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第27話 冒険者と弁当

 朝の町を歩いて冒険者ギルドへ向かう。

 町中は人が多かった。黒の森へ向かう冒険者と、その人たちに向けた商売――武器、防具、道具の店が繁盛していた。


 屋台では弁当が売られていた。威勢の良い声で客を呼び込む。

「できたての焼肉弁当! 冷めても肉が硬くならない、特別仕様だよ!」

「魚や野菜の揚げ物弁当! 冷めても衣がサクサクさ!」



 黒の森は日帰りするしかないから保存食より生の弁当が人気があるみたいで。

 焼肉弁当、チキンカツ弁当、フィッシュフライバーガーなど。


 駅弁のように種類が豊富だった。

 そして駅弁のように冷めてもおいしいことを歌っていた。

 そういう手間が掛かっているぶん、通常の食品より値段が高かった。


 通常は一食、銅貨6~13枚だけど、弁当は銅貨12~20枚する。

 でも飛ぶように売れていた。

 黒の森では不用意に火を焚くと魔物を呼び寄せてしまうらしい。


 だから温かいご飯は食べられない。

 でも肉体労働者にとってご飯は唯一の楽しみ。

 冒険者たちは町を出る前にみんな屋台に寄って、おいしそうな弁当を買っていた。



 その光景を見ながら思う。 

 ――なんかこの町。

 いろんなチャンスが転がってる気がする。

 今はまだ何をしたらいいのかわからないけど、将来への不安より期待が膨らむ。 


 僕も試しに焼肉弁当を一つ買った。売り切れそうだったので。

 銅貨14枚だった。

 お昼が楽しみになってきた。


 ちなみに一番高いのは薬草を配合した「冒険者弁当」で銅貨20枚(銀貨1枚)。疲労回復と毒や怪我回復の効果付き。宿代一泊分と代わらないだけに豪華だった。

 


 それから町の中央にある冒険者ギルドに行った。

 建物に入ると掲示板の前へ直行する。


 剣や鎧を装備したいかつい冒険者たちがたくさんいた。

 なんだこの新人は、みたいな目でじろじろ見られたが話しかけられたりはしなかった。


 無視して依頼を眺める。

 ユビックの実収集は人気がないようで手付かずだった。

----------------------------------------

【ユビックの実採集依頼】☆~☆☆☆

 ハイヒールポーションの原料であるユビックの実を集める。

 ユビックの実は黒の森にだけ自制する低木から採取できる。

 黒の森の魔物たちの食料になっているため、魔物を倒すと手に入ることもある。


依頼1・ 25個採集 大銀貨2枚(1個400円)

依頼2・140個採集  金貨3枚銀貨3枚(1個450円)

依頼3・ 10個採集 大銀貨1枚(1個500円)

依頼4・ 50個採集 大銀貨7枚(1個700円)

依頼5・ 50個採集  金貨2枚(1個800円)

----------------------------------------

 ――お。

 昨日引き受けなかった1と2の買い取り値段が上がっている。

 張り紙に斜線が引かれて数字が書き直されていた。


 依頼5も出てる。

 どうやら、金を積めばユビックの実が手に入ると考えた商人がいるらしい。

 よほど材料に困っている様子。



 もっと値段が釣り上がるまで置いておこうか?

 そしてミウにポーションを作ってもらって売りさばく。


 ……いや、将来のポーション販売を考えるなら、高額なユビックの実依頼はこなすべきか。

 なぜなら原材料費が高くなると販売価格も上がる。

 僕が安い値段で売り始めても原材料費が足かせとなって値下げ対抗できなくなる。



 まあそれに日々の生活費も稼いでおかないといけないし。

 この町で暮らすには一日宿屋代込みで銀貨3枚(3000円)稼げば生きていける。

 大銀貨1枚(5000円)稼げたら余裕のある暮らしができる。貯金もできる。 

 

 ん、でも冒険者は納税どうしているんだろ。

 異世界にだって納税の義務はあるはず。

 一年後ぐらいにまとめて請求されたら死ぬかもしれない。

 あとで聞いてみよう。



 僕は依頼4と5の紙を取り、『黒の森魔物退治』の依頼も取った。これは複数種類の魔物を倒す依頼。


 カウンターには列ができていた。

 受付嬢ナタリーの列に並ぶ。


 すぐに僕の番が来た。

「あら、おはようユートくん。今日は一人?」

 紫の長い髪を揺らして微笑んでくる。

 賞金首以降、なんだか態度が大きく変わった気がする。



「おはようございます。ミウは母親の看病するので一人でやってみます。――これ、お願いします」

 依頼の紙と冒険者カードを渡した。


 ナタリーは慣れた手つきで、カードをパンチのような機械でガシャンッと挟む。

「はい、これね。今日は100個だけど、大丈夫?」

「ええ、なんとか。頑張ります」

 ――すでに持ってるから安心だ。


「失敗したらお仕置きするから、うふふっ」

「あ、はい」

 ナタリーが女豹のような目付きで舌なめずりしたので、背筋が冷たい思いがした。

 やっぱり態度変わってなかった。



 冷静を装って尋ねる。

「それでナタリーさん、一つ知りたいことがあるんです」

「何かしら? 今日の夜は空いてるわよ?」

「あ、はい。それはよかったですね。――で、税金の支払いってどうなりますか?」


 ナタリーは水を掛けられたようにビックリしていたが、すぐに知的な態度へ戻る。

「冒険者ギルドを通した依頼や買い取りは、すでに税金が引かれた額よ。気にしなくていいわ。個人と商人との取引は商人が払う。問題は個人同士での売買だけど、どこからともなく税吏官がやってきて1~2割を請求してくるから、払ってね」


「なにそれ。怖いですね、税吏官」

「まあ、よほど多額の取引じゃなければ大丈夫。――ただ、屋台や露店を出すと高確率でやってきて徴収されるわ」

「なるほど。わかりました。ありがとうございます」



 ナタリーは今までとは違う優しげな微笑みを浮かべる。

「税金のことまで考えるなんて、とてもすごいわ。ユートくんは強いだけじゃなくて、先のことまでちゃんと考えてるのね。ちょっと見直したわ」

「他の人は違うんですか?」


「冒険者は普通そこまで考えないし、税吏官がいきなりやってきて慌てふためくのが定番よ。……でも、残念だわ」

「なにがです?」


「ユートくんが散財したところで取り立てられて、私に泣きついてくるのを楽しみにしてたのに」

 ――やっぱりこの人が受付をやっているのは問題があるのではないだろうか。

 性格に難がありすぎる。



「そうならなくてよかったです。ナタリーさんには弱みを見せたくないんで」

「ふうん、言うじゃない。こんなに若いうちから、頼りになりそうな男しちゃって」

「ありがとうございます」

 頭を下げると彼女は笑った。

 

「それじゃ気をつけて行ってらっしゃい」

「はい、行って来ます」


 なぜか華やかな声に後押しされてギルドを出た。



 町を出るまでは普通に歩く。

 とりあえず税金はあまり取られない、取られても1~2割と知って安心した。


 あ、違うか。

 ウードブリックは人を呼び寄せるために税金が安いってどこかで聞いた気がする。

 他の町や王都だともっと大変なのかもしれない。



 町を出て北へ。

 人がいなくなったところでエルフ泉のマーカーへ飛んだ。


 泉では魔物の死体を掘り返した。

 気持ち悪いけど、お金のためだ。しかたない。

 数日前だというのに、腐りかけていた。


 ただのオークだと思ったのはやはり上級種のライドオークで、心臓の近くに親指の爪ぐらいの魔晶核が入っていた。

 リザードマンは二匹いたけど、軽く見た感じでは核はなかった。



 なんとも言えない、もあっとした臭気に気分が悪くなってきた。

 喉の奥が酸っぱくなる感じ。

 吐き気が込み上げる。


 次元魔法で埋め戻した。

 体に匂いがこびり付いた気がしたので少し洗うことにする。



 泉の水を水筒や水がめに汲んだ。

 ここの水はとても澄んでいて清浄だから。

 武具を手入れする時、汚れが落ちやすいとミウが驚くぐらい。


 泉から離れた森の木の下で半裸になって体を拭く。

 ついでに頭も水洗いして乾かす。

 さっぱり。



 なぜ離れたかといえば、自分の体を洗った水を飲みたくないというのと、エルフが利用しているかもしれない泉を勝手に使っちゃまずいかなと思って。

 

 うーん、町でお風呂に入れるようになりたいなぁ。

 いろいろと欲が出てくる。

 でも今は生きていけるようにしないと。

 金稼ぎが先決。



 タオルや水がめを倉庫にしまう。

 気分新たに北を目指そうとした。


 その時、頭の後ろがざわざわとした。

 『危険感知』だ。



 離れようかと思ったけれど、危険はどんどん近付いて来る。

 ――泉に来るのか?

 

 フローリアがまた襲われるかもしれない。

 そう思ったら、僕は次元千里眼で辺りを見回していた。



「――いた」

 泉から北へ1キロほどのところに魔物がいた。

 リザードマンが9匹。

 茂みを掻き分けてまっすぐに南下してくる。

 移動速度はかなり早い。


 1匹だけ、一回り体格の大きなリザードマンがいた。

 しかもトカゲっぽくない。

 前に突き出た長い顎はワニに似ている。


 真理眼で見た。

----------------------------------------

名前:ボス

種族:ワニゲーター【☆☆☆☆】

性別:オス

年齢:18

職業:リザードリーダー

天恵:第六感、豪腕、色欲、

技能:剣術Lv4、水鱗魔法Lv1


詳細……討伐証明部位、尻尾。

リザードマンの進化種。強靭な肉体を持つ。鱗は鉄の鎧よりも硬い。

超猛毒水を飲んで生き延びたリザードマンだけがワニゲーターになるという伝説がある。

----------------------------------------

 安易な名前。

 進化種か。

 ……ていうか、あの猛毒水にそんな効果があったなんて。

 フローリアもエルフの巫女として猛毒水を取りにいくって言ってたし。

 何か特別な力がこもっているのかもしれない。



 ボスは言う。

「間違いない。こっちに水の匂いがするぞ」


 小さなリザードマンたちが二股の舌をチロチロ出しながら喋る。

「さすがボス」「頼りになる」「どこまでもついていきやす」


「水を手に入れたらさらに南へ。人の町を襲うぞ」

「「「へい!」」」

 手下のリザードマンを従えて鬱蒼と茂る森の中を突き進む。


 全員、武器と防具で武装している。

 



 それにしてもウードブリックを襲う気かぁ。

 彼らの移動速度だと、2~3日で町に着きそうだ。


 ほっとくわけにはいかない。

「やるしかないね」


 はぁっと溜息を吐くと、僕は彼らの後ろへ回り込むために移動を開始した。

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