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第23話 異世界と報酬

 黒の森からの帰り道、ミウからいろんな常識的な話を聞いた。


 まず世界。

 大陸は二つか三つあるらしい。これはよく知らないとのこと。



 今いる大陸は、真ん中から北にかけて巨大な黒の森がある。

 森の南側に農業大国オリザードがある。

 土地が広く、農業が盛ん。


 森の西には神聖魔導王国ユスティア。

 


 森の東には海洋大国ハーフェン。

 大陸では一番面積の小さな国だけれども、数々の島を押さえて要塞を作り、海路を守っている。

 広大な制海権を持っているようだ。当然、大陸随一の海軍を持つ。


 ハーフェンには迷宮都市アイゼンベルグがある。


 オリザードのさらに南には、砂漠の国や地下帝国や、エルフが住むといわれる森があるそうだ。

 ――そっちの存在は知られているらしい。

 エルフと人間はかつて争ったらしいがよく知らないと言う。

 今度フローリアにでも聞いてみよう。



 ちなみにお隣の国ユスティアとハーフェンは仲が悪いらしい。

 かつてハーフェンは土地を広げようと黒の森を攻めた。

 すると追われた魔物たちが西へと逃げて、ユスティアの領土になだれ込んだ。


 ユスティアは国土をめちゃくちゃに荒らされて激昂「これは間接的な宣戦布告である」と損害賠償を求めてハーフェンに抗議。

 一触即発の状態となった。



 間に挟まれたオリザードが和平交渉の場を設けてなんとか戦争は回避。

 これ以降三カ国は、森への圧力は足並みを揃えておこなうことになった。

 

 冒険者ギルドができたのも、どこかの国の冒険者が突出して森を攻めないようにするためだそうだ。

 なるほど。



 あとは猫獣人のしきたりや風習、結婚の仕方を教えてもらった。

 なぜか目を輝かせていた。


       ◇  ◇  ◇


 夕方。

 ウードブリックの冒険者ギルドへ帰ってきた。


 入口から入ってすぐの低いカウンターへ行く。

 若い男性職員に話しかける。

「すいません。討伐部位と採集品の鑑定をお願いします」

「はい。出してもらえますか?」


 広いカウンターの上にゴブリンの耳4セットと、ホブゴブリンの耳1セット、そしてユビックの実を60個出した。



「えっ!? ――んむっ」

 隣では驚きの声を上げたミウが慌てて口を押さえている。


 ――あれ? 魔物もすでに倒したって言ってなかったかな?

 まあいいや。

 ミウは秘密を守ろうとしてくれたみたいだし。

 それが嬉しい。



 男性職員は数を数えて頷く。 

「ユビックの実は指定数あります。ゴブリンの耳も同じく。ホブゴブリンも倒されたみたいですが、魔晶核があれば買い取りますが?」


「魔晶核?」

「通常より強い魔物は心臓の辺りに魔晶核とよばれるものを持っています。魔法の触媒や、薬の材料になります」



 ――やばい。それは知らなかった。

 困ってしまって、思わずミウを振り返る。


 すると猫耳をピコッと立ててわたふたと言う。

「あ、あの。魔晶核は倒す時に壊しちゃいました」

「あらまぁ、そうですか。それは残念でしたね」

「はい」

 よくあることなのか、そんな言い訳で納得していた。


 ミウも、ほっと胸を撫で下ろしている。

 傍にいてくれて助かったな。

 ありがと、と誰にも聞こえないように呟くと、彼女は顔を真っ赤にして顔を伏せた。  



 ――それにしても。

 ホブゴブリン、埋めたままだ。

 魔晶核なんてものがあったのか。

 残念。取りに行くか悩むところ。


 やはり知らないことが多いというのは、それだけで損だなぁ。

 もっと教えてもらわないと。



「ちなみにホブゴブリンの魔晶核はいくらぐらいになりますか?」

「そうですねぇ。ものにもよりますが、大銀貨1~2枚にはなったかと」

 5000円から1万円かー。


 捨てるには惜しい金額かもしれない。

 でも、遠すぎるからなー。

 ――いや、待てよ。



「ほかに魔晶核があるようなモンスターっていますか? 例えばオークとか、リザードマンとか」 

「通常のオークはないかと。上位種か進化種しか持っていません。上位種のライドオークやキングオークだと大銀貨2~3枚でしょう。リザードマンは魔晶核があった場合、大銀貨5枚以上です」


「そんなに!」

「ええ、特殊な薬に使用されますので」


 ――埋めたままだ。

 泉にはマーカー設置してあるし、掘り出しに行こう。



 職員が紙を3枚渡してくる。

「はい、こちらが証明書です。冒険者カードと一緒に受付に出してください」

「了解です」


 L字型のカウンターの長辺へと向かう。

 妙齢の美女ナタリーさんが手招きしていたのでそこに行った。



 紫の髪を揺らして微笑む。

「ほんとに任務こなしてきたのね。すごいわ」


「ありがとうございます。これが証明書とカードです。――ミウも出して」

「あ、はい。ごめんなさい」

 ミウが申し訳なさそうに、おずおずと横からカードを出す。



 ナタリーはカードを二枚重ねにして穴あけパンチみたいな機械に設置、それから何かを入力してからガチャンとレバーを下げた。


「はい、これ。まずはカード」

 受け取ると、任務とパーティー表記は消えて新たに数字が記入されていた。

----------------------------------------

氏 名:ユート

ランク:F(23)

登録国:オリザード王国

適 正:魔術師

備 考:

----------------------------------------

「ナタリーさん、ランクの横に小さく数字が入ってますが、これは?」

「ランクポイントよ。任務を達成したりモンスターを倒すともらえるのよ」


「なるほど。これが溜まるとレベルアップするのかー。Eまでいくつです?」

「1万よ」

「え? 1万?」

 聞き間違いかと思って聞き返した。



 何当たり前のことをと言わんばかりにナタリーは答える。

「だから、1万よ」

「3つこなして23って、相当少なくないですか!?」


「何言ってるの。ユートくんのこなした任務3つは各1ポイントよ。賞金首捕まえたのが20ポイント」

「えええっ! じゃあ、ランク上げるのって、めっちゃ大変なのでは!?」

 ――1回1ポイントじゃあ、ランクEになるのに何年もかかってしまう。

 どうしよう、フローリアとの再開がますます遠のいてしまう……っ!



 驚き悲しんでいると、ナタリーはなぜかニヤリと笑みを浮かべた。

「そりゃあ、報酬のいい仕事ばかりしてたらね」

「どういう意味です?」


 ナタリーは獲物を見つけた猛獣のように赤い唇を舐める。

「ユートくん。あなた、超簡単で報酬が多い依頼と、とっても危険なのに銅貨1枚の依頼、どっちを受けたい?」

「そりゃ、簡単で報酬が多いほうです」


「うんうん。そうよね。――でもそれだと、ギルドに来た依頼の消化率が偏ることになってしまうわ。いつまでもこなしてもらえない依頼も出てくる」

「安くて危険だとそうなりますよね」



 ナタリーさんは髪を揺らして頷く。

「そうなのよ! そこで重要になってくるのがランクポイント! 簡単で儲けが多い依頼はほとんどポイントが得られない。1ポイントとか5ポイントとか。逆に危険なのに安い依頼をこなすと数十から数百のポイントが入り、早くランクアップできるのよ。――若くして高位ランク冒険者となった人は、儲けよりも人助けを優先した人ということで、それだけ尊敬を集めてるわ」


「なるほど~よくできてますね」

 これには納得するしかない。

 お金以外の部分で報酬をつり合わせていたのか。



 確かに昼間依頼を見てるとき、同じ『シルバーウルフの群れ討伐』でも、金貨100枚と大銀貨2枚の仕事があった。確か金貨のほうは貴族領が依頼主で、銀貨は僻地の村。


 2枚なんか誰も引き受けないだろうと思ってた。

 同じ仕事なのに、日本円にして200万円と1万円の違いになるのだから。

 でも、今見ると、大銀貨2枚の方がなくなっている。



 ナタリーは言う。

「依頼料が安くても、その任務が治安維持のために大切とわかれば、ランクポイントが多く出されるわ」


「ちなみに昼にあった『シルバーウルフの群れ討伐』は?」

「よく見てるわね。そう、貴族領からの依頼は5ポイント。貧しい村からの依頼は760ポイントよ」


「お~」

 なるほど。

 本当に良く出来てる。



 1ポイントの仕事1万回なんて受けてられないと思ったけど、100ポイントの仕事なら100回。300ポイントの仕事なら33回でランクアップ。


 金になる仕事とポイントになる仕事を同時に受ければいけるな。

 でも、それだと場所が違う場合は面倒か……。


 じゃあ、先に金になる依頼で荒稼ぎして、それからポイント稼ぎでもいいか。

 お金は沢山あっても困らないし。

 ――となると、ユビックの実しかないなぁ。



「安くて危険な仕事は受付で聞いてくれたらランクポイント教えるわ。他の依頼の残り具合で変動するから」

「なるほど相対評価だからですか。わかりました。次からそうします」 


 ナタリーはお金を入れたトレイを二つ出してきた。両方とも同じ金額が入っている。

「はい、こちらが報酬。それぞれ、ユビックの実任務で大銀貨4枚と、ゴブリン退治で銀貨2枚と銅貨10枚。賞金首は金貨5枚だけど、二人ともギルド年会費引いて4枚。きっちり分けてあるわ」


「年会費をもう。ちゃっかりしてる」

「あるときに先払いさせるのもギルド職員の腕の見せどころよ」

 美しい唇を勝ち誇ったように歪めて笑った。


「有無を言わさず奪われた気がするけど……まあ、手間が省けました。ありがとうございます」



 僕はトレイに入ったお金を取り、ポケットに入れた。

 これで『金貨5枚』『大銀貨4枚』『銀貨7枚』『銅貨24枚』になった。


 臨時収入があったとはいえ、一日で10万円以上の稼ぎ。

 これからユビックの実採集と魔物退治を頑張れば、収入は安定しそうだ。


 ――あとは信頼できる生活基盤か。



 横を見ると、お金に手を伸ばした姿勢で固まるミウがいた。

「どうしたの?」


「本当に、いいんですか……? 何もしてないですのに」

「いやいや、充分してくれたよ。いろいろ教えてくれたし、賞金首は助っ人呼んできてくれたし」


「うう……ありがとうございましゅ」

 また泣きべそをかくミウ。もそもそとお金を袋に仕舞っていく。



 するとナタリーがミウに言った。

「ユビックの実、たくさん拾えたみたいだから、あの依頼、もう必要ないわよね?」

「あ、はい。もういいです」


「依頼?」

「……あの5個で銀貨1枚、あたしでした」

「なんで?」

「お母さんの病気を自分で治そうと思って……」


「そうだったんだ」

 ――自分で治す?

 ちょっと気になった。



「でも、金貨4枚もあれば、エクスキュアポーションが買えます! 本当にありがとうございます、ユートさん!」

 勢いよく頭を下げてきた。茶髪がふわっと広がった。


「役に立ててよかったよ」

 頭を撫でると、ふにゃっと鳴いた。



 それからギルドを後にして、薬屋へと向かった。

 ポーションを買うために夕暮れ時の町を歩いていった。

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