第9話 マーカー調べ
体感時間にして朝10時ぐらいの草原。
町に入ることを諦めた僕は、警備の薄そうな村へと向かっていた。
そこで信頼を得て、町に入り冒険者になるつもりだった。
何もせずに歩くのは暇なので、次元魔法で作れるマーカーについて調べようと思った。
幸い、人影はまったくないし。
歩きながら小石を一つ拾い上げた。
握った手に集中する感じで魔力を込める。
ぼうっと小石が熱くなった。
----------------------------------------
【次元石】☆
ユートの魔力が込められた小石。次元魔法を使用するときのマーカーになる。
----------------------------------------
できた。
小石そのものだから、レア度も低い。
さて、このマーカーとやらで何ができるんだろう?
マーカーってことは、目印になるってことだよね。
次元移動の目印になればいいんだけど。
立ち止まると次元石を思いっきり前方に投げた。
数十メートル先の道に落ちる。
それから小石に意識を集中した。
すると、目の前の景色がだぶって見えた。
「ん? なんだ?」
似てる景色が重なっている。
――ひょっとして、マーカーの周囲を見ることができるのかっ!
僕は北を振り返ると、エルフの泉や街道のほこらに意識をとばした。
街道を行き交う馬車や、水をたたえた清らかな泉が見えた。
――フローリアの姿は見えない。
フローリアに渡した腕輪を探そうとしたけれど、見つからなかった。
――ふむ。
エルフの里が何をしているのかわからないけど、魔法障壁や隠蔽魔法みたいなのが使われてるのかもしれない。
マーカーはそこまでは探知できないと。
でも距離が遠くても周囲が見えるのはいい。
使い方をうまくすればいろいろできそうだ。
いつでも家の状況を調べたり、別行動中のパーティーを把握したり。
――はっ! これを使えば!
道に落としておけば、パンツ見放題!
更衣室に投げ込めばおっぱい見放題っ!
うん、発想が最低だ。
見たくないものまで見えそうだし、やめとこう。
続いて前方へ投げた小石に移動できるか試す。
シュッ――!
あっと言う間に小石の傍に立っていた。
――おっ!
空間を立方体で区切って~、みたいな想像しなくても移動できた!
いつもつま先や指先を切り落としたらどうしようって、それが怖かったんだよね。
自分とその持ち物だけ移動してる。
これは超便利。
ダンジョン入るときに設置しておいて、帰還したくなったらいつでも帰れる。
ド○クエのル○ラやリ○ミトとして使えそう。
「使い方って、これぐらいかなぁ……? マーカーの場所に行くことができるなら、マーカーを呼び寄せることもできそうだけど……」
小石を拾い上げて、もう一度道の向こうに放った。
意識を集中しつつ、呼び寄せる。手に握っていた感触を思い返して。
ス――ッ。
手の中に入った。
――おお!
これも便利。
荷物につけとけば、手軽に運べそう。
……マジックバッグあるけど。
友達に渡しておけば、いざというとき救出できるのかな。
友達いないけど。
でもいろいろできそうだ。
あ、でも。
呼び寄せられるのはマーカーだけだったりして。
鞄から錆びた銅のナイフを取り出した。
柄の部分に付いていた紐に小石を結びつける。
放り投げてもう一度呼ぶ。
――スッ。
「えっ!」
予想通り戻ってきた。
手の中に小石が入り、くくった紐からはナイフがぶら下がる。
けど、その挙動に驚いた。
――地面を転がる途中に戻って来た!
「――まさか」
鞄からゴブリンの使っていた小弓を取り出した。
矢をマーカーにしようと魔力を込めたけどならなかった。
むーん。
木は無理なのか。
石や金属だけかな。
試しに倉庫の銅ナイフや鉄の槍にやってみると、マーカーにできた。
けれど、道ばたに生えてる雑草や、バッタみたいな虫はマーカーにできなかった。
生き物は無理なのかもしれない。
仕方がないので平たい小石を探してマーカーにした。
それから矢の後ろ、羽が突いてる部分に差し込む。
弓を引いて……ん、小さいのに結構、力いる。
いや、持ち方や弦の引きかたが悪いのかな?
とりあえず、ちょっと引いて斜め上に飛ばした。
へろへろ~、と飛んでいったが、呼び寄せると自分の手元に矢が戻った。
「すごい、ミスっても無限に撃てる矢だ」
これはそこそこチートかもしれない。
弓矢の練習が必要だけど。
投げナイフや投げ槍にも使える。
マーカーのいいところは、目視で確認して移動させる空間領域を設定しなくてもいいところ。
考えただけで手の中へ来る。もしくは次元倉庫に放り込める。
いろいろ使い道がありそうだ。
僕に使いこなせるのか、それだけが心配。
まあ、マーカーの性質はこんなものかな。
周囲が見える。
そこまで行ける。
手元に呼び寄せられる。
あと知りたいのは個数と持続時間。
5個しか作れないとかだったら設置箇所を考えないといけない。
道を歩いたり次元移動したりしながら手頃な小石を拾ってはマーカーにしていった。
――が。
100個までは数えていたが、それ以上もまだまだ作れるので、もう数えるのはやめた。
それだけあればきっと大丈夫。
1個残してすべて解除した。
時間経過を探るため。
その小石をぽいぽい放っては呼び寄せた。
なんか面白い。紐のないヨーヨーで遊んでる気分。
そんなことをしながら、まっすぐ続く草原の道を歩いていった。
時には次元移動も使いつつ。
そしてなだらかな丘を越えた頃、小さな村が見えてきた。