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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
一章 賢者の片鱗
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エルミリア

 ギルが、美少女冒険者に賢者と呼ばれていた頃、亜人の名もなき村のエルミリアは、自分のベッドで寝息を立てていた。

 口元から涎が垂れている。これでも彼女は70年の時を生きているエルフだ。人間の年齢に換算しても、14歳程だが、それよりも幼く感じる。彼女の容姿だけで言えば、それ相応か、それより大人っぽく見えるだろう。

 身体も人間の14歳より大人びている。胸は大きいというほどではないが、それなりに膨らみ、腰はしっかりとくびれている。だが、エルフは感性の成長が非常に遅い。

 村長のマーデイルが言うようにエルミリアは、まだまだ子供なのだ。


 涎が頬を伝うとその違和感で目が覚める。


 「じゅる。ふぇ?」


 ゆっくりと体を起こし、涎を手のひらで拭うと、きょろきょろする。


 「あぅ?今、お昼です?」


 そう言いながら、窓の外を眺めてる。しばらくすると、窓の方を向いたまま、目を閉じ二度寝していた。

 二度寝していたことに驚き、急いで立ち上がる。


 「に、二度寝してない、です」


 マーデイルに怒られた夢を見たのだろう、そう呟きまたきょろきょろする。

 夢だったと理解しホッとすると、ようやく目が覚めたのかもう一度窓の外を眺める。

 ちょうどお昼頃だった。

 目をこすりながら部屋を出て、マーデイルの姿を探すが家にはいない。どうやら外に出かけているようだ。


 「とぉさま、いない、です」


 父様はマーデイルのことだ。

 だが、マーデイルとエルミリアに血の繋がりはない。彼女の本当の父は、マーデイルと親友だった。だが、奴隷商人に村を襲われた時に彼女の両親はエルミリアを守るために命を落とした。マーデイルは、親友を助けることが出来なかったがせめて娘だけでもと、まだ幼い彼女を抱きながらなんとか逃げ切ったのだ。

 そして、その事実をエルミリアもマーデイルから聞かされていて、血の繋がりがないことは理解していた。しかし、それでも彼女にとってはマーデイルこそが父親なのだ。もちろん、マーデイルにとっても。

 

 そんなエルミリアだが、彼女は幼い言動とは異なり、かなりの働き者だ。掃除、洗濯、料理と無難にこなす。マーデイル家の家事は交代制で、今日はエルミリアの日だった。

 先程まで家の掃除をしていたが、疲れてしまい寝てしまったのだ。もうお昼なので、マーデイルが帰ってくるまでにお昼ご飯を作らなければならない。

 エルミリアがちょこちょこと台所を駆け回りながら料理を作っていく。

 しかし、この村で手に入る物はたまに村へ来る亜人の商人から買う食材か、村で採れた野菜、ハルガルが狩ってきた角兎ぐらいしかないので、作れる料理も限られていた。

 今日はスープを作っていた。ギルが食べたスープだ。

 スープの味見をしていると、エルミリアもギルのことを思い出す。


 「あの方は、不思議な人、です」


 ギルの格好や話した内容を思い出し、笑顔になる。


 「ヒト種なのに、エル達を、変な目で見なかったです。それどころか、甘いのを、くれました」


 エルミリアにとってヒト種の思い出は奴隷商人しかない。ギルと話したあの日があったから、ヒト種は皆が皆、亜人に危害を加えるのではないと思えたのだ。

 そんなことを考えながら料理をしていると、ドアが開く音がした。


 「とぉさま?」


 マーデイルが帰ってきたのだ。


 「ただいま帰りました。エルミリア」


 マーデイルが顔を見せるとパタパタと近寄っていく。


 「とぉさま、おかえりです。お昼ご飯、つくりました」


 「そういえば今日はエルミリアの日でしたね。あぁ、いい香りですね。すぐいただきましょう」


 「ん。すぐ、準備するです」


 また急いで台所に戻ると、木の皿にスープを盛って、テーブルに運ぶ。

 準備が終わり二人が席に座る。

 これから、食べようとすると慌ただしく走る音が近づいてくる。そして、勢いよく扉が開かれた。


 「マーデイルいるか?!また、ヒト種が来やがった!」


 ハルガルが大声を上げて入ってくる。ギルが来た時とは全くちがう緊張感があるのだ。


 「まずいのですか?」


 「あぁ、少し人数が多いのと、馬車持ちだ。おそらく商人だろう」


 マーデイルの顔が険しくなる。ただの商人ならいいのですがと、つぶやきながら立ち上がる。


 「エルミリア。決して外に出てはいけませんよ」


 そう言うとハルガルを連れ外へ出て行ってしまった。

 エルミリアは窓から外の様子を見る。すでに村の入口には人だかりが出来ていた。



 マーデイルとハルガルが入り口まで到着すると人だかりをかき分けて商人の前へ出る。人数は7人だった。身なりの良い男を護るように鎧を着た男達が立っている。おそらく商人の護衛だろう。身なりのいい男が護衛を押しのけて前に出てきた。盗賊のような顔つきの商人だった。

 マーデイルとハルガルは商人の顔を見て、奴隷商人だと確信した。

 亜人達を品定めするように見渡し、一つ頷く。そして今度は、村を見て眉を顰めてから首を横にふる。


 「村と聞いていたが、我が家の馬小屋の方がまだしっかりしているな」


 これが最初の言葉だった。亜人達はなんのことかわからず顔を見合っている。だが、マーデイルとハルガルはその意味に気付いたのだろう。


 「なら、お帰りになられてはいかがですか?」


 マーデイルだ。その言葉に反応した商人は明らかに嘲笑を浮かべる。


 「ふむ。貴様がこの村。村と言っていいのか分からないが、その代表だな?」


 その言葉にハルガルはむっとするが、マーベイルは顔色ひとつ変えない。


 「えぇ、私がこの村の村長です。まさか、嫌味を言うためにこんな僻地まで?」


 「ほぉ。亜人風情が言うじゃないか。しかし、ふむ。確かに日が暮れて、ここに滞在するのは御免したい。早速だが、交渉をよろしいかな?」


 この言葉にマーデイルとハルガルは戦闘は避けられないのだと理解した。ハルガルは槍を強く握り、マーデイルは服の下に隠し持っている小さな杖をいつでも取り出せるようにしている。

 この村で戦える者は少なくない。が、すでに会議である内容を決めていた。それは、村で魔力に優れたマーデイルと、一番武器の扱いが上手いハルガルが戦闘を引き受けること。二人がもし負けるのならば他の者達では勝てないからだ。無理に抵抗して死人を増やすことはないと、マーデイルとハルガルの提案だった。


 「護衛隊長!交渉は任せる。一人だけなら構わない」


 商人が護衛達に話しかけると、護衛の中で唯一フルプレートアーマーを着ている男が商人と入れ替わるように前に出てきた。


 「ならば、このエルフはよろしいですかね?旦那」


 「それで良い」


 商人の確認が取れると、フルプレートの男が他の護衛達に向かって首を切るジェスチャーをする。エルフを殺せと言っているのだ。

 その仕草を見た瞬間にマーデイルは杖を服の下から取り出し、魔法の詠唱を始める。ハルガルはそれを守るように前へ出る。

 護衛がそれぞれ武器を抜き襲いかかってくる。フルプレートの護衛隊長と呼ばれている男は動かないようだ。ハルガルが槍を横薙ぎにして近づかせないようにするが、数が多い。

 護衛達はハルガルの隙を見ては、軽く斬りつける。深手を負わせないように気を付けながら。

 ハルガルが傷を受け痛みにうめきながらも、槍を突き、薙ぎ払う。だが、当たらない。

 護衛達がニヤニヤと嫌な笑みを浮かべ、ハルガルと距離を取りながら徐々に取り囲もうと移動している。

 だが、ハルガルはそれを阻止しない。

 なぜならば、マーデイルの魔法陣は既に完成しているのだから。


 「ファイアボール」


 落ち着いた声が聞こえると、ハルガルの背後に回り込もうとしていた護衛の一人が燃え上がった。


 「ぎゃぁあああああぁああ」


 しばらくすると、燃えた護衛は倒れた。それを見た護衛達が怯みそうになると、護衛隊長が叫んだ。


 「馬鹿野郎!エルフをやれっつってんのに、全員で獣人を囲む馬鹿があるか!もういい。俺がエルフを殺る。おまえらはそいつに手を出させるな!」


 護衛隊長がそう言うと、残り四人の護衛達でハルガルを囲む。軽く斬り、そして距離を取る。

 ハルガルは決して弱くない。だが、護衛達は()()()()()()が得意なのだ。敵を取り囲み、数で押し切る戦いが。

 自分の部下の立ち回りを見ると頷き、ゆっくりとマーデイルの方へ歩き出す。

 マーデイルもすでに詠唱をしていた。『ファイアボール』で一人倒すも、油断せずに次の魔法の準備に入っていたのだ。既に八割方、魔法陣は出来上がっている。

 だが、護衛隊長は怯みもせず、ただ歩いてマーデイルへと向かう。


 「あー嫌だ嫌だ。だから、魔法を使われる前にエルフを殺れと言ったのに。全部言葉にしないと理解出来ないのかねぇ。あいつらはこれが終わったら鍛え直さんとな」


 ブツブツと言いながら、護衛隊長は兜のバイザーを下ろし、腰の剣を引き抜く。

 それを見たハルガルが叫ぶ。


 「マーデイル!」


 「わかっています!完成しました。燃えなさい『ファイアーボール』」


 マーデイルの眼の前に展開された魔法陣から火の玉が飛び出し、一直線に護衛隊長に向かっていく。

 だが、護衛隊長は気にした様子もなく歩いている。

 やがて、火の玉が護衛隊長に当たると周囲が燃え上がる。


 「よし!次はこいつらを一人ずつ片付けるぞ!」


 「えぇ。終わらせましょう!」


 そういうと、見ていた亜人達が歓声をあげる。マーデイルはその声を聞きながら、また詠唱を始めた瞬間。

 燃え上がっていた炎を掻き分けるように護衛隊長が飛び出してきたのだ。

 そして既に振り上げていた剣を振り下ろす。

 マーデイルは詠唱の準備に入っていた為に避ける間もなく、左肩から右脇腹へと斬られてしまった。

 声を上げていた獣人達が静まり返る。

 そして、マーデイルは膝をつき、地面へと倒れ込む。

 血の染みが徐々に広がっていく。

 それを見ながら、斬り伏せた張本人の護衛隊長は、バイザーを上げ深呼吸する。


 「はぁ~・・。あー苦し。息が出来ないのが嫌なんだよ。火の魔法ってやつぁ」


 護衛隊長は火の球が当たる直前に息を止め、直撃した後も鎧が熱くなる直前まで燃え盛る炎の中で、マーデイルの隙を窺っていたのだ。マーデイルは、気を抜かず護衛隊長から離れるべきだったのだ。

 だが、ハルガルがもう限界が近いのは見てわかった。人間より丈夫な体を持っていても、無数に斬られ彼の体中の毛は血で真っ赤に染まっている。それが焦りとなり、判断を狂わせてしまった。


 「さて、気を抜かず止めだ」


 護衛隊長が剣を突き刺そうと腕を引く。

 だが、少女がマーデイルを庇う為に飛び出してきた。エルミリアだ。


 「とぉさ、ま!や、やらせないです!」


 恐怖にブルブル震えながらも、マーデイルの前に立ち両手を広げ、護衛隊長を睨んでいる。


 「ほぉ?そのエルフの娘か?美しいな。傷つけるなよ?護衛隊長、ソレは高い」


 商人の声が遠くから聞こえる。エルミリアを品定めしている。


 「わかってますぜ、旦那。おい、そこの虎の獣人。もう諦めろ」


 護衛隊長がそう言うと、限界が近かったハルガルが膝をつく。もはや、血がついていない場所を探す方が早いというぐらい、全身傷だらけだ。

 その姿を確認し、護衛隊長は頷くと獣人達を見る。


 「よし。おまえらも、もう何もするなよ?何もしなけりゃ殺さんから」


 亜人達は次々と諦めていった。膝をつく者、歯を食いしばり拳を固める者、泣く者。それぞれだが、皆が皆、諦めたのだ。抵抗することを。

 

 「ようし野郎ども!最後の仕上げだ。こいつらを馬車の中の檻に入れるぞ。まずはメスからだ。オス共には足枷をし、歩かせる!おい、おまえ、最初はこのエルフの娘を馬車に積め」


 命令された部下の一人はニヤリとして、エルミリアの腕を掴み引きずっていく。


 「や、やだ!やだやだ!とぉさま!とぉさまぁ!」


 涙が頬を流れる。マーデイルはまだ生きている。エルミリアの泣き叫ぶ声に反応して、腕が動いるのがエルミリアには見えるのだ。すぐに処置をすれば助かるかもしれない。だが、誰も助けてくれない。エルミリアも助けられない。戦う力がないから。


 「っへ。まだ息はあるだろうが、もう助かんねーよ。諦めろ。しかし、まだガキだが美人だ。うまそうだ。へっへ」


 「おい。商品だ。手を出すなよ?」


 護衛の一人がエルミリアを馬車へと運びながら、下卑た笑いで話す。そんな姿を商人は見て、溜息を吐く。


 「そりゃあないぜ、旦那!別に殺さなきゃ、俺達で楽しんでもよろしいじゃないですか」


 俺達が楽しんでも売り物に価値はある。と、言っているのだ。

 それを聞き、商人が顎に手をやり、エルミリアの顔と体を見ると、口元が緩む。


 「ふむ。ガキだが美人だ。確かに価値は下がるが、楽しんでもいいかもしれんな」


 「ほんとですかぃ?!さすが旦那だ!」


 「おいおい。だとしても、最初は私からだぞ?」


 「へっへ。わかってますわかってますとも。俺らは残り物で結構ですぜ、旦那」


 笑い合う部下と上司の商人を見ながら、護衛隊長は溜息する。


 「いいから、さっさと乗せろ。日が暮れる前にここを出たいだろ?」


 「わかってますよ。隊長。さぁ、さっさと歩け」


 隊長に答え、急いでエルミリアを馬車に連れて行く。

 馬車の真後ろまで連れて行かれる頃には、商人も護衛隊長もエルミリアから興味を無くし、他の護衛達に指示を出すのに忙しくしていた。

 エルミリアは抵抗するが、腕を後ろで掴まれて逃れる事が出来ない。そして何よりも力が強い。

 エルミリアが嗚咽をもらす。そんなエルミリアの姿を護衛が後ろから眺め、また嗤う。


 「たまらねぇ。無理矢理犯るのが、一番いいぜ。夜に可愛がってやるから、その元気は取ってお・・ぐぅ・・ごぷぉ」


 耳元で気持ち悪く囁いていたのに、急に変な声を出す。そして、後ろで掴まれていた腕が開放された。

 驚いて後ろを振り返ると、口元を抑えられ、首にナイフが突き刺さっていた。

 

 彼だ。ギルが立ったいた。 

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