私刑と足掻き
青蓮と剣林。2つとも地獄の名だ。
地獄の罰は痛々しく、中でも火に関する罰がとても多い。その中でも八寒地獄は文字通り寒さが罰だ。
八寒地獄の中の一つ、六番目の嗢鉢羅。別名、青蓮地獄。
凍傷のために全身がひび割れ、青い蓮のようにめくれ上がる事からそう呼ばれるが、俺の魔法はそこまでの寒さはない。精々、凍えて動きが鈍くなるぐらいだろう。
では何故、こんな名前をつけたのか?
その前に剣林の話だ。
これも地獄の名で、十六小地獄または叫喚地獄の中の一つ、剣林処から取った。
細かい地獄の内容とは異なるが、獄卒が剣や殻竿で罪人を打つところから連想したのだ。
俺の魔法、『青蓮剣林』は大地が氷に覆われ、どんな気温、気候だろうと雪が降る。そして、何より目を引くのが氷の大地から生えた、三百もある彫刻の美しい氷剣。
氷の大地は『アイスフィールド』の魔法を改良したもので、雪は遥か上空で水魔法を冷やして降らせている。氷剣はいつも俺が魔法で出しているのと同じものだ。まぁ、数は段違いだが。
改良型アイスフィールドは、精確な魔法を使えない人間だと滑ってしまう。それだけではなく、滑らないように慎重になりすぎると、今度は足が地面とくっついてしまう移動阻害効果付き。
つまり、靴が地面にくっつかない為には歩かなければならないが、そこは滑りやすい道。
その上、アイスフィールド効果による氷属性魔法効力上昇。
雪はほぼ演出だが、氷属性効力アップの手助けをしている。
この2つで氷剣の硬度はかなりのものになっているはずだ。出来の悪い金属製の武器より壊れにくいのは間違いない。
で、この氷剣だが、これにも仕掛けがある。
地面から引き抜いて武器として使うのは誰でも出来る。しかし、氷属性魔法を俺ぐらいに扱えなければ、手の体温を奪われてしまうのだ。
それでも氷剣を使うことは可能だろう。だが、対策をしなければ青蓮地獄のようにそのうちひび割れ、青い蓮のようにめくれ上がることだろう。そして、触れば手にくっついて離すのに苦労するというおまけ付き。
青蓮という大それた名をつけたのはここが理由だ。
問題は、結局は近接戦闘を強いられるというところだ。魔法使いには向いていない。
つまり、この魔法は欠陥があり、やっぱり俺だけしか使えない。
だが、俺が使えばそれなりの成果は期待できる。……ホワイトドラゴンには通用しなさそうだが、目の前にいる聖王には絶大な効果があるだろう。
「な、何だというのだ!氷が……、雪だと?!」
聖王は先程のような余裕は一切ない。あたふたと挙動不審になっている。
それもそのはずで、現段階でフィールド変化や天候を操る魔法は世に出回っていない。うちのメンバー以外は見たことすらないかもしれない。
さて、聖王はこの寒さの中どれだけ動けるんだろうな。楽しみだ。
ああ、ちなみに地球の竜こと、恐竜は寒さに弱くないと最近は考えられている。爬虫類ではなく、鳥類の系統に近く高い体温維持能力を備えていたかららしい。
まあ、事実は恐竜のクローンが産まれ、その個体を調べないと真実はわからないがね。
さて、こちらの竜さんはというと、どうやら寒さに弱いという予想は正しかったようだ。
あの動揺でもそう確信できるが、なにより動きが少し鈍い。
聖王自身、今は体調の異常は感じなていないはずだ。それは耐熱効果のある硬い鱗が寒さを鈍感にさせているからだが、そのうち体中の体温を奪い動けなくなる。
だがそれだけだ。
このまま待っていればと思うかもしれないが、奴は腐っても火竜との半魔だ。火を吐かれて体温を回復されてしまうだろう。
だから、攻撃するしかないのだ。
弱点属性での弱点部位に連続攻撃。聖王を倒すにはこれしかない。
動揺している、冷静でない今がチャンスなのだ。
俺は走る。
一歩踏み出す度にアイスフィールドを打ち消し、氷で滑らないようにしつつ速度を上げていく。
そこら中にある氷剣を無雑作に二本選んで引き抜くと、魔法陣を展開。
聖王が間合いに入る。
魔法を発動せずに氷剣を振りかぶる。
聖王は俺を見えているはずだが、迎撃せずに待ち構えていた。
俺は小細工せず、そのまま素直に氷剣を振り下ろし、聖王の肝臓あたりに力いっぱい叩きつけた。
「ぎゃっ――」
まだだ。もう一本ある。
もう一つの氷剣も同じように叩きつける。
2つの氷剣は砕け散り、雪に紛れて消えていった。
「ぁぁあああおうううん!」
聖王が迎撃せずに待ち構えていただけだったのは、さっきのイメージが頭に残っていたからだろう。
それを利用し、俺は魔法陣を準備展開しただけで発動しなかった。だから、何のひねりもない攻撃が当たったのだ。
連撃は刹那に行われた。2つの小さな衝撃は一つの大きな痛みとして感じたことだろう。それも同じ部位にだ。
普通の人間なら耐えられず、のたうち回るだろうがこいつは頑丈だ。これだけでは倒せない。
事実、聖王は反撃しようと拳を振り上げている。
ここで魔法発動。
強風が俺を押し、その力を利用して距離を取る。もちろん、聖王の攻撃は空振りだ。
「きさ――」
うるせぇ。話す時間なんてやるわけないだろう!
魔法を2つ発動。
一つは俺を加速する風魔法。さっきと同じ強風で背中を押す。
もう一つは闇魔法。
聖王の目を黒い霧が覆わせて目隠しだ。
俺はまだ手に残っていた、刃のない氷剣の柄を投げ捨て新たに剣を引き抜くと、また肝臓あたりに二連撃。
「ぐぁあああああ!くそっ!!」
痛みと真っ黒な視界で小さなパニックをおこしたのか、やぶれかぶれに拳を振った。
よしよし、考える暇を与えるな。だけど、少しだけ余裕を与えるようにだ。
完全なパニック状態の相手は思考が読みづらい。少しだけ考えられるような精神状態の方が制御しやすいのだ。
俺はもう一つ魔法を発動。
土魔法で石を作り、聖王の背後へと投げる。
コツ。
音がした方へと聖王が力任せに腕を薙ぐ。
釣れた。
その隙を逃さず、二連撃。
「あぅっ……、ゴフッゴフッ!」
かなり効いているようだ。後はこれを繰り返す。
氷剣はまだまだあるからな。そう、今までお前がした残酷な行いは、このぐらいの罰では済まないだろ?
まだまだ、殴りつづけるからな。最後には死んでしまうけれど、仕方ない。死という逃げ道ぐらいは容易してやるさ。
さぁ、私刑の始まりだ。
一方的に殴り続けてから20分が経った。約250本程の氷剣が砕け散った。
聖王は膝を付き、両手をぐったりさせてうつむいている。
胸から腹にかけて血が滲み、目鼻口と血を吹き出している。内蔵がやられたのだろう。
俺の圧倒的な暴力を、今は全員が呆然と眺めていた。
自分らの王がこんな仕打ちを受けているのに、ホーライたちは助けに来ない。
いや、何度も助けるために動こうとしたが、その度にリディアとエル、アーサーがそれを止めたのだ。
助けに入れないとなると、次は言葉で説得するだろう。もしかしたら、今もリディアたちが説得されているかもしれないな。
さて、まだ50本も残っている。俺の魔力で作り出したんだから、全部無駄なく使わないとね。
俺はまた氷剣を引き抜くと振り上げる。
「おい!あれを止めろ!やめさせろ!」
悲痛な叫びはディーナのものだ。
盾を構えることもやめて、身振り手振りで対峙するリディアを説得している。
リディアとエルは無表情のまま首を横に振った。
「な、なぜ……。なぜこんな残酷なことが出来る?」
「残酷……ですか?」
「どう見てもそうだろう!」
「では、自分の子供をあのような魔物に無理矢理変えることは、残酷と言わないのでしょうか?」
「な、なに?」
ディーナはただ困惑した。意味がわからない。いや、知らないのだ。
それをリディアは何となく理解していた。
「やはりそうなのですね?あなたは何も知らない……」
「何を言っている!」
「あの魔物が聖王だと理解していますね?いえ、先程理解しましたね?」
「!」
「あなたは騙されています。それを説明します」
リディアは法国に来てからのことを掻い摘んで教えた。
陥没穴での出来事、半魔、精霊の事を。
「う、うそだ。聖王様のご子息は他国で布教していると聞いている!」
「会ったことありますか?」
「え?」
「彼らは戻ってきましたか?」
「………」
沈黙が答えだった。誰一人戻ってきていないのだ。
それもそのはず、全員が陥没穴にいたのだから。
「それが答えです。私たちは嘘を言っていません。そんな慈悲もない残酷な行為をする者を、私は同じヒトだと思えません」
「だが!だが、あれは人道的じゃあない!」
「あれは魔物です」
「元はヒトだ!何より、私の仕える王だ!」
「アレではありません。あなたが仕える方は、ルカ様です」
「ルカ、様?ご無事なのか?」
「はい、半魔になっていませんし、ルカ様のご兄妹がお守りになっています。あの魔物がいなくなった後、次の聖王となるでしょう。ですから、あの魔物退治のことには、ギル様がすることには黙って見ていてください」
ディーナは聖王を見る。そして、何かを思い出すかのように天を仰いだ。
「そうか……。思い出してみれば、妃様にも殿下にもお会いしたことがあるのは僅か。一度国を離れてからは見ていない。罪人はいつのまにか牢屋からいなくなり、ホーライ様に諫言した者も。私の知らないところで、魔物に変えられていたのだな」
ディーナはそう呟くと、盾と剣を地面に落とした。
それを見たホーライがディーナに怒鳴る。
「ディーナ!何をしている!最後まで法国のために戦え!」
その声に反応せず、ディーナは両手を上げた。
「私はもう戦えない」
「くそっ!!」
降参の為に両手を上げるディーナを見ながら、ホーライは悪態をつく。
「ふ、ふーん。僕の予想通り!さすがはギル君!」
両鼻から血を吹き出しながら、ニカリと笑ってから支離滅裂なことを叫ぶアーサー。
鼻血が吹き出して息がしづらいほど顔面を打ち付けているのに、歯は一本も折れていない。
「貴様も法国の教えを信ずる者だろう!背教者の言を鵜呑みにし、聖王様を見殺しにする気か!」
「いやー、実は僕、信じてないんですよ。法国の教え」
「なっ……」
「それに神様は人を助けてくれない。だったら、信じても意味ないじゃないですか」
「なら、何故この法国にいる!!」
「それは、恩があるからですよ。ああ、聖王様じゃないですよ?クレストって人」
「クレストは知っている。信仰心のある者だ!クレストの信ずる法国を守るために一緒に戦おうぞ!」
「いや、その理屈はおかしい。とこで、あんた誰?」
ギルが近くで聞いていれば、お前に理屈がわかるのかとツッコミをしたことだろう。
ホーライは一瞬唖然とするが、すぐに怒りで顔が赤くなる。
ホーライは法国で聖王を除いてトップに君臨する。信者や騎士、それどころか他国の王ですら、場合によっては足元にひれ伏す。
そして、クレストの役職である執行者は、言わばホーライ直属の部下といっても過言ではない。
その直属の部下の、一番下っ端であるアーサーに命令無視されるどころか、自分が誰かも理解されていないのであれば、誰でも頭にくるだろう。それが冷静沈着なホーライでもだ。
だが、すぐに元の冷静な表情へと戻る。
「そうか……、わかった。もう良い」
ホーライがそう呟くと、敵意や殺意が抜け落ちた。
「あら、諦めちゃったかぃ?これからこの石壁の魔法を破るところだったんだけどなぁ」
「わかっている。魔力の枯渇が目当てだろう?この状況で聖王様をお助けすることは不可能だ。ならば、無駄な魔力を使っても仕方ない。代表殿に慈悲を授けてくださるよう、女神様に祈ることにする」
アーサーは一瞬驚いた表情をし、「そうだったのか」と呟いてから、すぐに頭を振って表情を戻す。
「そうだ!その、こか、コカツ?が目当てだったのさ。何もしなければ、殺さないよ」
馬鹿な言葉を聞いても、ホーライは手を合わせて祈りの姿勢を崩さない。
それを見てアーサーは胸を張って鼻を鳴らした後、ホーライから視線を外す。
ギルと聖王の戦いを見守ることにしたのだ。
だがこの時、ホーライがローブの下から何かを取り出すが、それにアーサーが気づくことはなかった。
300の氷剣を聖王に叩きつけ終わった。しかし、それでもまだ聖王は生きていた。
聖王は両膝をつき、両手をぐったりとさせ俯いた姿勢のままだ。違いがあるとすれば、肩や頭頂部に雪が積もり始めているぐらいだ。
すっげぇ頑丈だな。深刻なダメージは負っているはずだが、こいつの息の根を止めるにはまだ足りないみたいだ。
決着が着いたといえばそうなのだろう。だが、こいつを生きて帰すことは出来ない。
「ふ、ふふ。終いか?余は、未だ……、健在ぞ」
「わかっている。心配しなくていい。氷剣の追加はまだまだ出せる。お前に生存の道はない」
「そう……かもしれんな」
やけに素直だな。死を受け入れた?
動く気配はない。突然襲いかかるような体力もないだろう。
今ではアイスフィールドの冷気で足の体温は奪われているから、動けないはずだ。いや、これだけ長時間アイスフィールドで体温を奪い続けたのだ。もしかしたら、全身の体温を奪い、低体温症になっているかもしれない。
……低体温症?いや、待て。
聖王は震えていない。
魔物の体と人は違っていても、軽度低体温ですることは不随意運動、つまりシバリングだ。小刻みに体を震えさせ熱を産生させる生理的反応だ。
だが、そんな様子はなかった。
氷剣を叩きつけることに夢中で見逃した?馬鹿な。反撃の可能性があるんだから、ずっと注視していたさ。
俺の予想より体温が低下していない。
あり得ない。これは自然の環境ではなく、魔法で作り出した環境だ。物体の温度を低下させるという効果が確定している。
だとしたらなぜ……、まて、肩と頭頂部、そして足もだ。雪が付着している。なのに、正面部分には雪がない。横殴りの雪なのに。
ん?聖王の真下にある雪が赤い?血?
………………ちがう!血じゃない!あれは聖王の喉の光だ!雪が喉の光を反射しているのだ!
あの野郎、ブレスの準備をしていやがった!雪がないのも溶けたんだ!体の震えもないはずだ。なんせ、雪が瞬時に溶けるほど体が温まっているんだからな!
俺はすぐに聖王の近くから飛び退く。
「ふはははは!気がついたか!だが、もう遅い!わからなかっただろう?!気付かれないように少しずつ溜めていったのだからな!」
そう叫びながら、俯いていた顔を上げた。
聖王の喉は今までの比では無い程の光を発していた。
俺が殴り続けていた時間の全てを、ブレスを溜めるために使っていたんだ。俯いていたのも、喉を隠すためだったのだ。
「この顔で良かったよ。俯けば喉を隠せるからな。さて、露見したならば、これ以上の隠蔽は無駄だな。余が本格的な準備に入れば、話せなくなるから今のうちに言っておくか。これはブレスではない。ここら一帯を焼き尽くす神の怒りだ。あぁ、ちなみに余は無事に生き残る。なんせ、余は火竜だからな。ふははははは!!」
呵々大笑すると、ワニのような口を大きく広げた。口の中に小さな火の玉が見える。
それが酸素を取り入れたのか段々と大きくなっていく。
あぁ、これはブレスじゃない。自爆攻撃だ。陥没穴で竜のような半魔の喉を斬った時に起きた大爆発を、故意に引き起こそうとしている。
あの時のような中途半端な爆発では済まないだろう。聖王の言う通り、ここら一帯が吹き飛ぶ。
どうする?防ぐか?
火の息ではなく、爆発だから壁を作ったとしてもこの距離では諸共吹き飛ばされるから駄目だ。
逃げる?
もう遅い。
このままでは全滅……いや、考えろ。まだ、他にも方法はあるはずだ。
「ティリフス!!」
「な、なに?」
「どう思う?!」
期待していない。会話の中で思わぬヒントがあり、解決方法が閃くかもしれないから話しかけただけだ。近くにいるのはティリフスだけだったからな。
「こ、怖い、そんな目で睨まんといてぇ」
「俺の顔の事じゃない。あのブレスはヤバいだろ?」
「うん。焼け野原やね」
僅かな時間で判断したか。さすがは精霊ということか。
「解決方法はあるか?」
「無理、もう発動準備に入ってる」
「何でも良い、取り敢えず列挙しろ。穴を掘る?逆に埋める?殺す、のは時間がかかるから駄目だ」
「え?えと、どっちも無意味だと思う。マジックバッグの中に逃げ込めたらええのになぁ」
何を気楽なことを言ってるんだ、こいつは。
………何もないところ?あるじゃないか。そうだ、発想の転換だ。
爆発を防ぐことも、逃げることもできない。もちろん、止めることもだ。だとすれば、爆発させればいい。
それも何もない空間で。
俺の魔法で何もない空間を作り出すなんてことは出来ないが、聖王を何もない空間へ移動させることはできるかもしれない。
「ティリフス、お前、あの木の魔法で木を伸ばすことはできるか?それも聖王ごと」
「え?!んー、出来なくはない」
「どのぐらいの距離だ?」
「えと、ここからあいつまでの距離ぐらいなら。それ以上は木が折れる」
俺らから聖王までの距離か。大体20メートルぐらいか?
あの爆発がどれほどの範囲を巻き込むかわからないが、方法はこれしかない。やらないよりはやるべきだろう。
「よし、やってくれ。聖王が移動できないように、体中に巻き付けろよ」
「う、うん」
ティリフスが見たこともない言語で詠唱し、魔法陣を描きはじめる。
「出来た!」
随分と速い。詠唱と手描きだとしても異常な速度だ。精霊特有の魔法陣構築方法なのか?やはり、後で詳しく問いただす必要があるな。うん。
ティリフスの声と共に、聖王の足元に魔法陣が浮かび上がる。
それに、『法転移』もお手の物か。失われた技術だけあって、1000年生きるティリフスには扱えるってことか。
魔法陣からニョキニョキと木が生え、聖王に枝が絡みついていく。そして、細い木が何本も重なって聖王を持ち上げていく。
あっという間に、ティリフスの宣言通り、約20メートルもある巨大樹がそびえ立ち、その天辺の木の中には聖王が埋まっている。
だが、おそらくそれでも距離が足りない。だから、俺の魔法も合わせる。
俺も魔法を発動する。
ティリフスが詠唱している間に既に準備展開しておいたのだ。
ティリフスの魔法陣より更に大きい魔法陣が浮かび上がると、地面が魔法の木を持ち上げていく。
土魔法で聖王を縛り付けている木ごと空に押し上げるのだ。
何もない空間は空しかない。
ティリフスの魔法を待ってから発動したのは、聖王を逃さない為に木で動きを封じた後でないと意味がないのと、木の根っこごと持ち上げる為だ。
木が傾いたら意味がないからな。
だが、魔力の消費が激しい。
木の生えた石の塔は、どんどん空高くへ伸びていく。
そして、ティリフスの作った木と合わせて50メートルは確保出来た。
まだ伸ばすことは出来るが、止めを刺す為に魔力を残しておく必要がある。
聖王も上っていきながら暴れていたが、どうやら木の牢屋から抜け出せなかったみたいだ。殴り続けて弱らせたおかげだろう。
さて、後は運だな。
この場に立っている全ての者が空を見上げた。
今まで祈っていたホーライも手を解き見上げる。
そして、その瞬間、空で巨大な火の花が咲いた。




