第26話 夢のうさぎエルフ
僕は夢を見ていた。
当然のごとくフローリアが出てきた。
真っ暗闇の中、そこだけ輝いて見える。
でも、女神のように美しい全裸ではなかった。
フローリアは僕が想像した服を着ていた。
背中が大きく開いた肩紐のないレオタードのような上着に、お尻には白くて丸い尻尾。
すらりと長い脚を覆う黒の網タイツと、高いヒール。
手首には白い袖とカフスボタン。首元には黒の蝶ネクタイ。
流れるような金髪の上には、黒色の折れ曲がった長い耳が垂れていた。
――バニーガールエルフきたぁぁぁ!
細い手足にくびれた腰。巨乳によって生み出された谷間がとてもエロい!
ていうか腕に背中に編みタイツと、素肌の面積が多い。そういうのを僕が想像したからなんだけど。
清純な雰囲気を漂わせるフローリアが、扇情的な格好をしているだけで破壊力抜群だった。
思わず呼吸が荒くなる。
フローリアは胸元を両手で抱くように隠しつつ言った。
「な、なんでしょう、この服!? 初めて見ましたわ、ユートさんっ! なんだかエッチぃです!」
「あ、ごめん。裸体に打ち勝つ服を考えたら、これしか思い浮かばなかった。今度からもっとちゃんとした服にするから」
「むぅ……努力は認めます……服を着せてくれてありがとう」
「いや、それほどでも。僕のほうこそありがとう」
――バニースーツを着てくれて!
フローリアは胸元を隠すように膝を抱えて座り込んだ。自然と体育座りのような格好になる。ヒールのせいもあって美脚が強調された。
「でも、今日もまた来られたんですね」
「というか、寝るたびにフローリアとつながるみたい――迷惑だよね?」
「べ、別に、嫌じゃないですよっ。ユートさんですし……そんなに長時間じゃないですし」
顔を真っ赤にして俯く彼女。
――うーん、嫌われてはいない?
でも助けた直後よりかは距離を感じる。
ああ、昨日おとといの夢の僕がぁ~。暴走しなければぁ~。
まあしかたない。
こうやってチャンスはあるんだ。頑張って好感度上げよう。
――と、その前に報告。
「それでさ、フローリア。僕、冒険者になれたよ」
「わあ、おめでとうございます!」
「でも、Aランクになるにはまだまだ時間がかかりそうなんだ。迎えに行くとか言ってたけど、ごめん」
フローリアは笑顔で首を振った。金髪とバニーのウサ耳が優しく揺れる。
「ううん。そんなことないです。ユートさんならいつか必ずAランク冒険者になれます」
「ありがとう。頑張るよ――それで気になったんだけど、黒の森に住んでて危なくない? 最近、モンスターが活発化してるらしいし」
フローリアの顔が暗くなる。
「そうなんですよね……魔物の数がどんどん増えてます」
「原因はわかってるの?」
「わからないです……巫女の修行もちゃんと終えられるか心配です」
彼女が俯くと金髪が垂れて、白いうなじが露わになった。
「巫女の修行ってなにするの?」
「魔法や祈祷の勉強を終えると最後の試練があります。何日もかけて、黒の森のどこかにある物を持ってこないとだめなんです」
「え? ミストドラゴンがいるのに危険すぎるんじゃ?」
「襲われない方法がありますので」
「そうなんだ。それはよかった……まあ、他のモンスターが多そうだけど」
僕の言葉にフローリアの顔がますます暗くなる。
「そうなんです……森の北にある超猛毒の水を汲んでこないといけないのですが、そこまで行けるか不安です。今こうやって瞑想をしているのは、戦うための魔力を溜めているからなのですが……」
「そのための瞑想だったんだ……ていうか超猛毒水の場所知ってる。むしろ、超猛毒水持ってる。いる?」
「え!? 本当ですか!?」
「うん。明日にでもあの泉にまで持っていこうか?」
フローリアはとっても物欲しそうな目で見てきたけど、首を振った。首もとの蝶ネクタイが揺れる。
「でも……自分で取ってこなくては、きっと修行にはならないと思いますし」
「そんなものかな」
「――はい。外の世界で生きていくための修行でありますから。わたしはどうしても、外に出なくちゃいけないんです」
「どうして? 危険では?」
「姉を探したいのです。出て行ったまま音信不通で……ひどい目に合っていなければ良いのですが」
「んー? 場所が分かれば僕が見てこれるよ?」
「最後の便りは迷宮都市アイゼンベルグからでしたが、そこにいるかはわかりません」
「そうなんだ……わかった。その時は僕も協力するよ」
フローリアが目を細めて微笑む。
「ありがとうございます、ユートさん」
――この笑顔が見たかった!
誰にも負けない素敵な笑顔!
すらりとした脚を彩る網タイツを見ながら尋ねる。
「――あ、そうそう。一つ聞いていい?」
「はい、なんでしょう?」
「エルフって一夫多妻制なの?」
フローリアは、かぁっと赤くした顔を体育座りしている足の間へ埋めてしまった。
「ど、どうしてそんなこと尋ねるんですかぁ……」
「いや、違うんだ。深い意味はないんだ。ただ獣人の女の子と仲良くなってさ。他の種族はどうなんだろって少し興味がわいただけ」
疑い深そうに、ジトッとした半目で見てくるフローリア。
翡翠色の瞳が美しい。
ミウとの出会いやその後について話した。婚約首輪についても。
話してる間、フローリアは可愛らしい相槌を打っていたが、頷くたびに頭の上のウサ耳がピョコピョコ揺れていた。
そちらにばかり気を取られていて、次の彼女の言葉を聞き逃しそうになった。
フローリアは何気なく言う。
「そうでしたかぁ。だったら、そのミウさんを幸せにしてあげたらいいんじゃないですか?」
他人事みたいな言い方に僕は思わず手を伸ばした。
彼女の華奢な肩に手をかけて体ごと振り向かせる。
「そうは言っても、エルフの習慣を知らないと答えられない! ――フローリアと付き合う可能性を失いたくないんだ!」
「ひゃうっ! ち、近いですっ! わかりました、わかりましたから、答えますって! エルフも一夫多妻ですからっ!」
金髪を乱して弱々しく暴れる。
大きな胸が揺れ、お尻の丸い尻尾も揺れる。
まるで僕を誘うかのように。
――はうーん!
何かに火が付いた。
やばいっ、と思って離れようとしたけど、彼女のすべすべした白い肌は麻薬のようで。
くっついて離れられなかった。
むしろ、肩から背中、腰へと撫でるように抱きついていた。
「フローリアぁぁぁ、好きだぁぁぁ!」
「ひゃぁああああ! ユートさん、やめてぇっ! 離してぇぇぇ!」
フローリアは顔を真っ赤にして首を振って暴れた。
バニー姿の美少女エルフが僕の腕の中で必死に暴れる。
可愛いすぎて死にそうっ!
――はっ! ダメだ、また暴走した!
理性、理性よ来てくれー!
だめだー、抱き締める手が止まらない!
僕の本能、暴走特急!
「や、やだ、ユートさんっ」
フローリアが僕を見上げた。翡翠色の瞳には宝石のような涙が浮かんでいる。
それが近付いてくる。違う、僕が赤い唇を求めて重なっていく――。
フローリアが観念したように目をギュッと閉じた。長い睫毛を弾いて、一滴の涙がこぼれる。
そんなささやかな抵抗すら本能に支配された僕には通じな――。
「お客様、従業員への手出しは困ります」
「へ?」
いきなり首元をぐいっと掴まれて、上へと引き剥がされた。
顔を向けると、身長二メートルはあるスキンヘッドの男が立っていた。
黒いサングラスをした顔は怖い。でもなぜか男なのにバニースーツを着ていた。
スーツの胸元からはちきれんばかりの厚い胸板。そして胸毛がもっさりと生えている。
――と、胸のネームプレートが目に入った。
『フロアマネージャー、理性』と書いてあった。
「ゆ、ユートさん!? その人誰です!?」
足元ではフローリアが目を丸くして驚き戸惑っている。
「理性!? 寝てるときは無意識だけのはず!?」
「ちょっと何言ってるかよくわかりませんね。事務所まで来てもらいましょうか」
「え、え、えっ!」
僕は首元をつかまれたまま、ずりずりずり~とどこかに引っ張られていく。
斜め座りのフローリアが手を伸ばしてくれるが届かない。
暗闇の中に佇むエルフバニーガールがどんどん遠ざかっていく。
彼女のいる辺りだけスポットライトが当たっている感じだった。
「ユートさぁぁぁん!」
フローリアの切ない声を最後に、僕は目が覚めた。
◇ ◇ ◇
早朝。
チュンチュンと名も知らぬ小鳥が鳴いている。
長屋の一室で目を開けた。
バニー姿のフローリアが霧消した。
何度思い返しても、金髪エルフバニーの破壊力はやばい。
もっと見たかった。
そう、もっと思い出そう。
網タイツは脚の形をよくみせるし、手首や首もとのワンポイントも素晴らしいし、あと厚い胸板に胸毛。
「おえっ」
思い出してはいけないものを思い出して目が冴えた。
夢を侮っていた。夢は何でもありだから気をつけよう。
でもまた暴走してしまった。
嫌われたかな……嫌われたよね。
夢のなかは一度暴走すると止まらなくてどうしようもない。
溜息を吐きつつ起き上がる。
ミウはすで起き出して、入口付近の土間で朝食の用意をしていた。
僕の身じろぎをする音を聞いて、彼女の猫耳がぴこっと立つ。
「あ、おはようございます、ユートさん」
「おはよう」
「朝食すぐ出来ますから、待っててくださいねっ」
尻尾をしなやかに揺らしつつ手際よく動いていく。
肉を入れたスープ粥を作っているようだった。
良い香りが広がる。
それから二人でお粥を食べた。
スープ粥は塩気と猪肉の脂が出ていておいしい。肉入り雑炊に似ている。
「これは優しいけど力強い味だね。おいしいよ」
「ありがとう、よかったです。猫獣人の大好物なんです。お母さんも元気になるかな」
ミウが奥の布団を見る。母親はまだ寝ていた。
真理眼で見ると『状態:微熱』だった。
「ニャスカさん、熱が出たみたいだね」
「はい……長いこと病気だったので、薬を飲んでよくなっても体がついていっていないのだと思います」
「ん~。じゃあ、今日は看病したほうがいいか」
「そんな悪いです。面倒見ろってグラハムさんに言われてるし……見られてるのあたしのほうだけど」
しゅん、と猫耳を伏せてしまう。
「今日はお金を稼ぐための下準備をしたいから。ミウは一日看病してていいよ。時間があればヒルダ婆さんに調合習えばいい。同じ町ならすぐに駆けつけられるし」
「ありがとうございます、ユートさんっ」
ミウは目をうるうる潤ませて頭を下げた。
スープ粥を食べ終えると外に出た。
爽やかな朝日が大きな街に降り注ぐ。
さあ、夢のことは忘れてお金を稼ごう。
その前に冒険者ギルドで依頼を受けていくことにしよう。
ぅゎ、りせぃ っょぃ




