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第24話 エクスキュアポーション

 夕暮れ時のウードブリック。

 赤く染まる町並みに、人々の喧騒がこだまする。

 大通りは仕事を終えた人たちと、家路に付く人たちでごった返していた。


 裏通りに面した小さな店舗に僕らは入った。

 8畳ほどの狭い店内には、乾燥させた葉っぱや薬瓶、よくわからない干物などが並んでいる。


 ミウは金貨を握り締めて奥のカウンターまで行く。

 そこには背の曲がった老婆が座っていた。頭から被るローブを着て、捻じ曲がった杖を持っている。

----------------------------------------

名前:ヒルダ

種族:人間

性別:女

年齢:62

職業:呪術師、Bランク薬師

天恵:魔法適正Lv1、草木知識、毒料理、お人よし

技能:火魔法Lv2、生活魔法Lv3、調合Lv4、

----------------------------------------

 ぱっと見たところ魔女に見えた。

 調合スキルはミウも持ってたっけ。薬を作れるのか。



「こんばんは、ヒルダおばあちゃん!」

「おや、ミウちゃん。いらっしゃい。今日は何かね?」

「エクスキュアポーションを1本、売ってください!」

 ミウは輝く笑みを浮かべつつ、手に持った金貨を見せた。


 しかし老婆はしわしわの目を細めて首を振る。

「すまないねぇ。今は売り切れだよ」

「そうですかぁ……」

 ミウの尻尾がしょんぼりと垂れる。


「大通りの薬屋に行くしかないねぇ」

「でも、あそこ、めちゃくちゃ高くて……金貨があっても買えるかどうか……」

「ユビックの実がほとんど入荷しなくなったからねぇ。原材料費が上がれば、薬の値段も上がっちまうのさ」

 ヒルダは忌々しそうに顔をしかめた。しわだらけだった顔が梅干のようになる。



 僕は不思議に思って二人に尋ねた。

「エクスキュアポーションってそんなに高いんです?」

「そうさねぇ、ユビックの実の仕入れ金にもよるけども。うちなら1本大銀貨2~3枚ってところだねぇ」

「大通りの店は、最低でも4本入りで金貨5枚なんです……」


 おおう。抱き合せ販売。

 この店なら1本1万円~1万5千円なのが、大通りの店だと2万5千円以上になるのか。

 ユビックの実なんて足元にも及ばない高額品だ。

 ――実を売るより、ポーション作って売ることは出来ないだろうか。



 僕はポケットに手を突っ込みながら言った。

「じゃあ、ユビックの実があれば、作れるんですね。1本作るのに何個必要ですか?」

「効果を確かな物にするなら、1本につき5個は欲しいね」

「了解です」

 ヒルダの座るカウンターに、小さなどんぐりみたいなユビックの実を20個出した。


 二人が目を丸くした。

「なんと!?」「えっ、ユートさん!?」 

「これで作ってあげてください。そして1本はタダでミウに上げて欲しいです」

 ユビックの実15個は今の相場なら、大銀貨1~2枚に相当するはず。



「えええ!? ユートさん、ダメですよぉ! これはあたしん家の問題で……」

「ミウはもう他人じゃないからね」

「はうぅぅ……っ」

 ミウはなぜか顔を真っ赤にして俯いてしまう。


 ――ふふん、ミウにはまだまだ恩を着せまくってやるっ!

 今思いついたポーション販売が可能なら、協力して欲しいし。

 むしろ僕なしでは生きられないぐらいに恩着せちゃう?



 だけどもヒルダは僕の内心なんか気付かず、しわしわの顔を嬉しそうに綻ばせた。

「最近の若い子にしちゃあ、人情ってもんがわかってるねぇ……いいよ、気に入った! あんた、ユートって言うのかい?」


「はい、そうです」

「どーんとまかしときな! 最高のエクスキュアポーション作ってあげるさ!」

「ありがとうございます」

 頭を下げた。



 ついでに思い付きを言ってみる。

「あの、それとヒルダさん」

「ん? なんだい?」

「ミウに調合の仕方を教えることは無理ですか? 生徒のように」


 ミウの猫耳がピコッと立つ。

「ええっ!? どうしたんですか、ユートさん? いきなりそんなこと……」

「ミウに向いてるんじゃないかと思ってね。誰にも内緒で薬のこと調べたりしてたんじゃない?」

「ど、どうして知ってるんですかぁ! びっくりですっ!」



 ――もちろん、母親の病気を治したいっていう想いで調べてたのだろうけど。

 探求Lv4が生かせそうなスキルって今のところこれぐらいしか思い浮かばないし。


 それに調合スキルが上がったら、僕がユビックの実を大量に取ってきて、ミウがポーションを作ってもらうのはどうだろう?


 そして相場より安く売りまくる!

 需要に供給が追いついていない今、確実に儲かる!



 しかも。

 もしその商売がうまくいったら、ミウは僕から離れることができなくなる。

 絶対裏切らせない、超打算的な悪い考え!


 相場より安く売るから通常の仕入れは出来ない。僕に頼るしかなくなる。

 安く売り続けたら商売敵からは恨まれ、僕に頼るしかなくなる。

 1階が店、2階が住居の小さな家に2人で住んで、彼女はポーション作りをながら店番しつつ、僕の帰りを待つしかなくなるっ!



 薬草を育てる小さな庭もあったほうがいいか。ガーデニングみたいな。

 ミウ一人だと心配だな。大きい犬でも飼うか。

 朝は冒険者向け、昼は大口顧客への配送ぐらいで仕事はそんなに忙しくないはず。


 ただ僕はずっと黒の森へ出っぱなしになるから、家事は全部してもらうことになるかも。

 だったら昼過ぎには閉店して、お茶やお昼寝、お稽古ごとなど、自分の時間を過ごしてもらったほうがいいか。


 そして夕方になると、山のようなユビックの実を抱えて疲れた僕が帰ってくる。

 彼女は猫耳をぴこぴこ揺らして、笑顔で出迎えるんだ。「おかえりなさい。ご飯にする? お風呂にする? それとも……」



 僕はヒルダの店の中で思わず叫ぶ。

「――はっ! これちがう! 打算じゃなくて、奥さんだ!」


「何をいきなり変な大声を出しているんだい? お前さんは」

「すみません。ちょっと考え事をしてました」

 頭をかいて誤魔化したが、隣でミウが顔を真っ赤にしていた。

「奥さんって、ひょっとして……。ユートさん、あたしのこと……ううん、なわけないかぁ」



 ヒルダは、ふむっと顔を撫でた。

「できなくはないが、指導料はもらいたいもんだね。これでも薬師ギルドに所属してる身だから」

「それはもちろん僕が払います――とりあえずこれでいいですか?」

 金貨1枚をカウンターに置いた。


「ん、教材用の材料費としちゃ充分さね。ミウや、用意はしてあるからいつでもおいで。前々からアンタにゃ才能があると思ってたところだ。これを機会にいい女になっておしまい」

 金を懐にしまいつつ、悪そうに笑う老婆。



 ミウがおろおろと尻尾を揺らして言う。

「ゆ、ユートさんっ。とっても嬉しいですけど、あたし困っちゃいますっ!」

「もちろん、ミウが薬師のこと学びたくないっていうなら、やめるけど」

「それは……勉強したいですけど」


 ――うん、そう答えると思った。

 母親は『病弱』スキル持ちだから、これからも病気になる。

 ミウは母が毎年病気になると知っている。薬師スキルがあれば自分で治してあげられると考えるはず。

 そしてミウは『内気』なので、恩を売っておけば今後、僕の頼みを断れないはず。



「ある意味、投資ってことだから気にしないで」

「とうし、ですか?」


「うん。ミウがポーション作れるようになったらパーティーとしても助かるから。時間かかるかもしれないけど、待ってるから頑張って」


「はぅぅ……ユートさんて、なんていい人なんだろぅ……泣きそうです」

 大きな瞳をうるうる潤ませて僕を見てきた。可愛い。

 さっき新婚モードのミウを想像してしまったせいか、よけいに可愛く感じる。

 ――だめだ、僕にはフローリアがいるんだっ。



 ヒルダが言った。

「じゃあ、今からエクスキュアポーション作るから、その辺で時間つぶしておいで!」

「え、今からですか、ヒルダおばあちゃん!?」


「あんたの母親にゃ、一日でも早く飲ませたほうがいいからね」

「ありがとうございます~みんな優しいっ」

 ついにミウが泣き出してしまった。

 よしよしと頭を撫でる。猫耳がぴこぴこと可愛く動いた。



 それから店を後にした。

 暮れゆく町並みを見ながら尋ねる。

「さて。ミウ、宿屋に案内してもらえる?」

「それだったらうちに泊まったらどうですか? 宿代、いりません!」


「ん~。それもありか」

「じゃあ、一緒に晩御飯買いに行きましょ~!」

 ミウがとっても嬉しそうに手をつないできた。

 僕は問答無用に大通りへと引っ張られていった。

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