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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
八章 神の国 下
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女神エステルの正体

 俺はどうしてこうなったのかと悩みながら、明かりのない螺旋階段を上っていた。ただ、依頼達成の報酬を貰うためだけだったのだが。

 なんでも、女神とかいう怪しい奴が、城の四角にある塔のどこかにいて、そいつが俺に会いたいと言い出したのだそうだ。

 俺はこの話を聞いた時、ホーライの様子がおかしいのはこのせいだと理解した。エルのことも詳しく聞かなかったし、陥没穴での話も思いの外突っ込んで聞いてこなかった。

 まあ、それが嘘か本当かわからないし、罠の可能性だってあるのだから断るのが正しい選択だ。

 しかし、だ。もし神という存在に会うことが出来るならば、是非とも会っておきたい。俺の知識欲が会えと言っているのだ。だから、仕方がない。

 ということで、俺はこの誘いに乗ることにした。嘘だったらホーライを殺してもいいし。

 それに情報は多い方が良い。更に言えば、その神とやらも暗殺対象になるかもしれないしな。

 それで了承したら、御簾の奥にある扉へと案内されたのだ。案内役はホーライがしている。

 ちなみに神が会うのは俺だけらしく、リディアとエルには先に宿へ戻ってもらった。もちろん、残りの報酬を貰ってね。

 御簾の奥にある扉に入る時、ちらっと聖王がいるはずの簾の中を見てみたけど、やっぱりいるかどうかわからなかった。簾の構造上、近くに行けば行くほど中の様子が分かるはずなんだがなぁ。覗きの対策は万全ということか。

 それで扉に入ると一本の通路があり、それを進むと今度は道が左右に分かれていた。

 ホーライは何も言わず右へと曲がる。

 ということは、左は聖王の寝室だな。よしよし、これは良い情報を手に入れたと思ったのだが、ホーライに着いていくと窓が一つもない階段があったのだ。

 ホーライは俺に何も説明せず、ランタンに火を灯すと黙って上っていくから置いていかれないように後をついていって今に至るわけだが。


 「そろそろ説明を求む」


 俺が話すとホーライはひとつ嘆息すると上る足を止める。


 「説明することなどない。女神様が会いたいと言った。だから、案内するしかない。それだけだ」


 それだけ言うとまた階段を登り始めた。

 ちっ、溜息を吐きたいのはこっちだっつーの。

 ふーむ。今の言葉から察するに、本当は会わせたくないということかな。だけど、女神の命令に背くと都合が悪くなるから、嫌々だが従っているというのだろう。推測するには情報が足りないが、恐らくそう遠くないはずだ。

 しかし、態度わりーなこいつ。


 「おいおい、聖職者のわりにずいぶんと態度がわりーな。それが本来のお前か?」


 「ふん、元々は武人だ。人前や信者の前でないなら気を使わなくてもよかろうよ」


 おい、俺がいるから人前だろうが。後ろから刺してやろうかな。

 だが、まだその時ではない。落ち着け、落ち着くのだ俺の右手。

 心の中でそう何度も念じると、刀に右手が行くのを落ち着かせることに成功した。だが……。

 チャッキン、チャッキン。

 俺の左手が鯉口を切り、鞘に戻すのを繰り返して音を鳴らしていたのだ。

 しまった。無意識にやっていたとはいえ、相手を挑発する行為を左手が勝手にしていたようだ。まぁ、この世界で武士の作法なんぞないと思うし、俺が暇で音遊びしているようにしか見えんだろうからいいか。


 「好戦的だな」


 やっべ。何となく雰囲気が伝わったみたいだ。うーん、やはり俺も狂化スキルの影響が出ているみたいだ。日本にいた頃はこんなに好戦的じゃなかったのに。


 「何も説明されずにこんな怪しい階段を上らされてだ、更に横柄な態度をされたら誰でも好戦的になるだろう」


 こう言い訳するしかないな。


 「ふん、説明などできぬのだ。女神様の意思など我々が理解できるはずもない。だが、態度は諦めてもらうしかない。これが儂の本質なのだし、それに貴様も不遜な態度だろう?」


 舐められない為にわざとこういう態度にしているんだよ。これでも地球では部下を持つサラリーマンだ。礼儀にはうるさいんだぞ。

 と、言えればどんなに楽か。無理矢理植え付けられたスキルのせいか、俺の本質が元々こうなのかはわからないが、この態度を直す気になれないんだから仕方ないだろ。

 なんせ、少しでも遜ると貴族やらが調子に乗るし、それで俺や仲間たちが嫌な思いをすることは避けたい。

 じゃないと、本当に片っ端らから殺しかねない。手が出ないように口を出しているのだ。

 命拾いしたな、感謝しろよ?まぁ、いずれこいつは殺るけど。


 「わかったから、さっさと行け。俺は暇じゃねーんだぞ」


 「チッ」


 舌打ちしたな?

 チャッキン、チャッキン。

 そうして、階段を上り切るまで鯉口を鳴らす音が止むことはなかった。



 「ここだ」


 階段を上り切ると目の前には鉄の扉があった。ホーライは扉の横に立ち、俺に入れと言っている。

 マジか、ふつーに罠っぽいんだけど。


 「閉じ込める気か?」


 「ほう?その手もあったな」


 俺が殺気を込めながら聞くと、ホーライも殺気を隠しもせずにこう言いのけた。

 マジでこいつ、二人になってから殺意を隠す気がないな。


 「安心しろ。貴様の死体なんぞ女神様もみたくはないだろうからな」


 ホーライが嘘を言っている気配はない。

 まあ、閉じ込められたら破壊すればいっか。

 俺はひとつ息を吐くと鉄扉の中へと入っていった。

 そこは異様な場所だった。

 黒に白い線が入っている部屋。とはいっても、壁紙や色を塗っているのではない。

 窓から差し込む光が部屋の中心に白い線を引き、その僅かな光のせいで周りの影がより一層暗くなっているのだ。

 そして、もっとも異様なのは鉄格子。何より、その鉄格子には出入り口すらないのだ。

 いったい何のためにこんな物を?


 「入って、扉を閉めて」


 部屋の奥から透き通るような声がした。鉄格子の向こう側だ。

 誰かいるのはシルエットでわかるが、残念ながら暗すぎてはっきりとはわからない。

 あれが女神か?

 俺は言われたように扉を閉める。すると、奥にいる人物が鉄格子の方へと歩いてきた。

 そして、窓から差す光でその姿がはっきり視えるようになる。

 鎧だ。

 漆黒の鎧の着た存在がそこにいた。真っ黒な鎧に金の線が入っていて、見るからに高級な鎧だ。全身鎧で顔までご丁寧に隠れている。


 「お前が、女神?」


 「ほう?落ち着いているな」


 落ち着いているっていうか、呆然としているというか。

 鎧の中から聞こえる声で女性だと分かる。だけど、それだけでこいつを女神だとは到底信じられない。


 「で?女神か?」


 「女神……か。ふむ、まあ、そう言われているな」


 少し含み笑いするような言い方だ。馬鹿にするような笑い方ではなく、まるで自嘲するような。

 とりあえず俺の質問には答えてくれるみたいだ。こいつは俺に用があるようだが、聞けることは聞いておきたい。


 「それはどういった意味だ?」


 こいつの言い方は勝手に法国の連中が女神だと言っていると聞こえる。そうだとしたら、法国の信者共は女神でもない奴を崇めているということになる。

 これは法国に対する武器になるか?いや、駄目だな。何故ならば誰も信じないからだ。だが、何が有益な情報になるかわからない今は、何でも良いから疑問に思ったことを口にするべきだな。


 「さてな、そんなことはどうでもいい」


 そう思って聞いたが、正直に答えてくれないみたいだ。

 だが、女神が指でこっちに来いとジェスチャーする。

 何だって言うんだよ。罠かもしれないから、あんまりそっち行きたくないんだけど。

 しかし、その後のジェスチャーで俺は考えを改める。

 鎧は指を耳に持っていきコンコンと叩いた後、その指を下に向けたのだ。

 つまり、ここでの会話は聞かれている。そう言いたいんだな?

 俺は頷くと、鉄格子に近づく。

 すると、鎧が鉄格子を指で弾くと、この距離でも耳を澄まさなければ聞こえない音量で話しだした。


 『よくぞすぐに理解してくれた。礼を言う』


 やはりか。しかし、ここまでしなければ聞かれてしまうのか。


 『ここまでする必要はあるのか?』


 『間違いなく聞かれている』


 ふむ。つまり、前にもこんな会話をしたことがあって、その内容を聞かれていたと。

 鉄格子を指で弾くのは、声より大きい音を出して会話を隠そうとしているのか。


 『察したか。頭が回るな』


 『そりゃ、どうも。それで何が言いたいんだ?』


 『少し待て。会話に合わせろよ?』


 『何言って……』


 何いってんだよ?そう聞こうとしたら、鎧が元の音量に戻して俺に話しかけてきた。


 「それはどうでもいい。それよりも貴様と普通の話がしたい。それだけだ」


 なるほど、カモフラージュか。元の音量で話すのはどうでもいいことで、小声で話すのは大事なこと。うわー、かなり面倒臭いな。そこまでする義理もないんだが。初対面だし。

 だが、仕方ないか。情報が手に入るならこれぐらいは付き合うとしよう。


 「そんな義理はない。が、良いだろう。俺は今機嫌が非常に悪いからな。その機嫌を直すために無駄話してやる」


 俺の性格ならこのぐらいの態度の悪さでいいだろう。


 『それでいい。では自己紹介といこう。ワタシの名はティリフス。精霊だ』


 こうして俺と鎧のちょっとややこしい会話が始まった。



 この鎧は女神ではなく精霊種で、名前はティリフスというらしい。

 俺は精霊という種族に会ったことがない。というか、中級魔法を使う時にぐらいしかその文字を見たことがない。さらに言えば、中級魔法を殆ど使わないから、精霊から力を借りたことがないのが現状で、つまりは精霊のことを全くと行っていいほど知らないのだ。

 妖精と何が違うのかと、ティリフスに聞いてみたら、馬鹿にするように鼻で笑われた。

 いや、地球のファンタジー作品に出てくる精霊のことは知っているんですよ?あれでしょ?シルフとか、ウンディーネとかでしょ?

 そうではなく、この世界の精霊種という種族について聞いたんだが……。まあ、ティリフスも俺の事情は知らないのだから仕方ないか。

 それで、精霊種というのは大昔には普通によくいた種族らしい。

 今ではこのティリフスの他には数えるほどだとか。つまり、絶滅危惧種だな。


 『それで、どうしてその精霊がこんなところで、それも鎧なんだ?元々が鎧なのか?』


 『大昔に捕まったのだ』


 ティリフスは今から1000年程前にある男に捕まり、精神だけを抜き取られて閉じ込められたそうだ。それだけではなく、逃げられないようにこんな牢屋のような場所に入れられたのだとか。

 その男というのが、初代法国の聖王だ。

 それから、ずっと歴代聖王の相談役として過ごしているらしい。


 『じゃあ、その鎧の中には何もないのか?』


 『そうだ』


 『ふーん。それで?どうして俺なんだ?』


 ティリフスは指が入るぐらいの細く、縦に長い窓からしか外の景色をみることができない。つまり、そこから覗いて俺を発見したのだが、何故俺を選んだのかというのがわからない。


 『知力が高かったからだ』


 『……ステータスが見えるのか?』


 すると、ティリフスは頷いた。

 頷けるんだ?中身がないのに。


 『しかし、疑問だな。なぜ知力が高い奴を選んだんだ?』


 『前は力のある者だったからだ』


 ティリフスとの会話は難しいんだよ。言葉が足りないから、細かく質問しないと上手く返事が帰ってこない。それに少し訛りがある感じだし、この国の言語ではないのかな?だから、翻訳機能が訛りとして表現しているのかもしれない。

 うーん、前は力、つまり筋力の高い人物と話したから、今回は知力の高い俺とということか。

 話が見えてこないな。ズバリ聞くか。


 『で?何を話したいんだ?』


 『正確には話したいのではなく、やってもらいたい、だ』


 まさか……。


 『それは、だな。お前に――』


 『ちょっと待て、考えさせろ』


 俺はティリフスの言葉を遮って話を中断させた。

 考えたい。

 …………これはやべぇ依頼のはずだ。

 俺は考えている間、ティリフスとどうでもいい会話を続けた。

 おそらく、やってもらいたいことはアレだな。さて、どうするか……。

 メリット、デメリットを考えた結果、受けていいと判断する。

 だが、気になることもある。


 『その依頼を聞く前に質問がある』


 『なんだ?』


 『前回の奴はどうだった?』


 『………来なかった』


 『あとひとつ。この話を受けたの奴は何人だ?』


 『4人』


 『わかった、もう少し考えさせろ』


 来なかった?話はしたんだよな……。ということは、まずいな。対策は……、これでいくか。

 俺はティリフスの前に指一本を出してから、頷いた。

 それを見たティリフスは意味がわからないのか、首を傾げる。

 ふむ、見えているのは間違いない。精神だけ抜かれた精霊がどういう風に見えているのかわからなかったからとりあえず試してみたのだが、問題なさそうだ。

 次は指を2本にしてから、首を横にふる。

 そうすると、ティリフスも理解したのか、頷きながら指を一本出したのだ。

 理解したな?

 そう、これはYES、NOの合図。指一本はYESで、二本はNOだ。

 何故こんなことをしているのかというと、前回来た奴も今の俺と同じように会話したのだ。この会話を聞いている奴に聞こえないほど小声で。

 そして、力のステータスが高いその人物は、おそらくYESと言ったのだろう。だが、()()()()()のだ。

 そいつがやっぱり無理だと後になって感じただけかもしれないが、俺はこの小声での会話も聞かれていると判断した。

 4人が依頼を受けていて、この精霊がまだここにいるということは、そういうことだろう。


 『よし、続きを話してみろ』


 『ワタシをここから出してほしい』


 『断る』


 俺はそう言って指を一本立てたのだった。

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