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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
一章 賢者の片鱗
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賢者と呼ばれた日

 魔法の練習が終わった瞬間に倒れて目が覚めたら、またお昼頃だった。自分でも学習しないなと思いつつも、熱中してしまうと切りの良いところまではやってしまう。社会人の悪い癖だ。

 ダンジョンの外に出てみると、太陽が真上まで登っていて、とても温かい。

 そして、俺はあることに気がついた。


 「やだ、あたし臭ってる?」


 それはそうだ。6日間風呂に入ってないのだから臭って当然である。そう感じてしまったのだから、日本人ならば我慢出来ないだろう。


 「川に入るかぁ」


 これしかない。これだけこの辺りに滞在していて、人に出会わないのだ。少しスッポンポンになっても問題あるまい。

 刀と弓矢、マジックバッグを持ち、川へと行く。これから体を清めると思うと自然と口笛を吹いてしまう。魔物がいる世界なのに命知らずだなと思いつつも、スキップしながら川まで向かう。

 川に到着すると、一応周りを確認しいそいそと服を脱ぎ、川へダイブした。


 「はぁああああ。冷たいけど気持ちいい。水棲の魔物がいるかもしれないが、まぁいっか」


 恐怖を感じないというユニークスキルのおかげで、気持ちよく水浴びできた。

 テントを解体して、持ってきた布で体を拭き、服を着る。

 せっかく汚れを落としても、服が汚いのが少し残念だ。

 本格的に街に行きたくなってきた。今俺は、服がほしい。

 そんなことを考えながら、ダンジョンに戻ってみると、入り口付近に数人の人影が見えた。


 「おや?珍しい。人間だ」


 魔物かと身構えたが、話し声が聞こえてきたのだ。

 この世界に来てはじめての人間と会えたことでテンションが上がったので元気よく声をかけてみる。


 「どもー。どうなさったんですか?」


 声をかけた瞬間に、その数人は武器を抜き構える。多分だが彼らも魔物だと身構えたのだろう。

 こっちを見て、同じ人間だとわかると目に見えて安堵していた。


 「なんだよ。魔物だとおもったじゃねーか、ビビらせやがって」


 そんな声が聞こえてきたから間違いないだろう。

 彼らの人数は4人だった。男3人に女1人。

 全員若く、15~16歳ぐらいだろう。男連中は、革の装備一式を装備しているが、女は彼らより明らかに良い装備を身に着けている。そしてなにより凄い美人だ。赤い髪をポニーテールにし、まだ幼さを残す顔立ちは、とても目を惹いた。

 それとは逆に男達は少し感じが悪い。デブ、チビ、ガリノッポの三人だ。こちらを睨んでいる。

 どうしてこの美人がこの三人と一緒なのか不思議で仕方ない。


 彼らはダンジョンに用があるのだろう。邪魔しては悪いから荷物をさっさと回収してこの場から離れよう。


 「はいはいー。ちょっと失礼しますよー」


 そう言いながらダンジョンの中に残してきた荷物を回収しに行こうと彼らを通り過ぎ、入り口に入ろうとすると、三人が俺を呼び止めた。


 「おい!このダンジョンは俺たちが最初に見つけたんだ!順番を守れよ!」


 「そうだ!おまえのような弱そうな奴が入っても死ぬだけだぜ!」


 「もし入りたいなら、俺らが攻略するまでここで待ってろよ」


 デブ、チビ、ガリノッポの順でこんなことを言ってきた。


 「いや、このダンジョンはもう攻略済みですよ?」


 そう俺が答えると三人は驚き、太った男が俺に質問してきた。


 「おまえが攻略したのか?」


 「……そうだけど?」


 そう言うと太った男が声を荒げる。


 「何勝手に攻略してんだよ!ダンジョンが育つのを待ってたんだ!余計なことしやがって!」


 はぁー?知らねーよ。

 俺が少しイラッとしていると、チビが俺を指を差しながらデブに何かを言っている。


 「おい。あいつの腰にあるやつ、あれマジックバッグじゃねぇか?」


 「ん?おい、おまえ。それこのダンジョンで手に入れたのか?」


 大分頭に来ていたが、俺は大人だ。我慢してみる。


 「えぇ、そうですがそれが何か?」


 俺がそう答えると男達がニヤニヤし始めた。


 「へぇー?そうなんだ?んじゃぁさ、それ、詫びとして寄越せよ」


 「そうそう、おまえには勿体ねぇ」


 「素直に渡せよ。じゃないと、痛い目みるぞ」


 三人がこんなこと言い始めました。どうしよう、殺さない自信がない。

 俺がこめかみに青筋を浮かべていると、美人さんがその容姿に相応しい美しい声で男三人に話しかける。


 「ダンジョンの攻略が終わっているのなら、私の護衛もここまでだ」


 そう告げると、太った男が反論する。


 「おいおい。ここまで一緒に来た仲じゃねーか。こいつからバッグ取り返すの手伝ってくれよ」


 その声を聞いて美人さんは心底嫌そうな顔をする。


 「私は冒険者だ。盗賊じゃない。お前たちも同じ冒険者を目指している者ならそういう行為はしないほうがいい」


 4人とも冒険者らしい。


 「そうかい。でも、こいつのマジックバッグは俺達のモンだ。俺達がはじめに見つけたダンジョンなんだからよ」


 そう太った男が言うと男三人がニヤニヤしてこっちを見る。

 そろそろ、限界だった。俺は大人だが、調子に乗った子供をしつけることもちゃんとできる大人なのだ。決して怒っているわけではない。

 まずは挑発し、相手から先に手を出してもらうことにする。この世界の法は知らないが、正当防衛ならば、別に倒してしまっても構わんのだろう?


 「おい。そこのオーク。お前さ、人間様の言葉話すなよ」


 俺がそう言うと場の空気が一気に冷え、デブが顔を真赤にしている。


 「おまえ、今なんて言った?」


 「は?やっぱりオークには人間の言葉は理解できねーか?」


 俺の挑発に我慢ができなくなったデブが無言で剣を抜くと三人も同じように武器を構える。三人の武器を冷静に見ると、デブが剣、チビが杖、ガリノッポが斧だった。

 まず最初に動いたのがチビだった。デブとガリノッポの影に隠れるようにし、杖を前に構え魔法陣を描き始める。


 魔法陣を描いていますね?それは、魔法を使っているという事でしょう?

 正当防衛成立。でも、どのような魔法を使うか興味を持っちゃったから、少し様子を見ていた。

 しかし、5秒ほど待っていても魔法陣は完成していない。

 遅っ。もういいや。

 肩に掛けていた弓を構え、チビの杖を持っている腕を狙って速射する。寸分違わず命中すると杖が手から落ち、悲鳴を上げながら倒れ込むと、詠唱が途切れ魔法が失敗した。

 俺はそれを見届けるように矢を射た姿のまま残身していると、それを隙だと思ったのか、ガリノッポが斧を振りかぶりながら走ってくる。

 俺は弓を地面に投げ捨て瞬時に刀を抜き、斧を振り下ろすタイミングに合わせて斬り上げた。ガリノッポの腕を斬った。もちろん腕を切り落とさないようにちゃんと加減した。

 デブが俺の異様な立ち回りに後ずさったのが見えたから、逃すまいと『ファイアランス』を無詠無手で陣を左人差し指に構成。

 魔法陣の構成にかけた時間は、1秒。まさに一瞬で完成した魔法陣になんの驚き、棒立ちになっている。

 無影無手陣構成は、別に指先など場所を指定しなくても、俺の近くならどこでも構成出来るのだが、より恐怖を植え付ける為にわざわざ演出した。

 ゆっくりと、腕を上げ指先をデブの足に指す。

 そして、『ファイアランス』を放つと、炎の槍が尾を引きながらデブの左脛に突き刺さり、数秒すると燃え上がった。


 「ぎゃあああああああっあぁあつぅ!あっついぃいい!なんなんだコレはよおぉおおお!」


 左足の火を地面で消そうとしばらくのたうち回っていた。

 あー、あれは熱いねぇ。でも、良かったね。この世界ならすぐ治るでしょ。多分。

 

 しばらくのたうち回り、他の二人も手伝って火を消し終わると、三人で座り込んだ。

 彼らが戦意喪失したのは一目瞭然だった。


 その様子を見て満足すると、俺は説教をはじめた。


 「言いたいことがあるんだけどさ」


 そう言い始めると三人は涙目になりがら怯える。


 「ダンジョンを最初に見つけようが、攻略したのは俺だ。そしてその過程で手に入れた物は俺の物だ。そんなことぐらい子供でも理解できる。そして、ダンジョンを早期に見つけたらその時に潰せよ。ダンジョンが育つのを待っていたら犠牲者が出るだろうが」


 普通に正論を言ってやった。


 「「はい」」


 三人揃って答える。


 「そうか。わかったなら、さっさと消えろ。次、顔を見たら殺す」


 そう告げると三人は逃げていった。

 はぁ、なんだかなぁ。

 逃げていく三人を見ながら溜息を吐いていると、まだ残っていた美人さんの存在を思い出した。

 美人さんは驚く顔で俺を凝視している。

 やだ、もしかしてあたしまだ臭ってる?

 まぁ、いいや。荷物取りに行こう。と、入り口に入ろうとすると美人さんが声を掛けてきた。


 「まってください!」


 なんだよもう……。喧嘩腰ではなさそうだけど、面倒だな。


 「なんですか?」


 「あなたは、あなたは賢者さまですね?!」


 ……はい?

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