表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
八章 神の国 下
106/286

英雄の実力

 俺たちを見張っていた監視がいなくなった。ということは、俺が予想していた通りならば襲撃者がもうすぐ到着するはずだ。

 いつでも戦闘をする覚悟はあるが、半魔たちはこの場から離す必要がある。

 半魔たちも戦いに参加させることを考えたが、既に死んでいることになっているのであれば、わざわざ相手に教えてやることもない。

 この辺りはまだ寒く、馬車に乗っている人間全員がフードを深く被っていても、寒さを駕いでいるように見えることも都合が良かった。全員にどんな時も顔は出さないように徹底させていたから、正体はバレていないはずだ。これには俺たちやルカ、クレストも含まれている。寒さを駕ぐ演技は全員がやってこそ意味がある。

 そして、監視には俺たちが商隊に参加させてもらったように思えるやり取りまでしてある。ここでいなくなっても、相手からしたら都合が良いとしか思わないだろう。

 ここまで準備したのだから、それを無駄にすることもない。

 ならば、予定通り襲撃者がここに来るまでに半魔を逃がす。


 「よし!襲撃されるぞ!ティア、クレスト、ルカ、三人で半魔たちを遠くに行かせろ!」


 クレストとルカは半魔ではなくても、ここにいてはいけない人物だ。そうでなくとも、ルカは戦闘できないから邪魔だし、クレストには護衛をして貰う必要がある。半魔たちと同じく、この場から離れてもらった方がいい。

 ルカとその姉であるティア、そして半魔たちは心配そうに戦闘準備をする俺たちを見ていて、馬車を進ませることを躊躇している。戦いに参加した方が良いのではと考えているのだろう。


 「心配なのはわかるが、はっきり言って邪魔だ。強さは認めるが連携が出来ないならいるだけで邪魔になるし、守る対象が増えると気が散る。さっさと行ってくれ」


 俺がそう話すと、ようやく決心がついたのか馬を進ませた。

 半魔たちを先にオーセブルクに行かせるわけではない。少し離れた場所で待機してもらうのだ。

 近くにいるのは危険だが、これには理由があるのだ。予想だから理由は話していないが。


 「行きましたか?」


 戦闘準備を済ませたリディアとエルが戻ってきた。


 「ああ、深刻そうな顔してたよ」


 「何もしないのは、つらい、です」


 エルが表情を暗くする。

 エルと出会った村で、エルを助けた時に自分は何も出来なかったことを思い出したのだろう。あの時の悔しさを知っているから、戦うことも出来ずにこの場から離れる半魔たちに同情しているのだ。

 俺はエルの頭を優しく撫でてやる。エルは既に戦う力を持っているのだから、半魔たちの気持ちまで気にすることはないのだ。


 「まあ、今回は俺たちで助けてやろうじゃないか。そうすれば、次はあの半魔たちが誰かを助けてくれるからさ」


 そう言うと、エルは小さく頷いた。


 「なぁ?ウチは?ウチはなんでここに残されてるん?戦闘に巻き込まれかもしれへんやん」


 残った馬車一台の荷台からフードを深く被った鎧が覗いている。


 「俺たちは一蓮托生だろ?」


 サムズアップして爽やかな笑顔を見せてやった。

 その後、ティリフスと10分近い口喧嘩をしたのは言うまでもない。



 砂煙が遠くに見えた。おそらく、襲撃者たちの走らせる馬が巻き上げたのだろう。

 しばらくすると姿が視え、かなり人数がいることがわかった。

 馬が4頭。そして、2頭立て馬車。

 馬車?なんで馬車なんか……。それも貴族とかが乗ってそうな良い物だ。

 まあ、それはいいとして、単純計算で4人+御者+馬車の中にいる人物。6~10人ってところか。

 人数としては少ないと思えるが、精鋭ならこれだけでも多いと言える。そして、その中に英雄クラスのホーライもいるはずだから、全力に近いだろう。

 やり方を間違えたら敗北するかもしれない。

 そんなことを考えていると、あっという間に襲撃者たちは俺たちの所まで来た。

 速過ぎだろ。と思ったが、馬じゃない。なんか……、竜っぽいのに乗っている。馬より速いのかな?

 先頭にいた人物が近づいて来た。


 「ほぉ!これはこれは都市代表殿!こんなところで会えるとは思わなかった!」


 ホーライだ。わざとらしく驚いている。


 「我々は誘拐犯を追っているのだが、代表は心当たり――」


 どうやって俺を犯人に仕立て上げるのか気になったが、俺としてはさっさと終わらせて、早くオーセブルクに戻り一杯やりたいんだ。長話に付き合う気はない。

 俺はホーライの言葉を遮る。


 「はいはい。何を言いたいのかわかってるし、お前の考えは正しい。とにかく、殺りあお(たたかお)うや」


 「……貴様ぁ」


 謁見の時から俺の態度には我慢していたのだろう。隠しきれない殺意が辺りに漂う。

 それと同時にホーライが連れて来た馬車が激しく揺れ、笑い声と手を叩くような音が聞こえる。

 誰だよ、こんな険悪なムードで大爆笑するヤツは。

 ホーライも今まで怒り心頭だったのに、馬車の方を見ながら溜息を吐いている。

 …………まさかな。

 ある考えが脳裏に浮かんだ。ホーライは法国に数多くいる司祭の頂点。そんな男が笑っている人物に何も言えず、溜息を吐く程度で済ませるだけ。

 いや、何も言えない人物が乗っている?法国に貴族は存在しない。つまり、ホーライが何も言えない人物は一人だけしか……。

 だとすれば、都合がいい。いや、それは後で考える。それよりも竜のような騎乗動物に乗っていることを気にしたほうが良い。明らかに戦闘も出来そうだし。

 さて、どうするか。相手が油断しているうちに魔法で潰した方がいいか。

 俺が魔法陣を作り出そうとすると、それを予測していたのかホーライが竜から降りる。


 「おっと、騎竜を殺されてはかなわん。全員降りよ!」


 騎竜っていうのか。いいな、ソレ。俺の魔法で落馬(落竜?)する姿を見れなかったのは残念だが、自分から降りてくれるなら、魔力の無駄遣いしなくていいや。

 竜から降りるなり、騎士たちは抜刀した。

 やる気十分というところか。

 俺たちの作戦は簡単だ。俺がホーライの相手をし、リディアとエルが他の騎士共を倒す。気をつけるのは混戦しないようにすること。

 俺はリディアとエルから離れるように歩く。

 すると、ホーライともうひとりが俺についてくる。

 二人か。あれがホーライの()()ということか。

 ん?っていうか、この騎士って……。


 「女か」


 「不満ですか?」


 つい口から出てしまった。それを馬鹿にしたと思われてしまったのか、女騎士は少し怒りのこもった声を出した。

 その声……。俺とリディアを案内したローブを着た女か!


 「いや、ここにいるだけでその実力はわかる。それより、久しぶりだな。先日の案内ご苦労だったな」


 俺が案内されたことへの礼を言うと、女騎士は少し驚いた表情をした。


 「わかるのですか?顔は隠していたはずですが」


 「わかるさ。その声でな。名は?」


 「ディーナ」


 「ディーナか。死ぬ覚悟は出来ているか?」


 俺の質問に、ディーナは背負っていたカイトシールドを左手に持ち、腰に佩いたショートソードを抜いた。


 「騎士になったその時から」


 その答えに俺は満足して頷く。


 「騎士長!無駄話しするんじゃない!」


 気分良く美人と話していたのに、ホーライの叫び声で台無しだ。っていうか、ディーナは騎士長だったのか。道理で歩き方に無駄がないわけだ。

 まあ、確かに無駄話するのは俺らしくないな。

 俺も刀を抜き肩に乗せると、指をクイッと曲げて指招きをする。


 「かかってこい。皆殺しだ」


 この言葉が戦闘開始の合図になった。

 ディーナが盾を構えながら走り出し、ホーライが魔法の詠唱を始める。

 ふむ。ディーナはオーソドックスなスタイルのようだ。盾で攻撃を受け、その隙を剣で攻撃する。基本の基本だが、それだけに無駄がなく手強い。

 ホーライは距離をとって魔法を使う後衛ポジション。詠唱と手書きのスタイルで、魔法の完成は速そうだ。どんな魔法を使うのかはまだわからないが、倒すなら先にホーライからか?

 どっちにしろ、近づいてくるディーナが邪魔だ。魔法で吹っ飛ばすか。

 魔法陣を無数に展開。即放つ。

 火、水、風、土属性の魔法が魔法陣から飛び出す。

 ディーナが一瞬驚いた表情をするが、すぐに勇ましい表情に戻ると更に速度を上げて接近しようとする。

 ただ、さっきと違うのは一直線に来るのではなく、魔法を避けるように回り込む動きだ。

 避けながら接近しようっていうのか?甘い。

 俺は回り込もうとする動きを先読みして魔法を置き撃ちに変更。

 魔法がディーナに吸い込まれるように向かっていく。

 が、魔法が当たることはなかった。

 直前で石壁が現れたのだ。

 ホーライか!

 チラリとホーライの位置を確認すると、いつの間にか移動しており、ディーナを追うように走ってきていた。

 動ける魔法使いかよ。伊達に英雄と言われてないな。詠唱の隙に狙い撃ちは出来ないか。

 仕方ない、接近戦でディーナを相手しつつ、隙を見つけてホーライに魔法攻撃をするか。

 ホーライが作り出した魔法の壁は、俺の近くまで伸びていて、ディーナが走ってきているはずだ。飛び出してきたら、物理で迎撃する。

 だが、盾が邪魔だ。斬ることが攻撃手段の殆どである刀と相性が悪い。となれば、突きだな。

 下段か霞の構え……、防御重視で霞の構えだ。

 俺はその場で腰を落とし霞の構えをとった。それと同時にディーナが壁から飛び出した。

 盾で隠れていない部分を突くために狙いを定める。

 しかし、突きをすることは出来なかった。

 魔法の壁が崩れ、その瓦礫が散弾のように飛んできたのだ。

 ばっ!防御が終わったら、攻撃に転じる魔法?!

 刀で弾くか?いや、その隙をディーナに狙われる。くそっ!魔法だ!


 「『ファランクス』」


 一瞬で石の槍が何十本も俺を守るように現れる。それと同時に石と石が打つかる重い音が何度も響いた。

 どうやらギリギリ間に合ったようだ。ディーナが『ファランクス』に突っ込んで死んでいてくれたら儲けものだが、そんなに甘くないだろう。

 小さい石は槍に当たらず、すり抜けて俺まで届くがこれぐらいならダメージはない。

 音が止むと、俺は槍の隙間から周りを確認する。

 やはりというべきか、ディーナは止まっていた。ご丁寧にキッチリ盾を構えている。これでは魔法で反撃しても防がれるだろう。

 俺は『ファランクス』の魔法を解くと、ディーナから距離を取る為にバックステップ。

 が、背中に硬い感触。逃げようとする方向に新たな石壁が出来ていた。

 マジか!行き止まりに早変わり?!違う方向に……。

 逃げる方向を探そうと視線を動かすと、ディーナが目前まで迫っていた。いや、既に攻撃をするために踏み込んでいる。

 やっべ。

 落ち着け。まだあわてるような時間じゃない。思考を加速しろ。


 俺はディーナを視る。

 半身になり銀色に輝く盾を構えている。肘が上がっていて、切っ先をこちらに向けている。斬る動作ではない。突きだ。視線は下で、右寄り。左足狙いだろう。

 視線を動かしホーライを視る。

 ホーライの口も腕も動いていない。魔法陣もない。魔法が発動した直後だから次の魔法への準備が出来ていない。

 ディーナの攻撃を避け、反撃。同時に魔法でホーライに攻撃。

 成功率、回避90%以上、攻撃、情報不足で計算出来ない。攻撃は無駄になる可能性が高いか。が、やらないよりマシ。


 ディーナが強く踏み込むと同時に、今思考した事をトレースするように動く。

 読み通り、左足狙いの突き。それを右に避け、更に踏み込む。盾からはみ出ているディーナの頭に刀で斬りつける。同時に魔法陣を展開、発動。ホーライへ連続魔法を飛ばす。

 斬撃はディーナが盾を少し上げただけで防がれた。

 だが、本命は魔法攻撃。ホーライを倒せれば後は楽になる。

 ホーライは魔法を準備していない。狙いもバッチリだ。間違いなく当たる。

 しかし、ホーライに当たる直前で、石の壁がせり上がってきて全ての魔法が防がれた。

 マジか!無詠唱?!いや、考えるのは後だ。今は距離を取る。

 俺はディーナの盾に前蹴りをする。

 それをディーナが防ぐ。しかし、それも計算の内。反動で逆側に飛んで距離を取ることに成功した。

 ふぅ、危なかったな。しかし、ホーライは無詠無手陣展開が出来るのか?いや、それなら初めからしていれば、既に決着はついていた。だとすれば、防御限定?それが正しければ……。

 マジックアイテムだな。

 杖か、アクセサリか?カマをかけてみるか。


 「やるじゃねーか。まさかマジックアイテムまで用意しているとは思わなかったぞ。俺を強敵だと認めてくれたってことか?」


 俺が口元を歪めて、余裕をアピールしながら話すと、ホーライは見るからに不機嫌そうに舌打ちをした。


 「この化物め。勇者クラスと賢者クラスを相手にその立ち回り、貴様はいったい何者だ?」


 望んだ答えではなかったが、大体当たってたっぽいな。っていうか、今化物って言ったか?

 それより、ディーナは勇者級なのかよ。強いわけだ。

 ディーナを見ると、ディーナは俺ではなく違う方向を見ていた。若干、驚いた表情をしている。

 なんだ?戦闘中によそ見?リディアとエルの方向?

 俺もつられるようにそちら側に視線を動かした。

 リディアとエルは戦っていなかった。というより、リディアたちが相手をする予定の騎士たちが動かなかったようだ。

 おそらく、俺の戦いを見ていたのだろう。んーだよ、その隙にエルがボウガンで頭ぶち抜けば終わってたじゃんか。

 後でしっかり教え込まないと……。いや、駄目か。俺以外のメンバーはなんだかんだ言って正々堂々な戦い方だからなぁ。

 いや、それよりも、ディーナが見ていたのは多分あいつだ。

 

 馬車の中にいた人物が降りていたのだ。その人物をディーナが見て驚いたのだろう。リディアやエルも驚いているが、他の騎士共にリアクションがない。馬車に乗っていたのがどんな人か知らなかったのは、俺たち以外ではディーナだけだったようだ。

 いや、人ではなかった。魔物だ。

 ワニのよう顔。鋭い目と牙。鋼よりも硬そうな輝く鱗に太い尻尾。丸太のような手と足。

 リザードマンのような姿をした、おそらく男が馬車から降り、俺の方を見て拍手しながら「素晴らしい!」と叫んでいた。

 でけぇな。俺が馬に乗ったぐらいの身長がある。


 「リザードマンでしょうか?」


 リディアが俺と同じ感想を抱いたようだ。質問ではないが、口から出てしまったのだろう。

 それが聞こえていたのか、その魔物は先程にも馬車から聞こえてた笑い声をまた上げた。


 「ふははは!せめて竜人と言ってほしいものだな!」


 ……竜人ねぇ。あの野郎、自分の体を改造していたってわけか。

 そいつは両手を広げながら、ゆっくりと歩き出す。


 「些か無礼ではあるが……、良い!許そう!面白い戦いをしてくれた礼よ!」


 竜人が睥睨するように見渡すと、騎士たちが一斉に跪く。

 やはり、俺の考えは間違っていなかったようだ。あれが……。


 「余が聖王である!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ