第3話 異世界に降り立――てない!
白い部屋の中、僕はタブレットPCを眺めながら考える。
あと何かいるかなー。
魔法に強くなる魔法抵抗とか、体力が増えるとか。
近接戦闘スキルもあったほうがよさそう。
まあ、次元魔法は今の知識で応用させまくれば、なんだってできるけど……。
突然、背筋にゾクッと寒気が走った。
――いや、待って。
普通、前世の知識は転生先に持っていけないんじゃ?
僕だって前世の記憶はなかった。
知識が持っていけないはやばい。次元魔法が役立たずになる。
なにか……なにかないのかな?
天恵スキルを見ていく。
このまま知識を持っていけないんじゃ、次元魔法はやめて火魔法にしたほうがいい。Lv4になるけど。
――あった!
『前世記憶』だ!
そのものずばり。前世の記憶をそのまま持っていける。10ポイント消費。
残り30ポイント。
これであとは武術系を……まてまて、まだ何か見落としてないか?
必死でアニメやゲームを思い出す。異世界転生の物語。
チートと前世記憶のほかに、ないと困るもの。
――言語! 言葉が通じなかったらやばい!
そして調べると『言語理解』『言語発話』『言語翻訳』の3種類があった。
----------------------------------------
【言語理解】理解はできる。読み書き発話はできない。取得5ポイント。
【言語発話】理解して喋ることはできる。読み書きはできない。取得10ポイント。
【言語翻訳】理解して読み書き発話ができる。取得25ポイント。
----------------------------------------
今更、外国語の勉強なんてしたくないよ! イッヒ ビン ストゥデンティン!
絶対『言語翻訳』を取るっ!
というわけで、残り5ポイントになった。
何か近接戦闘スキルでも欲しかったけど、Lv1しか取れないだろうし。
ハイヒューマンやめるか。
でも種族ボーナスの状態異常抵抗はきっと良いスキルだろうし。
ぶっちゃけ技能スキルはLv1を覚えさえすれば、経験値増加があるからものにできるんじゃないかと予測。
5ポイントで取れるスキルないかなと検索してみることに。
天恵スキルと技能スキルを閲覧。
『努力家』『罠宝探知』『雨予報』『異性魅了Lv1』『儲け話直感』『危険感知』『逃げるが勝ち』『逃げ足Lv2』『どこでも寝る』『超睡眠』『冬眠』『料理Lv1』『銀細工Lv1』……。
ふむ。
『努力家』はいらない。もう見たくない。ていうかこれが一番上に来るからこれ取っただけだろ、前世の僕。
『異性魅了』がちょっと欲しい。地球ではもてなかったし、もてたい。
『儲け話直感』もいいな。直感的に儲け話を見抜くスキル。騙されることはなくなりそう。冒険者と相性の良さそうなスキル。
『罠宝探知』もいい。ダンジョンですごく使えそうだ。
というか、5ポイントの割には、いいスキル多い。
『雨予報』は雨が降るかどうかわかっただけでも、すごいことだろうし。
でも選ぶなら『危険感知』かな。
----------------------------------------
【危険感知】
自身を脅かす危険が迫っている時、直感的に知ることができる。寝ていても常時発動。起きて気が付く。
----------------------------------------
魔物がいる危険な世界なら、これは必要じゃないかな。
魔法だけで近接戦闘スキルは取ってないから不安が残る。
いろいろ世界巡りしたいし、命を最優先しよう。
現在のステータスはこんな感じになった。
----------------------------------------
名前:
種族:ハイヒューマン(長命、基礎能力上昇、状態異常抵抗、技能経験値上昇)
性別:男
年齢:
職業:
天恵:真理眼、魔法適正Lv5、危険感知、前世記憶、言語翻訳
技能:次元魔法Lv5、
残りポイント:0
----------------------------------------
じゃあ、これで!
タブレット画面の下にある『確認』ボタンを押した。
ぐるぐると、輪っかが回ってからエラーが出た。
「え、なんで?」
画面を見る。
『検索の結果、現在ハイヒューマンはいませんので、孤児としてランダムに森の中に出現することになります。その際に年齢を決定してください。ただし赤ん坊だと当然能力値にペナルティがあります。続行しますか? 変更しますか?』
「あちゃー。両親いないのか。……ということは、戸籍や身分証明もなしってことか……」
う~ん。やっぱり無難に人間の家庭に生まれて0歳から生きるべきかな。
それなら社会常識も身に付くだろうし。
ハイヒューマンをやめて人間になれば、30ポイント浮く。
異性魅了や罠宝探知、雨予報、寿命+130(ポイント15)だってとれる。
――ん?
何かおかしいぞ。
一旦『戻る』をタップして設定画面に戻った。
もう一度、天恵スキルと技能スキルを眺め、そして計算する。
人間を基準とした場合、エルフ並のボーナスを得ようとしたならポイント195は必要。
ハイヒューマンは80ポイント。
つまり種族ボーナスが大きいのに、取得ポイントが低いのは、それだけ迫害されていて生きづらいということになる。
ハイヒューマンが一人もいないということは、迫害されて全滅したからではないか?
ただ、全滅してから時間が立っているため、エルフよりかは過ごしやすくなったので30ポイントで取れるのか?
いや、迫害じゃなく、魔物に目をつけられたという可能性もあるな。
この種族は危険かも?
すべての種族情報を見た。
すべてのスキルの情報も。
そして決めた。やっぱりハイヒューマンで行く、と。
人間の方がいいのだけど、旅して暮らす分にはつらい。
適当な設定作って誤魔化せばいいか。
『村が襲われて森に逃げ込んだけど記憶喪失になった。名前と年齢しか覚えてない。冒険者になりたくて村から出てきた』
よし、こんな感じかな。あとは臨機応変で。
あとは名前。
ユートで登録した。
歳は15歳。できるだけ低いほうが良かった。
でも冒険者になれる年齢は越えていないといけない。
成人は12歳らしいけど。
体格のできていない子供は冒険者になれないらしい。
あまり年齢が高いと今度は逆に不審に思われる。
子供っぽいほうが優しくしてもらえるはず。という打算で。
「じゃあ、これで決定しよう」
----------------------------------------
名前:ユート
種族:ハイヒューマン(長命、基礎能力上昇、状態異常抵抗、技能経験値上昇)
性別:男
年齢:15
職業:迷子
天恵:真理眼、魔法適正Lv5、危険感知、前世記憶、言語翻訳
技能:次元魔法Lv5、
残りポイント:0
----------------------------------------
黒髪で黒目、ジーンズにTシャツ、ウィンドブレーカーを着ていた。
顔は昔の自分に似てるけど、普通な顔だった。
職業が勝手に迷子になってる。
あとで変更できなかったらショックだ。
ちなみに性別に両性具有があったが、なぜか70ポイントも消費するのでやめた。
タブレットの画面が切り替わる。
『では、向かって正面の扉をくぐってください』
白い部屋を横切って扉へ向かう。
開けると一瞬、白い光に包まれて何も見えなくなる。
すぐに視界は回復。
そこは丸太を組み上げた山小屋のような感じの部屋だった。
一歩踏み出すと視界が下がった気がした。
肌に張りを感じる。
若返ったようだ。
着ている服が少しだぶついた。ウィンドブレーカーとジーンズ。
持っていたタブレットが半透明になる。
『この小屋から出て扉を閉めると、小屋は自動的に消えます。扉を開けたままでも30分で消えます』
本来なら、白い部屋を出た瞬間「オギャー!」なのだろう。
両親がいないからこうなってしまった。
窓のない小屋なので外の様子はわからない。
室内にはなにもない。テーブルすらない。
正面には木の扉。
扉まで行き、ドアノブに手を掛ける。
思ったより手が小さい。指が細長い。
中学生か高校生ぐらいになってるんだな。
息を一つ吸う。
――どんな世界だろう?
楽しいか、辛いか、笑えるか。
全部、自分次第だ。でも工場勤務よりきっと楽しい。
冒険、財宝、そしてハーレム!
異世界なんだからなんでもありだ。
ひょっとしたら扉を開けた瞬間、空から女の子が降ってくるかもしれないしっ!
僕はそっと扉を押して開けた。
10センチほど開けて外の様子をうかがおうとした。
青い空と、緑の下草がチラッと見えた。
――が。
キュゥゥッ!
と突然、頭に締め付けられるような痛みが走った!
頭の中でサイレンが鳴り響くような衝撃! ――『危険感知』か!
もう何も考えずに、ただ小屋の中へ倒れ込むように跳んだ。
――シュッ!
床に倒れた僕が見たのは、空から降ってきた女の子ではなく、ドア上の隙間から突っ込まれた槍だった。