らに掛けることで罅が入ったのだ。

 ただの水で最硬の防御力を誇る鱗の鎧が割れるとは思っていなかったのだろう。あまりの驚愕と状況を確認するために、聖王はガードを解く。

 まだ終わってねぇよ!本命はこっちだ!

 魔法で氷の剣を作り出し、鱗に罅が入っている部分を狙って突き刺す。

 氷の剣は大した抵抗もなく聖王の体内へと吸い込まれた。


 「ぐぁあああああああああああああ!!!!」


 「うるせぇ!」


 氷の剣を手から離し、聖王を殴りつけて地面に倒す。

 普通に素手で殴ったけど、それほど手に痛みはなかったな。逆に罅が入った鱗が割れたぐらいだ。

 聖王は激しい痛みに叫びながら暴れるが、氷の剣を抜けずにいた。今まで感じたことのない激痛にどうしていいかわからないのだろう。

 一頻り叫んだ後、多少痛みに慣れたのか静かになる。聖王は立ち上がれず、荒い呼吸だけが聞こえる。


 「はぁはぁはぁ……」


 「俺が何をしたかもお前には理解できないだろうな?お前程度の鱗に傷をつけるのには、水で十分だったんだよ」


 「た、たすけ」


 聞いちゃいねぇ。


 「は?聞こえねぇよ」


 「助けて、ぐっ、くれ!」


 俺は未だに立ち上がれずにいる聖王の顔付近まで近づいていく。


 「お前はいいなぁ。慈悲を乞うことができるもんな?お前に合成された奴はそんなことも出来なかったろうけど」


 「わ、わかった……。余が、悪かった……。研究はやめる、いや、元に戻す研究を……、すぐに始める!」


 「ふーん?殊勝じゃないか。それで?色々と苦労させられた俺たちには何をしてくれるんだ?」


 もう一本氷の剣を作り出す。


 「そ、そうだ!金をやろう!白金貨30、いや、50枚くれてや――」


 「駄目だ、死で償え」


 食い気味に即答すると、氷の剣を聖王の口の中へ突き立てた。

 半魔を元に戻すことができるならば、少しは考えていたかもしれない。だが、研究すらしていなかったとはなぁ。その上、小悪党みたいに金で解決しようとするとは……。

 魔法都市としては、金は喉から手が出る程欲しい。が、聖王がこの世から消える方が、今後の為になるだろう。

 ルカが王になればそっちに請求するしな。こいつはいらん。

 聖王は藻掻くように手をバタバタとさせ、少しするとそれは痙攣に変わる。そして、最後は動かなくなった。

 法国の王、神の代弁者との戦いは終わったのだ。



 「うわ、ギル君、迷いもなくトドメさした……。どうやら決着が着いたみたいだよ」


 アーサーが祈り続けるホーライに結末を教えるように声をかける。

 ホーライが静かに目を開くと、ゆっくりと立ち上がった。


 「……そのようだな。どうやら神の御力ですら、彼の者に慈悲を与えることは叶わなかったようだ」


 「どうするのかな?まだ続ける?」


 「いや、聖王様が崩御された今、戦う理由はなくなった。私とて、命令されていた一人に過ぎないからな」


 ホーライはそう話すと、持っていた杖を投げ捨てる。


 「じゃあ、これで決着かな?おーい、こっちは終わったよー。そっちは……、既におわってたみたいだね!」


 アーサーがリディアとエルの方へと視線を向ける。既に戦いをやめているのを見ると、全てが終わったと確信し安堵の息を吐く。

 だが、視線を外したアーサーにエルが叫ぶ。


 「まだです!」


 「何かやろうとしています!!」


 リディアも警戒していたのか、エルの声の後すぐにアーサーを注意する。

 アーサーが声に少し驚きつつも、ホーライへと視線を戻す。

 ホーライは自分の腕に注射器に似た物を突き刺していた。


 「ははは!聖王の因子を私に入れた!つまり、私が聖王になるのだ!見てみろ、既に変化が始まっているぞ、はははは!」


 ホーライの腕は注射した部位付近から、既に鱗が生えはじめていた。


 「な、なにやってんだ!!」


 「ぐっ!耐え難い痛みだ!だが、これを耐えれば生き延びられる!であれば、多少の我慢もする!ふふふ。見たところ、もう一度戦う力はないのだろう?!」


 ホーライの言っていることは事実だった。

 ギルの魔力は残り少なく、リディアやエルではトドメを刺す火力がない。アーサーに至っては武器すら持っていなかった。

 進行速度は異常で、既にホーライの腕が肥大し、腕の殆どに鱗が生えていた。


 「まずいまずい!君たちは引け!ここは僕がなんとかするから!」


 「ははは!貴様ごときに何ができる!そして、誰も逃さん!この場にいる全ての者を神に下へ送ってやろう!ははははははは!」


 激しい痛みに耐えながらも、高揚しているからか、それとも勝利を確信したからか、ホーライは高笑いする。

 しかし、そのせいで背後に立つ男の存在に気づかなかった。


 「お前もうるせぇよ」


 ホーライの記憶はこの声と、首のない自分の体を見た景色が最後だった。



 俺は氷の剣を作り出すと駆け出した。出来る限り高ぶる殺意を抑え、気配を消しながら。

 ホーライが何かをすると初めから予想、いや、確信していた。だから、対処が速かった。

 まさか、この場で自分自身を聖王のように魔物へ変化させるとは予想できなかったが……。

 俺がホーライの背後に辿り着いた時には、既に腕と下半身が魔物化していた。だが、幸運なことに首から上は人間のままだ。

 なら、わざわざヒーローの変身を待つ怪人のように見ていることはない。

 俺は氷の剣を薙ぎ、ホーライの首を切り落とす。

 確かに、残りの魔力では硬い鱗を貫く『電磁加速砲』や、氷弱点をつく『青蓮剣林』はおろか、連続魔法すら満足に使えないだろう。

 だが、人間の首を切り落とすだけなら、氷の剣だけで十分だ。切れ味増幅のために風魔法も使っているが、消費魔力は大したことはない。

 頭を失ったホーライの体が崩れ落ちるのを確認してから、棒立ちのアーサーへ声をかける。


 「っていうかさ、変身を待つことないんだぞ?」


 「ひ、ひどい。悪の親玉ですら変身は見るのに……」


 アーサー言葉に返事は返さず、リディアとエルへ視線を移す。

 二人も俺と同じことを考えていたのか、リディアは走り出す姿勢で、エルはクロスボウを構えていた。

 さすがだな。これはわざわざ俺が来ることもなかった。俺が動かずとも、ホーライは何も出来ずに死んでいただろう。

 油断を誘うために、杖を捨ててしまったことがホーライの敗因だ。杖さえ持っていれば石の壁で防ぐこともできただろうにな。

 だが、これでようやく決着だ。途中、冷や汗モノだったが、全員無事で何よりだ。

 俺は氷の剣を水に戻すと、リディアとエルに手を上げて戦闘終了の合図をしたのだった。

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