第21話 ごはんとお母さん
町の広場に面した食堂でミウと一緒にランチを食べた。
パンと、鶏肉がたっぷり入ったサラダに、スープ。デザート代わりなのか、小さなスモモみたいなのが付いてきた。
一人銅貨10枚。二人で銀貨1枚。
もちろん僕のおごり。かっこいいところを見せて信頼してもらわないと。
パンは柔らかく。
鶏肉サラダにはタレが掛かっていて、甘辛くておいしい。ちょっと中華っぽい。
スープも食材がどろどろに溶けて濃厚な旨味があった。
「おいしいね、ここ」
「……え? あ、はい。とっても、おいしいです」
ミウは心ここにあらずといった感じで答えた。
――というか、町を歩いてるときも似たようなことがあった。
何か気にかかることがあるらしい。
僕も気になる。
脅されてるとか、借金抱えてるとかの事情があると、土壇場で裏切られるかもしれない。
問題を解決してあげたらより信頼してもらえるはず。
そこで尋ねてみた。
「ミウ、何か心配ごと? それとも、困ったことでもあるの?」
「あ……ごめんなさい」
「謝らなくていいから。パーティー組んでるんだし、なんでも言ってよ」
ミウは上目使いで僕を見た。耳が心配そうにピコピコと動く。
「じゃあ、一つだけわがまま言っていいですか?」
「いいよ。遠慮しないで」
「……お母さんに会って、自分が無事なことを知らせたいです」
――ああ! 内気だから、グラハムに言われた「僕の面倒を見ろ」を優先してたのか!
思わずテーブルに前のめりになって、勢い込んでいた。
「そりゃそうだ! 心配してるよ、きっと! ――この町にいるの?」
「はい。町の端っこの長屋に住んでます」
「じゃあ、食べ終わったらすぐ行こう!」
「ありがとうございます……ユートさんて、優遇してくれるし、おごってくれるし。……本当に優しいです」
大きな瞳に、ぶわっと涙を浮かべて言った。
――ええい、泣くな。泣き虫だからしかたないけど。
ほんと、打算的にやってることなのに。
いや、ミウが可愛いからってのもそりゃあるけど。
ここまで感謝されると、逆に照れくさくなる。
パンを食べながら頭をポリポリと掻いた。
◇ ◇ ◇
昼食を終えた僕らは、町の北側にある下級地区へ来た。
ぼろい建物が多く、ごみごみと入り組んでいる。まあスラムに近い。
ちなみに黒の森に一番近い北側が下級民地区で、町中を東西に走る大通り沿いが中級民地区。
一番安全とされる南側が上級地区。日当たりもいい。
ミウは怯えたように耳と尻尾を伏せて、細い路地を歩いていく。
水はけが悪く、じめじめしている。
そして、すぐ後ろに街壁がある長屋で止まった。
一番端の部屋に入る。
「ここです……お母さん、ただいま」
扉を引いて開けると、ギイッと嫌な音が鳴った。
中に入ってすぐはかまどのある土間で、奥に6畳ほどの小さな部屋があった。
奥の部屋には藁と布を敷いて、その上に年老いた女性が寝ている。
ミウとよく似た猫耳と尻尾。
この人がミウのお母さんだろう。
母親は目を見開いて寝床の上に体を起こした。
「まあ! ミウ! ミウなのね! ――ああ、無事でよかったっ!」
「お母さん――っ」
両手を広げる母親の胸に、ミウが一目散に駆けて飛び込んだ。
「ミウ、ミウ!」
「おかーさぁぁんっ」
泣き出すミウ。――いや、母親も泣いている。
ひょっとして天恵スキル『泣き虫』は母親譲りかな?
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名前:ニャスカ
種族:猫獣人
性別:女
年齢:33
職業:旅人
天恵:危険探知、忍び足、病弱、泣き虫、猫に小判
技能:鎌術Lv3、農作業Lv2、逃げ足Lv3、料理Lv3
状態:病気
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う~ん。母親もマイナススキル3つ持ちか。
そして『泣き虫』持ち。
ひょっとしたらスキルは父親と母親から遺伝するのかもしれない。
気になるので『病弱』と『猫に小判』をチェック。
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【猫に小判】良いアイテムが目の前に来ても気付かない。マイナススキル。
【病弱】一年に一度は中級以上の病気にかかる。
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なるほど。
貧乏に拍車をかけそうなスキルだ。
気付かないうちに損してそう
病弱はちょっと可哀想なマイナススキルだなぁ。取得すると25ポイントももらえるけど。
それより気になるのは。
年齢の割にはふけて見えたのは『状態:病気』のせいだろうか。
エクスキュアポーションを買えばいいんじゃないか?
わからないけど。
――と。
ドンドンと扉を叩く音がした。
「いるんでしょう~? 今日こそ家賃、もらうからねぇ~!」
だみ声が聞こえてきた。オカマっぽい。
誰かが何か言う前に、大家が入ってきた。
「ああ、やっぱりいた。滞納してる家賃3か月分、払ってもらうわよ~!」
きらきらのラメが入ったスーツみたいな服装をしている。
派手なオカマみたいだった。
ミウが泣きそうな顔で大家の下へ行く。
「いま、これだけならあります」
ポケットから銀貨3枚を出した。
ふんっ、と大家は鼻息荒く答える。
「一ヶ月分にしかならないじゃない! 銀貨9枚なのよ、9枚っ! 格安なのはわかってるんでしょうねぇ?」
「は、はい。ごめんなさい……」
しゅんっ、と耳と尻尾を垂れるミウ。
――まあ、確かに格安だ。宿屋は一泊食事つきで銀貨1枚なのだから。
口は悪いが、良心的なんだなと思った。
ひょっとしたら、別の理由があるのかもしれないけれど。
僕は大家へ近付いた。
ギョロ目で睨んでくる。
「なんなのよ、アンタ?」
「ミウのパーティーリーダーです。家賃滞納してるみたいなので、代わりに立て替えます」
「あらそぉ? なかなか男気あるじゃない」
なぜか、しなを作ってウインクしてくる。キモい。
ミウが尻尾をパタパタ振って拒否した。
「だ、ダメです、ユートさん! そこまで面倒見てもらうのは……」
「ミウにはこれからも冒険で世話になる。それなのに冒険中、気が散ってたら、いざというとき困るから」
僕は大銀貨1枚と銀貨1枚を出した。
大家へ渡そうとすると、手のひらごと包むように握られた。
「まだまだ若いのに、いい男じゃな~い。アタシ、気に入っちゃったわ」
「あ、ありがとうございます」
大家はお金を受け取ると入口に向かった。
扉を閉めながらまたウインクしてくる。
「あなたにだったら、サービスしちゃうわよ~ん」
「嬉しいですが、お断りしておきます」
「きぃ~! アタシの誘い断ったらどうなるか覚えてなさいっ! もうっ!」
バタンッ! と激しく扉を閉めて出て行った。
――なんだったんだ。
これで所持金は『金貨1枚』『大銀貨0枚』『銀貨5枚』『銅貨14枚』になった。
ちょっといい格好するために、散財しすぎたかも。
必要経費だと無理矢理納得していると、ミウが申し訳なさそうに頭を下げた。
「ありがとうございます、ユートさん……パーティー組んだだけなのに、ここまでしてもらって……」
「その代わり、約束、お願いね」
ミウは目尻の涙を指で拭きながら笑顔になった。
「はい、絶対守ります!」
よし、いい感じだ。かなり信頼してもらえた気がする。
母親のニャスカさんも頭を下げてきた。
「どうか娘をよろしくお願いします」
なぜだか、その言葉が重く心に響いた。
「はい。僕に出来る限りのことはします。だから安心して養生なさってください」
「ありがとう……ミウは本当にいい人を見つけたのね」
「そ、そんなんじゃないですっ」
ミウは顔を真っ赤にして、あわあわしていた。
そしてしばらくの団らんの後、ようやく黒の森へ向かった。




