第6話 水を求めてエルフ
鬱蒼と生い茂る森の中を歩いていた。
薄暗くてじめじめしている。
雰囲気的に魔物が好みそうな陰気さ。
半径十キロ以内に町や村、街道は見えなかった。
いくら転生先がランダムでも、もうちょっと人里に近づけといてよと思う。
そして、やばい。
水がない。
綺麗な泉はあったけど真理眼で見たら『超猛毒の泉』だった。
詳細によると、究極神話竜でも飲んだら死ぬらしい。
やばい。
ただ超猛毒水を少し手に入れた。1リットルぐらい。
手に触れただけでやばそうなので、4番倉庫を空っぽにして、そこに少し汲んでみただけ。
何かに使えるかと思って。
思えば。
さっき倒したゴブリンも『状態:脱水』だった気がする。
この森、水がないんだ。
食べ物なくても人は3週間生きられるけれど、水がないと3日で死ぬ。
こんなに木が育っているのに、水がないなんて!
せっかく異世界転生したのに、異世界を堪能する前に死ぬなんて嫌だ!
もう女の子とか高望みしない、せめて地理を知る人に会いたい!
高い木を見つけると、次元移動で頂上へ登って位置を確かめた。
太陽の位置から見て、僕は南に向かっている。
南のほうに平原があるように見えるから。
でも遠すぎて次元千里眼の範囲外。
一度、超長距離を見てみようとしたが、頭の後ろがザワザワとして『危険感知』が発動した気がするので、やめた。
距離に比例して消費魔力が増えるからだろう。
魔力が枯渇して気絶したら、たぶん魔物に襲われて死ぬ。
もうすでに猪の魔物グレートボアや蛇の魔物バジリスクを倒したし。
そのまま二番倉庫に放り込んである。
低木に成る『ユビックの実』も何度か見つけたので、大量に回収しておいた。
10キロぐらいになった。三番倉庫に入れる。
これだけ手に入るってことは、あまり高いものではなさそうだ。
食料がないので非常食代わり。本当に空腹になったら少しかじってみよう。
でも、今は水だ。水こそ生命。
だんたん汗すら、かかなくなってきた。
とりあえず、歩いたり、次元移動で飛んだりして、時速50キロぐらいの速度で南下していった。
とにかく街道か町に出たい。
この森で夜を過ごすのは危険すぎる。
嫌な予感がザワザワしっぱなしだった。
◇ ◇ ◇
夕暮れになりましたー。
相変わらずの森の中。暗闇が不気味さを増している。
どんだけ広いの、この森。
――のど渇いた。
これ、やばい。
口までからからになってきた。舌が乾いて口蓋にくっつく。
そんな中、次元千里眼の新しい使い方をマスターした。
それは音だけを聞く方法。
理屈はわからないが、遠くを見る場合に比べて、消費魔力がグンッと減る。
その分、より遠くの音を聞ける。半径50~70キロは聞けてるはず。
水の音、沢の音、滝の音。
そんなのが聞こえないかと、移動しながらずっと使用していた。
――と。
西の空が赤焼けに染まる頃、耳にちゃぷっと音が聞こえた。
「みず!」
音がしたほうを見た。全力で見た。
たぶん今の僕の目は血走っている。
ちゃぷ、バシャッ、ざぁぁん――――きゃああああっ!
少女のか弱い悲鳴が耳に届く。
僕の目は半径20メートルぐらいの池を見つけていた。
そこに、金髪の美しい少女が泳いでいた。年の頃は15歳ぐらい。
大きな瞳に整った顔立ち。少し垂れ目で優しそうな感じが印象的。
しかも全裸だった。白い肌にしなやかな肢体。胸も弾むように大きい。
夕焼け空の下、女神の彫刻のように美しかった。
僕は息を飲みつつ彼女を見つめ続けた。
彼女は怯え、戸惑っている。
池の中を右へ左へ逃げ惑うように泳いでいる。
長い金髪が跳ねて、特徴的な長い耳が見える。
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名前:フローリア
種族:エルフ(超長命、容姿端麗、不老)
性別:女
年齢:149
職業:精霊巫女見習い
天恵:魔法適正Lv3、精霊言語、天候感知、第六感、努力家、従順、ぼんやり
技能:精霊魔法Lv4、生活魔法Lv3、魔法戦闘Lv2、神聖魔法Lv2、祈祷LV2、神託Lv2
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エルフきたー! 異世界、異世界っ!
劇的に可愛い。そして見惚れるほどに美しい。
あ、『努力家』だ。
ちょっとシンパシーを感じる。前世で『努力家』だったから。
『従順』は何かと思えば、つい他人に従ってしまうというマイナススキルだった。
『ぼんやり』は考え事に集中すると、周りが見えなくなってしまうマイナススキル。
でも何か、彼女は焦ってる感じがする。
なんだろうと、池の周りを見た。
……魔物がいる。
ブタのような肥え太ったオークが巨大猪グレートボアに乗っている。家畜にできるのか。
二足歩行のトカゲみたいなリザードマンが2体。
あとコボルトが3匹いた。
コボルトが「げへげへ」笑いながら、威嚇するように矢を射っている。
そのたびにエルフの少女は怯えながら逃げ惑っていた。
でも池を取り囲まれていて逃げ場がない。
――考え事しながら水浴びしてたため、魔物の接近に気付かなかったのだろう。
ぼんやりさんだ。
オークが鼻声で言った。
「おい、そろそろ捕まえて来いよ」
「了解」
リザードマンがするりと池に入る。
泳ぐのが速い。
エルフのフローリアは、片手で胸を隠しつつ、魔法を唱えた。
「ウンディーネよ、力を! ――拡散水鋭針!」
彼女の右手から青く光る針が、無数に飛んだ。
しかしリザードマンが手に持つ槍を横に一閃。
針は消し飛んだ。
「俺に水魔法は効かん」
「ぎゃはは! そのために水精霊しか使えない池で待ち伏せてたのだぁ!」
「さっすが、親分!」「頭いいっす!」
コボルトたちが揉み手をしながらオークを褒めた。
僕は次元移動で池の傍へ飛んだ。
遠距離だったのでかなり魔力を消費したが、まだいける。
大木の陰から様子を見る。
池の中央を泳ぐ少女が捕まりそうになる。
「いやぁ――っ! 来ないでっ!」
「うひゃひゃ!」「エルフといってもその程度か」「やっちゃえやっちゃえ!」
僕は彼女を抱きかかえるイメージをする。
「――次元移動」
ぽふっと、水に濡れた美しい少女が腕に納まった。金髪がはらりと垂れる。
腕の中で、翡翠色の瞳を見開いて驚いていた。
「あ、え……っ」
「大丈夫。僕が守る」
腕に力を込めると、しなやかな曲線の重みを感じた。
指が食い込む白い肌、絹のようにすべすべしている。
大きな胸が柔らかく垂れて、僕の腕や胸に当たる。体が中から熱くなった。
――なにこの柔らかさっ!
これ、絶対今日の夢に見るわ~。
生涯忘れられない思いだわ~。
水が滴る金髪と肌が、フォトショ加工済みかよってぐらい美しいし。染み一つ見えない。
でも一番は素敵なのは。
至近距離から見上げてくる翡翠色の大きな瞳が、驚きと怯えで子ウサギのように潤んでいるのが、もう。もう!
もう、理性がっ。劣情でっ!
ばーくーはーつーすーるー!
って、ダメだ。だめだめ。
よそ見してる場合じゃない。
頭に血が昇ってミスったらどうするんだ。
今は危機的状況なんだ!
しっかりと指を伸ばして狙いを付ける。
池の周りではオークたちが騒いでいた。
「な、なに!? どこに消えた!」
「まだ近くにいる! 匂いますよ、親分!」
「――次元斬」
ザンッ!
「ぐえ……」
カエルのような声を出して、オークの首が飛んだ。後ろ向きにドサッと倒れる。
「ひいっ!」「な、なんだよ!」
慌てるコボルトたちを、次々と狙っていく。
ザンッ、ザン、ザザンッ!
悲鳴を上げることすらなく真っ二つになった。
リザードマンが慌てて陸に上がろうとするが、池を出たところで二人とも首をはねた。
オークの乗っていたグレートボアも首を斬って絶命させる。
だんだん細かい狙いが可能になってきた気がする。
もっと精度が上がれば戦う方法が増えるかもしれない。
いつか暇なときに石や小枝で練習しよう。
池の周りが血なまぐさい匂いと共に、静かになった。
腕の中ではエルフ少女が子ウサギのように震えている。
水の滴る艶やかな金髪を撫でつつ微笑む。
「大丈夫? 怪我はない?」
「――あ、はい……大丈夫です」
すると、彼女が何かに気付いて、大きな胸と股間をしなやかな手で隠した。
見る見るうちに、顔が可愛い赤色に染まっていった。
細い足を恥ずかしそうに、もじもじさせる。
「あ、ごめん。服はどこ?」
「……あの向こうの岩陰に」
僕は目視で確認して、岩の傍へテレポートで飛んだ。
彼女を地面に下ろす。一目散に岩陰へ。
慌てすぎて尻餅をつきながら、麻の服とスカートを着ていた。
――ええ、次元千里眼で見てました。
いや、ほら。魔物に襲われたら困るから。
でも、着替える姿までもが美しかった。
動きに合わせて流れる金髪。たわわに揺れる巨乳。
見てるだけで心臓がどきどきした。