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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
八章 神の国 下
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謁見、再び

 陥没穴から法国まで戻ってきた俺達は、疲れを癒やすために宿屋に一泊し次の日、聖王がいる城に早速向かっていた。

 聖王を殺すという選択をしたが、殺る前に貰えるものは貰っておかねばならない。これは正当な報酬だからな。

 依頼内容は陥没穴に巣食う魔物の殲滅。

 現在、陥没穴には魔物の姿はない。半魔たちならいるがな。それにもう少ししたら、半魔たちすらあそこからいなくなるのだから問題ない。

 つまり、依頼完了だ。ふはは、嘘は言っていないだろぅ?これも俺達を嵌めた罰だ。残りの金は頂く!


 「ギルお兄ちゃん、怖い顔しています」


 む、顔に出ていたか。いかんいかん、気をつけねば。


 「それにしても、エルを連れてきてよかったのですか?ギル様」


 「仕方ないだろう。なんせ、スパールがいないんだからさ。あのじじい、俺達を待ちきれずに帰りやがって」


 元賢者のスパールは、俺達と共に法国へ来た奴だ。だが、スパールの役目は勧誘で、その仕事が終わったから俺達の本拠地であるオーセブルク迷宮都市へ帰ると、宿屋に伝言を残していた。

 聖王暗殺計画に手を貸してほしかったんだがなぁ。

 それよりもエルのことか。

 法国はエルのようなエルフを含む亜人を差別対象にする国だ。くだらないとは思うが、どの世界、どの時代でも差別は存在するし、それを正すことは非常に難しい。それこそ、俺一人が躍起になったところでどうにもならない。

 リディアはそんな差別対象であるエルを連れてきてよかったのかと聞いているのだろう。


 「気にすることはないさ。スパールの奴隷だと話を通しているし、それを借りたことにすれば問題はない。それよりも、宿で一人にするほうが危険だろう」


 「そう、ですね」


 法国の住民たちに嫌な視線で見られているが、エルに気にした様子もないしな。

 俺や仲間たちがエルを大事にしている。それでいい。


 「はー、お城、楽しみです」


 「そういえば、エルは見てなかったな。大したもんじゃないぞ?」


 「そうなんです?」


 「そうそう。俺達の村の方が全然良いし、何よりあの城は臭ぇ」


 「臭い、です?匂いです?」


 「んー、感覚の話だ。今のは気にしなくていい」


 半魔たちと出会ったからかもしれないがあの城、いや、この国は臭すぎる。腐った人間の匂いがそこら中からする。


 「とりあえず、エルは城の中に入ったら話すなよ?」


 「はいです。んふふ」


 「り、理解しているのでしょうか?私は心配です」


 エルがニコニコしながら俺とリディアに並んで歩く。何もわかってなさそうなエルの様子にリディアが心配するのも無理はない。

 奴隷として連れてきていて、もし俺と大司祭が会話している最中にエルが発言でもすれば、それこそ問題になる。

 それを機に色々と吹っかけてくる可能性があるからな。それこそ、俺達を亜人に肩入れする者達としてその場で敵対行動を取られることもあるかもしれん。

 まあ、そんなことはさせないがな。


 「大丈夫だろ。それにエルはただ俺達と出歩くことが嬉しいだけだろうし」


 それに、だ。報酬を渡されたら、はい、さようならって可能性もあるんだからな。

 最悪なのは、やはり謁見の間に通された上で、陥没穴での出来事を事細かに説明させられることか。一応、証拠を持ってきてはいる。が、あまり見せたくない物だし……。


 「たしかにここ最近エルとは別行動が多かったですが……」


 法国に来てから殆どエルと一緒に行動していない。陥没穴にいる時だって、食事と寝る時以外は俺やリディアから距離があったしな。

 こうやって魔物が出ない街で一緒に歩くことが嬉しいんだろ。


 「まあ、任せておけ。問題が起きても皆殺しにすりゃいいし」


 「……はぁ、ギル様の方が心配かもしれません」


 失礼な。まあ、リディアの気持ちもわかるけどさ。聖王を始末するにしても、俺達が犯人だってバレることは避けなければならない。

 今の俺達なら生き残るかもしれんが、オーセブルクの村は壊滅することになるだろうしな。そうなれば、魔法都市計画も頓挫する。魔法都市の為に金を稼ごうとしているのに、それでは元も子もない。

 宗教団体を敵にまわせば、自らの命すら捨てることをなんとも思わない連中と戦わなければならないのだ。それも、その数が尋常じゃない。

 世界各地にいるエステル教徒が、俺達を殺そうと一斉に行動しはじめるのだ。どこにいようと、何をしていようと、常に狙われながらなんてそんなの面倒臭すぎる。

 だからこそ、今回の依頼達成の報告ではおとなしくするのが一番だ。

 聖王を殺すのは確定だが、できれば、犯人が判明しない暗殺が好ましい。


 「まあ、任せておけって。ほら、もう着いたぞ」


 いつの間にか、城の前に到着していた。


 「わかりました。どちらにしろギル様にお任せするのが確実なのも確かですから。では、行きましょうか」


 そうして俺達は城内へ入っていった。



 結果から言えば、最悪だった。

 報酬を貰う前に謁見の間に通されることになったのだ。可能性のひとつとして考えていたことだが、こうも当然のように最悪な方へと事が運ぶならば、報酬の受け取りは後回しにすればよかったなぁと思ってしまう。

 その上、以前と同じように城内をぐるぐると長時間歩かされるのだから、小言の一つでも言いたくなる。

更に、だ。今回は同じ通路を通るなんてこともあった。人を馬鹿にするのも大概にしろ。

 半魔たちから聞いた情報だが、聖王は謁見の間と寝室にしか出歩くことはないそうだ。そして、寝室には謁見の間の御簾の奥にある扉から行くそうだ。

 つまり、謁見の間に行く道を憶えさせるということは、王の危険に繋がるということだ。実際に、俺達の中で現在地を把握できている者はいない。

 そういう事情があれば、このように念入りに遠回りするのも頷ける。が、同じ道を使うことはねぇだろ。馬鹿にしてるとしか思えん。

 そうして、同じ道をぐるぐるしたり、階段を上り下りさせられたりしてようやく謁見の間に着いた。

 前回と同じように武器を渡す渡さないのお約束があり、脅迫紛いの強引さで無事武器を渡さずに謁見の間に入る。


 「ご苦労、魔法都市代表殿。無事、依頼の達成は果たせかな?」


 謁見の間に入ってすぐに、大司祭ホーライが労う。俺はそれを無視し、目だけで周りを見る。

 謁見の間にも窓はある。しかし、その位置が高い。思いっきり跳べば一瞬だけ外の景色が見えるはずだが、そんなことをすれば問題になるだろう。

 下から外の景色を見ても、同じような建物が並んでいて位置の把握ができない。

 ふーむ、やっぱり無理かぁ。謁見の間の正確な位置さえ分かれば、暗殺もしやすいんだがなぁ。


 「魔法都市代表殿?」


 「ん?ああ、すまないな。代表と呼ばれなれていなくてな」


 危ねぇ、思考に集中しすぎて怪しまれたらどうすんだ。

 しかし、ホーライは怪しむこともなく、ただ頷いただけだった。

 ん?ホーライは頭が良い。なのに、訝しむこともなく納得した?大したことはないと一笑に付したか、別の何かに気を取られているのか?


 「それで、依頼は無事に?」


 「愚問だろう。俺が無傷でこの場に立っている。それが答えだ」


 「これはこれは!さすがは都市を作ろうとするお方ですな!」


 以前とはホーライの感じが違う。前回の謁見では高圧的だったのにな。


 「だが、我々も口だけで信じろと言われても、それは無理なことだ。それは貴殿もわかっていると思うが?」


 ホーライの雰囲気が違うことはどうでもいいか。興味ないし。それよりも、やっぱり証拠を見せろ的なことを言ってきたな。嫌がらせをさせたら並ぶものはいないんじゃないか?この法国っていう国は。

 だが、そうも言っていられない。

 俺はマジックバッグから布で包んだものを出す。

 すまない。こんなバカげたことでお前を利用することを許してくれ。

 心の中で布で包まれたものに謝罪する。


 「ほら、新種の魔物だ」


 悲しいという感情を隠すように、俺は満面の笑みを作ってホーライの前に袋を投げる。

 ドチャッという鈍い音とともに着地すると、はらりと布が解けた。

 布に包まれていたものは、竜のような鱗がある魔物の生首だった。

 こいつはブレスで俺とリディアを焼き殺そうとした半魔の首だ。

 リディアが喉を斬って、溜め込んでいたブレスが暴走して千切れ飛んだことで倒すことができた半魔。俺は証明の為にこいつの首を持ってきていたのだ。

 こいつの兄妹であるティア達には、しっかりと埋葬することを条件に納得してもらった。だが、演技のためとはいえ冒涜的すぎるが、状況を考えればこれも仕方ない。

 なんせ、俺達は魔物と戦ったことになっているのだからな。俺は元々人間だったことを知らないという演技をしなければならない。ともすれば、魔物の首を持ってくるぐらいのことはするだろう。

 なぜこの半魔の首なのか?それは人間の部分が殆どないからだ。それに倒した時の爆発に巻き込まれて、所々焼けているのも人間だとバレにくいと判断したのもある。

 アラクネの首もあったが、あれを持ってくれば魔物退治ではなく、殺人犯として疑われただろう。なんせ、上半身は人間のままだったからな。

 ちなみに俺達が殺した半魔たちは、ティア達が埋葬をしているはずだ。

 生首を見た者達の表情は様々だった。ある兵士は吐き気を抑えるように口元を手で隠し、ある兵士は感嘆の声を漏らし、ある兵士は俺を化物を見るような目で見た。ホーライの表情は変化がなかった。いや、ほんの一瞬だけ顔がこわばったがすぐに戻ったというのが正しいか。


 「これが新種の魔物!しかし、偵察から聞いた話ですと何種かいたとも報告があったがこれだけかな?それでは、とても殲滅したと証明でき――」


 「おいおい、全部の魔物の首を持ってこなければ証明にならないなんて、ふざけたことは言うなよ?」


 ホーライの言葉を遮り文句を言って睨む。

 金を渡したくないのか、嫌がらせなのか、どちらにしろ討伐した全ての魔物の一部を持ってこいなんて依頼がどこにあるんだ。それにお前、前回の謁見で魔物が何種いるかわからないって言っていただろうが。

 ホーライもそれはわかっているはずだが……。まあいい、どうせゴネられることも可能性のひとつとして考えていたことだ。それ用の言い訳も考えてきている。


 「それに、他の魔物の死体なんぞ残っていない」


 「残っていない?」


 「ああ……、なんせ――」


 ここで俺は邪悪な笑みを作る。


 「穴ごと俺の極大魔法で焼き尽くしたからなぁ。念の為、最下層まで言ってみたが死骸は塵一つ残さずに消え失せていたよ」


 俺の言葉に兵士たちがざわめく。だが、ホーライはこれが嘘だと決めつけるように鼻で笑った。


 「そんな魔法は存在しない」


 「存在しない?作ればいいではないか」


 まあ、嘘だけど。流石にあの範囲を燃やし尽くすのは俺でも無理だ。だが、一撃で殲滅できないかと問われれば、出来ると答える。地形か変わってしまうからやりたくはないが……。

 俺の自信満々な顔を見て、嘘ではないと判断したホーライは、小さく「ちっ、化物が」と呟いていた。いや、聞こえてますよ?

 ようやくゴネるのを諦めたのか、ホーライがざわめく兵士たちを片手を上げて黙らせる。


 「なるほど、信じよう。現に見たこともない魔物の首を持ってきたわけだからな」


 はっ、タヌキめ。よく言うよ。聖王の一番近くにいるお前が、この魔物を半魔だって知らないはずないだろうが。まあ、いいさ。さっさと報酬貰って退散したいしな。


 「さて、依頼は達成した。さっさと報酬を貰おうか」


 「………帰りに受け取るがいい」


 悔しいはずだろうに、ホーライの表情は変わらない。

 なら、もう一つ爆弾を投じてやろう。


 「それにミスリルの採掘権も頂くぞ」


 この言葉でようやくホーライが驚きの表情を見せた。

 ふふ、してやったり!まさか、本当にミスリルがあるとは思わなかったみたいだ。まぁ、確定ではないがモグラの半魔がかなり高確率でミスリルかもしれないと言っていたから大丈夫だろう。


 「まさか、本当にあったとはな」


 「企業秘密だが、俺のスキルでそれっぽいものを発見した。とりあえず、そこまで掘らせてもらうぞ」


 そう言われてしまえば、ホーライも頷かざるを得ない。


 「いいだろう。契約は契約だ」


 ふふん、くやしかろ?くやしかろ?


 「さて、用は済んだ。俺達にはもう話すことはないから、帰らせてもらうよ」


 ハッタリはボロが出る前にやめる。これ基本ですよ。

 さっさと帰って暗殺計画を詰めなければならんしな。

 だが。


 「そういうわけにもいかん。代表には残ってもらおうか」


 は?何言ってんだ?とうとう実力行使?

 ホーライはちらりと御簾を見ると、鈴の音が3回鳴った。

 余音が終わると、兵士たちが一斉に謁見の間から出ていく。

 なんだ?俺達を数の暴力で始末しようっていうんじゃないのか?

 俺すら予測していなかった出来事に、リディアは柄に手をやり静かに戦闘態勢をとり、エルは怯えるようにキョロキョロと辺りを見る。


 「どういうことだ?!」


 俺が殺気を込めながら言い放つと、ホーライは隠しもせずに溜息する。


 「はぁ、私は拒否したいのだがな。女神様のご命令だ」


 女神?何いってんだこいつ。


 「代表のみだが、女神様がお会いになるそうだ」


 その言葉に今度は俺が驚愕するのだった。

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