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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
一章 賢者の片鱗
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戦う企業戦士 朱瓶 桐

 高層ビルが立ち並ぶ商業区域。月が自分の存在を主張するほど夜が深まり、ビルの窓から漏れる明かりが一つまた一つと消える頃、ようやく仕事を片付けることのできた俺は、嘆息しつつ愛用のリュックサックを背負いあげ出口に向かい歩きだす。


 「課長、お疲れ様でーす」


 歩く先々からこんな声が聞こえてくる。俺の部下たちだ。


 「あぁ、お先に帰らせてもらうよ。お前たちも早めに帰って体を休ませてやれよ?」


 「「あざーす」」


 笑顔で部下たちにお礼を告げられる。そんな部下たちに眉をひそめつつ、タイムカードを切りオフィスから出る。ワーカーホリック共め。そんなに残業が幸せかと内心で思いつつ、エレベーターの到着を待つ。


 「はぁ、ようやく課長帰ったな。課長が残ってるのに帰れねーよな?」


 「まったくだ。働きすぎだよあの人は」


 俺のせいだった。

 オフィスの扉が閉まる直前に聞こえてきた部下の嘆きに申し訳ない気持ちになったが、どうしようもできないので、何事もなかった顔でエレベーターに乗り込んで、速攻で閉まるボタンを押してやった。

 だって、ほとんどお前らの後始末だしね。



 オフィス街を歩き、電車に乗り、我が家の最寄り駅を降りる。ほぼ毎日繰り返されている日常だ。そして、月を見ながら歩きだし、呟く。


 「今日の晩飯どうすっか。……今日は、コンビニでいいか」


 コンビニを見た瞬間に料理を作ることを諦めた。今から料理すると、食べる頃には、日付がかわってしまう。


 コンビニ袋を片手にマンションの階段を上がっていく。マンションと言っても三階建でエレベーターがないタイプだ。疲れている時ほど、その事実を呪いそうになるが、そのかわり1LDKでもかなり家賃が安い。

 3階の一番奥の部屋が我が家だ。表札が目に入る。


 朱瓶あかめ きり

 俺の名前だ。女の子っぽいと子供も頃はからかわれたっけ。と、昔のことを思い出しつつ家に入る。

 廊下を歩きリビングのドアを開け電気をつける。

 明るくなり一番最初に目につくのは、あたり一面の本棚。リビングと繋がるもう一部屋もベッドと豪華な椅子、そして木でできた小さな机以外は全て本で埋め尽くされている。自慢の我が城ですよ。

 子供の頃から本の虫で、どんな知識でも頭に入ることがとても快感だった。だが、インドアというわけではなく、入手した知識を試す為に外でも遊ぶ。出す知識もまた、快感なのだ。

 最近は仕事ばかりで、知識を外に出せないことが不満ではあるが。

 そんな事を考えつつ、リュックサックを置き、豪華な椅子に座る。眼の前の木の机の上を見ると、読みかけの本と、革のケースに収まったナイフが置いてある。

 ナイフを指で撫でる。俺の宝物だ。高価な職人モノというわけではなく、自分で作ったものだ。

 15歳になった頃、両親に「ちょっと遊びに行ってくる」と言い、5年間ほど溜め込んだお年玉を握りしめつつ新幹線に乗り、刀鍛冶体験コースに参加して作成したナイフだ。形は歪だが、日本刀の鍛え方で作ったナイフなので、切れ味、頑丈さはかなりのものだ。

 家に帰った少年桐くんは、親にしこたま怒られたが、これもまた良い思い出だ。

 そんな少年時代を思い出し、口の端を上げる。

 コンビニで買ってきた惣菜と缶ビールを出す。そして、机の上においてあった本を読みながら一杯やるのが、至福と時なのだ。

 しばらく、缶ビールと惣菜に舌鼓を打ちながら本を読んでいると、なぜかわからないが字が読みにくくなってくる。


 「ん?疲れかな?」


 目が疲れたのかと思い、本から目を外すと、自分の周りを囲むように光り輝いていた。


 「は?いやいや、ちょっとまて」


 一瞬で判断した、コレよく小説やアニメで見るヤツや。

 アカンやつや。

 魔法陣だった。魔法陣から放たれる光は更に輝きつつある。


 「あーちょっとまって、ちょっとまって!俺邪魔でしょ?!すぐ魔法陣から出るからちょっとま…」


 かなり焦っていたらしい俺は意味不明なことをしゃべりながら、椅子から立とうとした瞬間。

 あたり一面光で満たされた。

 何もかもが遅かったのだ。

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