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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
八章 神の国 下
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弱点

 呆れる程濃密な殺気を俺にぶつけてくる。隠しもしない殺意はいっそ清々しい。

 しかし、俺だって今まで我慢してきたんだ。その上、『殺す』という感情を当てられたら、我慢の限界に達する。

 俺はこの王を必ず殺す。


 「ほう!余の圧力に屈するどころか、殺意を余に返すか!……少々、過小評価していたか?」


 自分への問いなのか、俺へ問うたのかわからない。いや、どうでもいい。どうせ答える気はないし、答える暇があれば一発殴った方が良い。

 ただ、気がかりだ。ホーライとの戦闘を観られていたことが。観られた上でこの余裕が。

 そして、俺は聖王の弱点をまだ見つけていないことも。

 でも、それすらもどうでもいい。早く殺りたい。これが、狂化スキルの影響か。アーサーを馬鹿にできんな。

 俺は聖王の問いに答えず、無数の魔法陣を展開。即発射。

 光と闇属性以外の魔法が聖王へと飛んでいく。

 それを聖王は避けなかった。

 避けようとせず、腕を交差して防御の構えだ。

 防御姿勢の聖王に、火の槍、氷柱、かまいたち、水鉄砲、石礫、電撃が連続でぶつかる。当たる度に轟音、それが三分程続き、砂煙が舞う。

 この魔法だけでも、そこらの城門ぐらいなら突破できる威力があるはずだ。

 ここで一旦魔法を止め、状況を見る。

 砂煙が風に流されて、聖王の姿が僅かに見えた。まだ、砂煙が完全に消えていないが、見る限り聖王は無傷だ。

 チッ、どんだけ硬いんだよ。鱗にミスリルのメッキでもしてんのか?

 聖王は体についた砂を払いながら、裂けた口を歪める。


 「ふはは!面白い魔法だが、少々火力不足だな!ならば、今度はこっちの番というやつだ、小僧」


 砂煙が全て流れると、既に聖王の喉が赤く輝いていた。

 ブレスか!

 俺の魔法を受けながらブレスの準備をしていやがった。

 だが、これだけ近ければ『法転移』も正確だ。先程よりも的確な防御魔法が使える。

 聖王の口元から火が溢れると同時に魔法を展開。

 聖王の目の前に、大きいお椀型の石壁が出現した。

 そこへ聖王の火のブレス。お椀の中へ吸い込まれる。

 それが椀の底に当たり、跳ね返って聖王へ戻っていった。

 ただの壁では上下左右に散らばり防御しかできないが、お椀型なら逃げ道が決まっている分、跳ね返すことができる。


 「ぐおお!く、くはは!小僧、面白いな!殺さなくてはならないのが惜しい」


 当然だが、跳ね返った火のブレスも聖王は無傷だ。

 自分の攻撃では傷はつかないか……。

 さて、いよいよ手詰まり感が出てきた。

 大魔法を使えば傷ぐらいは与えることができるが、準備する隙がない。かといって、このまま小さい魔法を連続で叩き込んだところで倒せるとは思えない。

 一方で聖王の攻撃は、どれも当たれば死ぬ。掠っただけでも大怪我だ。

 まさに絶望ってやつだ。が、それでも俺の気力は萎えない。狂化スキル万歳だ。

 よく視ろ。よく考えろ。まだ、やれることはある。

 聖王の鱗一枚一枚が光り輝いている。やっぱり俺の魔法は物ともしないようだ。

 大きい身体と釣り合っていない巨腕。ブレスも危険だが、あの腕から放たれる一撃が聖王の武器だろう。

 切り落としてやりたいが、体のどの部分よりも硬いときている。防御力、攻撃力ともに申し分ない。完璧だ。

 完璧……?

 なら、何故まだ研究を続ける?

 聞けば、700年という時を生き続けている。奴にとって寿命の延長は成功したのだろう。

 つまり、人にとって、主に権力者にとっての夢である永遠の命は、彼にとって手に入れたも同然なのだ。

 それ以外に何を欲しがる?いったい何を研究している?

 自分よりも優れている次代を作り出す?はっ、まさか!そんな考えを持っているとは到底思えない。

 決めつけは良くないが、十中八九、自分の為だというのはわかる。それに寿命の延長が叶っているのだから、次代を考える必要がない。

 だったら、他に何がある?

 決まっている。まだ見つけていないが、弱点がある。それを克服するためというのが濃厚だ。

 もう一度、奴をよく視ろ。

 容姿を変えたい?いや、ちがうな。そこは重要じゃない。ワニ顔が気に食わないなら美容整形でもしとけ。

 攻撃力?あり得るが、どうだろうか?理由としては弱い。何故かと問われれば、それは聖王が自分の攻撃力を誇っていたからと答える。

 さらなる力を、と考えられなくもないが、俺の魔法壁を一撃で破壊した時のあのドヤ顔は、自分の攻撃力に満足していた。

 満足するものに、さらに付け加えることを人間はしないのだ。どちらかと言えば、満足していないものを克服したいと考えるだろう。

 今はそこを除外して考えよう。他には何がある?

 顔、喉、肩、足と体全体を隅々診ていく。

 ………ん?横腹の鱗に僅かな傷?俺の連続魔法でか?

 よく見れば、胸から下腹部にかけて鱗が小さい。その部分の防御力が弱いのか?その為の研究?可能性はある。

 しかし、なんの魔法でだ?あれだけの数を打ち込んで、脇腹に一つ、それも小さな傷しかない。弱点属性があって、それが偶然ガードをすり抜け、そして弱点部位に当たり傷がついた。そう仮定してみる。

 弱点部位は鱗が小さい胸から腹だろうが、では弱点属性は?

 そこは試してみるしかないか。

 俺はもう一度連続魔法を放つ為に魔法陣を展開。

 聖王もさっきと同じように腕を交差して防御姿勢をとる。

 魔法が魔法陣から飛び出し、聖王の腕へぶつかっていく。まるで動画を繰り返し再生したように同じ展開だ。砂煙が舞い上がるところまで。

 が、その砂煙に紛れて『法転移』した魔法陣を聖王の真横に展開させる。

 火、水、氷、土、雷属性を横腹目掛けて放った後、全ての魔法を止めた。

 さて、どうだ?

 砂煙が晴れ、聖王が無事な姿を見せる。

 もし、俺の考えが正しければ、聖王がこれから発する言葉は余裕を見せる一言だろう。


 「うむ!何度見ても圧巻だ。大抵の者ならば、この魔法だけで圧倒できるだろう。……しかし、余に対しては無駄な足掻きだというのが、これで理解できたであろう?」


 ほらね?

 聖王は同じように体についた砂を手で払う。それは余裕を更に演出するための演技。

 俺には見えてねぇよ。俺が視ているのは、傷がついた鱗。

 氷属性だ。あの部分に当てたのは。

 そうか。考えてみれば、聖王は竜と合成した可能性が高い。それも火竜。もしかしたら、寒さに弱いのかもしれない。

 鱗が小さく、防御力が下がる胸や腹。そこへ火竜の弱点である氷属性の攻撃。

 それが弱点か。はは、皮肉だな。寒い地域に拠点があるというのに。

 突破口が見えてきた。しかし、どうやって攻撃するかだが。

 今までのように遠距離から氷柱を飛ばしたところで、同じように腕で防がれるだろう。『法転移』はまだ数度ならば通用するだろうが、距離感が難しい。

 魔法は魔法陣から飛び出すと加速する。最も加速した時がその魔法の最高威力なのだ。

 火属性の『火の槍』と、風属性の『かまいたち』には関係ないが、他の属性は魔法であっても物理の法則が適用される。魔法は発射して、即最高速度というわけにはいかない。徐々に速度が増してゆくのだ。

 無闇に『法転移』を使えば良いってわけじゃない。

 氷属性『氷柱』も同じで、聖王にダメージを与える速度まで加速させるには、それなりに距離をとって魔法陣を展開する必要がある。

 そんなことをしていれば、すぐに聖王は気づき対策されてしまう。

 とすれば、近接か?

 氷の剣を作り出して直に……。

 一撃が即死の、神経をすり減らす戦いで自殺行為に等しいが、それでもこの方法しかないだろう。

 ったく、少しは楽させろってんだ。俺はどっちかっていうと魔法使い寄りなのに、何が悲しくて近接ばかりしなければならないんだ。

 俺は心の中で愚痴を言いながら、左手の掌に右手の拳を叩きつける。

 抱拳礼のようだが、決して武術の礼をしたいわけではない。これは魔法のイメージだ。

 両手を下ろすと、右手には氷の剣、左手の掌には魔法陣が張り付いていた。

 氷の剣を見ると、聖王は今までのように口元を歪ませて笑うことをやめる。

 どうやら気づいたようだ。


 「これだから知恵がある者は好ましくないのだ。ホーライの考え通り、殺すのが正しいな」


 俺が弱点に気づいたことを。

 俺は言葉は返さずに飛び出す。聖王へ一直線に。

 少々、直線的過ぎる?いや、俺には魔法がある。

 背後にはいつでも魔法を放てるように魔法陣を展開待機。

 間合いまで近づくと、俺は氷の剣を袈裟斬りにするために上段に構える。それを迎え撃つように聖王が右腕を振りかぶった。俺の魔法壁を壊したあの一撃だ。

 そこで魔法陣に魔力を流す。

 準備待機中の魔法陣を完成させると魔法が飛び出す。

 光魔法が。

 眩い光が聖王の目を目掛けて放たれる。

 氷属性だと思ったろ?残念、目眩ましでした!

 たまらなくなった聖王は顔を背けるが、構わず拳を振り抜く。

 俺は落ち着いて、聖王の右腕を左手で優しく触れながらいなして避ける。

 左手で触れた聖王の右腕が氷に覆われる。以前に使った『凍掌』の魔法だ。体全体を凍らせることが出来なくとも、一部なら可能だ。

 そして、右手に持つ氷の剣を聖王の右脇腹に叩きつけた。

 氷の剣が粉々に砕け散るが、聖王の脇腹にも傷がつき血が滲む。


 「ぐぉおお!貴様ぁ!」


 確定だ。聖王の弱点は氷だ。そして、それを克服するために研究を続けてきたのだ。

 あのうめき声を聞く限り、かすり傷のような見た目以上にダメージを与えられたようだ。

 思ったより正面の防御力が弱い。


 「はっ!所詮、お坊ちゃんは殴られ慣れてねぇか!ポンポン痛いでちゅねぇ?」


 「小僧!!!腸を引きずり出し、全て喰らってやる!」


 「ウケる!!こっちこそ、お前の腹ぁ殴り続けて青痰まみれにして、ブルードラゴンにしてやろうか!」


 「おぉおおおおお!」


 叫びながら聖王が拳を打ち下ろす。それを俺は踊るように回転しながら避ける。口元には笑みを浮かべて。

 余裕があるという演技。実際はそんな余裕があるわけがない。何かあると思わせて、追撃させないための駆け引きだ。再び考える時間がほしかったのだ。

 思惑通り、聖王は警戒し追撃してこなかった。これで少し考えられる。少しで十分。こっちで思考を加速すれば問題ない。

 ……氷の剣でダメージは与えることはできる。これが突破口だ。

 とはいえ、一回一回攻撃して剣を砕かれては時間がかかる。

 氷剣を作り出すのは1秒で済むが、そこから攻撃を当てる為に戦い方を組み立て、実行。組み立てに1秒、実行するのに3~5秒。

 最速で5秒だが、裏を返せば連続で攻撃することができないのだ。聖王に竜の因子が入っているのなら、回復力も尋常じゃないはずだ。

 だとすれば、この5秒というのは致命的。いつまで経っても倒すことができない。

 『凍掌』も有効かと思ったが、嫌がらせ程度だ。やはりごく一部を凍らせても意味がない。両手とも氷の剣に切り替えた方がいいな。

 一応、俺の魔法の中に剣を何本も事前に作り出すものがある。遊びで作ったものだが。

 見た目だけはカッコいいんだけど、実際の攻撃は魔法で作り出した剣で殴る物理攻撃だから、結局はそれなりに攻撃力がある金属の剣を使ったほうが有効だと判断して使っていない。

 それがこんな形で役に立つとは……。

 ただ、それにも問題がある。やはりというべきか、準備の時間だ。

 準備に20秒。難しい魔法ではないが、それだけの時間を戦いながら作り出さなければならない。それをあの一撃で全てが終わる中、作り出すのは不可能だ。

 前衛がいる状況を前提に魔法を作っているのだから、仕方がないと言えばそうなのだが……。

 さて、道筋は出来た。だが、切り開く者がいない。どうするか。

 リディアとエル、アーサーはまだ戦闘中だ。勝ちは濃厚だが、戦力をこちらに回すのは無理だろう。安定しているのを、崩すのは良くない。

 となると、俺は俺でなんとかするしかないか……。厳しいな。

 だが、ここで唐突に真後ろから声がした。


 「ギル、手ぇ、貸そか?」


 振り向けば、そこにいたのはティリフスだった。いつの間にか馬車から降り、俺の方へと来ていたようだ。


 「精霊がぁ!余に歯向かうか!」


 聖王が俺に加勢しようとするティリフスに激昂する。

 俺の攻撃で怒った時よりも激しい怒りだ。恐らく、長年囚えてきた、つまり、自分の支配下にいた者が楯突いたことが許せないのだろう。

 何が信仰の国の王だ。所詮は独裁者で支配者じゃないか。


 「だってよ?ティリフス。何か面白いこと言ってやれよ」


 「面白い?!……………そのハードルやとないわ」


 本当は閉じ込めていた聖王に対し色々な感情があるはずだ。だが、何も言わない。多分、ティリフス自身、支配されていたとは思っていないのだろう。


 「っていうかさ、お前役に立つの?ここ数日、全然その兆しはなかったけど」


 「まだ、御者のこと根に持ってるの?!」


 「そんで?」


 「魔法なら」


 魔法使えるのか。だったら、初めから手伝ってくれよ。


 「20秒足止め出来るか?」


 「足止めだけだったらなんとか」


 「頼む」


 「うん」


 ガシャリと鎧を鳴らせると、ティリフスは聖王に近づいていく。

 本当に足止めしてくれるのか。期待はしないほうがいいな。急いで準備しよう。

 でも、精霊が使う魔法か。興味はある。俺の使う魔法とそう変わらないとは思うが……。


 「お前の種族の魔法では、ヒトに勝てんということをわかっているはずだがな!」


 ヒトに勝てない?

 勝手な想像だが、魔法に於いてはヒトよりも精霊の方が得意だと思うのだが。魔法陣に描く呪文にも精霊という言葉が出てくるくらいだし……。何か理由があるのか?

 ティリフスは魔法効果が最も発揮される距離まで近づくと立ち止まり、聖王を指差す。


 「おまえ、ヒトちゃうやろ!!」


 うまい、そのとおりだ。いやいや、納得している場合ではない。

 この会話も含めて時間稼ぎなんだ。急いで準備を進めよう。


 「ふ、ふはは!もう良いわ!貴様はいらん!ここで無へと帰してやろう!」


 そう言えばそうだ。今の会話で察するに、この駄精霊は聖王のところでも役にたたなかったようだし、ずっと捕らえている必要はなかったはずだ。

 これが終わったら詳しく聞いてみるか。何故、700年も囚われることになったのか。

 聖王がティリフスに近づくため一歩を踏み出す。更にもう一歩。

 だが、二歩目が出ることはなかった。

 よく見てみると、聖王の足に何かが絡みついている。

 あれは……、草?いや、木だ!

 聖王を引き止めるように、木が足に絡みついて引っ張っている。


 「ええい!小賢しいわ!!」


 それを聖王は力任せに引きちぎり、また一歩進んだ。が、すぐに木が生え、それがまた足に絡みつく。


 「煩わしい!!この程度では余の歩みは止められんというのが、わからんのか!!」


 絡みつく木を無理矢理引きちぎり、また絡みつかせるのを何度も何度も繰り返した。

 あれが精霊の魔法か。木の魔法?面白い!まるで、ファンタジーじゃないか!

 十分だ!十分な時間を稼いでくれたよ!

 魔法陣の構成は完成した。


 「ティリフス、完成したぞ!離れろ」


 俺の声にティリフスは慌てて俺の後ろへと走っていく。

 本当は怖かったんだろうなぁ。でも、助かった。仕返しは俺がしてやるよ。

 出来る限りの魔力を魔法陣へと流し込む。そして、魔法は発動した。


 「氷の領域で剣を持つ鬼となろう!『青蓮剣林(しょうれんけんりん)』!」


 雪がちらつき大地が白く染まり始める。

 次には吹雪になり、視界が白一色に染まった。すぐに弱まり視界が戻ると、そこには凍った地面に三百近い氷の剣が突き刺さっていた。

 氷の大地に剣林が氷樹の如く現れたのだ。

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